2018年度第1回リサーチセミナーは,2018年6月30日(土)14:00~17:30に,青山学院大学(青山キャンパス16号館3階)16302教室で開催されました。当日のリサーチセミナーの出席者は30名程度であり,日本管理会計学会会長の水野 一郎氏(関西大学)より開会の挨拶が,日本管理会計学会副会長の澤邉 紀生氏(京都大学)より全体講評がありました。山口 直也氏(青山学院大学)の司会によりリサーチセミナーが進められ,中村 正伸氏(香川大学大学院),掛谷 純子氏(京都女子大学)の研究報告に対して,フロアから有益なコメント,質問が多くあり,活発な議論が行われました。
第1報告 中村 正伸氏(香川大学大学院)
報告論題「職能横断プロジェクトにより遂行される製品開発の予算管理―予算執行段階に着目して―」
第1報告の中村氏は,組織は「柔軟な対応」と「(効率的な)計画達成」をどのように両立させているのか,両立させるための予算管理とその運用上の工夫はどのようなものかという問題意識の下,先行研究のレビューを行い,次の2つのリサーチ・クエスチョンを提示しました。
(1)個別プロジェクトの活動計画と予算が,他のプロジェクトや組織の中でどのように関係,位置づけられて管理されることで,プロジェクトチームは予算達成と予算是正提案の動機づけを両立させているのか。
(2)予算達成と予算是正提案を両立させる予算管理を通じて,垂直のインタラクションは水平のインタラクションを促進させているのか。
これらのリサーチ・クエスチョンに対応するため,中村氏は,医薬品の開発・製造・販売を行う日本発グローバル医薬品メーカーをリサーチ・サイトとして参与観察を行い,次の2点が明らかになったことを報告しました。
(1)組織目標と個別プロジェクトの目的・目標が関係付けられた上で,予算執行開始後,プロジェクトベースで進捗確認や計画変更案の精査が開発トップからなされる。その際,一定の裁量がプロジェクトチームに認められていることで,予算達成と予算是正案上申が両立して動機づけされている。
(2)製品開発で重要性が指摘されてきた職能部門間の水平なインタラクションが水平的な職能横断組織ベースでの責任設定と進捗管理により,促進される。
ディスカッサント:伊藤 克容氏(成蹊大学)
中村氏の報告に対し,伊藤氏は,[1]「職能横断的」というのは開発本部内の職能横断ということなのか,本研究における「職能横断」という言葉の位置づけはどのようなものか,[2] 中村氏は「予算管理が統制型ではなく計画・調整型であることの重要性」と記述しているが,それは既存の理論で解釈可能か,どのように表現すべきか,[3] コントロール・パッケージの構成について,前提事項である「組織の全体目標が組織で共有されていること」を担保する仕組みや制度はどのようなものかについて議論が必要であるとコメントしました。
第2報告 掛谷 純子氏(京都女子大学)
報告論題「公会計がマネジメントに活用されないのはなぜか―ニュー・パブリック・マネジメントの考え方と日本のしくみ―」
第2報告の掛谷氏は,1980年代から行われてきた我が国の公会計改革は,民間企業の経営手法を公的機関に導入し,効果的・効率的な組織運営を図るニュー・パブリック・マネジメント(以下,NPM)の考え方を基礎としていることを指摘した上で,公会計がマネジメントに活用されていない理由について先行研究のレビューを行っています。
掛谷氏は,レビューの結果,公会計がマネジメントに活用されない理由の1つとして,現在の我が国の予算は現金主義であり,NPMが前提としている予算の発生主義化という条件を満たしていないことを指摘しました。また,掛谷氏は,制度変化が生じた際に,地方自治体において会計情報がマネジメントに使用されるようになるのかという先行研究上の課題を提示しています。
ディスカッサント:藤野 雅史氏(日本大学)
掛谷氏の報告に対し,藤野氏は,本研究は実務的な課題(公会計情報の不十分な利用)に対して理論的な考察にチャレンジしようとしており,先行研究を踏まえた概念の適用を試みている点に特徴があると指摘しました。そのうえで,藤野氏は,リサーチ・クエスチョンの洗練化が必要であり,その過程においては,[1]公会計情報の活用,[2]発生主義予算の機能と課題,[3]理論構成概念としてのNPMの研究動向について議論する必要があるとコメントしました。