■■ 日本管理会計学会2011年度第3回フォーラムが,2011年12月10日(土)に東京経営短期大学において開催された(実行委員長:東京経営短期大学教授 岩渕昭子氏)。今回のフォーラムは,「非営利組織の管理会計」という統一テーマに沿って,研究者と実務家が報告を行うという,非常に魅力的なプログラムであった。フォーラムでは,園田智昭副会長(慶應義塾大学)から開会挨拶があり,伊藤和憲氏(専修大学)の司会のもと,伊藤 博氏(市川市役所企画部行政改革推進課),渡邊直人氏(首都大学東京),および大西淳也氏(財務省財務総合政策研究所)の計3名から報告が行われた。各報告に対し,フロアから活発な質問や意見があり,極めて有意義な議論がなされた。その後,場所を移して懇親会が行われ,散会となった。
■■ 第1報告:伊藤 博氏(市川市役所企画部行政改革推進課長)
「市川市の行政改革 -ABCと附属機関による公開検討会を中心に-」
伊藤氏は,まず行財政改革の取り組みを中心に市川市の状況を述べたうえで,その取り組みのひとつである市川市版ABCについて詳細に報告した。市川市版ABCの特徴として,分析自体にかかるコストが大きいことといった一般的なABCのデメリットを解消するため,総コストではなく職員の活動量に着目し,業務ごとの活動従事量を把握し,特に定型的業務の詳細な活動量を対象としていることを述べた。市川市では,市川市版ABCをシステム化し,各職員からのデータ収集を行い,職員個人レベルの活動までデータ化することにより,市民サービス直結業務と内部管理事務の活動量の詳細が可視化されていることを説明した。そして,市川市版ABCから導かれる効果として,内部管理事務や定型的業務をできるだけ効率的にしつつ,市民サービス直結業務に人材を再配置でき,市民サービスを維持しつつ,コストの削減が可能となることを示した。さらに,伊藤氏は,市川市市政戦略会議による,事業仕分け(平成22年度)と施設の有効活用にかかる公開検討会(平成23年度)についても報告した。はじめに,事業仕分けの実施内容を説明し,事業の可視化の進展といった効果や,結果が極端になるといった課題を示した。つぎに,施設の有効活用にかかる公開検討会の実施内容を説明したうえで,事業仕分けと施設の有効活用にかかる公開検討会を比較し,前者が事業の量的な側面からのアプローチ,後者が事業の質的な側面からのアプローチとして検討するために適している可能性を指摘した。
■■ 第2報告:渡邊直人氏(首都大学東京助教)
「組織成員の目標達成,行動意識,および自律性の関係
-BSCを利用したわが国医療組織における実証的研究-」
渡邊氏は,まずBSCに関する研究を参照し,わが国医療組織において多面的な目標達成につながる組織成員の心理構造を解明するという研究目的を示した。そのうえで,先行研究における理論的背景を踏まえ,組織成員の目標達成,行動意識(財務意識,患者意識,学習意識),および自律性の関係について理論モデルを構築し,それに基づく複数の仮説を提示した。そして,渡邊氏は,敬愛会中頭病院・ちばなクリニックと福井県済生会病院に対する経年的アンケート調査から得られたデータをサンプルとし,共分散構造分析によってこれらの仮説を検証した。分析の結果,次の4つの発見事項を指摘した。第1に,学習意識は業務に対する自律性から正の影響を受ける。第2に,財務意識と患者意識は,学習意識から正の影響を受ける。第3に,BSCの4つの視点に対する目標達成は,学習意識と財務意識から正の影響を受ける。第4に,目標達成に対しては,学習意識から財務意識と患者意識を媒介した間接効果よりも,学習意識からの直接効果のほうが相対的に強い影響を及ぼす。
■■ 第3報告:大西淳也氏(財務省財務総合政策研究所客員研究員,早稲田大学ビジネススクール非常勤講師,内閣府参事官(財政運営基本担当)
「公共部門の管理会計における今後の課題」
大西氏は,まず公共部門の管理会計における今後の課題について,組織マネジメント,政策マネジメント,投融資等マネジメントの3つに分けて整理・提示した。これまで管理会計が活用されてきた組織マネジメントだけではなく,政策マネジメントにおける業績測定や,投融資等マネジメントにおける財政投融資・政策金融,さらにはPFI等といった領域への管理会計の活用可能性を示した。そして,国税組織などを調査対象とした組織マネジメントのケース・スタディについて報告し,公共部門においてもABM,ABC,BSCといった管理会計手法に近い実務が行われていることを明らかにした。これらのケース・スタディに基づき,ABMなどのさまざまな管理会計手法を公共部門の効率性と効果性に関連づけた基本モデルを提示した。また,日本だけではなく,各国の労働集約的な公共部門の管理会計の実態も示した。さらに,大西氏は,管理会計手法等の導入プロセスについても報告した。管理会計手法等の導入プロセスについて,ABMの導入を起点にミクロへの展開とマクロへの展開を説明したうえで,導入に際して重要になる要因として,人事権とリンクしたリーダーシップの継続,全体像を踏まえたうえでの漸進的な導入,組織の損得勘定への働きかけなどを明らかにした。
妹尾剛好 (和歌山大学)
■■ 2011年度第2回企業見学会は、2011年9月11日(日)にボッシュ株式会社寄居工場で行われました。当日は日曜日にも関わらず21名が参加し、工場見学とRPPの改善活動についての講演が行われました。
■■ 工場見学の後、「RPPの改善活動について」というテーマで、荒谷マネージャー様よりご講演いただきました。従業員全員による改善活動や節電の取組みについて詳しくご説明いただき、理解を深めることができました。ご講演後には工場見学を含めて質疑応答が活発に行われ、ご同席の現場管理者の方々からも即答していただきました。

■■ 吉岡勉氏による第1報告では,以下の順序に従って進められ,ホテル産業の戦略管理会計に関する試案が提示された。
▼ コメンテーター(清水孝氏)のコメント
■■ 福島一矩氏による第2報告では,以下の順序に従って,マネジメント・コントロールによる製品イノベーションの創発についての実証研究が提示された。
▼ コメンテーター(伊藤克容氏)のコメント
■■ 日本管理会計学会2011年度第2回フォーラムが,2011年7月16日(土)13:00から成城大学において開催された(実行委員長:成城大学教授 塘 誠氏)。今回のフォーラムは,鈴木研一氏(明治大学教授)の司会のもと,境 新一氏(成城大学教授),磯崎 哲也氏(磯崎哲也事務所代表,公認会計士),山田有人氏(大原大学院大学教授 吉本興業監査役),そして川上昌直氏(兵庫県立大学准教授)の計4名から報告が行われた。フロアからも活発な質問が寄せられ,有意義な討議が行われた。その後,場所を移して懇親会が行われ,散会となった。
境氏は,アート・プロデュースの視点から感動創造の生み出す価値を反映した価格設定に関する現状と課題について報告された。最近のデジタル・IT技術の進展やソーシャル・メディアの台頭を背景として,産業に活用される発明や技術のみならず,アートの経済的価値が高まりつつある。とりわけアートは社会的な価値づけが重要であるため,保護と普及を一組に考える必要があり,その意味で,知的財産と似た属性を持つとされる。芸術・技術・特許などがアートとして融合し,創造性を発揮しながら文化的・経済的価値を創出するためには,アート・プロデュースという包括的な取り組みが必要であることが指摘された。
磯崎氏は,日米のベンチャーファイナンス事情の比較検討を通じて,日本のベンチャー界における「生態系」の充実の重要性が指摘された。生態系とはつまり,上場やバイアウトを経験した企業家や,ベンチャー支援をするエンジェルやベンチャーキャピタルなどの投資家,弁護士や会計士などの専門家,CFOやCTOなど鍵となる役員の候補者などのネットワークのことである。日本はアメリカから遅れること四半世紀,1990年代の終わりに証券ビッグバンを迎えるに至った。つまり日本の本格的なベンチャーファイナンスはまだ,始まってから10年少ししか経っていない。ベンチャー企業が活躍する素地を作るためには,良いベンチャー企業の卵が存在するだけではなく,それらを育てる生態系の充実が必要となる。ベンチャー投資は縮小しているように見えるが,ここ10年で日本においてもこの生態系は大きく発達した。米国では,国内市場での成功だけでなく,世界全体での成功に向けたプランがベンチャーキャピタルから求められる。日本においても,楽天やDeNA,グリーのように国内市場で成功を収めたベンチャー企業が世界市場へ進出する動きがあるが,最近では当初から海外市場での活躍を目指すベンチャー企業も出始めている。今後10年で時価総額数千億円以上の企業が10社出てくるようであれば,日本のベンチャーへの関心も好転を期待できるのではないかとの指摘があった。さらに,昨今の米国における上場前後のベンチャー企業の事例を踏まえて,米国におけるベンチャー投資が局所的にバブル気味であることを指摘し,生態系発達のためには「盛り上がり」も重要であることが指摘された。
山田氏は,映画製作における資金調達について,日米の比較を通じてその現状と課題について整理された。日本の映画製作において採用されることの多い製作委員会方式は,委員会に加入する多数のメンバーから資金調達が可能となり,リスク分散を期待できるメリットがある。しかし一方で,メンバー間の責任・権限関係のあいまいさから,コンテンツビジネス全体の戦略を不明確にし,意思決定プロセスが明示化できない点に課題があることを指摘された。例えば,日本映画はリメーク権ビジネスにおいては多くの原石が存在すると思われるが,製作委員会方式という責任と権限関係があいまいな共同事業体により,海外企業の参入を困難にしている。また,製作委員会のメンバーは出資者であると同時にコンテンツ販売の窓口権を有するため,純粋な出資者の受け入れが困難であること。さらに,製作委員会方式を前提とすると,実積のない新規の参入者が割り込む余地がないことも指摘された(この問題に対してハリウッドにおいては,新規の参入者であっても,完成保証会社との間で完成保証契約を締結することで,銀行からの融資を通じた製作資金の調達を可能にしていることが報告された)。また,日本映画産業の全体的な問題点として,ネット化・成熟化した社会における収益獲得モデルの構築,広告宣伝投資等の意思決定会計の充実,製作予算における管理システム機能の強化の必要性が提示された。
川上氏は,顧客満足と利益の両立を図るために求められる価値創造について,たざわ湖スキー場の事例を用いながら報告された。第一に,価値創造を図る仕組みの体系化にあたり,事業の仕組みを設計する思考方法としてのビジネスモデルと,結果として形成された事業の仕組みであるビジネスシステムの違いを,明確に認識することの重要性を指摘した。第二に,ビジネスモデルを考えるためには,デザインのフレームワークが必要であることを指摘した。すなわち,顧客価値を創造し,それを実現する提供の仕組み,そして目標とする利益を達成するための体系が必要とされる。その価値創造の鍵は,価値のオーナーである顧客の取り分としてのWTP(Willingness-to-pay)をいかに高めるかにあり,WTPを超えた価格設定は成立しえない。この具体例として,たざわ湖スキー場でのビジネスモデル変革を取り上げた。当該事例は顧客不満足の源泉を探り,コストに見合った形で問題を解消するビジネスモデルがいかに構築されるのか明らかにするものであった。そこでは,価値を保証し,乏しい資源でも実現可能な活動を通じてサービスを実現し,すべての顧客を対象にするのではなく課金対象をずらすことで価値創造を実現するに至ったとのことである。この事例を通じて,価値創造を可能にするための顧客価値創造・利益創出・価値提供の3要因を体系化させたビジネスモデルの構築の必要性が改めて示唆された。