2022年度第2回リサーチセミナー開催記

2022年11月27日
園田学園女子大学 北田 真紀 

 2022年度第2回リサーチセミナーは、成蹊大学を開催準備校(準備委員長:成蹊大学 伊藤克容氏)として、日本原価計算研究学会との共催で2022年11月27日(日)14時~16時にZoomを用いてオンラインで開催されました。当日の参加者は約44名であり、伊藤克容氏(成蹊大学)の司会により進められました。日本管理会計学会・副会長の椎葉淳氏(大阪大学)より開会の挨拶が、日本原価計算研究学会・会長の挽文子氏(一橋大学)より閉会の挨拶がありました。第1報告は増岡慶次氏(大阪市立大学経営学研究科、大学院生)および屋嘉比潔氏(大阪公立大学経営学研究科、大学院生)、第2報告は飯塚隼光氏(京都大学経営管理大学院特定助教)、佐藤晃史氏(京都大学経営管理大学院、大学院生)および飛田努氏(福岡大学商学部准教授)でした。また、討論者として、第1報告に対しては安酸建二氏(近畿大学)、第2報告に対しては清水孝氏(早稲田大学)から、それぞれ研究内容について講評と今後の研究の改善に役立つコメントが数多くなされました。いずれの研究報告におきましても、フロアからもコメント・質問が多くあり、活発な議論が行われました。

第1報告
報告者:増岡慶次氏(大阪市立大学経営学研究科,大学院生)
屋嘉比潔氏(大阪公立大学経営学研究科,大学院生)
討論者:安酸建二氏(近畿大学)
報告論題:保守主義推定におけるコスト下方硬直性の交絡効果:Banker et al.(2016)の追試

 第1報告では、保守主義の推定においてコスト下方硬直性が交絡要因となるかどうかを検証することを目的とし、Banker et al.(2016)の結果を、日本の上場企業のデータを用いた追試が行われました。また、経営者所有権と保守主義の関係を検証した Shuto and Takada(2010)の分析について、コスト下方硬直性をコントロールした保守主義推定モデルを用いて再現テストも行われています。
条件付保守主義の推定においてコスト下方硬直性が交絡要因となることを報告しているBanker et al.(2016)の追試を行うにあたり、Banker et al.(2016)の概要と分析モデルについて説明し、追試の意義を示しています。具体的には、Banker et al.(2016)の追試研究として18か国をサンプルに用いたFourati et al.(2020)があるが、このサンプルには日本が含まれていないということ、および次の2つの条件に基づきBanker et al.(2016)の修正モデルを用いた先行研究をカウントし精査しています。
1. Basu(1997)をベースとしたBanker et al.(2016)が提案する保守主義推定モデルを用いている。
2. その他の保守主義推定モデルを用いている場合で、Banker et al.(2016)を根拠として売上高の変化をコントロールしたモデルを用いている。
 日本の上場企業を対象とした追試より、保守主義の推定においてコスト下方硬直性をコントロールしなければ、保守主義の推定値に20%前後の上向きのバイアスがかかるという分析結果が得られています。この結果より、Banker et al.(2016)と同様に、保守主義の推定において交絡効果が生じていることが示されました。
またBanker et al.(2016)は、保守主義推定においてコスト下方硬直性の交絡効果をコントロールすることの重要性を示すために、経営者の株式保有比率と保守主義の関係について検証した Lafond and Roychowdhury(2008)の分析について、コスト下方硬直性をコントロールした保守主義推定モデルを用いて再検証していることが示されました。そこで、Lafond and Roychowdhury(2008)の結果について、分析内容を拡張し日本のデータを用いて再現し、経営者所有権と保守主義の関係について検証した Shuto and Takada(2010)の再現テストを実施しています。再現テストの結果、コスト下方硬直性をコントロールした場合に、Shuto and Takada(2010)の分析結果は頑健ではなくなるという知見が示されました。これらの結果より、日本のデータを用いた保守主義に関する研究において、コスト下方硬直性が交絡要因となる可能性を示唆しています。

第2報告
報告者:飯塚隼光氏(京都大学経営管理大学院特定助教)
佐藤晃史氏(京都大学経営管理大学院,大学院生)
飛田努氏(福岡大学商学部准教授)
討論者:清水孝氏(早稲田大学)
報告論題:希少な研究用資産を製造する中小企業のシンプル管理会計:単品・製造期間1年超の製品製造のマネジメント

 第2報告では、希少な研究用機械をオーダーメイドで製造する企業B 社においてどのような管理会計が構築されているのかということについて、社長へのインタビュー調査により明らかにされました。B 社では月次や年次を前提としたような経営計画や予算といった管理会計が構築されていないが、その代わりに資金繰りの管理とプロジェクトごとのコスト計算が行われていたことが示されました。また、新規受注を抱えていない状態にも関わらず、現場から設備投資を求められるような「ここは締めないと」といった場合には、平常時開示していない決算情報を従業員に共有し、会社の状況を伝える経営会議のような会議が不定期に開催されているという実態も事例により示されました。このような特徴をもつ一方で、資金繰りの管理とプロジェクトごとのコスト計算が行われていることが説明されました。資金繰りの管理については、B社の特徴的なビジネスモデルを理解し、長期的な観点に立てる金融機関と取引していることが事例とともに示されました。またB社においてプロジェクトの採算を大きく左右するものは材料費であることも説明がなされました。このような管理会計の仕組みを、おさえるべきところをおさえ、狙いが絞れたシンプルなものであるという視点から、シンプル管理会計ととらえられています。
 本研究の貢献として、2点示されています。第 1 に、先行研究 として挙げられた建築業との比較により、B社のケース分析を通して、通常管理会計が想定する年次、月次といった単位では管理しえないビジネスモデルにおける管理会計実践を明らかにされました。第 2 に、B 社で行われているようなシンプルな管理会計実践を成立させている要因は何であるかという点についても議論し明らかにされました。この点については討論においても活発な議論が繰り広げられました。

 

2022年度第2回(第63回)九州部会開催記

2022年11月26日(土)13:55~17:10

■■ 日本管理会計学会九州部会2022年度第2回(第63回)大会が、2022年11月26日(土)13:55~17:10に、長崎大学経済学部(長崎市)において、ハイブリッド方式(対面参加+オンライン参加)で開催された(準備委員長:小野哲氏)。今回の九州部会では、全国から約40名(うち対面出席15名)の研究者・学生の参加を得て、いずれの報告においても、フロアやオンラインとの活発な質疑応答が展開された。

■■ 第1部の特別講演では、塩塚武氏(株式会社不動技研ホールディングス代表取締役社⻑、長崎大学大学院経済学研究科修士課程修了)により、「不動技研グループの生き残り戦略」と題する講演が行われた。本講演では、不動技研グループ(プラント設計や自動車電子電装品開発、システム開発をはじめとした 4 社からなるエンジニアリング企業グループ)の生き残り戦略について、「事業環境の変化」に対して「M&A」「組織再編」「PMIプロジェクト」「自治体新電力への出資」「第7次中期経営計画」という観点から紹介された。
塩塚氏は、今後の課題として、ITソリューションのサブスクリプションサービスなどの新しい事業分野を進めていくための原価計算導入、さらにグループ全体の業績管理の必要性から、目標設定を各事業所に任せている現状の体制から、今後はホールディング全体で管理ができる体制へ転換していくことが必要であるとされた。最後に、塩塚氏はこれからの社会環境を踏まえ、不動技研グループが生き残るためには、M&Aや組織再編、人事管理も含めた業績管理、さらに経営の意思決定プロセスの構築を検討していくことが重要であると述べられた。

■■ 第2部の研究報告では、第1報告として、木村眞実氏(⻑崎大学准教授)より、「自動車解体業の原価計算−資源循環型社会に向けて−」と題する報告が行われた。本報告は、資源循環型社会の構築を経済戦略として進める「サーキュラーエコノミー(CE: Circular Economy)」を理解し、CEにおける自動車解体業の原価計算を検討・提案することを目的としていた。
 報告者は、CEが経済戦略として進められており、経済システム、財・サービスの考え方が転換しつつあるため、CEのもとでの自動車解体業に適した原価計算について示された。社会的なコストを含めた「費用収益分析」は、プロジェクトを選択するための、プロジェクトを評価する手法であるが、総費用・総便益・純便益の計算は、CEにおける自動車解体業の原価計算に適しており、効果としては最終処分場の延命効果、GHG排出量の削減等が想定されると提言された。


■■ 研究報告の第2報告として、大下丈平氏(下関市立大学特命教授)より、「19 世紀末フランス工業会計論の再検討−サン・シモン主義とコント実証主義−」と題する報告が行われた。本報告は、フランス工業会計論の研究に関して、サン・シモンの産業主義とオーギュスト・コントの実証主義をめぐる19世紀末の社会思想史の研究成果をもとにした分析視角から、当時の社会経済状況の中で醸成された社会思想がA.C.ギルボーらの「工業会計論」や会計学の一般原理の生成・発展に影響を与えたという仮説のもとに考察された。
 報告者は、渋沢栄一を契機として、ギルボー「工業会計論」とレオティ=ギルボー「勘定科学論」に関して、その展開と意義を提言されたうえで、さらなる問題提起として、科学的・原理的思考と動態論との関連、動態論と統一的原価計算との関連、H.ブッカンの統合モデルを提案する能力と勘定の結合性の関連を今後の課題として示された。

水野真実(熊本学園大学)