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2015年度 第2回フォーラム開催記

■■ 2015年7月25日、東北大学片平キャンパスにおいて行われた。鎌田宣俊氏(株式会社エスネットワークス)、内出琢也氏(税理士法人青木&パートナーズ)、長谷部光哉氏(アーセプトコンサルティング)の3名の実務家から報告が行われ、最後にパネルディスカッションが行われた。

■第1報告 鎌田宣俊氏(株式会社エスネットワークス)
「中小企業における管理会計の運用状況及び事例について」
第1報告ではまず、破綻寸前の企業の再生について、運送業者に対するコンサルティング業務の事例等を採り上げて管理会計の役割を描いた。中小企業では、多くの場合社長ひとりで構成される経営陣は管理会計の役割や重要性を認識していない。こうした状況では、経営状態が悪化して経営を建て直す必要があるときでも、セグメント別の収益性を把握できないために事業再編がうまくいかないケースが多いことを鎌田氏は指摘した。また、中小企業の経営者は資金繰りには注目しているものの、計画策定の段階に問題があることが多いとの指摘もなされた。最後に、鎌田氏が関わった中小企業の多くで、社長がPDCAサイクルを強く意識して管理会計を理解・導入させ、また導入に強くコミットさせることが必要であったという見解が示された。

■第2報告 内出琢也氏(税理士法人青木&パートナーズ)
「中小企業のTKC管理会計ツールと活用事例」
第2報告は中小企業の全国的な経営状態の現状についての説明から始まり、コンサルティング業務を行う際に用いる戦略財務管理ツールについての紹介がなされた。我が国の中小企業の現状は年々厳しくなっており、以前は「黒字と赤字を交互に繰り返している」企業が6割であったのに対し、平成26年度末時点では「過去10年間継続的に赤字」の企業が6割になっていまっている。これらの赤字企業を内出氏は「構造的不況型企業」と呼び、構造的不況型企業の経営改善が重要な課題であることを強調した。こうした現状を踏まえ、内出氏が中小企業に対してコンサルティング業務を行う際、財務会計の仕組みを整備させることから始め、経営者が管理会計を導入・運用するための支援を行っていることを説明した。内出氏は中小企業では日々の経理業務を徹底して行わせることを強調した。これにより従業員による不正を発見・防止に役立てることもできる。さらに、不採算事業からの撤退、限界利益率の改善、固定費の削減といった意思決定や活動を行うにあたって、中小企業の経営者の管理会計の理解が不足しているために問題が生じていることが示された。また、経営者にとって利便性の高い業績評価システムが管理会計の利用を促進することも指摘した。最後に、経営計画の策定も含めた支援業務には、コンサルティング会社のコミットメントが必要であるという指摘をした。

■第3報告 長谷部光哉氏(アーセプトコンサルティング(株))
「戦略と業務の新PDCAサイクル – 中小企業へのBSCの導入 – 」
長谷部氏はバランスト・スコアカードを用いて中小企業のコンサルティングを数多く行ってきた。長谷部氏の報告では、バランスト・スコアカードを適用する方法と問題点について説明がなされた。長谷部氏は、最近のバランスト・スコアカードの議論では戦略策定がクローズアップされている点に注目している。中小企業の経営者は、様々な活動をしている。長谷部氏は1活動にかかる時間の中央値が9分であることを指摘し、戦略の実行に際しては経営者のフォローアップをこまめにしないと事前に描いた戦略マップ通りに行かない点を強調した。次に中小企業におけるBSC導入の阻害要因について、中小企業に固有の条件を考慮して整理した。固有の条件とは、人的資本、組織資本、情報資本といったインタンジブルズの不足である。こうした状況から、中小企業ではPDCAサイクルの前段階にLearningの段階があると長谷部氏は提唱し、中小企業にBSCをより効果的に導入する方法をまとめた。

■パネルディスカッション 青木雅明(東北大学)、鎌田宣俊氏、内出琢也氏、長谷部光哉氏
青木雅明氏(東北大学)の司会でパネルディスカッションが行われた。まず、コンサルティング会社が経営支援を行うにあたって、何がキーとなるのかが議論され、報告者たちからは経営者のコミットメントの強さ、PDCAサイクルへの注目、財務状態を考慮に入れた利益計画といったポイントが示された。次に、どういった業績指標に注目すべきか、あるいは経営者が注目しやすいかが議論された。やはり中小企業では借入金返済に対する意識が非常に強く、損益分岐点分析や限界利益概念、キャッシュフロー関連の業績評価が重要であることが議論された。根本的な問題点として、中小企業はマネジメントを事実上経営者ひとりだけが行っている場合が多く、コンサルティング会社と税理士だけが経営者に相談・指導を行うことができることが指摘された。その他様々な議論が1時間以上にわたって行われた。中小企業のコンサルティングにテーマを絞った本フォーラムのパネルディスカッションでは、問題点が明確であったため非常に活発な議論が行われた。

東北大学 松田康弘

2015年度 第1回 フォーラム開催記

■■ 2015年4月19日(土)、2015年度第1回フォーラムが早稲田大学において開催された。今回のフォーラムでは、昨年発刊された創設20周年記念英文学会誌の共同編集者としてご尽力頂いたElla Mae Matsumura氏(Wisconsin大学)をお迎えし、基調講演が行われた。続いて、統一論題では、『価値創造経営の管理会計』として、伊藤和憲氏(専修大学)、挽文子氏(一橋大学)、安酸建二氏(近畿大学)より報告が行われた。いずれの報告も、会場から活発な質問や建設的な意見があり、有意義な議論となった。

■■ 基調講演
■ Ella Mae Matsumura氏(Wisconsin大学)
“What is good management accounting research and how do we get it done?”

管理会計研究のトピックスと目的を提示した後、研究ジャーナルで発表するという観点から、管理会計研究に必要な要素が提示された。まず、先行研究の紹介を交えながら、管理会計研究を行うために必要な条件が述べられた。次に、実際に研究ジャーナルで発表までの手順や査読期間など、米国の事例が紹介された。そして、査読の手順を管理する視点から、提出した論文が掲載不可、再提出または掲載許可などとなった場合に分類して、それぞれの場合で、研究者が論文の掲載に向けて、論文や査読者に対して行うべきことが提案された。最後に、今後の管理会計研究のトピックスについて、新たに注目されてきたものや、未解決な問題を具体的に提示された。

■■ 統一論題
■ 第一報告 伊藤和憲氏(専修大学)
価値創造のメカニズムと新たな理論的モデルの提示

まず、インタンジブルズを経営学、財務会計、業績管理、BSCの各観点から整理を行った。次に、コーポレート・レピュテーションの定義を確認した。続いて、レピュテーションと財務業績の関係に関する研究、レピュテーションの媒介変数、および永続性に関する研究を整理した。特に、永続性に関する研究において、財務業績が現在のコーポレート・レピュテーションに影響を及ぼすこと、現在のコーポレート・レピュテーションが将来の財務業績に影響を及ぼすことを確認した。さらに、Surroca et al.(2010)の研究に基づいて、好循環の理論的フレームワークを紹介した。これらの文献研究の整理を行った後、インタンジブルズと企業価値の創造を結び付ける新たなフレームワークを提示した。

■ 第二報告 挽文子氏(一橋大学)
価値創造とアメーバ経営 – 医療・介護組織を対象として –

医療・介護組織における価値とは、価値創造とは何かを定義してすること。そして、アメーバ経営は、医療・介護組織の価値創造に貢献するのかというリサーチ・クエスチョンを提起した。まず、価値創造について、患者にとっての価値を高めるというポーターの提案を紹介した。次に、アメーバ経営の定義を提示して、時間当たり採算の特徴、および時間概念の導入のメリットについて説明した。そして、ポーターの提案との相違点を示し、アメーバ経営の意義を考察した。最後に、好循環を持続させるためには、経営理念とフィロソフィーが不可欠であるが、医療・介護組織はアメーバ経営と親和性が高く、管理会計は医療・介護組織などでも機能すると結論付けた。

■ 第三報告 安酸 建二(近畿大学)
企業価値経営・企業価値評価におけるCVP分析

先行研究を紹介して、CVP関係に基づく収益構造の把握と利益管理は、企業価値の向上に貢献する可能性があることを示し、回帰分析により、変動費率を推定した。公表データを用いて分析した結果、短期間で変動費率と固定費が変化している可能性があることが示唆された。また、内部データを用いて分析した場合、教科書が想定するほど、CVP関係は単純ではないことが明らかとなった。そして、CVP関係の解明に向けた管理会計研究は、企業価値評価や企業価値経営に対して重要な貢献をなし得る可能性を持つことを説明した。また、変動費と固定費を再検討する動きもあり、CVP分析は重要な研究対象となりつつあると述べられた。

2015年第1回フォーラム実行委員会

2014年度 第3回 フォーラム開催記

■■ 師走の第一土曜日、12月6日に日本2015管理会計学会2014年度第3回フォーラムを甲南大学で開催した。お忙しい時節にもかかわらず、万障繰り合わせ全国から50名強にのぼる方々にご参加頂いた。フォーラムならびに懇親会にご出席頂いた皆様方に心からのお礼を申し上げたい。ちなみに、同フォーラムは2つのセッションでもって構成し、第一セッションを「統合報告の管理会計へのインプリケーションズ」と題し、第二セッションは「管理会計・原価計算の教育をめぐる課題と対応」と題してセッションを進めた。なお、本大会記掲載の原稿は個々の報告者にご執筆頂いており、当日のスケジュールに沿って掲載している。

■■ フォーラム・スケジュール
開会挨拶 (13:00-13:10)  上埜 進(フォーラム実行委員長、甲南大学)

■ 第一セッション: 統合報告の管理会計へのインプリケーションズ (13:10-14:50)
開題(15分): 統合報告の歩みと現況
上埜 進 (甲南大学大学院社会科学研究科)
報告(30分): 管理会計実践にとっての統合報告の意義
伊藤嘉博 (早稲田大学商学学術院)
報告(30分): 統合報告をめぐる実証研究
-長寿企業データを用いたパイロット・テストの紹介-
大鹿智基 (早稲田大学商学学術院)
報告者によるDiscussions(10分)
Q&A(15分)

■ 第二セッション: 管理会計・原価計算の教育をめぐる課題と対応 (15:10-16:50)
開題(10分): グローバル環境下の日本の会計・経営教育
原田 昇 (目白大学経営学部)
報告(20分): 専門教育へのアクティブ・ラーニングの適用可能性
島 吉伸 (近畿大学経営学部)
報告(20分): 一橋大学の職業人養成教育
古賀健太郎 (一橋大学大学院国際企業戦略研究科)
報告(20分): 実務への適合性と研究の厳格性の調和に向けて:
神戸大学における研究者養成教育
梶原武久 (神戸大学大学院経営学研究科)
Discussions(10分):大島正克 (亜細亜大学経営学部)
Q&A(20分)

■■ 第一セッション: 統合報告の管理会計へのインプリケーションズ
■開題 : 統合報告とは -その歩みと現況-
上埜進 (甲南大学大学院社会科学研究科)
Accounting Disclosure, Investors Relations, Stakeholder Management といった脈絡でとらえられている統合報告が、どのようにして生まれ、発展し、その存在感を増し、今日、制度化に向かって進んでいるのかを私どもは理解しておきたい。また、統合報告がどのように実践されており、そのアウトプットである統合報告書がどのような様式・内容をなしているかを確認しておきたい。このことを開題で比較的丁寧に論じ、より特化した報告をされる伊藤先生と大鹿先生の前座を果たせるように心がけた。また、統合報告という開示にかかわる実務プロセスを、管理会計というパースペクティブから捉え、経営管理の改善にinternalize(内部化)することの大切さを強調した。

■ 第一報告要旨: 管理会計実践にとっての統合報告の意義
伊藤嘉博 (早稲田大学商学学術院)
統合報告が管理会計研究ならびに実践に与える2つの影響に関して報告を行った。第一に、統合報告に不可避な財務情報と非財務情報との統合のためのプロトタイプモデルとしてバランストスコアカード(BSC)の貢献が期待されているが、こうした期待に応えていくためには、BSC自身にも変革が必要であると論じ、その方向性の一端を示した。また第二の影響として、統合報告の進展が予算制度の在り方にも変容をもたらす可能性に触れ、結果において脱予算経営への傾斜が促進されるという展望を示した。

■ 第二報告要旨: 統合報告をめぐる実証研究
-長寿企業データを用いたパイロット・テストの紹介-
大鹿智基 (早稲田大学商学学術院)
統合報告をめぐる実証研究について報告をおこなった。まず、先行研究を確認し、強制適用されている南アフリカに着目した研究があり、統合報告書の開示項目についてGRI3.1に準拠している企業が多いこと、しかしそれでもなお、開示情報の「統合の程度」は不十分であること、などが明らかにされていることを紹介した。また、それ以外の国において任意適用をしている企業の特徴に関する実証分析を紹介した。
その上で、今後、統合報告そのものの有用性について株式市場の反応を観察する研究や、具体的な開示項目を検討するための実証研究が必要になることを指摘した。さらに、パイロット・テストとして報告者らがおこなった、長寿企業に着目した実証分析を紹介した。長寿企業は、統合報告の目指す「サステナビリティ」を達成した企業である。分析結果は、長寿企業において、株主以外のステークホルダー(従業員、債権者、国)に対する価値分配が大きいこと、その前提として収益性が高く安定していることなどを明らかにしている。

■ 報告者によるDiscussion、およびQ&A
Discussionの冒頭、伊藤嘉博先生と大鹿智基先生が、相手の報告の中で関心をひいた事項に焦点を当て、さらに敷衍するように求められた。その後のQ&Aでは、会場の2名の先生からご質問があった。統合報告が管理会計研究者のコンベンショナル・ウィズダムになっていないこともあり、いずれの質問者も、統合報告が財務会計、管理会計といかなる位置関係にあるのかに関心を寄せられていた。

■■第二セッション: 管理会計・原価計算の教育をめぐる課題と対応
■ 開題: グローバル環境下の日本の会計・経営教育
原田 昇 (目白大学経営学部)
「管理会計・原価計算の教育をめぐる課題と対応」という統一論題のもとで、グローバルに対応して質的転換をなして世界に通用する会計・経営教育に係る論点を開題として提起した。
まず第1の論点は「会計教育の内容」については、Relevance Lostの観点から会計教育の実務からの乖離をどう解決するか、実践科学であることから会計や経営の普遍的な原理と原則をどう教育するか、さらにそれらの関係をどう合理的に解決するかなどにある。また第2の論点は「会計教育の方法」に関して、「主体的に学ぶ力」(学士力)を養成する教育方法の1つとしてアクティブ・ラーニングを検討することにある。第3の論点は「会計教育の目的や対象」について、研究者、専門職、会計マインドをもった管理者、会計経営教育者などの養成目的に応じてそれぞれの会計教育に必要な知識の体系を明らかにすることにある。
これらの論点を踏まえると、大学における教育の原点はグローバル化に対応する「研究に基づく教育」にあり、会計・経営教員や大学院生に研究とディスカッションの場を提供し、学問の現状(state of the art)を知らせ相互に切磋琢磨できる「セミナー」や「ワークショップ」が極めて重要な位置を占めることを主張した。

■ 第一報告: 専門教育へのアクティブ・ラーニングの適用可能性
島 吉伸 (近畿大学経営学部)
管理会計は実務から生成し、実践を通じ発展してきたマネジメント手法である。その性質上、教科書の解説だけではなく、ケースを通じて実務における管理会計の活用方法を学ぶことが効果的である。しかし、実務経験や知識の乏しい初学者にとって、ケースから管理会計手法を理解することはやはり難しい。そこで本報告では、現在様々な教育領域で注目されているアクティブ・ラーニングをとりあげ、学生に対して専門教育への興味を抱かせ、主体的・能動的に学習させる仕組みとして、会計領域において既に実践されているアクティブ・ラーニングを活用した教育手法を紹介した。最後に、私がこれまで実践してきた「折り鶴」から学ぶコスト・マネジメント教育の概要とその教育効果について報告した。

■ 第二報告要旨: 一橋大学の職業人養成教育
古賀健太郎 (一橋大学大学院国際企業戦略研究科)
一橋大学大学院国際企業戦略研究科の国際経営戦略(International Business Strategy、 IBS)コースについて報告した。60名ほどの学生の平均像は30才、就労経験7.5年、7割が海外留学生で、職を離れて学業に専念する。一般に、経営全般を志向し、会計のような特定の分野への興味は薄い。また、卒業後の就職が最大の関心事である。こうした学生の志向に応えるため、IBSでは科目を統合する学習の機会を作り、実務家と協働する教育に力を入れている。Deep Dive Dayでは学生がローソンの店舗を観察して、新しい業態を、同社の経営幹部の前で提案する。

■ 第三報告要旨: 実務への適合性と研究の厳格性の調和に向けて:
神戸大学における研究者養成教育
梶原武久 (神戸大学大学院経営学研究科)
神戸大学大学院経営学研究科における管理会計研究者養成教育に関する最近の取り組みについて報告を行った。まず、「管理会計の適合性喪失」の認識のもと、日本企業の革新的管理会計実務の解明を主目的として展開されてきた従来型の管理会計研究者養成プログラムの問題点として、社会科学の基礎理論の軽視、研究の厳格性の欠如、研究者による特定の手法への偏った関心などの点を指摘した。次に、上記の問題点の解決を目指して、神戸大学が近年行っている研究者養成の取り組みをいくつか紹介した。近年の取り組みの成果として、基礎理論としての経済学の学習や研究方法の体系的な習得の面で改善がみられる一方で、心理学や社会学の体系的な教育の困難であることや、理論を重視した結果として学生の実務への関心が低下しており、「実務への適合性」と「研究の厳格性」のバランスを図ることが困難であることなどの課題があることを指摘した。最後に、管理会計研究者の養成に向けて、特定の大学を超えた、学会レベルでの取り組みが必要であることを主張した。

■ Discussions:大島正克 (亜細亜大学経営学部)
4名の各先生からのご報告に対して、以下のような点を中心に討論した。開題の原田昇先生には、「管理会計・原価計算の教育に関するテーマは、これまでも多く論じられてきましたが、再度今回、当フォーラムで取り上げる意味について、グローバル化を強調されています。グローバル化に関しても以前もありましたが、今回は特にどのような点に着目されたのでしょうか。」第一報告の島吉伸先生には、学部学生の専門教育について「アクティブ・ラーニングの有効性を向上させるためには事前的な知識の付け方が重要といわれていますが、その点はどのようにしておられるのでしょうか。」第二報告の古賀健太郎先生には、専門職大学院における職業人養成教育において「アメリカのビジネス・スクールでは入学すると直ちに会計を学び、その上で経営戦略などを学ぶのが一般的であるのに日本のMBAでは、そこまで会計を重視していないのはなぜでしょうか。また最近のアメリカ文献では、管理会計担当者の地位が単に意思決定者に対して有用な情報提供のみならず意思決定者の一員となっていますが、実際はどうなのでしょうか。」第三報告の梶原武久先生には、大学院における研究者養成教育おいて「管理会計を研究したいという院生は増えているのでしょうか。教える側も学部、MBA、Ph.D.の両立が難しく、私立ではそれが一層難しい現状において、質の保証からみて我々が取り組まねばならない問題で重要なものは何でしょうか。」などをDiscussionsした。

■■ 懇親会
フォーラム終了後に甲南大学生協のレストラン、Favorite Hallで懇親会を催した。気温が上がらず、大変に寒い日であったが、東北、九州、関東の先生方なども残って下さり、30名あまりで懇親会をスタートできた。挨拶、乾杯のあと、多少のアルコールも入り、話題が大いに盛り上がり、賑やか、かつ和やかな雰囲気の中に会を終えた。ご出席頂いた方々に、改めてお礼を申し上げたい。

上埜 進(フォーラム実行委員長、甲南大学)

2014年度 第2回 フォーラム開催記

■■ 日本管理会計学会2014年度第2回フォーラムが、2014年7月26日(土曜日)に首都大学東京南大沢キャンパス国際交流会館において開催された。細海昌一郎氏(首都大学東京)の司会のもと、濱村純平氏(神戸大学大学院博士後期課程)、山本宗一郎氏(首都大学東京大学院博士後期課程)、伊藤武志氏(株式会社価値共創)、奥村雅史氏(早稲田大学商学学術院)の各氏から報告が行われた。いずれの報告もフロアから活発な質問や意見があり、有意義な議論がなされた。その後、国際交流会館内のレストランに場所を移して懇親会が行われ、盛況のうちに散会となった。各氏の報告の概要は以下のとおりである。

■■ 第一報告 濱村純平氏(神戸大学大学院博士後期課程)
論題:Subsidiary management using multinational transfer pricing

 最初に、国際移転価格に関する先行研究を紹介した上で、この研究領域に関する課題を挙げて本研究の発展的意義を述べている。本研究では、特に、生産ラインが重なっている場合に市場で競争を行う企業がどのような国際移転価格を選択し、それ通じて在外子会社の戦略をコントロールするかについて、モデル分析を行っている。本研究では、最適反応関数を得るようなモデルを採用しているが、バックワードインダクションという手法を用いて、第3段階から遡ってモデル分析を行い、第1 段階の両企業の意思決定について考察している。モデル分析の結果、まず、海外市場を同時手番にした場合に非対称均衡が存在し、異なる国際移転価格、数量を選択するという命題が得られたと報告している。また、国内市場と海外市場で競争を行っている企業が混雑コストを考慮すると、両社が棲み分けを狙うような国際移転価格をつけ在外子会社の戦略を間接的にコントロールすることが示された。すなわち、企業が市場で数量競争を行っている際に、国内市場と海外市場で棲み分けを狙うような国際移転価格をつけ、在外子会社をコントロールすることが示された。 今後の研究課題として、逐次手番の分析と税金も考慮した分析を行うとしている。

■■ 第二報告 山本宗一郎氏(首都大学東京大学院博士後期課程)
論題:国際比較による会計情報の価値関連性に関する研究

 国際的なIFRS導入の流れに従って、わが国でも包括利益が採用されたが、本研究は、包括利益と純利益の価値関連性について研究を行っている。最初に、価値関連性に関する先行研究を紹介した上で、本研究では、先行研究を発展させ、時系列データを用いたパネルデータ分析を行っている点、北米、ヨーロッパ、オセアニア、日本、アジアにおける上場企業の国際比較を行っている点が特徴であることが示された。パネルデータ分析の結果、純利益と包括利益の説明力は、北米、ヨーロッパ、オセアニア、日本、アジアの各地域で有意な結果を示している。国際比較の結果、仮説の通り、欧米では包括利益の方が説明力が高くなった。また、日本においては、純利益の方が説明力が高かったが、Wald検定を用いたBSS testの結果、純利益と包括利益のBSS統計量の値との間に大きな差異は見られなかった。加えて、日本では「その他包括利益」に関する増分情報が、有意な結果であったことが示された。本研究の分析結果は、包括利益の一本化が叫ばれる中で、包括利益の有用性だけでなく、純利益の有用性も示しており、国際的な流れに一つの疑問を投げかけることになると主張した。

■■ 第三報告 伊藤武志氏(株式会社価値共創)
論題:顧客価値ベースの人間尊重経営の実現に向けて

 最初に、伊藤氏は、顧客に対して価値があることとは何かを問いかけた。それに関連して、定量的・定性的な組織目標を組み込むことで、顧客価値を伴った財務価値を生み出すことが重要であると指摘した。その上で、ビジョン・戦略としての顧客価値として、顧客価値の雛形、戦略キャンバスによる価値曲線を図示し、視覚化することを提案している。また、顧客価値が作られる体験のストーリーにより、具体的な顧客に価値が生まれるシーンを疑似体験することによって、顧客価値の創造を理解し改善しやすくなるとしている。さらに、定性的表現を伴う相対的目標を設定することにより、達成したい重要な内容を表現でき、目標が明確化することで、環境変化への対応、戦略的な優位性を示せるとしている。顧客価値のビジョンは、具体的な顧客価値とその裏づけを作ることであり、もし素晴らしい顧客価値のビジョンができれば、財務的な成功と人間を尊重できる経営を維持できる裏付けとなるとしている。以上から、継続的に向上しつづける顧客価値を創造し提供することが、企業の組織成員にとって自信となり、誇りとなり、モチベーションとなる。これが企業におけるより高次の顧客価値ベースの人間尊重経営の実現の姿となると結論付けた。今後の研究課題として、具体的な実証研究による企業事例研究、アクションリサーチによる研究の必要性を挙げている。

■■ 第四報告 奥村雅史氏(早稲田大学商学学術院)
論題:利益情報の訂正と会計情報の信頼性

  本研究は、わが国における利益情報の訂正実態と株式市場に対する利益訂正情報の影響ついて報告している。まず、利益情報の訂正実態については、経常的な企業業績に関連する訂正が多いことを指摘している。次に、利益訂正企業の株価反応に関する分析では、利益訂正額が大きく、訂正対象の範囲が広いほど、株価へのマイナスの反応が大きいこと、意図的な虚偽記載、証券取引等委員会の指摘による場合、マイナスの反応を示すことを明らかにした。また、利益訂正の情報移転分析では、利益の質は運転資本発生項目額が大きいほど伝播効果が強く、投資発生項目額が大きいほど伝播効果が弱いこと、その他、新興市場の場合は伝播効果が強いこと等を明らかにした。最後に、原因別分析では、意図的な虚偽表示であったかによって、結果が大きく異なっていると報告している。特に、意図的な虚偽表示のケースでは、それを原因とした利益訂正が会計情報の信頼性へ影響を与えており、市場が意図的な虚偽記載の発生可能性を評価しているのではないかと述べている。以上から、(1)情報移転は、競争効果ではなく伝播効果が支配的である。(2)利益の質が低い(会計利益とキャッシュフローの差が大きい)場合、市場による利益計上のプレッシャーが強い場合、新興市場の上場企業である場合、競合企業における株価への伝播効果が強い。(3)伝播効果は、主に、意図的な虚偽記載を原因とする利益訂正において生じると結論付けた。

フォーラム実行委員会委員長  細海昌一郎(首都大学東京)

2014年度 第1回 フォーラム開催記

■■ 日本管理会計学会2014年度第1回フォーラムが2014年4月26日土曜日に早稲田大学西早稲田キャンパスにおいて開催された。今回のフォーラムでは『日本企業における企業価値創造経営』というテーマで研究報告が行われた。辻正雄氏(早稲田大学)司会のもと、第1部では佐藤克宏氏(McKinsey&Companyプリンシパル)、花村信也(みずほ証券執行役員)、柳良平(エーザイ執行役員)の3組が講演され、第2部では淺田孝幸氏(立命館大学)をディスカッサントに佐藤克宏氏、花村信也氏、柳良平氏の3名によるディスカッションが行われた。いずれの報告およびディスカッションもフロアから活発な質問や意見があり、有意義な議論がなされた。その後、場所を移して懇親会が行われ、散会となった。各先生方の報告の概要は以下のとおりである。

■■ 第一報告 佐藤克宏
「企業価値創造の理論と経営における実践の融合
ー企業オペレーションとM&Aにおける最近のトピックを中心にー」2014forum1-1.JPG

佐藤氏は企業価値がROICとキャッシュフロー成長率のバランスにより異なることを示された。そして、ROICと売上高成長率の傾向を観察し、売上高成長率に比べてROICの方が長期にわたり持続性がみられることを指摘された。このことから、企業経営の現場でも企業のオペレーションによる企業価値向上が重要であることを示された。次に佐藤氏は、M&Aによる企業価値創造について論ぜられた。M&Aによる買収価格は、理論的には、将来創造されると考えられる価値を売り手と買い手に分けた後、その売り手側の取り分に現状の延長線上の企業価値を加えたものである。そのため、買収を通じて企業価値を創造する場合、業績改善を通じた被買収企業側の大幅な価値向上が必須となる。しかし、そもそも日経企業は、M&A検討段階からの詰めが甘いことにより、買収後のマネジメントよりも以前に、買収価格の「払いすぎ」という落とし穴に陥っていると指摘された。

■■ 第二報告 柳 良平
「企業と市場のダイコトミー緩和に向けた処方箋の理論と実践
ー「企業価値評価」にフォーカスしたアプローチー」2014forum1-1.JPG
柳氏は、日本の株式市場の長期低迷の原因は企業と投資家との間のダイコトミーにあると指摘し、日本企業の長期株主価値向上への指針を提示された。柳氏は、日本の株式市場の長期低迷は、世界的にみても低いROEに加え、ガバナンスの不備やディスクロージャーの質・量を原因とした資本コストに起因していると述べられた。そして、これらの本質的な原因には、日本企業の経営者と投資家との間の意識の違いがあり、日本の経営者が安定配当思考なのに対して、投資家は資本効率を重視していると指摘された。柳氏は、この解決策として、エーザイを例に長期的な企業価値創造の財務戦略を述べられた。同社はROE経営を前提に配当政策を立案し、積極的な戦略投資にVCIC(Value-Creative Investment Criteria)を導入することで常に株主価値創造を担保した企業運営を行っている。柳氏は長期的株主価値の向上のためには、VCICのような株主価値を担保する基準による積極的な戦略投資が重要であると述べられた。

■■ 第三報告 花村信也
「M&Aによる企業価値創造とのれんの償却問題」
日本の会計基準では、のれんは20年以内で均等償却さ2014forum1-1.JPGれる。一方、IFRSや米国会計基準では、のれんは償却されないこととなっている。そのため、日本基準の下でのれんを償却した場合にM&Aの効果が減少することもあり、日本企業の経営者にとってはIFRSを採用した方が大型M&Aに踏み切りやすい。花村氏は、のれんの会計規則がM&A促進に資するかという問題意識のもと、理論と実証の先行研究を概括し、それらの先行研究に実務の視点から検討を加えられた。花村氏はのれんの処理に関する多くの先行研究を概括されたが、ここでは特にのれんの減損による報告利益管理について取り上げる。IFRS3号では減損テストの単位が資金生成単位であり、それが事業セグメント以下の単位であることが規定されている。実務の立場からは、資金生成単位を増減させることで減損処理の実行もしくは回避することは十分考えられる。減損による報告利益管理の研究は解明の余地が残されている。

辻 正雄(早稲田大学)