「フォーラム」カテゴリーアーカイブ

2010年度 第1回フォーラム開催記

2010forum1_1.jpg■■ 日本管理会計学会2010年度第1回フォーラムは,4月17日(土)午後に横浜国立大学において開催された。
 本フォーラム実行委員長の溝口周二氏による開会挨拶に続き,同氏の司会により,古田清人氏(キヤノン株式会社 環境本部 環境企画センター),竹原正篤氏(マイクロソフト株式会社 環境・グリーンIT担当部長),河野正男氏(横浜国立大学名誉教授)の3名が報告をされた。次いで行われたパネルディスカッションでは,壇上の司会者及び報告者の4名とフロアーの参加者の間で活発な議論が行われた。その後,場所を移して懇親会が行われ散会となった。

統一テーマ : 「環境マネジメントと管理会計」

■■ 第1報告:古田清人氏

「キヤノンの環境経営について(管理会計手法の活用)」

2010forum1_2.jpg 古田氏は,最初に環境がもたらす企業活動への制約とインセンティブについて一般的な説明を行った上で,キヤノンの環境ビジョンについて述べた。そこで示されている具体的な考え方は,ライフサイクル全体の環境負荷を視野に入れて,豊かさ(製品の高機能化)と地球環境(環境負荷の最小化)を同時に実現することである。
 次に,製品における環境保証の3本柱が示された。それは「省エネルギー」「有害物質廃除」「省資源」からなり,製品ライフサイクルを通じて環境負荷を最小化し,法規制の先取りで製品競争力につなげるという考え方である。その具体的な取り組みとして,製品開発段階における二酸化炭素情報の把握と低環境負荷材料の採用が挙げられた。
前者においては,3次元CADでコストテーブルを使用したライフサイクルコストの集計が行われており,原価情報と二酸化炭素情報が連動していることが強調されていた。そこでは,エネルギー原単位の単価への換算における精度が低いことや二酸化炭素削減の要因の明確化が今後の課題として示された。  続いて,事業所(工場)活動における環境保証の3本柱が示された。それは「地球温暖化防止」「有害物質廃除」「省資源活動」からなり,ISO14001による環境管理と,ムダの排除という考え方が根幹にある。その具体的な取り組みとして,マテリアルフローコスト会計の分析結果からロスの改善への展開が挙げられた。ここでは,硝子レンズの研削工程において作業屑をマテリアルロスとして顕在化し,作業屑そのものを削減する改善案が検討されている。なお,マテリアルフローコスト会計はキヤノングループの主要生産拠点で導入され,億円単位の経済効果を挙げている。
 最後に,キヤノンが目指す環境経営が示された。それを要約すると「経営への貢献と,地球環境保護の両立」であり,換言すると「環境活動を進めることによって,収益を上げ成長する会社,会社も個人も尊敬される会社」を目指すということである。

■■ 第2報告 :竹原正篤氏

「グリーンITと環境管理会計」

2010forum1_3.jpg 竹原氏は,最初に世界及び日本の二酸化炭素排出量の統計情報を示した上で,情報化社会の進展がIT機器による消費電力の増大をもたらすことを特に問題視している。その一方で,IT技術の進展が電気機器の省エネをもたらすことを指摘し,ITによって社会全体の省エネを支えるという考え方を提示している。 論題である「グリーンIT」とは,増大するIT機器の省エネ(Green of IT)を推進するとともに,ITを活用して社会全体の省エネを推進(Green by IT)し,低炭素社会の実現を加速させようとする取り組みである。グリーンITの重要な課題の1つが効果測定であり,会計的手法を活用してその効果を「測定」「評価」するモデル開発へのニーズは高いことが強調された。
 Green of ITの事例として,クラウドコンピューティングが挙げられた。そこでは,大規模データセンターにリソースを集約することでエネルギー消費が最適化することにより,クラウド導入企業のエネルギー消費量は一般的に低下することが予想されると考えられるが,マクロレベルでエネルギー消費量が減少したかどうかを検証することは非常に難しいことが指摘された。また,Green by ITの事例として,ITを活用して供給側と需要側の電力のバランスを自動的に制御する次世代送電網であるスマートグリッドが挙げられた。これは,太陽光や風力等の再生可能エネルギーの導入拡大と電力品質の安定維持の両立に欠かせない技術といわれている。
 次に,グリーンITの測定・評価の問題が挙げられた。ITの環境負荷評価では,国際規格化された手法であるライフサイクルアセスメント(LCA)が活用されているが,管理会計の手法は援用されていないことが指摘された。次に,具体的な評価手法として「機能単位」と「システム境界」の設定が挙げられた。前者は評価する製品の主要な性能や機能を定量化することであり,後者は調査範囲を設定することである。これにより,従来のシステムと新しいシステムの比較を可能にしている。また,ITの環境効率は,「ITが提供する価値」を「ITの機能単位当たりの環境負荷」で除した値で定義される。  最後に,グリーンITへの貢献を評価する枠組みについて検討が行われ,生産から使用,更にはリサイクルに至るLCA全体で環境貢献を評価すべきであると結論づけている。

■■ 第3報告: 河野正男氏

「環境マネジメントの進展と管理会計」

 河野氏は,最初に環境マネジメントの内部化について言及している。その一つは「質の内部化」であり,環境問題への対応に当たっての経営環境の革新,換言すると環境保全活動を評価の対象とすることである。もう一つは「量の内部化」であり,環境マネジメントの結果を貨幣単位及び物量単位で把握することである。そして,質の内部化の進展が量の内部化を促進するとしている。
 次に,環境マネジメントの内容の変化について,リコー,グリーンマネジメントプログラム・ガイドライン,國部委員会の各ケースを挙げながら説明している。そして,環境マネジメントシステムの役割が廃棄物,エネルギー使用量,水使用量等の削減からより広範かつ経営の根幹に関わる内容に変化していることを指摘している。
環境マネジメントの意図が環境負荷物質の削減にあることから,その排出量及び削減量等の物量情報によって評価されることが不可欠である。また,環境マネジメントの費用対効果の把握の視点からは,環境関連のコストや収益等の貨幣情報も必要である。そして,環境マネジメントでは,ISO14000シリーズ関係,環境会計,環境報告書,カーボンオフセット,カーボンフットプリントなどの手法が用いられる。
 環境会計はミクロ環境会計とマクロ環境会計に大別され,前者はさらに外部環境会計と環境管理会計に分類される。環境管理会計の手法を対象別に分類すると,企業サイトを対象とした手法と製品を対象とした手法に分類される。前者の例として,マテリアルフローコスト会計,環境配慮型投資決定法,環境予算マトリックス,環境配慮型業績評価が挙げられる。また後者の例として,ライフサイクルコスティング,環境配慮型原価企画,環境品質原価計算が挙げられる。 環境マネジメントは,環境対応,環境保全,環境経営という3段階で進展してきた。その中でも最上位のレベルである環境経営の段階は,製品のエコ化から産業のエコ化への段階であり,環境管理会計の本格的取組がされていると指摘している。
 最後に,リトルトンの会計進化説を引用し,その本質はイタリア式資本利益会計に秘められた会計職能(測定,保全,伝達)の再発見であるとし,管理職能の発展なくして伝達機能の発展はないと論じている。そして,環境管理会計の発展が外部環境会計の発展を促進すると結論づけている。

2010forum1_4.jpg■■ パネルディスカッション
 最初に挙げられた議論は,情報量の増大とそれに伴うコスト負担の問題である。古田氏は外部報告書で想定される読者に着目している。すなわち,有価証券報告書は株主や投資家,環境報告書は環境関連の専門家である。また,溝口氏は人的コストと社会コストに着目し,その効果はエコファンド及びCSRファンドへの投資や市場の評価であると述べている。
次の議論は,本フォーラムのテーマである環境会計と,河野氏の研究テーマである生態会計との関連性に関するものである。河野氏は,生態会計は水・森林・エネルギー資源,CSR,環境会計をすべて含むものであり,そこでは企業以外もすべてシステムであると述べている。
 最後に,外部から環境情報を利用する立場から,比較可能性と正確性に関する議論が行われた。有価証券報告書に環境報告書が含まれると利便性が増すが,その方向性についてどう考えるかという質問に対して,3人の報告者から次のような見解が示された。河野氏は,企業は比較可能性について考えていないとしている。それに対して竹原氏は,比較可能な資料が存在しないために困ったことがあると述べている。また古田氏は,環境情報の利用者が専門家から一般へと広がってきていると指摘している。  ここで所定の時刻になったため,この議論をもってパネルディスカッションを終了することとなった。

2010年4月30日|山下功氏 (新潟国際情報大学)

2009年度 第3回フォーラム開催記

2009forum3_4.jpg■■ 日本管理会計学会2009年度第3回フォーラムが,2009年11月28日(土)に愛知東邦大学(名 古屋市名東区平和が丘)にて開催された(実行委員長:愛知東邦大学教授・山本正彦氏)。今回のフォーラムは,崎 章浩副会長(明治大学)の司会のもと「商品企画と管理会計‐商品開発力強化への管理会計の貢献‐」という統一テーマに沿って,田中雅康常務理事・前会長(目白大学),谷彰三氏(シャープ株式会社経理本部経理部副参事),渡辺美稔氏(いすゞ自動車株式会社原価企画部VE・TDグループリーダー)の3氏の報告が行われた。

2009forum3_5.jpg■■ まず,田中雅康氏(目白大学)より「製品コンセプトづくりと管理会計」というテーマで報告がなされた。同報告では,製品コンセプトづくり,製品コンセプトの決定活動,標準的売価の設定法,原価見積の方法,製品コンセプトづくりにおける経済性評価について説明がなされた。田中氏によれば,新製品開発の動向として製品企画段階により多くのエネルギーが費やされ,開発設計段階のリードタイムを短縮していく傾向があるので,製品コンセプト段階から管理会計も積極的に関わることが重要であると述べられていた。

2009forum3_6.jpg■■ 次に,谷 彰三氏(シャープ株式会社経理本部経理部副参事)より「製品コンセプト・メーキングの方法-CMVE(Concept Making VE)を活用して-」というテーマで報告がなされた。同報告では,コンセプト・メーキングVE開発の背景,商品企画VEの必要性,コンセプト・メーキングVE概論,コンセプト・メーキングVEの進め方,適用事例について説明がなされた。CMVE(Concept Making VE)とはVEアプローチにより潜在的なニーズを顕在化させる技法であり,本報告ではコンセプト・メーキングVEの進め方を中心に同社の適用事例についても紹介がなされた。

2009forum3_7.jpg■■ 最後に,渡辺美稔氏(いすゞ自動車株式会社原価企画部VE・TDグループリーダー)より「生産性設計支援システム(Design For Assembly)による商品競争力比較と原価低減活動」というテーマで報告がなされた。生産性設計支援システム(DFA)は,製品を設計段階で生産しやすいように支援するソフトウエアで,たとえば組み付け性の定量的な評価,組み付け工数,コストの推定,改善ポイントの提示等設計段階で生産性を評価できることが特徴である。同報告では,生産性設計支援システム(DFA)の概要とその活用事例について紹介がなされた。

■■ 3氏の報告の後,円卓討論をはじめるにあたって報告者のとりまとめとして田中雅康氏より3報告についてのコメントが述べられた後,フロアから活発な質疑応答がなされた。40名を超える参加者にとっても大変有意義な時間となったフォーラムであった。

飯島康道 ( 愛知学院大学 )

2009年度 第2回 フォーラム(兼 第28回 九州部会)開催記

2009forum2_1.jpg■■ 日本管理会計学会2009年度第2回フォーラム兼第28回九州部会が,2009年7月4日(土)に九州大学経済学部(福岡市東区箱崎)にて開催された(準備委員長:九州大学教授・大下丈平氏)。今回のフォーラムは,九州大学のOBや九州ご出身などいずれも九州にゆかりのある著名な講師陣をそろえ,管理会計研究においても内部統制・内部監査の議論を高めていこうというメッセージを九州から発信する画期的な企画となり,全国から40名を超える研究者・実務家の参加を得た。なお当フォーラムの開催案内や講師の紹介派遣にあたって,社団法人日本内部監査協会より多大なご後援を賜った。記して謝意を表したい。
■■ フォーラムでは西村明氏(別府大学学長,九州大学名誉教授)を座長として,「内部統制と企業経営 ―内部統制は企業経営にどのような影響を与えたか―」という統一論題のもとで,以下の3氏による報告がおこなわれた。

■■ まず富田昭仁氏(監査法人トーマツ マネージャー)から「内部統制報告制度の概要と実務上の対応」と題して,内部統制報告制度の概要,制度の施行にともなう実務上の課題,重要な欠陥の事例などが報告され,内部統制報告制度の構築運用を現場で支える公認会計士の立場から,内部統制報告制度の全体像や日本的な特徴,内部統制制度の構築・施行にあたっての社内での人材不足,リスク・コントロール・マトリクス(RCM)などのツールへの理解不足,および制度への対応における現場の経営者の苦労話などが臨場感をもって紹介された。

2009forum2_2.jpg■■ 次に伊藤龍峰氏(西南学院大学教授)から「内部統制監査をめぐる諸問題」と題して,財務諸表監査の目的と固有の限界,内部統制報告の制度化への歴史的経緯,実態監査と情報監査および会計監査と業務監査の相違点,内部統制の有効性の検証におけるダイレクト・レポーティングとインダイレクト・レポーティングという二つの形態,金融商品取引法における内部統制監査の特徴と問題点などが報告され,監査理論の観点や国際比較の観点から我が国の内部統制報告制度がもつ矛盾点や社会的な非効率性などが指摘された。

■■ 最後に別府正之助氏(中日本高速道路(株)顧問)から「CEOの内部統制への取り組み」と題して,内部統制に対して経営トップの関心が低かった理由,CEOに自覚してもらいたいこと,CEOが今なすべきこと,他社の不正事例などのケーススタディの有効性,不正経理(粉飾決算)の防止法,セグメント別リスク・マネジメントを徹底している総合商社の管理会計システムや業績評価制度の事例などが報告され,内部統制を支える内部監査の豊富なご経験を踏まえて,社員を疑うための内部統制ではなく自律性を高めるためのリスク・マネジメント体制として理解すべきこと,経営者が「居座る」リスクへの対処や監査役会・社外監査役・内部監査人への期待などについて具体的な提言が数多くなされた。

■■ 3氏の報告を受けて,西村座長から「内部統制の現代的視点 -管理会計の視点から-」と題して,フィードフォワード・コントロールをキーワードにしながら,内部統制に対する管理会計の視点からの期待や3氏の報告へのコメントが述べられた後,座長と報告者による円卓討論がおこなわれ,フロアからも研究者だけでなく現場で内部統制・内部監査の実務に携わる実務家の方々から,いまだに根強い監査アレルギーの問題,内部統制が経営者の利益平準化行動の余地を狭めることの是非,内部統制の啓蒙に対する内部監査人資格取得の意義などについて,活発に質疑応答がなされた。

丸田起大(九州大学)

2009年度 第1回フォーラム 開催記

■■ 2009年4月11日午後2時より,早稲田大学早稲田キャンパスにて,日本管理会計学会2009年度第1回フォーラムが開催された。今回のフォーラムは,田中雅康常務理事・前会長(東京理科大学)の司会のもと,研究者と実務家が統一テーマに沿って報告するという,非常に魅力のあるプログラムであった。
まず,田坂公氏(共栄大学)より,「原価企画研究アプローチの変遷 -わが国と欧米の文献比較-」というテーマで報告がなされた。わが国の研究では,原価企画の発展にしたがい,それぞれに対応した3つの研究アプローチ(順に,管理工学的アプローチ,原価低減活動アプローチ,戦略的コストマネジメント・アプローチ)が発展してきたことが明らかにされるとともに,それぞれのアプローチの境界を検討する際に,4つのメルクマール(目的・ツール・関連組織・戦略性)を利用できることが主張された。一方,欧米では,3つのアプローチを混在・並列させる形で発展してきたことが,文献研究を通じて確認された。

■■ 次の報告は,吉田栄介氏(慶應義塾大学)による,「原価企画におけるテンション・マネジメント」であった。この報告では,トヨタ自動車におけるケーススタディを基に,高度化した原価企画活動が伝統的設計活動とのテンション(緊張)を生み出すことが説明された。それに対し,マネジメント・コントロール研究からの知見を活かし,テンション(組織に本来的に内在する緊張状態)をダイナミック・テンション(組織業績を高めるテンション)へと仕向けるための,「テンション・マネジメント」の検討が提唱された。

■■ 休憩を挟み,後半は2名の実務家による報告であった。1人目の遠藤豊氏(株式会社小森コーポレーション・利益企画部CE課長)は「小森コーポレーションの原価企画」というテーマの報告をおこなった。そこでは,他社との競合の中で性能の良いものを作ることに注力してきた同社が,結果として「高すぎて買えない」製品を作り出してしまい,原価低減が最重要課題となっていることが指摘された。その状況に対応するため,新製品の企画・開発段階からのコスト作り込みを目指し,技術本部の下に利益企画部を設置していること,そして「人づくり」,「しくみづくり」,「道具づくり」という3つの活動を通して,全社的なVE活動を実践していることなどが紹介された。

■■ 最後は,三枝峰夫氏(いすゞ自動車株式会社・原価企画部長)から「いすゞの原価企画 -原価低減20%へのプロセス-」というテーマで報告があった。同報告では,同社において,従来的な組織の枠組みを越えたCFT(クロスファンクショナルチーム)が,品質・コスト・日程に関する目標達成活動を推進していることが紹介された。さらに,原価企画機能を14機能へ細分化し,個々の目標を設けることで,目標達成への計画・評価が容易になっている様子が示された。これらの施策について,具体的な開発活動を通じた事例が明らかにされ,実際の活用状況を知ることができる報告であった。

■■ それぞれの報告後には,活発な質疑応答がなされ,60名を超える多くの参加者にとっても,非常に有意義な時間となったフォーラムであった。

 

大鹿智基氏 ( 早稲田大学 )