■ 2019年度第1回企業研究会は、2019年6月8日(土)に、オムロンヘルスケア株式会社本社(京都府向日市)で開催されました。当日は、大雨が心配されましたが、幸いにも過ごしやすい天候に恵まれ、全国から18名の参加があり、オムロンヘルスケア株式会社の会社概要の紹介、同社のTOCによる改善事例の紹介、同社ショールームの見学、オムロン株式会社のROIC管理の紹介、ならびに、質疑応答と相互交流がおこなわれました。
■ 最初に、オムロンヘルスケア株式会社の今北敦久様(生産SCM統轄部)より、オムロングループの事業概要、オムロンヘルスケア株式会社の事業概要、同社生産SCM統轄部の概要、同社のMTA生産方式の特徴、ならびに、同社のTOCによる改善活動と改善事例の紹介がありました。オムロン株式会社は、1933年5月10日に創業、2019年3月期の連結売上高は8,595億円、連結従業員数は35,090名で、制御機器、電子部品、車載機器、社会システム、ヘルスケアなどの幅広い事業を展開しています。このうち、ヘルスケア事業の売上高は連結全体の13%を占めています。オムロンヘルスケア株式会社は、ヘルスケア事業を分社化する形で2003年7月1日に設立され、世界5拠点の生産拠点、世界22拠点の営業拠点で、血圧計、ネプライザ、電気治療器、体温計、体重体組成計などの商品を製造・販売しています。同社生産SCM統轄部は、ヘルスケア事業を支える生産・供給責任とグローバル全体のSCM責任を担い、需要に連動してスピーディに必要なものだけを届ける(ムダなものはつくらない)MTA生産方式を推進しています。その一環として、同社ではTOCによるボトルネック解消の改善活動に積極的に取り組み、生産キャパアップ、生産性向上、在庫削減、リードタイム短縮、品質向上などで多大な成果をあげています。
■ 次に、オムロン株式会社の大上高充様(執行役員グローバル理財本部)より、オムロンの企業理念実践の取り組み、中長期的な企業価値向上のためのROIC経営の紹介がありました。オムロンの企業理念(社憲)は「われわれの働きで、われわれの生活を向上し、よりよい社会をつくりましょう」で、企業理念の実践が同社の風土として定着している状態を目指し、さまざまな活動が日常的におこなわれています。同社では、企業価値の長期的最大化を目指してROIC経営を推進しており、現場のPDCAやKPIまで繋がったROIC管理、売上高成長率とROICを軸とした事業ポートフォリオマネジメントに注力しています。
■ 当研究会では、2回にわたって活発な質疑応答がおこなわれ、参加者一同、より一層、理解を深めることができました。そのうえで、学会を代表して水野一郎会長が挨拶され、学会ならびに企業研究会の活動を紹介されるとともに、当日のオムロン様、オムロンヘルスケア様の真摯なご対応に対し、御礼を述べられました。
■ 事務局より、今回の企業研究会は、飛田甲次郎先生(Goldratt Japan)、柊 紫乃先生(愛知工業大学)の多大な仲介の労により、開催の運びとなりましたことを、申し添えさせていただきます。本当に有難うございました。


理事 今井範行 (トヨタファイナンシャルサービス株式会社)
自由論題の第1報告は,徳崎進氏(関西学院大学)による「イノベーションのための創造性マネジメント:経営人材の創造性開発における経営学、心理学、教育学の融合可能性とその管理会計的展開」であった。徳崎氏は,現代において,イノベーションの重要性がますます大きくなり,またその達成に不可欠な新しい知識や行為を生み出す能力である「創造性」の追求が経営課題となることを述べた上で,合理性を前提に競争優位性の獲得を追求してきた既存のアプローチの限界を指摘している。さらに,創造性をどのように育むのかは,経営管理者への有用な情報と技法の提供を任務とする管理会計を含む経営学諸分野の重要な関心事のはずであるが,本テーマに関連する研究蓄積が十分でないことも指摘した。徳崎氏は,こうした問題意識のもとに,先行する心理学や教育学領域の文献レビューに基づき,特に創造性に着目して,経営人材育成のあるべき姿とその方法論を管理会計の観点から検討を行った。本報告では,「創造性マネジメント」が管理会計の重要かつ喫緊の課題であることが示唆された。
自由論題の第2報告は,王博氏(京都大学大学院)による「マテリアルフローコスト会計(MFCA)の継続性を促進する取り組み-日東電工(株)VSウシオ電機(株)」であった。王氏は,MFCAは日本企業にも広く普及しているものの,多くのMFCAの適用事例は一時的なものであることを指摘している。しかし,MFCAが目的とする「環境と経済の両立」という目標を達成するためには,継続的なMFCAの適用が不可欠であることも指摘された。王氏は,MFCAを継続している事例として日東電工を,MFCAを継続できなかった事例としてウシオ電機を取り上げ,両社におけるMFCAの適用を比較分析した。その結果,MFCAのサプライチェーンへの広がりとエンジニアリングチェーンへの深掘りが示唆された。
自由論題の第3報告は,小山真実氏(神戸大学大学院)による「Ratchet Effect in Teams with Mutual Learning」であった。小山氏は,ラチェット効果に関して,相互学習(mutual learning)があるチームの状況を取り上げ,数理モデルによって分析した。相互学習とは,スキルの低い人がスキルの高い人と働くことによって,スキルの低い人の能力が向上する現象を指す。ダイナミックなアドバース・セレクションのモデルを利用して,小山氏は,相互学習がラチェット効果を緩和することを示した。プリンシパルは,相互学習がスキルの低い人の能力を改善することを知っているので,相互学習が存在する場合,1期目にスキルが低いと申告した人に対する2期目の契約は,改善された能力レベルに基づいて設計されることとなる。したがって,能力のある労働者が最初の期においてあまり能力がないふりをするベネフィットは,相互学習がない場合よりもある場合に,より小さくなる。この結果は,相互学習のあるチームにおいて,ラチェット効果は深刻な問題となりにくいことを示唆している。また,現実の企業の多くで過去の業績をベースに目標が設定される理由を説明している。
海外招聘講演に先立ち,星野優太氏(椙山女学園大学)よりメルコ学術振興財団に関する説明があった。海外招聘公演は,Dennis Fehrenbacher氏(Monash University)による「Reflections on Experimentation in Management Accounting, Information Systems and beyond」であった。Fehrenbacher氏は,管理会計研究における実験研究の可能性について公演した。実務におけるグーグルによるオンライン実験の事例や,学術界における実験研究に対するノーベル経済学賞に関する説明がされた。そのうえで,管理会計研究の研究手法について,実験研究も含め近年では研究手法が多様化していることが指摘された。とくに脳波の測定や,アイ・トラッキング,皮膚反応といった測定技術が,今後の管理会計の実験研究の可能性を広げることが指摘された。また,講演では,アイ・トラッキングを用いた実験研究に関する紹介や,アンカリングに関わる認知バイアスを体験する簡単なクイズもなされた。
■■ 日本管理会計学会2019年度第1回(第56回)九州部会が、2019年5 月25 日(土)に九州産業大学(福岡市東区)にて開催された(準備委員長:浅川哲郎氏)。今回の九州部会では、関東・関西・中国・九州からご参加をいただき、18名の研究者、実務家、および院生の参加を得て、いずれの報告においても活発な質疑応答が展開された。
■■ 第1 報告は、水野真実氏(医療法人社団寿量会 熊本機能病院)により、「患者別手術室人件費管理のためのABCモデルとTDABCモデルの開発と比較」と題する報告が行われた。本報告は、Kaplan & Andersonが提唱するTDABC(時間主導型活動基準原価計算)の手法を用いて、整形外科医師・麻酔科医師・看護師の手術室人件費を「麻酔時間」で配賦する方法を開発・検証することを目的としたものである(対象病院:A病院(410床)、対象疾患:人工膝関節置換術を実施した患者40名、集計期間:2017年4月〜6月)。
■■ 第2報告は、水島多美也氏(中村学園大学)より、「スループット会計における時間に関する一考察」と題する報告が行われた。本報告は、制約理論やスループット会計に関する時間を検証するために、(1)スループット会計においてはどのような時間が使われているのか、(2)TBC(Time Based Costing)にみる時間単位あたりという概念の意味、(3)スループット会計における「Rate」の意味、以上の3点を考察の目的としている。
■■ 第3報告は、西村明氏(九州大学名誉教授・別府大学客員教授)より、「スラックと会計統制モデル―日本製造企業の実態を踏まえて―」と題する報告が行われた。本報告は、報告者の著書『Management, Uncertainty, and Accounting: Case Studies, Theoretical Models, and Useful Strategies』(Macmillan, 2018)のうち、議論の余地が残されていると捉えている「スラック概念」を検討することを目的としたものである。