「フォーラム」カテゴリーアーカイブ

2013年度 第3回フォーラム&第41回九州部会 開催記

2013forum_1.jpg■■ 日本管理会計学会2013年度第3回フォーラムが,第41回九州部会と兼ねて2013年11月16日土曜日に大分大学旦野原キャンパスにおいて開催された。今回のフォーラムでは,『大分・別府,九州から地域経済・地域産業の将来を考える』というテーマで,大分・別府,九州の地域産業に焦点を当てた企業講演と研究報告が行われた。大会準備委員長である大崎美泉氏(大分大学)の開会の挨拶があり,第1部では加藤典生(大分大学)の司会のもと,高橋幹氏(南九州税理士会大分県連合会副会長),桑野和泉氏(由布院玉の湯代表取締役社長)の2組が講演され,第2部では大下丈平氏(九州大学)の司会のもと,魚井和樹氏(ダイハツ九州株式会社取締役相談役),宮地晃輔氏(長崎県立大学)の2組から企業講演,研究報告が行われた。いずれの講演および報告もフロアから活発な質問や意見があり,有意義な議論がなされた。その後,場所を移して懇親会が行われ,散会となった。

■■ 第1報告:高橋 幹氏(南九州税理士会大分県連合会副会長)

「顧問先の経営成績から大分の景気動向をさぐる」

2013forum_3.jpg 高橋氏は,顧問先の法人データをもとに業種別に区分して経営分析を行い,その結果から大分県の企業の現状と課題を提示された。同分析結果から,法人税額が前年度比で見た場合,およそ半分が増えている一方で,残りの半分が減少傾向にあることが明らかとなり,これを受けて,大分では,良い会社とそうでない会社が明確になってきており,2極化してきていることが指摘された。また,同分析結果から,大分の土地という点でも,オリンピックの東京開催決定やアベノミクス効果の影響が入ってきていると判断され,具体的には建設業,不動産業,とりわけリフォームがそうした影響を受けていると述べられた。今後の課題として,消費税率の引き上げの問題,納税資産の問題,相続税の問題が今後の大分の中小企業にとってかなり厳しい対応が必要になってくると主張された。

■■ 第2報告:桑野和泉氏(由布院玉の湯代表取締役社長)

「由布院の観光・まちづくり」

2013forum_4.jpg 桑野氏は,まず大分県が大分駅を中心にしたまちづくりが行われていることを伝えた後に,日本の「観光」が世界的に見て遅れていることを指摘し,日本製品の販売を含めて海外の方々が日本に来てもらうことが大事であり,オリンピックが日本で開催されることが決まった今日にあって,今こそ日本の持っている力を最大限発揮するべきであると主張された。人口減少社会が我々の想定以上の速さで進む中,定住人口が望めなければ交流人口を向上させていく必要があるとされ,各業種の経済効果を期待できる観光の重要性が指摘され,由布院の観光の取組が紹介された。由布院では,調和をモットーに,宿泊施設の価格帯に幅を持たせることで,競争ではなく共存関係を築けていること,女性のリピーターの方が多いこと,温泉街を作らず小規模な温泉地を意識していること,馬車が通ることでゆっくりな町であることをアピールしていること,世代交代を早めることで自らの判断に責任を持ってもらうにようにしていることなどの取組が示された。また,数字から見えない観光は議論できないとし,会計数値の重要性も指摘された。

■■第3報告:魚井和樹氏(ダイハツ九州株式会社取締役相談役)

「ダイハツ九州のめざすところ」

2013forum_6.jpg 魚井氏は,グローバル化に着目しながら,ダイハツ九州の今後の方向性について報告された。同社では,世界一のスモールカーを目指すために,軽自動車に相応しい自動化,設備のシンプル化に力を入れ,工場設置に対する工期短縮に取り組まれていることが説明された。海外との競争において,販売価格を上げることが困難な状況では原価低減活動が重要であり,そのために現地(大分・九州地域)調達率の向上を目指すとともに,原単位を下げていくこと,スピード力,一人で何でもできる能力,診える化が必要であることが主張された。時間とお金がかかっていてはグローバル化の時代に海外で勝負にならないことが繰り返し指摘された。

■■第4報告:宮地晃輔氏(長崎県立大学)

「A社造船所における新造船事業の採算性改善のための方策(2)」

2013forum_7.jpg 宮地氏は,リーマンショック以降,船会社の需要低下を原因とした「極端な買い手市場」による造船市場の競争激化の状況のもとで,造船準大手のA社造船所で取組が本格化した原価企画の現状と問題点を報告し,それを踏まえて採算性改善の方策について提示された。ここでは,A社が原価企画からの効果を当初期待した通りには得られていないこと,また,これまでの地元の協力先企業との関係で新たなサプライヤー(特に海外)を参入させることが困難であるといった,保守的なサプライヤーの存在が採算性の改善を阻害していることが,新造船事業の採算性改善のための課題であったことを指摘し,同社や協力先企業も新規参入への抵抗が強いことから,保守的なサプライチェーンを前提とした採算性改善の方策として,これまで不足していた両者の協力関係を強化していくことが提示された。

加藤典生(大分大学)

2013年度 第2回 フォーラム開催記

2013forum2_1.JPG■■ 日本管理会計学会2013年度第2回フォーラムが,2013年7月13日土曜日に法政大学市ヶ谷キャンパスにおいて開催された。今回のフォーラムでは、統一論題の設定をしないで、すべて自由論題にてご報告いただく形式を採った。大会準備委員会委員長である福多裕志先生(法政大学)の開会の挨拶の後、福田淳児先生(法政大学)の総合司会の下で約3時間にわたって4名の先生方による意欲的な研究報告が行われ、活発な議論が展開された。その後、法政大学富士見坂校舎地下1階「カフェテリア」において、懇親会が開催された。各先生方の報告の概要は以下のとおりである。

■■ 第1報告(自由論題報告) 司会者:藤崎晴彦氏(横浜市立大学)
報告者:尻無濱芳崇氏(一橋大学大学院)

「介護事業における組織の公益志向と業績測定尺度の利用」

2013forum2_2.JPG 介護事業において、組織の公益志向(利益最大化以外の目的をもつ)が高い場合、それらが業績評価にどのように影響しているのかについて、千葉県で介護施設を運営する法人を対象とした調査の結果が報告された。報告では2つの仮説が示され、アンケート調査に基づく分析と考察が示された。第1の仮説は、組織の公益志向が強いほど使命達成測定尺度(利益以外の業績測定尺度)の利用度が高まるというものであり、これについては一部の使命達成尺度に対してしか影響は見られず、その影響も限定的であることが明らかにされた。また、規範的に示されてきた一般的見解とは差異が認められることも指摘された。第2の仮説は、組織の公益志向が高いほど、財務的業績尺度の重視度が低下するというものであった。これについては、先行研究と同様に公益志向が高いほど会計的コントロールを軽視していることが裏付けられた。

■■ 第2報告(自由論題報告) 司会者:藤崎晴彦氏(横浜市立大学)
報告者:青木章通氏(専修大学)

「ホテル業における収益管理-レベニューマネジメントに関する実証研究-」

2013forum2_3.JPG まず、レベニューマネジメントの定義および成果尺度について説明があり、本研究は、キャパシティに制約があるサービス産業を前提としていること、短期的な収益最大化を目的とした管理手法であること、そのため経営構造の変革を前提としていないこと、コストには言及しないことなどが示された。次に、ホテル業を対象として、どのような事業環境および収益管理の下であれば、レベニューマネジメントの短期的な財務尺度(成果尺度)を向上させることに繋がるのかについて検討がなされた。報告では、事業環境、収益管理に関する変数について因子分析、信頼性分析が示され、因子得点を説明変数とし、短期的な財務尺度および顧客関連尺度を被説明変数とした多重回帰分析が行われた。その結果、繁忙期と閑散期では財務尺度の向上に繋がる要因が異なることが明らかにされた。また、顧客関連尺度については、特にレベニューマネジメント導入環境の整備状況、販売価格コントロールの程度から影響を受けることが指摘された。

■■ 第3報告(自由論題報告) 司会者:森光高大氏(日本経済大学)
報告者:近藤大輔氏(法政大学大学院)

「アメーバ経営の導入研究」

2013forum2_4.JPG サービス業においてアメーバ経営がどのように導入され機能しているのか、レストラン運営会社の事例を例にとって報告された。まず、製造業で生成・発展してきたアメーバ経営とはいかなるものか、その特徴である時間当り採算およびフィロソフィーの概念について先行研究を取り上げながら詳細な説明がなされた。時間当り採算は、会計的な利益意識を強く持たせる役割があるが、一方で部分最適に陥る危険性があるので、その欠点を補う形でフィロソフィーを浸透させていくと適切な形でアメーバ経営が機能することが説明された。報告では、レストランを運営している「株式会社ぶどうの木」におけるアメーバ経営の事例が紹介され、時間当り採算とフィロソフィーのパッケージが、当該レストランにおけるフロントラインの高効率および高効果を両立させるよう機能していることが示された。

■■ 第4報告(自由論題報告)  司会者:森光高大氏(日本経済大学)
報告者:妹尾剛好氏(和歌山大学)・横田絵理氏(慶應義塾大学)

「機能別組織における戦略的業績評価システムの考察」

2013forum2_5.JPG 戦略的業績評価システムは機能部門において効果的であるのか、それはキャプランとノートンが主張するバランスト・スコアカードの仕組みと同じであるのか、という研究課題について、文献レビュー及び事例研究の経過が報告された。文献レビューでは、一般的なバランスト・スコアカードの仕組みについて解説がなされた後、とくにマーケティング部門で行われている戦略的業績評価システムの概要について検討がなされた。次に事例研究では、現在、報告者が進めているバランスト・スコアカードに関する調査の途中経過について説明があった。これらの考察に基づいて、1. 機能部門では、因果関係を伝達する仕組みとして戦略マップは効果的ではないのではないか、また、2. 機能部門では、相対評価で報酬とリンクしている戦略的業績評価システムが効果的であるのではないか、という2つの新たな仮説が提示された。

梅津亮子(法政大学)

2013年度 第1回 フォーラム開催記

■■ 日本管理会計学会2013年度第1回フォーラムが,2013年4月13日(土)に南山大学において開催された。園田智昭氏(フォーラム担当副会長,慶應義塾大学)の開会の挨拶に続いて,第1部の研究報告が開始された。研究報告の部では,星野優太氏(名古屋市立大学)の司会のもと,孫美レイ(流通科学大学),木村史彦氏(東北大学),川野克典氏(日本大学)による報告が行われ,活発な議論が展開された。第2部の企業講演は,吉澤和秀氏(中京テレビ放送 常勤監査役)によって「テレビ局の経営と管理」というタイトルで講演が行われた。その後,会場を移して懇親会が行われた。

■■ 第1報告:孫美レイ氏(流通科学大学)

「内部統制制度の導入効果に関する一考察 -4社の事例-」

2013forum1_1.jpg 孫氏の報告は,アメリカの不正会計に端を発する内部統制という経済制度がアジアの経済的文脈のなかでどのような効果を果たしているのかについての日本企業を対象とした分析の報告であった。
孫氏は,企業へのインタビューによる質的研究方法を用いて内部統制制度の効果を明らかにしている。4社をインタビューし,当該企業において内部統制制度の効果が現れるとすればどこで効果が現れているのか,また効果が現れないのであれが問題の所在はどこにあるのかなどについて企業別に検討した。
孫氏は,インタビュー調査の結果について,次のようにまとめられた。A社は内部統制制度による不正防止の効果に対して懐疑的であるが,業務の有効性や効率性の向上効果に対しては肯定的な見解を持っている。B社は内部統制制度の導入に課題に感じており,制度対応に加えて自社独自の方法も取り入れながら不正の防止や業務効率の向上を図っている。C社は内部統制制度の導入前から業務のオペレーションが成熟化し,業務の効率性も高く,内部統制制度による業務効率性のさらなる向上は達成できていない。また不正防止の効果に対して懐疑的である。D社は内部統制制度による業務の効率性の向上に肯定的である。

■■ 第2報告:木村史彦氏(東北大学)

「利益マネジメントの業績間比較」

2013forum1_2.jpg 木村氏の報告は,日本の上場会社における業種ごとの利益マネジメントの傾向と,業種間の差異に影響する要因を明らかにしようとするものであった。研究方法は以下のとおりである。まず,各業種の利益マネジメントの傾向を国際比較研究の手法の方法を援用して定量化し業種間で比較する。その上で,業種ごとの利益マネジメントの水準に影響を及ぼす要因として,(1) 政治コスト,(2) 資金調達方法,(3) 投資機会集合,(4) 会計上のフレキシキビリティ,(5) 業種内の競争性,を取り上げ,業種ごとの利益マネジメントの水準との関係を分析する。分析対象は,2004年から2011年までの日本企業25,208社であった。
木村氏は,分析結果について次のようにまとめられた。業種間で利益マネジメントの水準に顕著な差異が見られる。さらに,政治コストが大きい,負債による資金調達のウエイトが高い業種では,利益マネジメントが実施される可能性が高い。また,この結果は,異なる業種分類を用いた場合でも頑健であった。

■■ 第3報告:川野克典氏(日本大学)

「進化を止めた日本企業の管理会計」

2013forum1_3.jpg 川野氏の報告は,2011から2012年に東京証券取引所上場会社に対して実施したアンケート調査(回答数は190社,回収率9.3%)にもとづいて行われた。
川野氏は,この調査結果を次のようにまとめられた。日本企業は,全体として極めて保守的であり,新しく提案された管理会計手法の採用には消極的である。一方で,外部からの圧力,すなわち,法律の改正や会計基準の公表等があると,日本企業はこれに対応すべく管理会計制度の見直しを行う。国際会計基準の日本への導入については,適用時期,範囲等,見通しがつかない状況が続いている。その結果,日本基準ベースの管理会計を構築すべきか,国際会計基準に対応した管理会計を構築すべきかの判断ができなくなってしまい,管理会計の見直しを進めようとする意志のある企業でも,見直しに着手すらできず,これらの結果,日本企業の管理会計の進化が止まってしまっている。
また,今後の日本企業の管理会計に求められるものとして,統合報告(Integrated Reporting)に学び,経営成績と財政状態の向上の最終結果(アウトカム)としての企業価値向上に結び付く,ストーリー化された統合的な管理会計体系の構築を指摘した。

■■ 企業講演:吉澤和秀氏(中京テレビ放送 常勤監査役)

「テレビ局の経営と管理」

2013forum1_4.jpg 吉澤氏の講演は,「経営と管理」の観点から,テレビ局の経営状況の推移とCSRの2点に絞って行われた。テレビ局の経営状況については,以下のように述べられた。テレビ業界は創業以来,日本経済の発展に伴って成長し放送事業の多様化を進めてきた。日本国内のメディアを広告費で見ると,2012年1年間の広告費は,およそ5兆9000億円で,その内マスコミ4媒体と言われるテレビ・新聞・雑誌・ラジオが47%,テレビは30%を占めている。テレビ業界は,創業以来日本経済の発展に伴って成長してきたが,WEBなどメディアの多様化の影響から売上は2006年度をピークに減少傾向に入り,リーマンショックの翌年は,ピーク時の87%まで落ち込んだ。長いトレンドで見れば漸減傾向を覚悟しなければならず,各局は,映画やDVD,アイスショーなど,放送を活用した事業収入の創出を工夫している。
CSRについては,テレビ局の経営にとって最も重要なのは放送倫理であるとして,次のように説明された。放送は,人の命や健康あるいは人権に係わる情報を取り扱い視聴者に届けているので,その情報が万一,誤っていたり,放送したことが何らかの被害を招く結果とならないよう放送に当たっては,番組制作の現場で2重3重のチェックをしている。また,放送倫理を専門とする部署でスクリーニングし,且つ放送法で定められた外部有識者による番組審議会で定期的に評価されている。放送倫理に関する規定集やマニュアルは各種整備・更新しているが,何と言っても日々の放送活動の中でスタッフが高い意識を持って業務に当たることが肝心で,スタッフへの放送倫理研修は頻繁に実施している。放送倫理の遵守はテレビ局のCSRの基本と言える。
最後に,BCPにふれ,次のように結ばれた。放送局は南海トラフを震源域とする巨大地震をはじめとした非常時に視聴者に情報を伝える放送機能の継続が最重要であることからBCP-B(Business Continuity Plan of Broadcasting)の概念を基本として,放送のための要員・設備の他,電力供給が停止した場合の非常用発電などの体制を整えるとともに,非常時を想定した訓練を行うなど社会的使命を果たすべく取り組んでいる。

斎藤孝一(実行委員長 南山大学)

2012年度 第3回 フォーラム開催記

2012forum3_1.jpg■■ 日本管理会計学会2012年度第3回フォーラムは,玉川大学を会場として,2012年12月8日(土)に開催された(実行委員長:山田義照氏)。今回のフォーラムのテーマは「ものづくりの管理会計の再考」とされ,日本のものづくりと管理会計の関係に焦点を当てた研究報告と企業講演が行われた。参加者は70名を超え,熱のこもった議論が繰り広げられた。第1部の研究報告では,園田智昭氏(慶応義塾大学)の司会のもと,原慎之介(一橋大学大学院),田坂公氏(久留米大学),中嶌道靖氏・木村麻子氏(関西大学)の3組が報告された。第2部の企業講演では,司会を伊藤和憲氏(専修大学)にバトンタッチし,織田芳一氏(富士ゼロックス株式会社 調達本部原価管理部)が講演された。その後,場所を移して懇親会が行われ,1年間の学会活動を振り返りながら,今回のフォーラムを惜しみつつ散会となった。

■■ 第1報告:原 慎之介氏

「Jコストによる現場改善効果の測定-資金効率の視点から-」

2012forum3_2.jpg 原氏は,既存の会計理論は原価低減に偏重していて,在庫低減やリードタイム短縮活動の評価に必ずしも結びついていないと主張され,Jコストを現場に導入することの意義について述べられた。Jコスト論は,トヨタ生産方式を会計的に評価することを目的として,田中正知氏(ものつくり大学名誉教授)によって提唱されたものである。現場のリードタイムを短縮する効果を財務的数値とリンクさせることを目的として作られた理論であるという。
氏は,Jコスト論の「現場の問題を顕在化する」側面と「現場の改善効果を評価する」側面に焦点を当て,管理会計技法としてのJコスト論の役割を明確化された。その上で,利益尺度としてのJコスト,資金尺度としてのJコストについて述べられ,どのようにJコストを現場に活かせばよいのかをシミュレーションベースで説明された。
Jコストの計算方法は,コストと時間の積で表される面積(縦軸にコスト,横軸に時間)であり,その本質は資金量である。縦軸を短くする改善が原価低減であるのに対し,横軸を短くする改善がリードタイム短縮で,これらの積を用いた理論がJコスト論である。またJコストの総和は製品1単位を作るために要した棚卸資産にも相当するという。
また,Jコスト論の特徴として,原価のみならずリードタイムや資金の利用量も測定できるものであることを強調された。特に資金面だけに影響を与える改善について評価できるということ,つまり,既存の会計理論では,利益に結びつかない要素を正しく評価しにくいため,Jコスト論によって評価することが重要であるという。
最後に,会計技法は利益に基づいた評価がなされるため,現場の改善活動が正当に評価されていないという問題点を指摘された。その上で,田中氏が主張されている利益尺度としての利用方法と原氏が今回の報告で述べられた資金尺度としての利用方法を用いてJコスト論を利用することにより,これらの問題の解決が図られると結論を述べられた。

■■ 第2報告:田坂公氏

「グローバル型企業における原価企画の展開と課題」

2012forum3_3.jpg 田坂氏は,円高の問題を始めとする厳しい企業環境の変化のなかで,日本の企業が国内から海外へ出て行ってしまっているという現状を憂え,原価企画がどのようにグローバル企業に対応してきているのかについて報告された。報告では,原価企画の先駆的企業である自動車部品メーカーA社に対する調査を一つの事例として,特に新興国向けにどのような原価企画が展開されているのかについて述べられた。
最初に,世界の自動車販売の現状について次のように紹介された。日本自動車工業会による世界の自動車販売数のデータを,氏が先進国向け販売数と新興国向け販売数に分けたところ,先進国向けは横ばいあるいは減少しているのに対し,新興国向けはこの10年間で約3倍となっており,情勢が大きく変わっているという。また,日本政策投資銀行の資料より,先進国市場における原価企画の対象車は低燃費車,環境技術を駆使した製品が中心となっており,品質とコストがしっかりと検討されながら開発されていることが分かる。一方,新興国市場は,モータリゼーション以前の国もあり,かなりバラつきはあるが低価格車の開発が原価企画の対象となっている。研究の側面については,先進国向けの原価企画は進んでいるが,新興国向けの研究が立ち遅れていることを指摘された。
次いで,Bartlett and Ghoshal(1989)の先行研究を紹介され,グローバル型企業の戦略パターンについて述べられた。戦略パターンは,(1)グローバル戦略,(2)マルチナショナル戦略,(3)インターナショナル戦略,(4)トランスナショナル戦略の4つに分けられる。とくに,(4)トランスナショナル戦略は,(1)・(2)・(3)が発展した最終形態であり,本国と展開先との相互依存性を強くすることができる理想形であるという。先行研究の中では,新興国市場への展開が必ずとも示されておらず,その展開を考える余地があるとまとめられた。
そこで,氏が2011年に調査された部品メーカーA社の事例を用い,新興国向けの原価企画がどのように行われているかを紹介された。最初に,A社が新興国における原価企画で失敗をした例を示された。失敗をした原因として,先進国で成功した原価企画を新興国にそのまま移転しようとしてしまったことをあげられた。魅力的品質の考え方は国ごとに違うため,現地適用品を開発しなければならなかったという。たとえば,車のエアコンは,先進国では静かな方がよいが,新興国(インド)においては音が出る方が好まれる傾向にある。新興国向けの原価企画においては,機能を落としてさらにコストを下げるという,いわばVEの「禁じ手」を使うこともやむを得ないという。この失敗から,原価企画の原点である「市場価値を取り込んだ源流管理」に立ち返ることを意識させられたと述べられた。この失敗を踏まえ,A社は,(1)最適機能,(2)最適品質,(3)最適生産,(4)現地化推進の4つを掲げ低コスト化を目指している。次いで,A社の中国での事例についても述べられた。
最後に,Bartlett and Ghoshal(1989)の先行研究では,グローバル企業の戦略はトランスナショナル戦略が理想とされたが,A社の事例ではマルチナショナル戦略的な見解がなされる傾向があると主張された。今後は,国ごとにニーズが異なることを意識して「マルチナショナル型」の戦略パターンにおける原価企画をいかに展開できるかが課題となるとまとめられた。

■■ 第3報告:中嶌道靖氏・木村麻子氏

「日本のものづくりを強化するMFCAの有用性とは」

2012forum3_4.jpg 中嶌氏と木村氏の共同研究において中嶌氏が中心となり報告された。氏は,MFCAが物量管理とコスト情報を組み合わせて行われる管理会計技法の一つとして位置づけられることを説明され,(1)日本のものづくりの評価(マテリアルロスの発見),(2)日本企業のものづくりを強化する(マテリアルロスの削減),(3)MFCAの有用性とは(改善点の拡大と拡張・コスト削減と結びつく技術革新)という3つの視点で報告された。
最初に,MFCAから日本のものづくりはどのように見えるのかを以下のように述べられた。物量情報の側面から「ものづくり」をみると,原材料のうち多くの部分がロスとなっているのが日本の現状である。それらは環境管理会計という手法のなかで資源生産性という言葉を使いながら説明されている。ものづくりという視点でとらえると無駄なく作ることが何よりも必要であり,MFCAを用いてコストで評価することが重要であろう。コストの評価が適切であるかないかという議論も欧米では存在しているが,MFCAは,たとえば35%が製品にならなければ製品原価全体の35%がロスになると考えてみようということだ。日本の企業の中には,無駄を出しながら生産しているという認識をしている企業はほとんどない。氏が調査したところ,コストに関しては「乾いた雑巾」でありこれ以上絞れるところはないと答える企業が多いが,実際にMFCAを用いてみると見えてくるコスト(ロス)があるという。
次いで,サプライチェーンにMFCAを導入する意義について述べられた。マテリアルロス発生のカテゴリーを明確にされ,サプライチェーンでの品質情報の共有によるマテリアルロスの削減,つまり,管理レベルを合わせることによるマテリアルロスの削減について説明された。続いて,経済産業省産業 技術環境局環境政策課 環境調和産業推進室(2010)の資料を基に硝材メーカーとキヤノンの事例を取り上げられ,技術開発と技術連携によるマテリアルロスの削減について述べられた。自社だけでコストダウンを考えるのであれば,原価企画という考え方もありうるが,技術力がなければそれに対して答えることはできない。そもそも企業自身がどこに問題があるのかを把握していないのではないかという疑念のもと,サプライチェーンにMFCA的な考え方や情報を共有できれば,より大きな資源生産性の成果が得られるのではないかとまとめられた。また,氏が行った「MFCAをサプライチェーンで活用するためのアンケート調査(郵送1,561社,回答356社)」についても詳説され,MFCAの認知度や,取引の継続性と材料歩留りの把握・共同改善,2社間の情報窓口の実態などについて明確にされた。
最後に,MFCAに対する3つの課題について述べられた。1つ目は,日本のものづくりにおいて,いかにサプライチェーンにMFCAを使った成功事例なり,マネジメントを作り出すかである。2つ目は,日本企業は海外にシフトを始めているが,日本で作ったMFCAのマネジメントをどのように海外に移転させるかである。3つ目は,マネージャーがいないという問題である。管理レベルと技術を作り上げても,それらをつなぎ合わせる人がいないという課題にぶつかる。技術と実行を噛み合わせる部分に人がうまく育っていないという現状が非常に大きな問題となっているという。

竹迫秀俊(城西国際大学大学院)

2012年度 第2回フォーラム開催記

2012forum2_1.jpg■■ 日本管理会計学会2012年度第2回フォーラムは,北海道大学を会場として,2012年7月21日(土)に開催された(実行委員長:篠田朝也氏)。今回のフォーラムでは,統一論題が設定されていなかったものの,管理会計と会計実務の関係を強く意識した研究報告と企業講演が行われ,活発な議論が展開された。第1部の研究報告では,丸田起大氏(九州大学),藤本康男氏(フジモトコンサルティングオフィス合同会社代表社員,税理士),長坂悦敬氏(甲南大学)の3名が報告された。第2部の企業講演では,北海道で活躍している元気な企業で,社会貢献活動を積極的に展開されている企業のなかから,実行委員長の篠田氏が株式会社富士メガネに講演を依頼した経緯が説明されたのち,大久保浩幸氏(株式会社富士メガネ取締役,人事・総務部長)が講演された。その後,場所を移して懇親会が行われ,夏の北海道でのフォーラムを惜しみつつ散会となった。

■■ 第1報告:丸田起大氏

「管理会計の導入効果の事例研究-産学共同研究への期待-」

2012forum2_2.jpg 丸田氏は,わが国における管理会計研究の発展に向けて,実務家と研究者との間で共同研究・共同開発が活発化されることの期待を表明するとともに,アクションリサーチに代表される関与型研究(interventionist research)にもとづいて実践されている共同研究「ソフトウェア開発における品質コストマネジメントの適用」の事例を紹介された。
最初に,Jonsson and Lukka(2007)の先行研究から関与型研究を次のように示された。すなわち,リサーチサイトに貢献し,かつ,理論にも貢献することを目指すこと,リサーチサイトで現に生じている実務上の問題に取り組むこと,リサーチサイトの状況に適しており,かつ,理論に裏付けられている解決策のアイデアをフィールドテストすることによって,実務にも理論にも関連性(relevance)を持たせた研究ができるという。
次いで,共同研究の取り組みを次のように紹介された。すなわち,研究サイトが製造装置メーカーX社のソフトウェア開発部門であること,他の共同研究者が梶原武久氏(神戸大学)と佐藤浩人氏(立命館アジア太平洋大学)であり,2010年4月から現在に至るまでサイトを13回訪問したこと,当初はビジターとして研究サイトに関与していたものの,次第にファシリテーターとして理論的見地から研究サイトに関与するようになったということである 。そして,研究開始後1年間の協議を踏まえて,品質コストの定義と測定対象について,(1)評価コストのうち定義から漏れていた部分を追加する,(2)テスト後の手直しなど測定が容易な部分から「内部失敗」の測定を開始する,(3)外部委託先での品質コストの推定対象を拡大するという変更が行われた。その 結果,品質コストのビヘイビアについて,品質コスト率が5?10ポイント上昇したこと,内部失敗コストの測定範囲がまだ限定的であるためその割合が5%以下にとどまっていること,予防コスト・評価コスト・失敗コストの間には,期待される関係が部分的にみられるものの現時点では明確な関係が確認できていないため経過観察が必要なことなどが説明された 。最後に,関与型研究の課題が,研究者の結果責任,研究成果の記述スタイルや媒体などにあることを指摘された。

■■ 第2報告:藤本康男氏

「中小製造業における管理会計導入の実務」

2012forum2_3.jpg 藤本氏は,地域に根差した企業を支援することによって地域経済の活性化に貢献するというミッションを実現するためには,中小製造業に管理会計を導入させることが重要であると主張された。氏が経営するコンサルタント会社では,経営者の意思決定に役立つ情報網の構築=「見える化」と,それを利用した経営改善のしくみを社内に定着させることを目的としており,経営者のみならず社員一人ひとりが「戦略」と「データ」にもとづいて考え行動する集団になることを目指しているという。氏は,この文脈から,オホーツク紋別にある水産加工(かまぼこ)会社に対する管理会計導入の事例を紹介された。
実践事例では,最初に,バランスト・スコアカード(BSC)を用いた戦略マップの作成に際して,全スタッフへのヒアリングを実施し,社長とSWOT分析を行い戦略マップを作成し,方針発表会議を開催して戦略マップの共有化を図ったものの理解されずに苦労したという。しかし,戦略マップを年によって変えていくなかで,財務の視点のもとに地域貢献の視点を盛り込んで観光客の満足度向上を目指したところ,新工場建設に伴う無料の体験コーナーや工場見学コースの設置に照応して観光客から注目され,相乗効果を生み出す転機を得て,戦略マップの進化が期待できるようになったという。次いで,現場データの蓄積に際して,当初,原価計算が実施されておらず,在庫の帳簿管理も徹底していなかったことから,歩留まり,原価・経費,納期,光熱費,キャッシュフロー(在庫)に係る現場データの蓄積が困難だったという。しかし,原価計算や在庫管理が徹底されたことで,現在では各担当者が現場データを持ち寄って月次経営会議ができるようになり,PDCAサイクルが機能するようになったという。藤本氏は,従業員が当事者意識を持つようになり,経費の削減,在庫の圧縮,歩留まりの改善を経てPDCAサイクルが実践できるようになったこと,従業員が成長したことで企業体質が改善されていることを主張された。また,管理会計導入の全般的な課題として,管理会計を聞いたことがない経営者にどのように同意を得るかということ,現場データが蓄積されていないため予算管理が難しいこと,先生ではなくパートナーとして社長と一緒に問題解決に努める重要性を指摘された。

■■ 第3報告:長坂悦敬氏

「生産企画と融合コストマネジメント」

2012forum2_4.jpg 長坂氏は,製造関係との産学連携という視点から大学研究者として産業界にどのようなアクションが起こせるかという問題意識のもとで,管理会計のフレームワークやコントロール概念を深化・発展させる手掛かりとして,「融合コストマネジメント」(Fused Cost Management)というアプローチを提唱された。また,実務にインプリメントできる具体的なアクション研究をソリューションと捉えて,産学官の共同プロジェクトから開発・提案されたソリューションの事例を紹介された。
最初に,「融合コストマネジメント」のイメージとしてコーヒー牛乳が例示された。コーヒー牛乳がミルクとコーヒーを混ぜ合わせたものであり,微妙な組み合わせでカフェオレやカフェラテと呼ばれるのと同様に,製品開発・設計,マーケティング戦略,危機管理(リスクマネジメント),BPM,品質工学,ダイバシティ・マネジメントのような各マネジメント手法とコストマネジメントとが,溶け合い,新しく形を変えたものが「融合コストマネジメント」であると説明された。そして,生産企画は,事業企画,営業,設計,調達,生産,品質保証,保守サービスと一体化していることから,原価企画は,まさに製品開発・設計とコストマネジメントの融合形態であることが指摘された。
次いで,ソリューションの開発・提案の事例として,(1)BPMソリューションにおけるスマートフォンアプリの開発やERPの活用(KPIの抽出),(2)工程シミュレーションによる生産コストのフィードフォワード・コントロール,(3)トレーサビリティシステムによるフィードバック・コントロールにおける製造品質管理からのコスト低減やトラック運行管理からのコスト・環境負荷低減が説明された。最後に,各マネジメント手法と融合されるコストマネジメントを顕在化し,そのフレームワークを提示していくアプローチが必要であること,ソリューションを提示して現実に企業で実証できてはじめてそのモデルが発展して波及効果を生み出すことが指摘された。

■■企業講演:大久保浩幸氏

「お客様の『見る喜び』と経営を強力に支えるFTISの運用とその成果」

2012forum2_5.jpg 大久保氏は,メガネは医療用具であるという立場からお客様にメガネを提供していること,そのための人材養成をしていることを強調された。また,お客様の「見る喜び」という企業理念の具現化やノウハウの蓄積を一定のサービスレベルで保持して,売上を向上させていくためのソフトの開発が不可欠であると主張された。このソフトが富士メガネ総合情報システム(Fuji Total Information System,以下「FTIS」という。)であり,その導入経緯と機能の概要について説明された。
次いで,経営の重点項目として,(1)市場創造(積極的な顧客創造),(2)経済および市場動向への対応,(3)個人の能力の開発とモチベーションの向上の3つを提示され,FTISがどのように活用されているかという現状を紹介された。富士メガネでは,チェーン店舗のどこからでも同じデータを見ることができ,参照データとしてお客様の視力のデータ,作成したメガネのデータ,応対記録などが入力されているため,お客様には時間をかけることなく顧客カードにもとづいてサービスの迅速な対応ができること,平成6年まで遡って顧客情報が蓄積されていることからお客様の変化に対応したサービスの提供ができることが説明された。また,業績を高めるためには個々の社員の能力とモチベーションを向上させるような管理と評価が重要であるが,FTISを活用することで,作業プロセスの検証を通じた弱点の分析がしっかりでき,それを踏まえたうえで行動目標を明確にして状況の改善に向かうという目で見る管理ができるようになることが強調された。 最後に,営業,財務会計,品質管理,損失の減少,効率化,人事管理などがすべてにわたって,ヒト,モノ,カネと連携を保っているところにFTISのすばらしさ,効用があると主張された。

川島和浩 (苫小牧駒澤大学)