2019年度第1回フォーラム開催記

 2019年度管理会計学会第1回フォーラムは4月20日(土)、麗澤大学(千葉県柏市、準備委員長・長谷川泰隆)において開催された。当日は天候にも恵まれ、北は北海道から南は九州まで日本全国から40名前後の参加者があった。今回のフォーラムはバラエティに富んだテーマを提供する狙いで、アラカルト方式となった。プログラムは以下のとおりである。

 

13:50~14:00 学会長ご挨拶

第1報告 14:00~14:40 「リコールコストの現状と課題」

長谷川 泰隆 (麗澤大学)

第2報告 14:45~15:25 「予算管理におけるマネジャーの管理可能性の認知と行動の関係 —インタビューデータの分析を起点とした考察 —」 

町田遼太 (早稲田大学博士課程)

第3報告 15:35~16:15  「日本企業の海外進出と内部統制」

藤野真也 (麗澤大学)

特別講演 16:20~17:10  「千葉県初のご当地レザー『柏レザー』の誕生~NUIZA縫EMON柏の試み」

柏レザー株式会社 代表取締役 飯島暁史 

 

 第1報告では、自動車業界におけるリコール制度のあらまし、国土交通省の公表データから自動車業界のリコールの現状が示された。さらに、各社の有価証券報告書を手掛かりに、製品保証引当金の状況、そこに反映される各社のリコール措置への取組姿勢が検討された。最後に最近増加している検査不正にも触れ、「不具合製品を流出させない原則」を自ら破棄し、リコール関連費用(=リコールコスト)を増加させている社内体制の性向が論じられた。

 第2報告では、インタビューデータの分析からマネジャーの管理可能性の認知と行動との関係について、予備的な検討が示された。報告の中心は、マネジメントコントロールシステム(MCS)の心理的契約、脱予算経営を主とした先行研究から導かれた仮説について、インタビューの内容から跡付けられる点を探索しようとする。インタビューの対象は日本の有力企業のマネジャーで、まず1,000社に質問票調査を実施し、さらに回答者のうちからインタビュー可能との意向を示したマネジャーに仮説に基づく準構造化したインタビューを実施した。本報告ではその一部が紹介され、参加者から大きな関心が示された。

 第3報告では、国内市場の飽和化から日本企業の生き残り策として海外進出が喫緊の大問題となり、とりわけアジアを中心とした新興国がその対象となりうる。そして新興国では、とりわけインフラ投資需要が拡大傾向を示している。しかし新興国でのインフラビジネスは腐敗リスクの高い案件が多く、ここに現地業務vs.日本本社による統制問題が発生する余地がある。多くのデータを示しながら、多くの日本の企業では外国公務員贈賄を防止する取り組みがほとんど進んでいないこと、外国公務員贈賄防止に先進的に取り組む日本企業もみられるが、実効が上がっていない。本報告では、内部統制の構築という視点から、日本企業の弱点部分が論じられ、参加者からも多くの質疑がなされた。

 最後に特別報告という形で、地元企業のユニークな事業展開を紹介していただいた。柏レザー社は柏市内で「NUIZA縫EMON」ブランドを手掛けて皮革製品の製造・販売を展開している。皮革製品はややともすれば「スーパーブランド化した高級品」か「超廉価品」かの2者選択傾向に陥りがちになっている。

 そこに割って入ろうとするのが柏レザー社である。「地域性」を前面に押し出し、皮革産業において地域資源として千葉県内の農作物(酪農/狩猟/農業etc.)を活用した循環型の皮革ブランドを目指すのが「柏レザー」である。千葉県内の養豚農家からの原皮をなめし、加工して価値のある皮革製品にして消費者に提供するまでのビジネスモデルの構築の苦労と展開を社長自身の体験で語ってもらった。

 現在、千葉県内未利用資源を活用した製品を「PATH ~TRAVEL & EATS~」とブランド化し、他では味わえない「幻霜ポーク」を用いたダイニングレストランも展開している。

 ここまでの道のりには市役所の農政課や商工振興課の協力、メディアの取材・パブリシティ、地元大学生とのコラボなど多くの要因が作用していることが等身大で語られた。 

(文責:麗澤大学 長谷川 泰隆)