日本管理会計学会2019年度第2回フォーラム開催記

令和元年7月21日 足立俊輔 (下関市立大学)

■■ 日本管理会計学会2019年度第2回フォーラムが、2019年7月20 日(土)に中村学園大学(福岡市城南区)にて開催された(準備委員長:水島多美也氏)。今回のフォーラムでは、関東・関西・中国・九州からご参加をいただき、約20名の研究者、実務家の参加を得た。フォーラムの前には常務理事会が開かれ、学会長の挨拶の後、各報告が行われた。いずれの報告においても活発な質疑応答が展開された。

■■ 第1 報告は、足立洋氏(県立広島大学)により、「役割曖昧性と業績評価に関する研究動向」と題する報告が行われた。本報告は、職務の業績目標が役割曖昧性(組織構成員の役割について首尾一貫した情報が欠如している状態)に対してどのような意味を持つのかについて、日本企業の実態から考察を加えることの意義を明らかにしようとしたものである。
報告者の問題意識は、日本人の対人能力の特性として「役割曖昧性への耐性の高さ」が存在していることにあり、当該役割曖昧性への高さが、職務に対する不満に影響を与えているのではないかということを指摘している。報告では、こうした問題意識に関連した日本企業の業績目標に対する先行研究での解釈が紹介されている。例えば、集団業績による評価が共同意識を醸成しているといった「業績目標による役割曖昧性緩和効果」の検討や、業績の評価者(上司)による主観的業績評価が一定の役割を果たしていること、そして主観的業績評価の前提として十分なコミュニケーションを介した情報共有が行われているといった「主観的業績評価の位置付け」の検討が提示されている。

■■ 第2報告は、丸田起大氏(九州大学)より、「原価企画・再考-マツダのケースを手がかりに-」と題する報告が行われた。本報告は、自動車メーカー・マツダの原価企画の現状や歴史的経緯を明らかにするために、マツダの公式資料や関連文献レビューおよびヒアリング調査に基づいて考察を加えたものである。
報告では、マツダの原価企画の特徴として、商品である車両を意味する「プログラム」の開発よりも、ブレーキペダルといった機能部品の括りを意味する「コモディティ」の開発のほうが重視されていること、当該コモディティの開発は全車種に共通させるべき「固定要素」と車格の対応に必要な部分である「変動要素」に区分していることが紹介された。そして、報告者のヒアリング調査によれば、マツダでは市場変化に対応する場合には、優れたコモディティを開発して、それを組み合わせて市場ニーズに合った車を短期に開発して投入していることが明らかにされた。

■■ 第3報告は、宮地晃輔氏(長崎県立大学)より、「ホテル企業E社によるバランスト・スコアカードを用いた会計教育の実践と今日的意義」と題する報告が行われた。本報告は、日本有数の観光地に所在するホテル企業E社で導入されたBSCについて、ホテル企業を取り巻く今日的環境の視点から検討しようとしたものである。
E社では、現在の代表取締役F氏が就任する以前には管理会計システムが未導入であり、トップマネジメント主導の経営戦略を明確に設定したうえで、戦略目標および戦略課題を明示する必要があったため、BSCが導入されている。報告者によれば、ホテル企業を取り巻く今日的環境においては、ホスピタリティに対する対応が必要とされており、ホスピタリティと人材育成を切り口として、E社以外の3社にインタビュー調査を行っている。3社の共通点としては、組織メンバーに対する能動的な業務姿勢が求められていること、そして、現場の機械化・マニュアル化の外側に人材育成やリーダーシップに依存する領域が存在していることが判明している。すなわち、E社に管理会計を浸透させるためには、組織メンバーの能動的業務姿勢や、それを支援する組織風土を醸成することを目的とした会計教育が必要になることが指摘されている。

■■ 最後に、特別講演として、樋口元信氏(株式会社山口油屋福太郎 常務取締役)より、「恋する管理会計(Dear my staff 株式会社 山口油屋福太郎のケース)」と題する報告が行われた。同社は、1909年創業の食品卸・辛子明太子製造販売会社であり、報告者は同社の主力表品である「めんべい」の開発に着手している。報告の最初には、報告者のご厚意により、会場に「ご当地めんべい」が配布された。
報告では、食用油の卸売業や辛子明太子製造販売から「めんべい」の販売に至った同社の歴史が、当時の関係者のコメントと併せて分かりやすく紹介された。報告者は、近年では廃校跡地を利用して「めんべい工場」を建設した取り組みが県内の様々な方面から評価されていることや、北海道を襲った台風や九州北部豪雨などの自然災害に対する同社の対応策が示され、地域を意識することの重要性に触れている。すなわち同社では、地域を点だけでなく、線でつないだ市場に対応することの重要性を意識しながら事業展開を行っている。こうしたなか、同社の管理会計システムが、KKD法(勘 経験 度胸)に依存していた創業時の家族経営に対応した管理会計1.0から、現在の500名規模の企業に対応した管理会計2.0として展開する必要性が生じていることが指摘されている。

■■ 研究報告会終了後、開催校のご厚意により、中村学園大学食育館にて懇親会が行われ、実りある研究交流の場となり、閉会となった。