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日本管理会計学会 2020年度第2回フォーラム 開催記

■2020年度第2回フォーラム(フォーラム担当:伊藤 和憲氏[専修大学])は、2020年7月18日(土)、専修大学神田校舎10号館で開催された。本フォーラムでは、会長の挨拶、司会の中村博之氏[横浜国立大学]による講演者の紹介に続き、オムロン株式会社グローバル理財本部企画室(兼)イノベーション推進本部CTO室の水本智也氏より「オムロンのROIC経営・技術経営」という題目でご講演いただいた。
■講演では、オムロン(株)の会社紹介の後、本題のROIC経営・技術経営について説明された。オムロン(株)では、技術経営とROIC経営を両輪に企業理念の実践を加速することで、ソーシャルニーズの創造に挑戦し、事業を通じた社会的課題の解決に取り組んでいると述べられた。具体的に、技術経営については、社会的課題を解決するため、技術革新をベースに近未来をデザインし、その実現に必要な戦略を明確に描き、実行する経営スタンスであること。その原点は、創業者が1970年に提唱した未来予測理論、サイニック理論にあること。「近未来デザインを起点としたバックキャスト型のソーシャルニーズの創造」をプロセスとして形式知に変えて、組織に落とし込んでいることを説明された。また、ROIC経営については、ROICを各部門のKPIに分解して落とし込むことで、現場レベルのROIC向上を可能にする「ROIC逆ツリー展開」と、全社を事業ユニットに細分し、ROICと売上高成長率の2軸で経済価値を評価する「ポートフォリオマネジメント」の2つで構成されているとし、事業特性が異なる複数の事業部門を持つオムロン(株)にとってROICは各事業部門を公平に評価できる最適な指標として活用されていることを説明された。またROIC経営の浸透に向けROICの定性的な「ROIC翻訳式」を使用し、普段は財務諸表に縁のない営業や開発部門などの担当者が、ROIC向上の取り組みを具体的にイメージできるようにしていることを述べられた。さらに、企業理念の実践を強化する取り組みとして、グローバル全社員が参加し、企業理念の実践事例を共有し、称え合い、共鳴の輪を社内外に広げる運動である「TOGA(The OMRON Global Awards)」を紹介された。
■最後に参加者との積極的な質疑応答が行われた。講演後も参加者個別に熱心な質疑応答が続き、本フォーラムは盛会のうちに終えた。なお、フォーラム開催前に常務理事会が開催され、本フォーラムの参加者は31名であった。

(会長挨拶)

 

 

 

(水本智也氏による講演)

 

 

 

令和2年7月20日
奥 倫陽(東京国際大学)

 

 

日本管理会計学会 第2回フォーラム開催のご案内

日本管理会計学会
   会員 各位

 管理会計学会の活動も少しずつ動き出したいという気持ちから,第2回のフォーラムを東京で開催することになりました。しばらくは新型コロナが終息しそうにありませんが,研究活動をストップもできません。日本管理会計学会は,下記の通りフォーラム開催の運びとなりました。会場は75名の狭い教室ですので,30名に限定して開催させていただきます。申し込み順でお受けいたしますが,超過した場合はお断りさせていただくこともありますのでご了承ください。

開催日: 7月18日(土)
会 場: 専修大学神田校舎10号館10階 10101教室
https://www.senshu-u.ac.jp/about/campus/

16:15~16:20 学会長挨拶
         特別講演
16:20~17:20 「オムロンのROIC経営・技術経営」
     オムロン株式会社グローバル理財本部企画部・水本 智也氏

懇親会 中止
フォーラム 参加費無料

準備の都合がありますので,参加希望者は,7月10日(金)までに
伊藤のアドレス(itoh[at]isc.senshu-u.ac.jp)([at]→@)宛にメールください。

フォーラム担当者
専修大学 伊藤和憲

日本管理会計学会2019年度第2回フォーラム開催記

令和元年7月21日 足立俊輔 (下関市立大学)

■■ 日本管理会計学会2019年度第2回フォーラムが、2019年7月20 日(土)に中村学園大学(福岡市城南区)にて開催された(準備委員長:水島多美也氏)。今回のフォーラムでは、関東・関西・中国・九州からご参加をいただき、約20名の研究者、実務家の参加を得た。フォーラムの前には常務理事会が開かれ、学会長の挨拶の後、各報告が行われた。いずれの報告においても活発な質疑応答が展開された。

■■ 第1 報告は、足立洋氏(県立広島大学)により、「役割曖昧性と業績評価に関する研究動向」と題する報告が行われた。本報告は、職務の業績目標が役割曖昧性(組織構成員の役割について首尾一貫した情報が欠如している状態)に対してどのような意味を持つのかについて、日本企業の実態から考察を加えることの意義を明らかにしようとしたものである。
報告者の問題意識は、日本人の対人能力の特性として「役割曖昧性への耐性の高さ」が存在していることにあり、当該役割曖昧性への高さが、職務に対する不満に影響を与えているのではないかということを指摘している。報告では、こうした問題意識に関連した日本企業の業績目標に対する先行研究での解釈が紹介されている。例えば、集団業績による評価が共同意識を醸成しているといった「業績目標による役割曖昧性緩和効果」の検討や、業績の評価者(上司)による主観的業績評価が一定の役割を果たしていること、そして主観的業績評価の前提として十分なコミュニケーションを介した情報共有が行われているといった「主観的業績評価の位置付け」の検討が提示されている。

■■ 第2報告は、丸田起大氏(九州大学)より、「原価企画・再考-マツダのケースを手がかりに-」と題する報告が行われた。本報告は、自動車メーカー・マツダの原価企画の現状や歴史的経緯を明らかにするために、マツダの公式資料や関連文献レビューおよびヒアリング調査に基づいて考察を加えたものである。
報告では、マツダの原価企画の特徴として、商品である車両を意味する「プログラム」の開発よりも、ブレーキペダルといった機能部品の括りを意味する「コモディティ」の開発のほうが重視されていること、当該コモディティの開発は全車種に共通させるべき「固定要素」と車格の対応に必要な部分である「変動要素」に区分していることが紹介された。そして、報告者のヒアリング調査によれば、マツダでは市場変化に対応する場合には、優れたコモディティを開発して、それを組み合わせて市場ニーズに合った車を短期に開発して投入していることが明らかにされた。

■■ 第3報告は、宮地晃輔氏(長崎県立大学)より、「ホテル企業E社によるバランスト・スコアカードを用いた会計教育の実践と今日的意義」と題する報告が行われた。本報告は、日本有数の観光地に所在するホテル企業E社で導入されたBSCについて、ホテル企業を取り巻く今日的環境の視点から検討しようとしたものである。
E社では、現在の代表取締役F氏が就任する以前には管理会計システムが未導入であり、トップマネジメント主導の経営戦略を明確に設定したうえで、戦略目標および戦略課題を明示する必要があったため、BSCが導入されている。報告者によれば、ホテル企業を取り巻く今日的環境においては、ホスピタリティに対する対応が必要とされており、ホスピタリティと人材育成を切り口として、E社以外の3社にインタビュー調査を行っている。3社の共通点としては、組織メンバーに対する能動的な業務姿勢が求められていること、そして、現場の機械化・マニュアル化の外側に人材育成やリーダーシップに依存する領域が存在していることが判明している。すなわち、E社に管理会計を浸透させるためには、組織メンバーの能動的業務姿勢や、それを支援する組織風土を醸成することを目的とした会計教育が必要になることが指摘されている。

■■ 最後に、特別講演として、樋口元信氏(株式会社山口油屋福太郎 常務取締役)より、「恋する管理会計(Dear my staff 株式会社 山口油屋福太郎のケース)」と題する報告が行われた。同社は、1909年創業の食品卸・辛子明太子製造販売会社であり、報告者は同社の主力表品である「めんべい」の開発に着手している。報告の最初には、報告者のご厚意により、会場に「ご当地めんべい」が配布された。
報告では、食用油の卸売業や辛子明太子製造販売から「めんべい」の販売に至った同社の歴史が、当時の関係者のコメントと併せて分かりやすく紹介された。報告者は、近年では廃校跡地を利用して「めんべい工場」を建設した取り組みが県内の様々な方面から評価されていることや、北海道を襲った台風や九州北部豪雨などの自然災害に対する同社の対応策が示され、地域を意識することの重要性に触れている。すなわち同社では、地域を点だけでなく、線でつないだ市場に対応することの重要性を意識しながら事業展開を行っている。こうしたなか、同社の管理会計システムが、KKD法(勘 経験 度胸)に依存していた創業時の家族経営に対応した管理会計1.0から、現在の500名規模の企業に対応した管理会計2.0として展開する必要性が生じていることが指摘されている。

■■ 研究報告会終了後、開催校のご厚意により、中村学園大学食育館にて懇親会が行われ、実りある研究交流の場となり、閉会となった。

 

2019年第2回フォーラムについて

日本管理会計学会会員 各位


拝啓 時下ますますご健勝のこととお慶び申し上げます。
さて、すでにご案内しておりますが、日本管理会計学会2019年度第2回フォーラムを、
7月20日(土)に中村学園大学で下記の要領にて開催致します。
万障お繰り合わせのうえ、ご出席を賜りますよう、お願い申し上げます。

なお、ご出席予定の先生におかれましては、準備の都合上、お手数をおかけいたしますが、
研究報告会、懇親会の出席につきまして、7月15日(月)までに、
メールにて水島宛(mizusima[at]nakamura-u.ac.jp 「” [at]”を半角のアットマークに変更してください。」)にご連絡頂ければ幸甚に存じます。

敬具


開催日 7月20日(土)
会場 中村学園大学 2号館 2506教室
大学HP( http://www.nakamura-u.ac.jp/ )

13:50~14:00 学会長ご挨拶

第1報告 14:00~14:40「役割曖昧性と業績評価に関する研究動向」
         足立洋(県立広島大学)

第2報告 14:45~15:25「原価企画・再考ーマツダのケースを手がかりにー」 
         丸田起大(九州大学)

(10分程度の休憩)

第3報告 15:35~16:15「ホテル企業E社によるバランスト・スコアカードを用いた会計教育の実践と今日的意義」
         宮地晃輔(長崎県立大学)

特別講演 16:20~17:10「恋する管理会計「Dear my staff ~株式会社 山口油屋福太郎のケース」」 
         株式会社山口油屋福太郎 常務取締役 樋口元信さま

懇親会の会場と予定                
2号館2階食育館 17:20 ~18:50(19:20)の予定 
尚フォーラム参加費1,000円、懇親会費2,000円(院生1,000円)をお願いいたします。

以上

多くの方のご参加をお待ち申し上げております。

2019年度第1回フォーラム開催記

 2019年度管理会計学会第1回フォーラムは4月20日(土)、麗澤大学(千葉県柏市、準備委員長・長谷川泰隆)において開催された。当日は天候にも恵まれ、北は北海道から南は九州まで日本全国から40名前後の参加者があった。今回のフォーラムはバラエティに富んだテーマを提供する狙いで、アラカルト方式となった。プログラムは以下のとおりである。

 

13:50~14:00 学会長ご挨拶

第1報告 14:00~14:40 「リコールコストの現状と課題」

長谷川 泰隆 (麗澤大学)

第2報告 14:45~15:25 「予算管理におけるマネジャーの管理可能性の認知と行動の関係 —インタビューデータの分析を起点とした考察 —」 

町田遼太 (早稲田大学博士課程)

第3報告 15:35~16:15  「日本企業の海外進出と内部統制」

藤野真也 (麗澤大学)

特別講演 16:20~17:10  「千葉県初のご当地レザー『柏レザー』の誕生~NUIZA縫EMON柏の試み」

柏レザー株式会社 代表取締役 飯島暁史 

 

 第1報告では、自動車業界におけるリコール制度のあらまし、国土交通省の公表データから自動車業界のリコールの現状が示された。さらに、各社の有価証券報告書を手掛かりに、製品保証引当金の状況、そこに反映される各社のリコール措置への取組姿勢が検討された。最後に最近増加している検査不正にも触れ、「不具合製品を流出させない原則」を自ら破棄し、リコール関連費用(=リコールコスト)を増加させている社内体制の性向が論じられた。

 第2報告では、インタビューデータの分析からマネジャーの管理可能性の認知と行動との関係について、予備的な検討が示された。報告の中心は、マネジメントコントロールシステム(MCS)の心理的契約、脱予算経営を主とした先行研究から導かれた仮説について、インタビューの内容から跡付けられる点を探索しようとする。インタビューの対象は日本の有力企業のマネジャーで、まず1,000社に質問票調査を実施し、さらに回答者のうちからインタビュー可能との意向を示したマネジャーに仮説に基づく準構造化したインタビューを実施した。本報告ではその一部が紹介され、参加者から大きな関心が示された。

 第3報告では、国内市場の飽和化から日本企業の生き残り策として海外進出が喫緊の大問題となり、とりわけアジアを中心とした新興国がその対象となりうる。そして新興国では、とりわけインフラ投資需要が拡大傾向を示している。しかし新興国でのインフラビジネスは腐敗リスクの高い案件が多く、ここに現地業務vs.日本本社による統制問題が発生する余地がある。多くのデータを示しながら、多くの日本の企業では外国公務員贈賄を防止する取り組みがほとんど進んでいないこと、外国公務員贈賄防止に先進的に取り組む日本企業もみられるが、実効が上がっていない。本報告では、内部統制の構築という視点から、日本企業の弱点部分が論じられ、参加者からも多くの質疑がなされた。

 最後に特別報告という形で、地元企業のユニークな事業展開を紹介していただいた。柏レザー社は柏市内で「NUIZA縫EMON」ブランドを手掛けて皮革製品の製造・販売を展開している。皮革製品はややともすれば「スーパーブランド化した高級品」か「超廉価品」かの2者選択傾向に陥りがちになっている。

 そこに割って入ろうとするのが柏レザー社である。「地域性」を前面に押し出し、皮革産業において地域資源として千葉県内の農作物(酪農/狩猟/農業etc.)を活用した循環型の皮革ブランドを目指すのが「柏レザー」である。千葉県内の養豚農家からの原皮をなめし、加工して価値のある皮革製品にして消費者に提供するまでのビジネスモデルの構築の苦労と展開を社長自身の体験で語ってもらった。

 現在、千葉県内未利用資源を活用した製品を「PATH ~TRAVEL & EATS~」とブランド化し、他では味わえない「幻霜ポーク」を用いたダイニングレストランも展開している。

 ここまでの道のりには市役所の農政課や商工振興課の協力、メディアの取材・パブリシティ、地元大学生とのコラボなど多くの要因が作用していることが等身大で語られた。 

(文責:麗澤大学 長谷川 泰隆)