「関西・中部部会」カテゴリーアーカイブ

2013年度 第1回関西・中部部会開催記

2013kansai_1.jpg■■ 2013年6月15日(土)13:30から,甲南大学岡本キャンパス5号館2階521教室 において,2013年度 第1回 関西・中部部会が開催された。小菅正伸部会長の挨拶の後,自由論題で4つの報告,統一論題で3つの報告が行われた。いずれも興味深い研究成果の報告で,報告者とフロアとの活発な議論が交わされた。大会参加者は47名を数え,盛況のうちに大会は終了した。以下はその概要である。

■■自由論題(13:30‐15:30)
■第1報告 杉山 善浩氏(甲南大学経営学部教授)

「コンティンジェンシー理論の再評価」 

2013kansai_2.jpg コンティンジェンシー理論とは「あらゆる状況に適用できる唯一最善の方法というものは存在せず、状況が異なれば、有効な方法は異なる」という考え方を 示唆するものであり、古くからこの理論のもとで数多くの実証分析(サーベイとケース)が行われてきた。初期のコンティンジェンシー研究は組織論の視点に基づくものであったが、1972年のKhandwallaの研究を契機として、管理会計 的視点を取り入れるようになった。本報告では、組織論の視点に基づくコンティンジェンシー研究ならびにコンティンジェンシー理論を援用した会計学研究に関する文献を渉猟することで、コンティンジェンシー理論の歴史をたどり、 さらにはコンティンジェンシー研究の貢献と限界を論じた。

■第2報告 佐々木 宏氏(立教大学経営学部教授)

「ビッグデータ時代のデータアナリティクス」

2013kansai_3.jpg 従来、企業は基幹業務のトランザクション・データをコアにしたデータ分析を行い,コスト・マネジメントなどへの連携を図ってきたが,ビッグデータ関連のテクノロジーの進化に伴い,各種ソーシャル・データを取り入れたマネジメントが可能になりつつある。本報告では,ビッグデータのイノベーションが,IT投資,マーケティング活動、経営意思決定、コスト・マネジメントなどへどのようなインパクトをもたらすかについて検討した。

■第3報告 坂戸 英樹氏(愛媛大学大学院連合農学研究科博士課程、
鹿児島県肝付町役場政策調整監兼農業公社設立準備室長)

「経済効果予測を”脱問題先送り”にいかに活用するか ‐ケーススタディ‐」

2013kansai_4.jpg  経済効果の予測値は,そのインパクトから経営課題の直視や根本策検討を促進できるが,投資等の判断材料としては限界がある。理由は,根本策への投資額の算出に直結しないこと,非現実性(例 予測値に外部不経済が反映しない)等である。 本報告では,経済効果予測の「脱問題先送り」への活用について,限界克服の事例が報告された。事例は,「同予測から投資等の許容額を導出する際に,産業連関分析の限界克服方法の仮説を設ける」という自治体の「脱農業衰退」政策の形成過程である。

■第4報告 今井 範行氏(名城大学客員教授)

「マテリアルフロータイムコスト概念の提唱―トヨタ生産システムとマテリアルフロー
コスト会計統合的進化の可能性に関する一考察―」

2013kansai_5.jpg 近年,企業経営における環境意識の高揚を背景に環境管理会計が興隆し,とりわけ生産・物流プロセスを対象とするマテリアルフローコスト会計(MFCA)が発展する傾向にある。一方,日本を代表する効率的生産方式であるトヨタ生産システム(TPS)に関しては,その環境貢献性について,従来,指摘がなされてきた。しかしながら,TPSと環境管理会計との関係に関する考察,および,両者の整合化・統合化に関する視点や枠組みは,従来,明確には存在しなかった。本報告では,TPSとMFCAとの関係に関する考察をおこない,両者の統合的進化を促進し得る新たな管理会計概念として,「マテリアルフロータイムコスト(MFTC)」の概念を提唱した。

■■統一論題

「アジアにおける管理会計の潮流 ‐2013APMAA名古屋大会を前にして‐」 (15:40‐17:00)

統一論題では,今秋に名古屋で開催する2013 APMAA (アジア太平洋管理会計学会2013年度年次大会)を前にしていることもあり,論題を「アジアにおける管理会計の潮流 」と命名し,上埜 進氏(甲南大学大学院社会科学研究科教授)を座長に,3つの報告が行われた。

■第1報告 上埜 進氏(甲南大学大学院社会科学研究科教授)

「APMAAにおける管理会計研究」

2013kansai_6.jpg 本報告では,APMAA Research Initiativesについて解説した。冒頭にAPMAAの概要を簡略に述べ,第1節 APMAA Past and Future Conferences: Dates and Locationsに,年次大会の発展史と2015年までの予定の説明があった。第2節は、APMAA学会誌であるAsia-Pacific Management Accounting Journal (APMAJ)への論文投稿、掲載論文の分布などの説明であった。第3節ではIndustrial-Academic Cooperationの可能性を,また第4節ではInternational Research Collaborationの方向を示された。昨今,アジアの時代と喧伝されているが,社会科学研究の世界は,今日まで、欧米ないしAnglo-Saxonが主導していると述べられ,APMAA Research Initiativesは,会計の世界でアジアから世界に向けた発信が増えればという思いで,展開しているとのことであった。

■第2報告 王 志氏(名古屋商科大学専任講師)

「中国から見た日本の管理会計」

2013kansai_7.jpg 本報告は,日本的管理会計の国際的展開という脈絡の中で,中国における日本的管理会計に対する認識をサーベイしたものであった。具体的には,CNKIという中国語のデータベースを用いて中国の学術誌に掲載されている管理会計論文を検索し,90年代に続いて2000年以降も日本の管理会計を議論する論文が中国で増え続けていることを示された。また、中国では,日本の管理会計の特徴として,市場志向と源流管理が,日本の管理会計の手法として原価企画とジャストインタイム生産方式が,広く多く取り上げられているとのことであった。日本の管理会計における,環境に適応する管理会計の運用,市場志向の考え方が,中国で注目されていることも紹介された。今回のサーベイでは,中国での日本の管理会計に対する認識を紹介できたが,その認識に至るプロセス(認識のルート)の考察は今後の研究課題であると述べ,報告を終えられた。

■第3報告 水野 一郎(関西大学経済政治研究所長・商学部教授)

「中国における管理会計の動向 ‐理論と実務‐」 

2013kansai_8.jpg 本報告ではまず,報告者によりこれまでの中国管理会計に関する研究の紹介がなされ,そのうえで今回は中国会計学会の機構と構成,特徴,中国の公認会計士試験科目における管理会計内容と日本の公認会計士の管理会計科目との比較、検討がなされ,最後に最近の中国において活発な活動を展開している中国IMAの活動について紹介された。  なお,同報告では,結論を以下のようにまとめられた。 1.最近の中国における管理会計の動向としては,国際化,グローバル化が一層進展し,とりわけアメリカへの傾斜が一段と強化されていること。 2.中国IMAが提唱している「管理会計の日」の設定に象徴されるように管理会計の導入に対してきわめて積極的な姿勢が見られること。 3.中国の公認会計士試験の改革(国際化、コンピュータ化)なども参考になり,「財務原価管理」,「会社戦略とリスク管理」という中国の科目設定は興味深いものであり,財務管理と原価計算,管理会計の枠組みも再度考え直すことも必要。 ちなみに,当日の資料で中国会計学会の創立年が1990年となっていたが,1980年の誤りであることが報告者から伝えられた。

上埜 進(甲南大学)、長坂悦敬(甲南大学)

2012年度 第2回関西・中部部会開催記

2012kansai2_1.JPG■■2013年3月23日(土)12:50から,兵庫県立大学 学園都市キャンパスC104教室 において,2012年度 第2回 関西・中部部会が開催された。部会の前半においては,山本達司氏の司会により3つの自由論題の報告が,後半の統一論題においては浅田孝幸教授の司会により3つの報告が行われた。以下はその概要である。

■■第1報告 梅谷幸平氏(大阪大学大学院経済学研究科博士後期課程)

「日本の紡績業界およびアパレル業界における倒産予測の実証研究」

2012kansai2_2.jpg 本報告の目的は、企業の経営管理目的から倒産予測モデル研究を行い,日本の紡績業界およびアパレル業界における安全性の管理指標を明らかにすることである。管理指標として,個別企業の倒産確率が推定可能な確率統計技法を用いるとともに、使用する説明変数には企業の自助努力で改善ができること、リスクを低減するための多様な対策が可能であることといった特徴を持つ「安全性指標」に焦点をあてた分析のプロセスと分析結果が報告された。また,個別企業の倒産予測という微視的な視点により近づけるために,紡績業界およびアパレル業界という細分化した業界を各々調査対象とし,企業の類似性を維持したクラスター視的な統計的知見が示された。

■■第2報告 佐藤清和氏(金沢大学)

「マルチンゲール測度に基づく確率的CVP分析の拡張」

2012kansai2_3.jpg 従来の不確実性下におけるCVP分析の研究では,特定時点における操業度等を確率変数とする確率的CVP分析が検討されてきた。これに対して,本報告ではCVPの時系列を対象とした動学的視点からの確率的CVPモデルが提示された。
具体的には,営業収益の時系列がマルチンゲールになると仮定することで,営業収益のボラティリティに基づくリスク中立確率を導出し,これによって利益請求権(オプション)としての株式価値のバリュエーションが試みられた。

■■第3報告 河合隆治氏(同志社大学) 乙政佐吉氏(小樽商科大学) 坂口順也氏(関西大学)

「わが国におけるバランスト・スコアカードの動向:欧米での蓄積状況を踏まえて」

2012kansai2_4.jpg 現在,バランスト・スコアカード(Balanced Scorecard;以下BSC)研究は、欧米のみならず,わが国においても管理会計領域の主要テーマの一つとして位置づけられている。しかしながら、BSCは,さまざまな研究者によって,多様な観点から研究されてきたため,BSC研究の蓄積状況について全体像を把握することは容易ではないのが現状である。
本報告では,論文数,研究方法,理論ベース,研究サイト,研究内容が経時的にどのように変遷しているのかに関する文献分析をもとに,欧米でのBSC研究の蓄積状況との比較による考察を通じて,わが国のBSC研究の特徴が明らかにされた。

■■統一論題においては、「管理会計とリスク」というテーマで、淺田孝幸教授の座長のもと、若手研究者2名によるこれまでの文献研究および企業調査を基礎にした提案、および公認会計士1名による実務経験を踏まえた興味深い知見をうかがうことができた。

■■第1報告 大浦啓輔氏(滋賀大学)

「危機管理における管理会計の意義:組織間関係の視点から」

2012kansai2_6.jpg 本報告では,危機的状況において,管理会計がどのような意義と役割をもつのかについて考察された。第1に,リスクマネジメントと危機管理を定義し,危機管理はリスクの顕在化を防止することよりも,危機発生後の損失の最小化と復旧のための対応に重点があることが述べられた。そして,欧米と日本の危機管理に関する管理会計領域の先行研究のレビューを踏まえて,危機管理に関する研究は,重要なのにもかかわらず,管理会計ならびに経営情報とコントロールシステムに関連する領域で,まだほとんど行われていないことが報告された。第2に,東日本大震災時のJR貨物の対応事例から得られた知見が紹介された。すなわち,震災前と被災・復旧時とでは以下のような変化があった。(1)組織構造が集権的かつ機能分化した専門組織だったのが,現業部門の指揮命令系統は確保しながらも,有機的・自律的な職能横断的,自律的なチーム活動,インフォーマルなコミュニケーションが盛んに行われた。(2)たとえば,予算管理は危機的状況において,どのように柔軟に対応できるかということが課題なのであるが,平時の経営計画に基づいた地域別の損益予算から,通常のPDCAに基づいた予算管理とは異なる形での管理会計情報の生成と運用が観察された。第3に,Hopwood(2009),Van derStede(2011)による金融危機からの知見と本事例を比較して,危機に直面した組織において,組織内,組織間の会計情報の利用形態に変化がみられた点では一致していたこと。その背景には組織構造の変化があった。第4に,本研究の限界として危機管理は地域固有のコンテクストに依存する可能性が高い点で学術的研究としては困難を伴うこと,そして,従来からの管理会計の既存研究の流れの延長上で研究を展開する可能性を検討していきたいという見解が表明された。

■■第2報告 山下直紀氏(山下公認会計士事務所)

「投資意思決定におけるリスク」

2012kansai2_7.jpg 本報告では,事業投資意思決定におけるリスクの考慮方法について,理論と実務との間にかい離があるという報告がなされた。すなわち,ファイナンス理論に基づいた計算結果だけで意思決定が行われるのではないという事実が紹介された。日本の某大手総合商社では(1)定量基準と(2)定性基準があるが,投融資委員会においては,(1)を見極めながらも(2)が重視されているのではないかという実務家ならではの体験に基づく見解が表明された。また,中小を含む多くの一般事業会社でも,キャッシュフローで判断することの意義を理解しつつも,純資産法での意思決定がなされる事例が多いのではないかという見解が示された。実務で利用される技法には「分かりやすさ」という点が重要であること,ファイナンス理論に基づく合理的な意思決定だけでは説明のつかない事象があるとのことである。これらについては,さらなる研究に期待したいとの意見が述べられた。

■■第3報告 安酸建二氏(近畿大学)

「業績測定指標とリスク」

2012kansai2_8.jpg 本報告では,意思決定会計と業績管理会計という2つの観点から管理会計とリスクの問題が扱われた。意思決定会計における投資決定では,理論上,資本コストとしての割引率にリスクが反映されることになる。このリスクは,予測される将来キャッシュフロー(以下,CF)の期待値のまわりのバラツキである。したがって,将来CFの期待値に対する実現値がバラツクことは,意思決定時点のリスクを反映する資本コストとしての割引率に織り込み済みである。
将来CFの流列は資本コスト控除後の利益の流列へと変換可能であり,業績管理会計上の収益と費用を用いた予算へ取り込むことができる。この時,意思決定会計上,バラツキを伴う期待値であったものが,業績管理会計上のPDCAサイクルでは目標値として扱われバラツキが許容されない。経営とはこのバラツキに対処し,目標値を組織的に実現する営みとして業績管理会計では理解されている。このような考え方は,例えば,標準原価計算における価格差異の追跡と責任部門へのフィードバックに典型的に見られる。
意思決定の場面ではバラツキを伴う「予測」であったものが,業績管理の場面ではバラツキを許容しない「目標」となる。この結果として管理会計でリスクを扱うことが困難になっていると,報告者は考えている。
さらに,意思決定会計のロジックと業績管理会計のロジックは,必ずしも整合性のある形で共存していない。例えば、投資プロジェクトを念頭に置けば,計画値と実績値の対比が可能になった時点では,理論上,過去の意思決定は,現時点の意思決定とは無関連である(価値無関連である)。したがって,意思決定会計のロジックでは,事前の計画値と実績値の対比に意味を見出すことは困難である。しかし,現実の経営実務ではしばしば過去の計画値と実績値の対比が行われている。 本報告では、以上のような問題が提起された。

頼 誠(兵庫県立大学)

2011年度 第2回 関西・中部部会開催記

■■ 日時・場所
●日 時 : 2012年2月11日(土) 12時50分‐20時
●場 所 : キャンパスプラザ京都 4階 第3講義室

■■ 2012年2月11日(土)12時50分から,キャンパスプラザ京都4階第3講義室にて,日本管理会計学会2011年度第2回関西・中部部会が開催された。実行委員長の立命館大学・齋藤雅通教授の挨拶,部会長の関西大学・水野一郎教授の挨拶につづいて,3つの自由論題報告が行われ,その後,統一論題報告・パネルディスカッションが行われた。いずれの報告も管理会計研究上の最先端のトピックに関する内容であり,質疑応答も活発に行われた。参加は関西・中部地区に限らず,東京や九州・沖縄からもあり,参加者は50名を超し,大変有意義な関西・中部部会であった。

■■ 第1報告 梅田浩二氏(名古屋市立大学大学院博士後期課程)

「海外子会社の分権化と国際振替価格管理プロセスの関係性に関する考察」

2011kansai_2.jpg 本報告では,「移転価格税制の遵守」と「健全な経営管理」を同時に実現するための国際振替価格管理システムの構築という問題意識のもと,国際振替価格設定プロセスの決定メカニズムを分権化と移転価格税制の観点から質問票調査に基づいて検討された。海外子会社の分権化パターンと市場における価格競争の度合いから国際振替価格設定基準の選択行動を説明できる可能性が指摘された。

■■ 第2報告 村上暢子氏(筑波大学大学院博士後期課程)

「M&A・組織再編を実施した日本企業の財務特性に関する研究」

2011kansai_3.jpg 本報告では,過去のM&A・組織再編実績を分類し,経営手段としてのM&Aが企業業績へどのような影響を与えているのかを概観すること,そしてM&A・組織再編を実施した企業と実施していない企業で,「資金調達活動」「資金投下活動」「営業活動」といった経済活動に差が生じているのかを明らかにすることを目的とした実証分析の結果が報告された。分析の結果,M&A形態において「買収」を選択した場合,M&Aを実施していない企業の業績とは異なる財務指標の結果を示すことが多いこと,先行研究ではM&A実施の3年後に成果がみられるのが標準とされるが3年後にもM&Aや組織再編の成果としての財務特性は特にみられなかったこと,経営手段としてM&Aや組織再編を実施する企業の財務パフォーマンスにおいて「資金調達活動」や「資金投下活動」に関しては特性がみられるが,「営業活動」に関してはあまり特性がみられなかったことが明らかにされた。

■■ 第3報告 北山一真氏(プリベクト代表)

「原価企画の発展的活用による『顧客価値会計』の考察」

2011kansai_4.jpg 本報告では,原価企画やライフサイクルコスティングが現代の製品改革の取り組みと整合的に融合されていないという問題意識のもと,製品開発管理手法と原価企画の融合に関するフレームワークの検討が行われ,顧客と企業の価値交換媒体として製品を軸とし,Strategy Layer(Time-Line Costing), Management Layer(Lifecycle Target Costing), Operation Layer(Spec Driven DTC)の3つの階層からなる顧客価値会計が提示された。

■■統一論題
「企業環境の複雑性の増加と管理会計」(コーディネーター:星野優太氏(名古屋市立大学教授))

■■統一論題第1報告 武富為嗣氏(日本工業大学技術経営大学院教授,コーポレートインテリジェンス株式会社社長)

「経営戦略に連動した原価管理の考え方・進め方」 

本報告では,経営の意思決定に役立てるような原価の把握とそれに基づく事業や製品(群)の収益を把握するという戦略に連動した原価管理の在り方が検討された。そこでは,単に,製品別原価を細かく把握し,各々の製品の収益性をみて原価改善を行うだけでなく,(1)事業や製品群をどうくくるかによって,くくりごとの収益性をみて,集中と選択や外部移管などの戦略的な意思決定に役立てる,(2)研究開発の進め方の仕組み作りと原価把握を連携することによって,くくりごとの研究開発の費用の多寡,研究開発の上流,下流の費用の比重,開発案件の投資効果の把握などにより,投資の継続,中止や資源投入の的確な判断などの戦略的に研究開発の投資効率に役立てる,(3)個別生産,準量産,量産などの仕組みつくりと原価把握を連携させることによって,量産に特化するか,個別生産に特化するか,海外を含む外部に移管するかなどを,上述の群で,判断しグローバル経営の生産効率を明確化するのに役立てるために,どのように考え,進めていくのかが具体的に提示された。

■■統一論題第2報告 頼誠氏(兵庫県立大学教授)

「業績管理会計の課題―分社制におけるMCSについて―」

本報告では,環境の不確実性・複雑性が増加するにつれて進んだとされる分権化のもとで責任会計を中心とする業績管理会計も変貌してきたようにみえるが,その根底にある考え方等は今も存在しているかもしれないという認識のもと,純粋持株会社制(HD制)におけるマネジメント・コントロール・システム(MCS),業績管理会計の課題について,聞取調査と文献研究をもとに考察がなされた。そのなかで,HD制のMCSにおいては,部分最適化の可能性という問題があり,その問題に対処するために人事権,資金調達権,情報などをHDに集中することでHDの求心力の強化が必要となる一方,HD制の特徴でもある子会社の多様性・自律性を促進するために子会社の遠心力を強化する必要があることが指摘された。そのうえで,このHDの求心力と子会社の遠心力をバランスさせるために,HDによる子会社の意思決定への介入と子会社の多様性・自律性のバランスとタイミングを考える必要があることが述べられた。

■■統一論題第3報告 上總康行氏(福井県立大学教授)

「コスト・マネジメントのグローバル最適化」

本報告では,管理会計研究は新たな方向として,(1)日本企業に基礎を置いた研究,(2)プラットフォームとしての会計学の確立,(3)会計学研究の国際的競争参加を推し進めることが重要であることが述べられたうえで,コスト・マネジメントの発展の経緯と今後の研究課題が提示された。コスト・マネジメントは,単一製品大量生産時代の標準原価計算による製造段階でのコスト・マネジメントから,多品種少量生産時代の原価企画による新製品の企画設計段階でのコスト・マネジメントへと展開され,その後のグローバル競争時代では,戦略策定段階でのコスト・マネジメントとして,資本予算(投資経済計算)や戦略的コスト・マネジメントが展開されてきたことが述べられた。そのうえで,タイの洪水被害での生産ストップにみられるように,生産拠点がグローバルネットワーク化しているなかでは,リスクが増大しており,今,管理会計はこのグローバルなサプライチェーンの再構築という問題をいかに受け止め,説明理論だけではない新しい規範論(管理会計方法)を提唱できるかが重要な課題であると提起された。パネルディスカッション ,統一論題の3つの報告を受け,名古屋市立大学・星野優太教授をコーディネーターとしてパネルディスカッションが行われた。そのなかで,グローバル化やイノベーションの高度化という環境のなかで,管理会計をどう考えるか,日本の管理会計研究・実務はもろもろの変化に対して独自性を発揮できるのかといったような問いに対して,武富氏からは,環境が複雑化しても会計による見える化の重要性は変わらず,また環境が複雑になろうとも意思決定に有効であるためにシンプルであるべきであること,また,研究開発の見える化が必要であることが,頼氏からは環境の変化に対して組織がどのように変化したのかを捉え,そのうえで管理会計の変化を検討することが重要であり,組織の構造が日本独自のものがある以上,日本的な管理会計というものも存在すると考えられ,それはグローバル化のもとで認識可能になるということが,そして上總氏からはこれまで管理会計研究では問題として捉えられていなかった問題について対応していく必要があること,また複雑な企業経営を単純な仕組みで単純化し,それによって集団による意思決定を可能にすることに管理会計の貢献可能性があること等が指摘された。また,実務とのかかわりにおいて,いま,そして今後求められる研究者の方向性として,上總氏からは実務や海外の事例を知っていることが研究者の強みでなくなった今,実務家の知見を理論化・概念化することが,頼氏からは実務を知り,理論化するために,アクセス可能性の高い中小・中堅企業の管理会計実践を調査することの可能性が,そして武富氏からは,大企業の最先端を追いかけ,それを理論化することが指摘された。

関西・中部部会 実行委員 堀井悟志(立命館大学)

2011年度 第1回関西・中部部会開催記

■■ 日 時・場 所
2011年6月25日(土)
近畿大学東大阪キャンパス21号館203教室

■■2011年6月25日(土)午後1時30分から,近畿大学東大阪キャンパス21号館203教室にて,日本管理会計学会2011年度第1回関西・中部部会が開催された。今回の部会は,Asia-Pacific Management Accounting Association(APMAA)との共同企画をプログラムの一部で取り入れて行われた。部会の前半は,APMAAとのジョイント・プログラムであり,東北大学の青木雅明氏と?長谷部会計マネジメンツの長谷部光哉氏との共同報告,マレーシアよりWEE,Shu Hui氏の報告が,司会の上埜進氏(甲南大学)の下で英語によって行われた。ジョイント・プログラムの終了後,休憩をはさんで,関西・中部部会の研究報告が行われた。いずれの報告も管理会計研究上の最先端のトピックに関する内容であり,それぞれの報告の後,フロアにおいて活発な質疑応答がなされた。40名を超す参加者の熱のこもった議論が行われ,有意義な関西・中部部会であった。

■■第1報告 AOKI, Masaaki.(Tohoku University) and HASEBE, Mitsuya (Hasebe Managements)

“The Significance of Learning Process in BSC Introducing Process”
2011kansai1_1.jpg 本報告では、BSCを中小企業へ導入するプロセスが事例に基づいて検討された。中小企業の場合、大企業に比べ経営資源・資金・時間といった制約が大きいことが指摘され、中小企業へBSCを導入する際の学習プロセスに焦点を当てる必要性が議論された。

■■ 第2報告 WEE, Shu Hui (UiTM, Malaysia)

“Management Accounting Information: Its Use by Top Management Team in Transforming A Company”
トップ・マネジメントが管理会計情報をどのように用いてコントロールを行ったり、外部環境に関する情報を認知したりするのかという研究が報告された。特に、組織学習における管理会計システム、管理会計情報の役割について論じられた。

■■ 第3報告 坂戸 英樹 氏 (愛媛大学大学院連合農学研究科博士課程, ?天王寺ステーションビルディング)

「ショッピングセンターの会計におけるテナントとの接点」
本報告では、ショッピングセンターの利益構造の特徴が議論された。ショッピングセンターの財務・管理会計の構造に関して、施設の改装、販売促進活動、テナント会を主な切り口として、テナントとの接点が分析された。

■■ 第4報告 高田 富明 氏(神戸大学MBA修了生)・梶原 武久 氏(神戸大学大学院経営学研究科)

「部門管理者の利益操作に関する探索的研究:インタビュー調査より」
2011kansai1_2.jpg 部門管理者による利益操作行動に関して実施した探索的インタビュー調査の結果が報告された。インタビューデータの分析の結果、(1)部門管理者レベルにおいて利益操作が観察されること、(2)これまで認識されてきた利益操作方法以外に部門管理者レベルに固有な利益操作方法や行動が存在すること、(3)利益操作が多様な動機で行われること、(4)部門管理者が直面するコンテクストにより、利益操作方法や動機が異なることなどが明らかにされた。

■■ 第5報告 福嶋 誠宣 氏(神戸大学大学院経営学研究科博士課程後期課程)、米満 洋己 氏(エスペック株式会社経営企画本部 経営戦略部 経営戦略グループ 主事)、 新井 康平 氏(甲南大学マネジメント創造学部講師) 、梶原 武久 氏(神戸大学大学院経営学研究科)

「日本企業の経営計画:探索的分析」
日本企業の経営計画に関する実態調査の結果が報告された。記述統計だけではなく、過去の研究との経年変化を明らかにするメタ分析、経営計画の構成要素間の関連性の分析、組織成果への影響の分析などの統計的な分析が行われ、結論として、経営計画の策定目的には内部管理目的と外部報告目的があり、内部管理目的が主観的成果と正の関係を、外部報告目的がROAと負の関係を有していたことが報告された。

関西・中部部会 実行委員 安酸建二(近畿大学)

2010年度 第1回関西・中部部会(兼第2回フォーラム)開催記

■■日 時
2010年7月17日(土)
■■場 所
大阪学院大学2号館

■■実行委員長の大阪学院大学宮本寛爾教授の挨拶につづいて,公開講演(日本管理会計学会・大阪学院大学共催),パナソニック株式会社,常務取締役 上野山 実氏が演題「パナソニックの経営理念と経営管理制度」で講演された。

2010kansai1_1.jpg■■パナソニックの経営概念、経営理念の説明から,パナソニックの経営管理制度、資金管理制度,業績評価制度,グローバル経営管理,経理社員制度まで詳しく語られた。パナソニックの経営管理制度は,事業部による自主責任経営を基本理念に利益責任と資金責任を併せもつことが最大の特徴である。事業計画制度,月次決算制度、内部資本金制度は,この経営管理制度の骨子であり,独特のものである。事業計画制度は,社長の経営基本要綱とその目標心達を事業場長が契約したものである。経営基本要綱にはCO2削減量がふくまれる。また、内部資本金制度は,自主責任経営を裏付ける必要にして適切な資金を委ねるもので,事業場長は自己の責任において自由奔放にして独創的な経営を行うとされる。目的は,財務責任を実態づける,内部留保の明確化を通じ,経営のヨロコビを知る,借入金・内部留保など資金の源泉をハッキリさせる,ことである。業績評価制度は,CCM(パナソニック版EVA),成長性,環境を合計100点とし,報酬制度と連動させる仕組みとなっている。CCMは,資本コスト重視の経営であり,原価の計算の中にも資本コストを取り入れることも肝要とつけくわえられた。グローバル経営管理については,海外事業投資には本社から100%出資を基本としているなど詳細に説明された。  以上,貴重なお話にフロアからの質問が絶えず,退場後もいくつかの意見交換がもたれた。

■■つづいて,統一論題「管理と会計」が浜田和樹氏(関西学院大学)の司会により始まり,以下の3氏が報告された。まず,北田幹人氏(八木通商株式会社、常務取締役)より「専門商社の経営管理」という論題で報告がなされた。専門商社としての特性が説明された後,予算管理,与信管理また在庫管理が重点的に説明された。業界特有の変化が著しく,月次決算を予算管理の柱として毎月のローリング,つまり機動的に予算を修正すること,与信管理も週1回のチェツクがなされること,在庫管理は不良在庫を減らすために納品管理を徹底することなどが強調された。また,社内資本金制度の導入はしていないが,必要資金を社内貸借勘定で把握し,また金利を付加する形で損益計算表が作成されている。

2010kansai1_2.jpg■■つぎに,横山俊宏氏(株式会社竹中工務店、常勤監査役)より「建設業におけるプロジェクトをベースとした経営管理」という論題で報告がなされた。竹中工務店の紹介,建設業における「プロジェクト」,プロジェクトの採算管理,経営理念について順次説明された。上場していない数少ない大手企業で,建設業では受注高がきわめて大きな要素となり,社員一人当たり年1億円の受注高を目指している。プロジェクトの決定は,進行基準決算がとられており,工事価格と利益の推定が鍵となる。企業の継続・安定・成長は次の100年というごとくレンジが長いのが建設業の特徴などなどが力説された。

■■最後に、大下丈平氏(九州大学)より「不況の管理会計学:「管理と会計」に寄せて」のテーマで報告がなされた。不況のおけるリスクをさけるための施策は、内部統制をブレーキに、企業価値創造のベースに向けていかにアクセルできるか、という大きな視点から管理会計のメッセージが発信された。経済、社会、政治のバランスのとれた市場社会の形成が肝要というスタンスから、リスクマネジメントと企業価値創造のマネジメントを支援するガバナンス・コントロールの可能性が提案された。具体的にどういうガバナンスが必要かは今後の課題となるとされた。

■■それぞれの報告の後、フロアにおいて活発な質疑応答がなされた。40名を超す参加者の熱のこもった議論が行われ、有意義な関西・中部部会であった。

関西・中部部会 実行委員 古田隆紀氏(大阪学院大学)