2017年度第1回 リサーチセミナー開催記

2017年度第1回リサーチセミナーは、2017年7月6日(木)15時-18時に福岡大学大学院(図書館棟6F)会議室1においてメルコ学術振興財団との共催で開催されました。メルコ学術振興財団顧問の上總康行氏と日本管理会計学会副会長の澤邉紀生の挨拶に続いて、3本の英文ペーパーが報告されました。このリサーチセミナーでは、Management Accounting Research 誌のAssociate Editorを務めている気鋭の研究者Martin Messner 氏(インスブルック大学教授)をゲストコメンテータとして迎え、3つの英文報告に対して実践的なアドバイスと討論が行われました。

研究報告1
浅田拓史氏(大阪経済大学)
Switching Management Control System Use: A Construction Machinery Manufacturer Case by Hirofumi Asada, Kohji Yoshikawa, and Yasuyuki Kazusa
浅田拓史氏の報告は、小松製作所のケーススタディによって、マネジメント・コントロール・システムの利用スタイルが「経営危機」への対応と平時との間で切り替えられることを明らかにしようとしたものです。この報告では、Adler and Borys(1996)に端を発しAhrens and Chapman(2004)が発展させたenabling control概念とcoercive control概念を用い、小松製作所をとりまく外部環境の変化とマネジメント・コントロール・システムの利用スタイルとの関係について検討した結果、経営状態が比較的安定している期間はenabling control styleが、経営危機下ではcoercive control styleがとられていることを論じられました。

研究報告2
藤野雅史氏(日本大学)
Incomplete performance measures from a collectivistic view
by Masafumi Fujino, Yan Li, Norio Sawabe
藤野雅史氏の報告は、業績評価指標の不完全性に関する欧米の研究が、暗黙のうちに個人主義的な独立的自己観を前提としていることを指摘した上で、東洋的な相互依存的自己観(Markus and Kitayama, 1991)を理論的枠組みとすることで、従来の研究がみすごされてきた業績評価指標のダイナミックな役割を明らかにしようとしたものです。独立的な自己観が、個人主義的な文化と結びついて、個人の内部にアイデンティティの根源を求めるのに対して、相互依存的な自己観は、他者との関係性において自分のアイデンティティをつくられるという見方をとります。この相互依存的な自己観に基づいて、機能的に分化したサブユニットにおける業績評価指標の不完全性の役割について、終身雇用や年功序列型秩序を有する典型的な日本企業のケーススタディを通じて論じられました。

研究報告3
木村麻子氏(関西大学)
Sustainability Management Control Systems in the Context of New Product Development: A Case Study on a Japanese Electronics Company
by Asako Kimura, Hiroyuki Suzuki, Michiyasu Nakajima
木村麻子氏の報告は、sustainability management control systemの運用に責任を持ったsustainability managerが、新製品開発プロセスにどのように影響を及ぼしているか、日本企業のケーススタディによって明らかにしようとしたものです。この報告ではGond et al (2012)を理論的枠組みとして活用し、技術・組織・認識という3側面に注目して分析することで、sustainability managerが新製品の経済性について深く理解することが、逆説的に、新製品開発プロジェクトにsustainabilityという観点から強い影響を与え、結果的にマネジメント・コントロール・システムとsustainability management control systemとの統合が促進されることが論じられました。

以上のような研究報告を受けて、メスナー氏からのコメントが与えられました。総論的には、英語のライティングに関しては申し分なく、議論のレベルも高く刺激的であるが、国際的なトップジャーナルに論文を掲載するためには次の3点についてさらに深く考慮することが重要であるとの指摘が行われました。まず1点目は「理論」の使い方についてです。理論をケースと有機的に結びつけて、経験的証拠から理論的なインプリケーションが明確に導き出されるよう注意深く活用する必要性が強調されました。2点目に、先行研究との関連付けについて、どの先行研究群とどのように当該研究が結びつくのか戦略性をもって明確にすることが重要であるというコメントが与えられました。3点目は、ケースの「理論的」なおもしろさを丁寧に論じる必要性です。おうおうにして、ケース自体のおもしろさに注目が集まりますが、学術的な貢献は当該研究領域における理論的貢献が主であり、経験的事実のおもしろさは従にしかすぎないことが指摘されました。これら3点のほかにも、それぞれの報告に対して、近年の欧米の研究動向とどう結びつけられるのかといったパブリケーション戦略的なコメントが行われ、参加者にとって貴重な学びの場となりました。

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澤邉紀生(京都大学)