「関西・中部部会」カテゴリーアーカイブ

2017年度第2回関西・中部部会 開催記

司会島先生.JPG 日本管理会計学会2017年度第2回関西・中部部会が、2017年10月14日(土)に名古屋学院大学(名古屋市熱田区)にて開催された(準備委員長:皆川芳輝氏(名古屋学院大学))。関東からもご参加をいただくなど30名を超える研究者や実務家の参加を得て、活発な質疑応答が展開された。また、研究報告に先立ち、関西・中部部会役員会が開催された。部会では、島吉伸氏(近畿大学経営学部教授)の司会のもと、招聘講師による特別講演および3つの研究報告が行われた。講演・報告要旨は以下の通りである。

■特別講演 古谷建夫氏(トヨタ自動車株式会社 業務品質改善部 主査)特別講演古谷先生.JPG
「TQMの構築による持続的成長の実現-“質創造”マネジメントの実践-」
企業および組織が持続的成長を実現するためには、顧客の期待に応える新たな価値の創造(価値創造)および生み出した顧客価値を保証し続けるためのばらつき・変化への的確な対応(品質保証)が重要である。質創造マネジメントの目的は、価値創造と品質保証の両者の実現にある。本講演では、質創造マネジメントにおける諸手法の効果およびそれらが与える医療の質向上への貢献について説明がなされた。

■第1研究報告 中嶌道靖氏(関西大学 商学部 教授)中嶌先生.JPG
「MFCAによるマテリアルロス情報の意義:機会原価概念の適用拡張による新たな管理会計情報の確立に向けて」
これまで多くの企業でのMFCA事例を実施し、マテリアルロスを測定し、マテリアルロスの削減により、資源生産性を向上させる環境負荷低減と製造コスト削減を生産プロセスで実現してきた。他方、MFCAの実施される以前から標準原価情報に基づく、材料歩留まりを含めたコスト削減活動も実施されている。それにもかかわらず、なぜ、MFCAがコスト削減と利益獲得を実現できるのかについて、マテリアルロス情報を機会原価の適用拡張として捉え、一般的な標準原価情報によるコスト削減活動との異質性を明確にすることによって、考察がなされた。さらに、本報告では、未来志向の日常的な(環境)管理会計としての新たな体系化の起点が提示された。

■第2研究報告 安酸建二氏(近畿大学 経営学部 教授)安酸先生.JPG
「経営者による売上高予想はコスト変動をどの程度説明するのか」
本報告では、決算短信を通じて公表される売上高予想が、実際のコスト変動をどの程度説明するのかについて、実証的な分析考察がなされた。主要な発見事項は次の通りである。すなわち、(1)期初の売上高予想はコスト変動に最も強く影響を与える。しかし、(2)期中に発表される売上高予想の修正値は、期初の売上高予想ほどコスト変動に影響を与えない。これらの発見は、経営者業績予想が組織内部の予算と密接に結びつき、実際の組織活動に影響する企業内部の情報を反映している証拠となる。

■第3研究報告 石川潔氏(小野薬品) 石川先生.JPG
「大阪道修町のファミリー企業:武田長兵衛と小野市兵衛」
本報告では、製薬産業に分析の焦点を当て、長寿のファミリー企業における環境変化に対する適応および経営革新のメカニズムが考察された。製薬産業の老舗企業は共通して、創業から現在まで一貫して「良い薬を社会に届ける」ことを経営の柱としてきた。その発展段階別戦略テーマの変化については、「生薬の目利き(江戸期)」「洋薬の輸入販売(明治期)」「イミテーション製造(戦前)」「自社創薬(戦後)」である。さらに、研究対象企業はともに、経営の三大要素としての「始末」「才覚」「算用」を経営の要諦としてきた。これらを含めて、本報告では、経営者のリーダーシップを中心にしてファミリー企業の成功要因を抽出し、その特徴について説明がなされた。

報告会終了後、懇親会が名古屋学院大学曙館食堂にて開催された。懇親会は有意義な研究交流の場となり、盛況のうちに大会は終了した。

皆川芳輝(名古屋学院大学)

2017年度第31回関西・中部部会&第51回九州部会 開催記

■■ スライド1.JPG日本管理会計学会2017年度第31回関西・中部部会および第51回九州部会が、2017年5月6日(土)に西南学院大学(福岡市早良区)にて開催された(準備委員長:高野学氏(西南学院大学))。今回の合同部会では、関西・中部・九州以外に関東からもご参加をいただくなど、20名近くの研究者や実務家の参加を得て、活発な質疑応答が展開された。また研究報告に先立ち、関西・中部部会役員会が開催された。

■■ 第1報告は、足立俊輔氏(下関市立大学)より、「病院BSCにおける医療安全の位置づけ」と題する研究報告がなされた。本報告は、病院BSCが医療安全にどのように貢献しているのかを文献レビューに基づいて明らかにすることを目的としたものである。スライド2.JPG
報告では、医療安全に関連した記述(医療安全項目)が病院BSCに記載された論文をレビューした結果が示され、戦略目標に医療安全項目が記載されている視点は「業務プロセスの視点」と「顧客の視点」が大半であること、「業務プロセスの視点」に記載されている医療安全項目は「医療安全管理体制の強化」の記載数が多いこと、また、重要成功要因や業績評価指標に記載される医療安全項目は「インシデント・アクシデント報告数」の記載数が多いことなどが示された。

■■ 第2報告は、浅川哲郎氏(九州産業大学)より、「米国のオバマ医療制度改革における病院マネジメントシステムの変化」と題する研究報告がなされた。本報告は、新たに就任したトランプ大統領の医療制度改革が、オバマ政権下で立法化された医療保険制度改革法(ACA)をどう継承していくのか、そして、そのことが病院の規模や組織にどのような影響を与えるのかを、報告者の現地調査に基づいて明らかにしようとしたものである。スライド3.JPG
報告では、トランプ政権下においてもオバマ医療制度改革が継続する可能性が高いこと、医療組織は機能別に分化する、いわゆる「モジュール化」が進む可能性があること、そして、近年浸透しつつある「コンビニエント・ケア」には「アージェント・ケア・センター(総合診療と救急医療の中間医療組織)」と「リテール・クリニック(簡易的な予防医療サービスを提供する医療組織)」の2種類が存在していることが紹介された。報告者によれば、こうした一連の新しい動きは、医療のコストを減少する可能性を秘めていると指摘している。

■■ 第3報告は、島吉伸氏(近畿大学)より、「プロジェクト特性がマネジメント・コントロール・システムに与える影響-コントロール・パッケージの視点から-」と題する研究報告がなされた。本報告は、同一の組織において異なる特徴を持つプロジェクトが実施された場合、利用されるマネジメント・コントロール・システム(MCS)に与える影響をコントロール・パッケージの視点から明らかにすることを目的としたものである。報告では、診療科別原価計算とISO9001がプロジェクトとして採用されている医療組織のケースが紹介された。スライド4.JPG
当該ケースでは、診療科別原価計算が含まれるMCSでは、医師が組織的価値に配慮させるための信条システムを生み出すために、インタラクティブ・コントロール・システムや診断的コントロール・システムが機能していること、そして、ISO9001が含まれるMCSでは、プロジェクト推進時においては信条システムが機能しており、プロジェクトの定着と効果発揮の場面ではインタラクティブ・コントロールと診断的コントロールが機能していることが示された。

■■ 第4報告は、三浦徹志氏(大阪経済大学)より、「鉄工団地中小企業における経営課題と管理会計思考の適用研究-金属加工業の設備投資、品質・人材・在庫問題を事例として-」と題する研究報告がなされた。本報告は、元請企業への依存度を見直すことや、自立的事業割合を増やそうとする中小製造業にとって、理にかなった経営管理・管理会計とは何かについて、事例研究に基づき明らかにしようとしたものである。スライド5.JPG
報告で紹介されたA社は、金属部品加工・メッキ一貫生産を事業として行っており、近年の設備投資案として亜鉛のメッキ工程へのロボット・システム導入による工程の自動化やIoT(Internet of Things)化を進められていることが、業界の状況と共に丁寧に説明された。報告では、熟練技術が必要なメッキ工程にロボットによる自動化を行った場合のシミュレーションの計算方法や、IoTシステムを導入した場合のデータ入力時に必要な原価計算や管理会計に必要とされるデータについて、現場のヒアリング調査に基づいて意見が述べられた。

■■ 研究報告会終了後、九州部会の総会が行われた。総会では前年度の会計報告と今年度の九州部会開催の議題が出され、双方とも承認を得た。今年度の九州部会は、第52回大会は7月29日に九州大学にて日本会計研究学会九州部会と合同開催の予定であり、第53回大会は中村学園大学にて11月に開催予定である。
報告会終了後、開催校のご好意により、懇親会が西南クロスプラザ(ゲストルーム)にて開催された。懇親会は有意義な研究交流の場となり、盛況のうちに大会は終了した。

足立俊輔 (下関市立大学)

2016年度 第2回関西・中部部会 開催記

■■2016年度第2回関西・中部部会が.10月22日(土)に香川大学にて開催された(準備委員長:朴鏡杓(香川大学),準備委員:宮脇秀貴(同),中村正伸(同)).関東その他地域から学会員諸氏,実務家の方々の参加を頂いた(院生・学生含め出席者21名).4つの自由論題報告と企業講演を行い,活発な質疑応答が行われた.

■第1報告は,近藤隆史氏(京都産業大学)1.jpg・石光裕氏(同)による,「マネジメント・コントロール研究におけるテキスト分析の可能性の検討」であった.企業レベルのマネジメント・コントロールの財務成果への影響を,有価証券報告書の定性的・非財務データ情報を用いて定量的に検証することを目的に,テキスト分析をマネジメント・コントロール研究へ適用しようとする研究であった.先行研究に基づき仮説として,1:トップマネージャーの環境不確実性の認識の程度が,組織全体のマネジメント・コントロールへの意識の程度へ正の相関を持つこと,2:トップマネージャーのマネジメント・コントロールに対する意識の高さが将来業績に結び付くこと,を設定した上で,分析手法として,計量テキスト分析と呼ばれる,質的データを数値化して計量的分析を適用,データを整理・分析する方法が採用された.分析対象として,国内自動車メーカー10社の2004年3月期から2016年3月期決算までの有価証券報告書を対象とし,有価証券報告書の中でも,「事業の状況」項目の「事業等のリスク」,「提出会社の状況」項目の「コーポレートガバナンスの状況」に出現する単語に注目し,MeCabを解析ソフトとして採用して形態素解析を行った.まず語彙の多様性(複雑性)を意味するTTRを測定した後に,マネジメント・コントロールに関係する単語を抽出した上で,出現回数を考慮した重み付け出現頻度(TF-IDF)を算定,文章の長さを調整しての正規化まで行った上で,統計解析を行った.結果として仮説1は支持されるものの,不確実性への認識水準が上昇しても,3年後にはマネジメント・コントロールへの意識は低下すること,仮説2についても概ね支持されるものの,トップの不確実性の認知からマネジメント・コントロールへの意識の高まり,財務上の成果までは3年程度のラグが見られたとのことであった.最後に今後の課題として,今回の分析対象に含まれていない有価証券報告書内の記載事項を分析対象にすること,形態素間の共起・ネットワークを考慮したマネジメント・コントロール上のキーワードの精緻化の必要性等を指摘した上で,有価証券報告書をもとにした計量テキスト分析のマネジメント・コントロール研究への適用の可能性が示されたとして,報告を締め括った.

■第2報告は,大西靖氏(関西大学)2.jpgによる「持続可能性報告による組織の正統化」であった。環境報告や統合報告をその内容とする持続可能性報告を対象とする定量的研究について,組織についての正統性理論の観点からレビューを行い,その現状と課題を明らかにする研究であった.環境情報開示の説明を巡って,正統性理論と自発的情報開示理論の間で対立が見られるとした上で,まず正統性理論に基づく定量的研究のレビューを行い,企業が情報開示を行うことで,社会のその企業への認識を変化させようとしていることを前提に研究が進められていることを指摘した上で,環境パフォーマンスの高低と財務情報・非財務情報の開示量の間に関連性が見られるといった研究や,環境パフォーマンス,環境情報開示量と環境レピュテーションの間の関連性についての研究が進められていることを指摘している.一方自発的情報開示理論に基づく定量的研究については,完全情報開示均衡,部分情報開示均衡の2つの均衡についての検討をベースに研究が進められていることが指摘されている.この両者の研究を踏まえ,企業の環境パフォーマンス状況,正統化の圧力,制度的側面の影響度合いの3者の関連をさらに分析していくことの必要性が述べられた.具体的な今後の研究の方向性としては,組織における正統性理論そのものを再度検討する余地があり,制度論を援用しながら,組織の正統化のための手段として持続可能性報告の同型化に着目する必要があること,さらにその前提にある産業横断的な組織フィールドについても,その内容や形成プロセスにも着目する必要があることが言及され,報告が締め括られた.

■第3報告は,宮脇秀貴氏(香川大学)3.jpgによる「エンパワーメント研究のブラックボックスの透明化」であった.管理会計分野でエンパワーメント研究が増えてきているものの,エンパワーメントそのものについては所与のものとして扱われ,明確なエンパワーメントの定義をすることなく,その効果が考察されてきたことが問題であることが指摘された上で,管理会計分野,および管理会計分野以外での経営学分野等でのエンパワーメント研究を踏まえて,そもそものエンパワーメントの定義を行った上で,関係性概念と心理的概念から構成されるエンパワーメント概念とフレームワーク構築を目的とする研究であった.この研究は論題にもあるように,組織成員間,組織成員とマネジメント,およびそれらと組織単位の関係性の変容が起こると,なぜ彼らの心理状態を変えることができるのかは,ブラックボックス化されたままであり,関係性概念が心理的概念に与える影響,心理的概念そのものに関する研究が残ったままであり,エンパワーメントされた組織成員がなぜ行動を起こすのか,その部分を今後研究する必要があるとする.この課題に取り組む手段の一つとして提示されているのは,脳科学を用いた無意識への働きかけであり,この仕組みを解明・活用することで,従来からエンパワーメント研究が対象にしてきた「関係性の変容→心理状態の変化」の範囲を超えて「関係性の変容→心理状態の変化→行動」に至る一連のメカニズムを明らかにできる可能性が高まるとする.彼は今後の具体的に研究について,関係性概念と心理的概念の関係性の精緻化,心理的概念におけるメカニズムの詳細な分析,企業の現場での参与観察,インタビュー等を通じて,関係性の変容から心理的状態の変化,さらに行動に至るまでのプロセスを解明する必要があるとして,報告を締めくくった.

■第4報告は,吉田栄介氏(慶應義塾大学)4.jpg,桝谷奎太氏(慶應義塾大学大学院商学研究科後期博士課程)による「予算目標の厳格度と業績評価方法が財務業績におよぼす影響」であった.公式的なルールに基づく業績評価の限界が指摘される中で,評価者の主観的な業績評価が取り扱われ,定性的な非財務指標の利用,業績指標の柔軟な重み付け,裁量的な調整が着目され,主観的業績評価の効果が研究対象になってきていることに言及した上で,財務的な達成目標も評価対象としては存続しており,予算のような財務目標の厳格度と主観的な業績評価がどのように関係しあい財務業績にどのような影響を与えるかを実証的に解明することを目的とする研究であった.環境の不確実性,主観的業績評価,予算目標の厳格度(硬直性)に着目した先行研究を踏まえ,仮説として「主観的業績評価は,環境不確実性が高く,予算目標の厳格度が低い状況で,業績評価を高める」が設定され,東証一部1,822社を対象に郵送質問票調査が行われた.結果として,環境の不確実性のようなコンテクスト要因のみでなく予算目標の厳格度も主観的業績評価の効果に影響を及ぼすこと,主観的業績評価がその内容によっては財務業績に影響を及ぼすこと,業績評価のスタイルと予算厳格度を区分して財務業績への影響を考察する必要があること,が明らかになったとする.最後に,限界,また今後の研究課題として,主観的業績評価と客観的業績評価の組み合わせ効果をどう分析に組み込むか,財務業績と組織階層の関係におけるノイズをどう考慮するか,海外企業へ如何に展開して一般化するか,といった点が言及され,報告が締め括られた.

■企業講演は,冨岡徹也氏(あなぶき興kouen.jpg産(株)専務取締役)による「あなぶき流グループ経営と予実分析」であった.あなぶきグループの経営理念,理念実践の為の基本路線と価値観,事業概要,多角化方針や事業ポートフォリオをまず説明された.その中で,従来からの不動産業を柱としながらも,将来に向けてのシルバー,医療,エネルギー,リフォーム等を今後の事業の柱として成長させていくことに注力している旨報告された.また財務ハイライトも紹介されたが,ROEに執着せず,短期的な利益を求めるだけでなく,将来も見据えて投資・利益を考えていることが重要である旨説明され,総資本回転率,ROA,自己資本比率,有利子負債比率を重要な指標として位置付けている旨も説明された.続いて,予実管理と経営分析についての実践を発表された.3年間を期間として策定される中期経営計画は毎年ローリング方式で見直され,常に3年先のゴールを意識した最新計画をベースに,年間計画が月次ベースで管理されるというのが,基本的な経営計画・予算の管理サイクルであることが示された.予実管理は毎月の取締役会での報告をベースに行われ,四半期に一度の経営会議にて四半期報告・通期見込みが分析され,中期利益計画の見直しが図られるとのことであった.しかし同じ数字であっても,その数字をどう見るかによって経営の判断も違ってくる,との実態が紹介された.また企業そのものがオーナー企業であるとともに急激に成長してきたので,次世代の経営層を含む人材育成には特に注力していることも報告された.最後に会社の存続について,社会に価値を提供していく限り会社は存続していくと述べられるとともに,新規事業については黒字見通しが確実かどうかを見極めたうえで,難しい撤退の判断をしていく必要があるとして,発表を締め括られた.

香川大学 中村正伸

2016年度 第1回関西・中部部会 開催記

■■2016年度第1回関西・中部部会が、5月21日(土)に大阪経済大学にて13:10より開催された(準備委員長:三浦徹志(大阪経済大学),準備委員:浅田拓史(同))。関東からの学会員諸氏、実務家の方々の参加をいただいた(院生・学生を含め出席者34名)。3つの自由論題報告と企業講演を行い、いずれも活発な質疑応答があった。

kansai201611.jpg■第1報告は,岡田朋之氏(関西大学会計専門職大学院生)による、「企業価値評価法の一考察―行動ファイナンスから考える意思決定―(試論)」。一般的な企業価値形成・事業価値評価技法とその基礎となっているCAPM(「資本資産(株式・債権)の評価モデル」)を元にした思考に対して、経営判断・投資行動に内在する(可能性のある)アノマリ―(変則性)の体系(行動ファイナンス)に着目して考察が加えられた。伝統的市場観では価格機構によってノイズは市場で合理的に調整されると仮定されているが、現実の経営において資本コストを上回るキャッシュフローをあげようとする企業価値経営観では、リスク予測、市場予測(β)とリスクプレミアム、キャッシュインフローをベースに具体的な事業の現在価値評価を行う。将来業績予測に際しては、不確実性が含まれた独自の経営判断でプレミアムを認識する。非財務情報、情報の非対称性、プリンシパル・エージェント問題等を前提として価格付けが行われるのである。現実の経営意思決定は過去業績延長の判断の上に意思的、創造的な戦略的行動が行われる。
シャープやトヨタなど著名な事例考察により、シナリオ分析等で加味すべき問題としてプロスペクト理論、サンクコスト効果、心の保守性、ギャンブラーのジレンマなど行動心理学の知見による政策判断の特性、偏り(歪み)の見極めの重要性が検討された。

■第2報告は,井上秀一氏(追手門学院kansai201612.jpg大学 経営学部)による「医療機関の管理会計システムとミドルマネジメント―ある地域の中核医療機関を対象とした事例研究―」。医療機関の管理会計システムにおけるミドルマネジメントの機能の重要性に注目し、ミドルマネジメントはどのような役割を、どのようにして果たしているのかについて詳細な検討、分析が行われた。本研究では,医療専門職のミドルマネジメント(例えば診療科部長や看護師長等)がトップとロワーの間でどのように組織内の調整を行っているのかについて焦点が当てられている。先行研究で,医療機関の管理会計システムにおけるミドルマネジメントの役割として,トップから現場への会計的な影響を吸収する「吸収役」,あるいはトッ プと現場の橋渡しを行う「双方向の窓」という 2 つの役割があることが指摘されていることを受けて,医療機関への参与観察をはじめとする精緻なリサーチデザインによるエスノグラフィックなアプローチを採用し,ミドルマネジメントがどのようにして「吸収役」あるいは「双方向の窓」としての役割を果たしながら組織内を調整しているのか,そのプロセスを明らかにした。医療機関の組織的特徴として、専門知識によるアイデンティティが強くこれに基づく専門職集団が形成されることが一般的にみられる。そこでは、効率性・採算性を求める管理会計システムはコンフリクトを生みやすく、また専門職活動は外部の規範がはたらき、医療機関としての目標と専門職集団の目標を一致させることの困難さが指摘されてきた。この、トップが関与できない活動が多くある現実に対して、管理会計のシステムの導入とその運用にミドルマネジメントが果たす役割の重要性と期待が大きいことが首肯される。

■第3報告は、和田淳蔵氏(岡山大学)による「利kansai201613.jpg益管理論―史的分析を踏まえて―」である。 本報告では,『管理・コントロール』の現代的解釈を管理会計の史的過程から探索している。当該『管理』問題を、歴代研究を踏まえ労務管理にはじまる「原価管理」と、財務管理に由来する「利益管理」の系譜に分け、それぞれが付託された機能を考察した上で、両者が管理会計として融合・統合される史的展開を解明。原価計算の要求事由と利益計算のそれが標準化問題を通じて会計的特質を備えた事情を明らかにし、標準原価計算の損益計算への全面適応として予算管理の制度的成立に着目し、この契機を1920年?1930年代末葉の米国における間接費、固定費の管理問題の検討によって詳らかにする。
課題として、標準原価および標準原価計算、予算管理、直接原価計算、投資利益率管理、損益分岐点分析、さらに近年の原価企画、ABC、BSC等の技法を通底する論理の探索を視野に、管理会計の機能的側面である利益管理論の歴史的経緯を探り、副材として標準原価計算を現代管理会計の源流とみて標準原価と予算統制の史的発展過程に焦点を当てる。両者に関連する操業度問題、間接費管理および変動費予算等が考察され、原価管理が科学的管理に端を発する課業管理・生産管理の系譜を引き、予算管理・財務管理機能は会計の本来的属性として損益計算システムにより収益・費用・利益の標準化へと結実した点が示唆される。
論究の里標に標準原価計算の制度的定立者としてG.C.ハリソンの論考を再評価し、利益(予算)管理主導の趣旨を見い出し、管理会計史の観点からの意義を強調する。ハリソン標準原価論により、実は標準原価の計算制度(原価管理機能)としての完成が同時に利益の標準化(予算制度)を招来し、一方、利益の標準化への手法の制度化と差異分析の整備によって原価管理機能を果たす情報属性の役割は後退して、組織的業績管理・評価と責任会計のあり方へ焦点が移る。製造間接費の標準化過程で固定費、変動費の分離、操業度水準変動による原価差異額の賦課対象(操業度問題;生産主体から販売主体時代への移行)、不働費の期間損益計算による解消、管理可能費・不能費の認識など、すでに原価の標準化対象である製造領域の管理機能を超えて、関心は資本効率の問題としての利益の標準化、利益管理論へと向かいつつあったことが論述された。

■企業講演は,井上誠氏((株kansai201614.jpg)中村超硬代表取締役社長)による「先進的な製品応用技術(デバイス・テクノロジ)開発と経営戦略・業績管理―2015IPO―」であった。講演では,大阪府作成の有望企業紹介・プロモーションビデオを上映のうえ,1954操業、1964創設の会社概要および超硬合金の切断加工技術を基礎とした半世紀にわたる特色ある部品製作、実装装置・機器開発と積極的経営展開の歴史を紹介いただいた。
ソニーの技術者出身の中村社長が率いる同社デバイス・テクノロジ開発は、耐摩耗部品事業、超精密研磨による内径測定用ゲージ製作、焼結ダイアモンド加工技術による素材提案、微小ダイアモンド部品を真空吸着し基板に配列させる電子部品吸着ノズルの量産、ダイアモンド粒を加工したワイヤーによるソーラー部品・太陽電池用ウエハーの世界最速切断(スライス)事業、さらに極小ノズルのノウハウを用いた医療機器製造など、シーズとコア技術を川下ニーズに丁寧に応用し横展開していく積極的かつ堅実な営業戦略が推進されていることが了解される。同時に長期にわたってデジタル化の波や景気変動を乗り越えられる「泥臭い事業の嗅覚とチャレンジ精神の重要性」を旨とする経営姿勢、社内の「自由闊達な人材育成方針」、昨年度IPOを成功させ高い評価を得るなどの「積極的な資本政策」等、技術・経営両面の経営努力について熱のこもったお話を伺うことができた。

大阪経済大学 三浦徹志

2015年度 第2回関西・中部部会 開催記

2015kansai2.png■■ 2015年10月17日(土)に京都産業大学にて第二回関西・中部部会が13:30より同大学経営学部長の中井透氏の開会の挨拶により開会された。部会は3つの自由論題報告に加え企業講演であった。

■ 第1報告は,濱村純平氏(神戸大学大学院博士課程)による「Unobservable transfer price exceeds marginal costs under relative performance evaluation to CEO」であった。競争に直面している企業の振替価格水準について数理モデルを用いた分析結果が報告された。分析の焦点は,業績評価が組み込まれた振替価格決定者に対する業績評価が内生的に決定され,かつ競争相手の振替価格水準が観察不可能な場合にどのような振替価格水準を企業が選択するかについてであった。戦略的振替価格研究に関する先行研究の限界を指摘し,分析には価格競争の数理モデルが採用され,意思決定者に対する相対的業績評価が導入された。分析の結果,競争相手の振替価格が観察不可能な場合であっても限界費用を上回る振替価格が選択されることが示された。

■ 第2報告は,川?紘宗氏(高松大学)による「連邦政府予算とMcKinseyのBudgetary Control:社会的背景からみた予算制度」であった。企業予算を検討する際に何故に政府予算への言及が必要であり,また,政府予算と一般の企業予算とはどのよう関係があるのかについて,アメリカ社会固有の状況を中心に報告された。先行研究の詳細なレビューに加え,McKinseyと政府の予算制度の比較検討を通じて,予算についての政府と一般企業の密接な関係については,両者の予算に関する問題の共通性のほかに,それに対して,政府が標準概念を用いた支出管理に基づく新たな予算制度を構築したことが大きく影響しているという知見が提示された。

■ 第3報告は,石光裕氏(京都産業大学)と近藤隆史氏(京都産業大学)による「マネジメント・コントロールと企業の固有利益」であった。マネジメント・コントロール要因が企業の非共通性にどのような影響を与えているのかのアーカイバルデータを用いた分析結果が報告された。分析は,利益の非共通性を測定した上で,先行研究より非共通性と想定される規定要因ごとに両者の関係を検討し,非共通性を従属変数,その規定要因を独立変数とした回帰分析を行った。結果,特に,業績連動型報酬制が負に有意であったことから,業績評価システムによるマネジメント・コントロール要因と企業の非共通性との関係が示唆された。ただし,ストックオプションについては有意でないものの正の効果があることから,今後統合的に説明でき分析モデルの必要性が指摘された。

■ 企業講演は,東充延氏(ホソカワミクロン株式会社 企画管理本部 経営企画部)による「ホソカワミクロンのM&Aと海外子会社および国内事業管理」であった。まず,来年創業100年を迎える同社の概要やコアとなる粉体技術について説明された。加えて,おもにM&Aにより構築されてきた同社のグローバルネットワークの経緯とその現状,それらを踏まえたグループ全体の経営管理のシステムについて,グループ経営と国内事業運営の意思決定を担う経営会議体,事業計画策定プロセスが,予算編成・管理の観点から詳細に報告された。特に,海外ユニットへの大幅な権限委譲による任せる経営と買収した企業、技術、人、文化などを尊重し、融合を図る”フュージョン経営”が特徴として示された。