2025年11月22日(土)13:55~16:45
■■ 日本管理会計学会2025年度第2回(第69回)九州部会が、2025年11月22日(土)に、九州産業大学(福岡市)にてハイブリッド方式で開催された(準備委員長:九州産業大学教授・浅川哲郎氏)。準備委員長のご挨拶の後、研究報告会がおこなわれた。対面参加・オンライン参加合わせて30名を超える研究者、実務家、および大学院生・学部生の参加を得て活発な質疑応答がおこなわれた。

浅川氏
■■ 第1報告では、新改敬英氏(熊本学園大学教授)・吉川晃史氏(関西学院大学教授)により、「制度はなぜ形骸化するのか―マネジメント・コントロール理論による解釈―」と題する報告が行われた。組織に導入された制度がなぜ形骸化するのかについて、マネジメント・コントロール研究の文脈で、理論的に整理したうえで、形骸化のメカニズムを理解するためのフレームワーク仮説が提案された。制度には、どんな目的でどう設計されたのかという「設計思想」(enablingやcoercive)と、経営者が実際にどのように使うのかという「使用意図」(diagnosticとinteractive)があるとしたうえで、改善提案制度などの事例も挙げながら、支援的な設計思想と診断的な使用意図という不整合が使用者の心理に作用して制度が意味を喪失するというメカニズムを主張された。

新改氏
■■ 第2報告では、篠田朝也氏(岐阜大学教授)・丸田起大氏(西南学院大学教授)により、「原価目標設定による原価低減効果に影響を与える諸要因―実験室実験での質問票調査の結果から―」と題する報告が行われた。原価企画のような製品開発設計段階における原価低減活動を想定し、原価低減目標の難易度や時間圧力が原価低減効果や原価見積りエラーに与える影響について、学生を被検者とした実験室実験をおこなった結果が紹介された。目標達成率が6割程度の適度な原価低減目標を与えられた被験者(モデレート群)と達成率が1割を切る困難な原価低減目標を与えられた被験者(ストレッチ群)を比べると、原価低減効果に有意な差は出なかったが、その要因として目標難易度と時間圧力による努力の諦めや原価見積りエラーによる低減効果の誤認がストレッチ群に生じていたことなどの分析結果を示された。

丸田氏
■■ 第3報告は、浅川哲郎氏(九州産業大学教授)により、「障がい者就労支援のフレームワーク―管理から戦略へ―」と題する報告が行われた。「新しい福祉社会」を「適正な情報開示により自立した個人が健康に自己実現できる社会」と定義したうえで、障がい者就労支援の先進事例として米国のカリフォルニア大学バークレー校などへの訪問調査の成果を紹介された。先駆者としてのエド・ロバーツ氏の功績、障がいを持つアメリカ人法の内容、障がい者をダイバーシティや競争優位の源泉として位置付ける先行研究の考察、障がい者就労に積極的なビティアンドボウズコーヒー社などの取り組みを紹介され、障がい者雇用率規制のもとでの非コア業務での雇用という管理の次元を越えて、障がい者が提供する特異な能力や組織文化向上効果などを戦略的に活用すべきことを主張された。
■■次回の九州部会は、2026年5~6月に西南学院大学(福岡市)にて開催予定である。
文責:丸田(西南学院大学)
写真:⻆田幸太郎氏(佐賀大学)




結論として、ハイブリッド・インセンティブの効果は「バランス調整として控えめに理解しておく」べきであり、相乗効果は単純なタスクに限定される可能性が示された。中程度の複雑さにおける不安定性や心理的バイアスに対処し、その効果を最大限に引き出すためには、共通理解の徹底や追加的な調整操作が必要であると提言された。本研究は、ラボ実験では操作や誘発が難しい要因をモデル化することで、インセンティブ行動との関係を体系的に理解する仕組みを提供した点で、理論的な貢献を果たしている。
さらに、サステナビリティにおける取締役会の役割に焦点を移し、現行のコーポレートガバナンス・コードが株主第一主義の影響を残しつつもサステナビリティを課題としている点、またエージェンシー理論と対立するスチュワードシップ理論が経営者のエンパワーメントを重視する点が論じられた。株式会社をコミットメントの装置と捉えるメイヤーの議論や、CSR経営を許容する日本の会社法の例外規定も確認された。
今後の水口酒造の戦略として、「道後から世界へ、世界から道後へ」というビジョンのもと、輸出増加を通じてブランド価値を高め、最終的には海外顧客を道後に誘客すること、長期的には、酒蔵の一部移転を行い、体験型施設・テーマパーク化の構想、高付加価値な観光体験の提供と収益拡大を図る方針が示された。また、科学的データと杜氏の官能評価データを蓄積し、品質の再現性を高めることが今後の重要課題であると述べられた。