「関西・中部部会」カテゴリーアーカイブ

2015年度 第2回関西・中部部会 開催記

2015kansai2.png■■ 2015年10月17日(土)に京都産業大学にて第二回関西・中部部会が13:30より同大学経営学部長の中井透氏の開会の挨拶により開会された。部会は3つの自由論題報告に加え企業講演であった。

■ 第1報告は,濱村純平氏(神戸大学大学院博士課程)による「Unobservable transfer price exceeds marginal costs under relative performance evaluation to CEO」であった。競争に直面している企業の振替価格水準について数理モデルを用いた分析結果が報告された。分析の焦点は,業績評価が組み込まれた振替価格決定者に対する業績評価が内生的に決定され,かつ競争相手の振替価格水準が観察不可能な場合にどのような振替価格水準を企業が選択するかについてであった。戦略的振替価格研究に関する先行研究の限界を指摘し,分析には価格競争の数理モデルが採用され,意思決定者に対する相対的業績評価が導入された。分析の結果,競争相手の振替価格が観察不可能な場合であっても限界費用を上回る振替価格が選択されることが示された。

■ 第2報告は,川?紘宗氏(高松大学)による「連邦政府予算とMcKinseyのBudgetary Control:社会的背景からみた予算制度」であった。企業予算を検討する際に何故に政府予算への言及が必要であり,また,政府予算と一般の企業予算とはどのよう関係があるのかについて,アメリカ社会固有の状況を中心に報告された。先行研究の詳細なレビューに加え,McKinseyと政府の予算制度の比較検討を通じて,予算についての政府と一般企業の密接な関係については,両者の予算に関する問題の共通性のほかに,それに対して,政府が標準概念を用いた支出管理に基づく新たな予算制度を構築したことが大きく影響しているという知見が提示された。

■ 第3報告は,石光裕氏(京都産業大学)と近藤隆史氏(京都産業大学)による「マネジメント・コントロールと企業の固有利益」であった。マネジメント・コントロール要因が企業の非共通性にどのような影響を与えているのかのアーカイバルデータを用いた分析結果が報告された。分析は,利益の非共通性を測定した上で,先行研究より非共通性と想定される規定要因ごとに両者の関係を検討し,非共通性を従属変数,その規定要因を独立変数とした回帰分析を行った。結果,特に,業績連動型報酬制が負に有意であったことから,業績評価システムによるマネジメント・コントロール要因と企業の非共通性との関係が示唆された。ただし,ストックオプションについては有意でないものの正の効果があることから,今後統合的に説明でき分析モデルの必要性が指摘された。

■ 企業講演は,東充延氏(ホソカワミクロン株式会社 企画管理本部 経営企画部)による「ホソカワミクロンのM&Aと海外子会社および国内事業管理」であった。まず,来年創業100年を迎える同社の概要やコアとなる粉体技術について説明された。加えて,おもにM&Aにより構築されてきた同社のグローバルネットワークの経緯とその現状,それらを踏まえたグループ全体の経営管理のシステムについて,グループ経営と国内事業運営の意思決定を担う経営会議体,事業計画策定プロセスが,予算編成・管理の観点から詳細に報告された。特に,海外ユニットへの大幅な権限委譲による任せる経営と買収した企業、技術、人、文化などを尊重し、融合を図る”フュージョン経営”が特徴として示された。

2015年度 第1回 関西・中部部会 開催記

■■日本管理会計学会2015年度第1回関西・中部部会が,2015年5月23日(土)に南山大学名古屋キャンパスB棟(名古屋市昭和区)にて開催された(準備委員長:窪田祐一(南山大学))。今回の部会には,関西・中部だけでなく関東も含め,研究者・実務家にご参加をいただきました(参加者27名)。いずれの報告でも活発な質疑応答が行われた。

■第1報告は,劉美玲氏(神戸大学大学院博士課程)ならびに梶原武久氏(神戸大学大学院)による「コンフィギュレーションとしてのマネジメントコントロールとfsQCA(fuzzy-set Qualitative Comparative Analysis)」であった。報告は,特定の結果を生み出す原因となる要因の組み合わせを示すコンフィギュレーションという概念を用い,多様なマネジメントコントロールの組み合わせをめぐる因果関係を考察し,研究方法としてfsQCAの有用性を示すものであった。
まず,文献レビューのもと,コンフィギュレーションとしてのマネジメントコントロールにみられる「因果関係の特徴」を整理された。続いて,これまでの先行研究の「研究方法」を確認することで,質的研究ならびに量的研究の双方に長所と限界があることが示された。それを受け,質的研究と量的研究をつなぐ質的比較研究(QCA),なかでもfsQCAという研究方法がコンフィギュレーションとしてのマネジメントコントロールを分析するのに有用であると指摘された。ただし,fsQCA適用する場合にも,克服すべき課題があることも示された。

■第2報告は,浅池秀幸氏(リゾートトラスト(株)経理部・税理士)による「事務事業評価のための予算管理システム―三勘定簿記を前提として―」であった。報告では,水道事業の適正な行政評価にはコスト評価が必要であり,事務事業評価のためには3表(貸借対照表・損益計算書・収支計算書)を勘定メカニズムとして自動的に連動させる3勘定簿記の計算構造が必要であると主張された。
具体的には,事務事業別の予算差異分析のために,活動基準原価計算を導入して事務事業別のコスト把握を行い,財源の観点から事務事業別の収支計算が必要であることが示された。投入された性質別資源を事務事業別の勘定に変換し,そのコスト算定のために活動基準原価計算を用いる。また,事務事業別予算の執行プロセスが可視化されることで,その事業の行政評価が適正に行われる。報告では,収支・損益の両面から事務事業評価単位と予算編成単位を対応させるために,資源コストから事務事業別コストへの変換フローが示され,予算へのフィードバックが行われることを主張された。そして,3勘定簿記システム上の会計処理が明示され実務上の有効性について詳しく紹介された。

■第3報告は,河田信氏(椙山女学園大学)による「『ジャスト・イン・タイム経営』導入の成功率向上に関する一考察―『流れ創り』における現実的課題へのアプローチ―」であった。報告では,まず「よりよい流れ創り」を目指すJIT経営の原点が確認された。流れを創るとは,モノ作りにおいて一気通貫・整流化で「よどみなくモノが流れる」ことである。「機械(人)を遊ばせてはならない」から「物を寝かせてはならない」へ組織の文化遺伝子を切り替える必要があると説明された。そのうえで,定量評価のための会計指標やKPIなどが提示された。加えて,流れ創りの阻害要因となる文化遺伝子を診断するチェックシートをはじめとして,多様な経営ツールが紹介された。現代の経営環境では,部分最適観を克服し,「本社力」「現場力」「IT力」の連携のとれた「全社最適JIT経営システム」を,異部門間の異見を戦わせながら全体最適のロジックのもとで設計していく。なかでも会計側で,全部原価計算の枠組みのなかで,製造間接費の配賦方法をリードタイム基準に読み替えることによって現場の流れ創りを支援する。このような会計の支援によってJIT成功率を画期的に高めることができると主張された。

■企業講演は,水谷稔氏((株)マルト水谷代表取締役副社長)による「『速達生』導入プロモーション(第6回日本マーケティング大賞奨励賞)」であった。講演では,プロモーションビデオ上映のうえ,会社概要を説明いただいた。その後,販売戦略(ジャスト・イン・タイムの導入),営業戦略,人材戦略などの会社の取り組みを紹介いただいた。マルト水谷では,鮮度を重視する流通システムを確立するために,返品再販を中止し,パートナーをボランタリー・チェーン化している。そのような経営改革のもとで,速く届くことが直感的に分かる『速達生』というシンボル・マークを用いた具体的なプロモーション活動についてご紹介いただいた。

窪田祐一(南山大学)

2014年度 第2回 関西・中部部会 開催記

■■日本管理会計学会2014年度第1回関西・中部部会が、2014年11月15日(土)に関西学院大学上ケ原キャンパス G号館(兵庫県西宮市)にて開催された(準備委員長:徳崎進氏(関西学院大学))。今回の部会では、中国・四国・北陸・中部などのほかに、関東からご参加下さる方もおり、参加者は全体で21名であった。いずれの報告でも、研究報告の後には活発な質疑応答が行われた。

■■統一論題関連セッション「経営情報とマネジメント」
■第1報告 伊佐田 文彦氏(関西大学)
「企業の社会性と収益性に関する予備的研究:電機業界の事例をもとに」
本報告は、民間企業が行っているサステナビリティ活動が、長期的に企業収益に貢献しているか否かを実証的に調査したものである。企業が行うCSR活動と企業収益との関係については、これまで様々な研究が行われてきたが、その結果は、正の相関とするものから、負の相関、そして無相関とするものまであり、全くのばらばらであった。伊佐田氏は、この先行研究の様々な結果はCSR活動の中には企業収益に貢献する活動もあれば、そうでない活動も含まれているからである、との考えに基づき、CSR活動の中でもとりわけ企業収益に直結していると思われるサステナビリティ活動と企業収益との関連性についての調査結果を報告された。

■第2報告 平山 賢二氏(株式会社アットストリーム会長)
「業務改革のためのKPIマネジメント:
業務の可視化および重要業績指標による業務プロセス改革に関する研究」
本報告は、業務プロセス改革の現場において具体的にどのような課題があり、またそれに対してどのような解決が行われているのかについて、実際にコンサルティングを行っている専門家の立場から説明したものである。近年の日本企業の海外進出では、生産活動の移転にとどまらず、生産管理、購買、販売から売掛金の回収まで、現地企業の担当する業務範囲が次第に拡大している。そのような状況では国内事業と海外事業を一体で考えるために業務プロセスを改革する必要がある。平山氏は、この改革を効率的・効果的に進めるためには、効率的・効果的な現状業務の可視化、業務プロセス改革に最適な重要業績指標の設定、および戦略・戦術に紐づいた業務プロセス改革対象業務の抽出、の3要素が重要であると指摘され、また実際のコンサルティング活動で使われている経営ツールの実演も行われた。

■■自由論題
■第1報告 東 壮一郎氏(関西学院大学大学院生)
「半導体企業の設備投資に関する実証研究:日米半導体協定の影響について」
本報告は、日本の半導体企業の設備投資がどのように行われてきたか、特に1986年から1996年まで締結されていた日米半導体協定が日本企業の設備投資にどのような影響を与えたかについて実証的に調査したものである。半導体市場は、40年以上にわたって継続的に成長している、習熟効果による価格低下が激しい、4年程度で好不況が周期的に変化する、技術進歩が激しい、などの特徴を持ち、その結果として継続的な多額の設備投資が必要な市場となっている。東氏は、1986年から1996年まで締結されていた日米半導体協定が日本半導体企業の設備投資の意思決定に与えた影響についての調査結果を報告された。

■第2報告 佐久間 智広氏(神戸大学大学院生) 安酸 建二氏(近畿大学)
三矢 裕氏(神戸大学)
「組織内で行われる実体的利益調整行動:
ビジネスユニットレベルで生じるコストの調整に関する実証研究」
本報告は、企業組織内部のマネージャーが利益調整を行っているかどうかを調査したものであり、三氏を代表して佐久間智広氏が報告された。企業は様々な理由により、利益を増大(減少)させて利益を調整するインセンティブを持っている。このような利益調整行動は、経営者に止まらず、組織内部のマネージャーも行っている可能性がある。例えば、目標設定に前期業績を用いた場合、良い業績を上げた翌期には目標業績が引き上げられてしまう。これを避けるため、組織内部のマネージャーは、目標値を達成した場合、それ以上業績を上げようとはしなくなるかもしれない(ラチェット効果)。佐久間氏は、インストアベーカリー社のデータを調査し、店長がこのラチェット効果に基づいた利益調整行動を行っているかどうかを分析した結果を報告された。

■第3報告 朴 鏡杓(香川大学)
「環境に配慮した製品開発と原価企画:質問票調査による実態分析」
本報告は、原価企画活動において環境コストの考慮を促進する要因を探索し、また環境に配慮した原価企画活動とその効果について分析したものである。原価企画の対象とすべき原価は、理想的には、メーカーとユーザーの双方で発生する全ライフサイクルコストであるにもかかわらず、実際には環境コストはあまり考慮されないことが多い。朴氏は、東証一部上場の機械、精密機器、電気機器、輸送用機器に属する企業への質問票調査を行い、環境コストの内部化にはプロアクティブな企業、サプライヤーとの協力関係、3R設計を重視する企業、といった要因が重要とする分析結果を報告された。

緒方勇(関西学院大学)

2014年度 第1回関西・中部部会&第42回九州部会 開催記

■■ 日本管理会計学会2014年度第1回関西・中部部2014kansai1_4.JPG会及び第42回九州部会が、2014年4月19日(土)に下関市立大学(下関市大学町)にて開催された(準備委員長:島田美智子氏(下関市立大学教授))。今回の合同部会では、関西・中部・九州以外に関東からもご参加をいただくなど、20名近くの研究者や実務家の参加を得て、活発な質疑応答が展開された。また研究報告に先立ち、関西・中部部会役員会が開催された。

■■  第1報告は、水島多美也氏(中村学園大学)より、「アメーバ経営における時間当り採算での時間の意味」と題する研究報告がなされた。報告は、京セラアメーバ経営を対象に、1.どのような時間が扱われているのか、2.時間と管理会計・原価計算との関係、3.業績評価会計や意思決定会計といった管理会計体系論からの検討の3点を、文献レビューに基づき明らかにしようとしたものである。2014kansai1_1.JPG
報告では、1.アメーバ経営の「総時間」には、「共通時間」や「振替時間」が加味されているため、「時間」は広範な概念となっていること、2.各アメーバだけの指標ではなく、全社的な視点から時間当り採算を考えなければならないため、「利益連鎖管理」や「速度連鎖効果」の概念が存在していること、3.期間計画の重要な要素として時間が使われていることから、時間を中心に業績評価会計や意思決定会計が展開されていることが指摘された。

■■ 第2報告は、岡本健一氏(タスクサポート株式会社)より、「小規模事業者への管理会計の仕組みの導入の実情」と題する研究報告がなされた。本報告は、小規模事業者に管理会計の仕組みを導入させるにあたり生じる問題点と、その具体的な解決策やポイントが提示された。  大企業で導入される高度な管理会計システムは、小規模事業者にとってコストと手間がかかり導入は難しいものの、部門別独立採算制でサブリーダーを育成することや、事業の採算性をあげて会社2014kansai1_2.JPGを生存させることは必要不可欠であるため、管理会計システム導入は必要である。
報告では、こうした時間・スタッフ・資金の面で苦労する小規模事業者でも管理会計の導入に意欲をもたせるためには、「1人時間当り粗利」を用いるなど、分かりやすく感覚がつかみやすい指標を実際に提示することの重要性が指摘され、また、そうした資料を作成するための会計ソフトが紹介された。

■■ 第3報告は、島田美智子氏(下関市立大学)より、「財務報告の”Managerialisation”と会計変化の今日的意味ーZambon [2011]の解釈を通じてー」と題する研究報告がなされた。本報告は、Zambon [2011]の所説を手がかりとしながら、財務報告と管理会計の関連性に関する検討を新しいディメンジョンで展開することを目的として、「財務報告と管理会計の相互作用的進化」の現状について論点整理を行い、当該現状の今後の展開方向を洞察しようとしたものである。
報告では、財務報告の”Managerialisation”の諸側面とその進展過程、財務報告の”Managerialisation”の外的作用因についてのZambon [2011]2014kansai1_3.JPGの解釈が説明された上で、Zambon [2011]の問題提起が有する含意として、1.財務報告の”Managerialisation”が不可避的な現象であるとするならば、当該現象の進展を前提としたうえで、財務報告のレレバンス・リゲインに向けた制度設計を構想する必要があることや、2.財務報告と管理会計が密接に絡み合う近年の会計変化は、財務報告の中心的問題点を改めて炙り出し、財務報告の概念と役割の再定義が求められていることなどが、報告者の総括的な解釈として提示された。

■■ 研究報告会の後、大学生協にて懇親会が開催され、実りある交流の場となった。

足立俊輔(下関市立大学)

2013年度 第2回関西・中部部会 開催記

2013kansai2.png■■ 2013年度第2回日本管理会計学会関西・中部部会が2013年10月26日(土)京都大学において開催された。当日は、小菅正伸部会長の挨拶の後、自由論題2報告、特別講演と連動した企画セッション「イノベーションと管理会計」での2報告,トヨタ自動車株式会社広報部担当部長土井正己氏(肩書きは報告時点)による特別講演「トヨタのイノベーション・マネジメント」が発表された。今回は,原価計算研究学会関西部会との合同での開催と言うこともあり,関西・中部以外に関東・九州・東北や海外からもご参加をいただくなど、89名の研究者や実務家の参加を得て、活発な質疑応答が展開された。また研究報告に先立ち、関西・中部部会役員会が開催された。

■■ 第1報告は、神戸大学博士後期課程の佐久間智広氏による「小売店のコスト変動分析 – マネジャーの個人差が超すと変動に及ぼす影響?-」であった。この報告では、マネジャーの個人属性の違いは業績に優位な影響を与えるのかという問題について、パンの製造・販売を行うA社における店舗データを利用した定量的分析を行った結果が報告された。分析の結果、マネジャーの個人差がコスト変動に有意に関係しており、マネジャーの個人差が業績に与える影響が大きいことが示唆された。質疑応答では、プロフィットセンターの業績をコスト変動で捉える意義や、ビジネスユニットレベルで個人差が業績に影響を及ぼす管理会計的なインプリケーションについて活発な議論が行われた。

■■ 第2報告は、山形大学の柊紫乃氏によって「山形県米沢地区における地域連携の特徴と地域イノベーション活性化の試み」であった。この報告では、企業の持続可能性を担保する自己革新能力が、管理会計的なPDCAサイクルの累積的効果として生じると考え、中小企業におけるPDCAサイクルの確立や活用に、地域のビジネス・エコシステムがどのような影響を及ぼしているのか、山形県米沢地区を対象とした調査について報告が行われた。具体的な研究対象としては、有機エレクトロニクス技術の発展をてがかりに、近年の米沢地区におけるビジネスエコシステムの生成・発展について、産官学金(融)の連携のパターンの深化が説明された。そのなかで、大学が軸となって、産業界・パブリックセクター・地域金融機関を巻き込んで、事業の採算可能性を視野に入れた研究開発活動が行われていることが紹介された。質疑応答では、大学の研究センターが軸となって、研究シーズだけでなく市場ニーズも視野に入れた研究開発や事業活動が行われるようになった経緯や、それを支える能力について議論が行われるとともに、ビジネス・エコシステムとその中の企業の関係について活発な議論が行われた。

■■ 第3報告は、京都大学経済学研究科の市原勇一氏より「両利きの経営を実現するマネジメント・コントロール・システムに関する考察」であった。問題意識として「なぜ優良企業が失敗するのか?」と「老舗企業がなぜ持続しているのか?」という一見相反する現実についての注意が示されたうえで、「成功の罠」や「イノベーションのジレンマ」から免れるため、経営学において提唱されている「両利きの経営」と、Simonsの「4つのコントロールレバー」を統合する方向性について展望が示された。「両利きの経営」と「4つのコントロールレバー」を統合することで、両利きの経営を可能にする組織的特徴がマネジメント・コントロール・システムの活用によって形成されたり、その効果が促進されたりする可能性があることが示唆された。質疑応答では、4つのコントロールレバーに関する先行実証研究の解釈や、その解釈と今回の検討結果との関連などについて活発な議論が行われた。

第4報告は、広島経済大学の天王寺谷達将氏による「イノベーションを促進する管理会計の役割の再考」であった。Simons(1987,1990,1995)に代表されるイノベーションと管理会計の関係性に関するメインストリームの研究(Davila et al, 2009)を批判的に検討したうえで、管理会計研究の本来の関心と合致した粒度で研究を行うための枠組みをアクターネットワーク理論に依拠して構築する展望が示された。Galbraith(1977)に依拠したSimonsの不確実性理解では、イノベーションにおいて遂行される管理会計手法には焦点をあてることができていないという問題点が指摘され,会計計算によって創り出された情報と、経営資源などの実体との関係性を把握するためにアクターネットワーク理論を援用することが提唱された。質疑応答では、分析単位として「管理会計技法」と「管理会計情報」のいずれを想定するのが妥当であるのかといった論点や,「資源動員の正当化プロセスにおける管理会計の役割」と「緊張を生み出す管理会計の役割」の間の関係をどう理解しているかといった問題について活発な議論が行われた。

■■ 特別講演は、トヨタ自動車 株式会社広報部担当部長土井正己氏による「トヨタのイノベーション・マネジメント」であった。トヨタのイノベーションの考え方を理解するうえで,レイモンド・ヴァーノンが提示した国際分業におけるプロダクト・サイクル理論が重要であることが示された上で,グローバルな視野と長期の展望を持ったイノベーション・マネジメントがどのように具体化されているのか,トヨタの事例が紹介された。そのキーワードはイノベーションによって生み出された価値の「普及」であり,社会の発展に寄与することで結果として会社の「収益」に貢献すべきだという考え方が基本となっているとの理解が示された。イノベーション・マネジメントの具体的な考え方を,プリウスの開発プロジェクトの経験から導出された「8つのプロセス」,つまり,(1)企業文化の醸成、(2)トップマネジメントによるイノベーション領域の提示,(3)CTOによるイノベーション技術の見極め,(4)普及できるかどうかの検討、(5)コスト・品質の検討、(6)マーケティング,(7)グローバル普及、(8)次世代化,として整理・紹介された。質疑応答では、経営理念の実現の方策やプリウス開発プロジェクトにおける管理会計の役割などについて活発な議論が行われた.

澤邉紀生(京都大学)