「フォーラム」カテゴリーアーカイブ

2017年度第1回フォーラムについて

2017年4月15日、国士舘大学において「中小企業における管理会計の展開可能性」というテーマのもと、古園伸一郎氏(日本政策金融公庫)による基調講演の後、川島和浩氏(苫小牧駒沢大学)、本橋正美氏(明治大学)の2名から報告が行われ、最後に井岡大度氏(国士舘大学)を座長にパネルディスカッションが行われた。

基調講演 古園伸一郎氏(日本政策金融公庫)
「日本政策金融公庫と中小企業経営」201701f01.JPG
日本政策金融公庫では中小企業向け融資を行っており、そこで観察される中小企業の経営と会計に関する報告が行われた。そこでは中小企業の経営管理体制には規模による差異が大きく、(1)経理担当者が不足している小規模企業、(2)経理データはあるものの経営管理に活かされていない小・中規模企業、(3)経理データを用いた計画はあるが、予算・実績管理がされていない中規模企業に分類できるとされた。

論題報告(1) 川島和浩氏(苫小牧駒沢大学)
「苫小牧地域の中小企業管理会計の現状と課題―M社を中心として―」201701f02.JPG
北海道苫小牧市の中小企業における管理会計手法の利用について、アンケート結果とヒアリング調査をもとにした報告が行われた。アンケートでは、ほぼすべての企業が何らかの管理会計手法を導入されているが、非製造業における原価管理手法の導入は少ないことが明らかになった。また製造業M社のヒアリング調査では、受注との兼ね合いで会社外の作業が多いため、完全に管理会計手法を用いることは難しいことも明らかになった。

論題報告(2) 本橋正美氏(明治大学)
「中小企業管理会計の前提条件としての中小企業の発展段階説」201701f03.JPG
中小企業で適用される管理会計システムを検討する際に、考慮されるべき発展段階に関する報告が行われた。先ず中小企業の発展段階に関する諸説が紹介され、次にわが国には長寿企業が数多く存在することが報告された。大企業で行われる管理会計システムをそのまま中小企業に適用することはできず、管理会計システムの導入には対象中小企業の発展段階や業種・業態を踏まえる必要がある。そのため、どのような管理会計システムが適用できるかについての類型化が今後の課題であるとされた。

パネルディスカッション
主にフロア参加者との質疑応答が行われた。実際の計数管理の数値例や今後の管理会計システムなどに関して活発な議論が行われた。

国士舘大学 中井誠司

2016年度 第3回フォーラムについて

2016年度第3回フォーラムは、2016年12月17日土曜日に、参加者48名をお迎えし、目白大学新宿キャンパスで開催されました。統一論題の座長を東京理科大学 田中雅康先生にお願いし、演題を「日本の主要企業における原価企画の現状と課題」として、田中先生、(株)リコー グローバル購買本部・VA推進室の渡邉昌俊氏、および、いすゞ自動車(株)原価企画部 VE・評価グループの荻原健一氏の3氏にご報告ならびに質疑応答をお願いしました。
まず、田中先生より統一論題の演題についてのご報告があった後、渡邉氏からは、(株)リコー「VA推進室」にて、原価企画・目標設定・コスト評価・量産以降の取組・他社機分析ならびに人材育成について、組織として原価企画の諸問題に取り組んでいる姿が紹介されました。また、荻原氏からは、いすゞ自動車(株)の「コスト造り込み活動」「コスト低減活動」について詳細な報告があり、トラックの「アイドル(アイドリング)騒音対策」についてのシステムVEについて等、製造現場における具体的な事例が示されました。
質疑応答の時間においては、「書物にある原価企画と現在製造現場で行なわれている原価企画の相違は何か」といった、実務家をお迎えしての統一論題らしい、熱のこもった質疑応答がおこなわれました。懇親会も盛況のうちに終了し、無事日程を終了しました。

20163f1.JPG20163f2.JPG20163f3.JPGのサムネイル画像20163f4.JPG

同フォーラム準備委員長 目白大学 今林正明

2016年度 第2回フォーラム(第49回九州部会共催)開催記

forum2016-2-1.jpg 2016年7月30日、福岡大学において「管理会計の実務に与えるインパクト」というテーマのもと九州部会との共催で行われた。結城秀彦氏(監査法人トーマツ)、吉原清嗣氏(Development Academy of the Philippines Visiting Fellow,The Vietnam National University Visiting Fellow,京都大学大学院)、宮地晃輔氏(長崎県立大学)の3名から報告が行われ、最後に大下丈平氏(九州大学)を座長にパネルディスカッションが行われた。

■第1報告 結城秀彦氏(監査法人トーマツ)
「管理会計の財務諸表監査に与えるインパクト-管理会計が関連する監査の諸側面-」
第1報告ではまずforum2016-2-2.jpg、管理会計が財務諸表監査においてどのようなインパクトを持っているのかという点について報告された。財務諸表監査にとって管理会計は、会計処理・開示基準としての側面、監査手続における手法の活用としての側面、そしてリスク・アプローチにおける業績評価会計の勘案としての側面があるとし、それぞれについて説明がなされた。
会計処理・開示基準については原価計算基準の実態主義と会計ビッグバン以降のルール主義とで乖離が起こっているが、実態主義で妥当性が判断されていることにより、基準の見直しに対するインセンティブが働かず、GAAPの一部を構成しているとの認知の低下をもたらしているのではないかとの懸念が示された。手法の活用としては重要な虚偽表示を発見する際に、伝統的財務比率分析、キャッシュ・コンバージョン・サイクル、損益分岐点分析・投資の経済性計算などが行なわれていることが説明された。リスク・アプローチにおける業績評価会計の勘案では監査における虚偽表示リスク要因・統制環境としての管理会計のインパクトについてまとめられた。管理会計は虚偽表示リスクを評価する際の統制環境として捉えられ業績評価制度によってインセンティブが発生するために注目する必要があるとした。

■第2報告 吉原清嗣氏(Development Academy of the Philippines Visiting Fellow,The Vietnam National University Visiting Fellow,京都大学大学院)
「日本の地域金融システムの他国への運用可能性について-中小企業の育成と管理会計の視点から-」forum2016-2-3.jpg
第2報告では、中小企業の育成を担ってきた地域金融システムの他国で運用可能性についての研究が報告された。他国への適用可能性を検討するために、日本的金融構造の性質が歴史的に整理され、その後にフィリピン、ベトナムの状況と比較され、日本的金融システムの可能性について発表された。
?日本の金融実務は1997年から2006年ほどまでの間に転換点を迎えたとし、近年では「長期継続する関係の中から、借り手企業の経営者の資質や事業の将来性等についての情報を得て、融資を実行するビジネスモデル」であるリレーションシップバンキングの推進が金融庁主導のもと行われている。しかしながら、京都の地域金融機関ではかねてよりリレーションシップバンキングに取り組んでいた。地域金融機関の幹部によると日本独自の型があり、それは顧客が発展するために援助することであり、信用をつける術を教えたり、顧客に不足するものを教えたりして最終的な行為として貸出があるというようなものであった。そして、そのような金融システムこそ、発展途上のベトナム、フィリピンの発展に寄与する可能性があると主張された。

■第3報告 宮地晃輔氏(長崎県立大学)
「中小製造企業における管理会計の導入実態に関する研究-長崎県佐世保地域での調査を基礎として-」forum2016-2-4.jpg
第3報告では、長崎県佐世保地域に所在する中小製造企業における管理会計の導入実態についての調査研究が報告された。本調査においては、「長期経営計画・中期経営計画・短期利益計画から接続する予算編成が、中小製造企業において実際にどのレベルで行われているのかという点」と「予算管理の中で見られる管理会計とリンクした原価計算が実態としてどのレベルで行われているかという点」を意識して行われた。またデータは九州北部税理士会に所属する税理士法人一法人への訪問調査と佐世保市に所在する機械器具製造企業へのインタビュー調査によって得られたものを用いている。
税理士法人への調査の結果、中小製造業の管理会計導入は実態として脆弱なものであることが示された。中長期の経営計画や短期利益計画を作成している企業は稀であり、製品ごとの原価計算も難しく、目標値を設定したり業績指標を利用したりする経営者も稀であるとの結果であった。一方で、機械器具製造企業への聞き取り調査では社員全員で会計情報を共有し社員のモチベーションを高めたり、予算管理制度を導入していたりと高度な管理会計が導入されていたことが示された。中小企業であっても管理会計能力が高まるパターンとして、代表取締役の会計教育歴や職歴が挙げられた。またこのような好例を地域的に伝播させることの可能性が論じられた。

■パネルディスカッション 大下丈平氏(九州大学)、結城秀彦氏、吉原清嗣氏、宮地晃輔氏
大下丈平氏の司会でパネルディスカッシforum2016-2-5.jpgョンが行われた。まず、大下氏より3報告の総括が行われ、その後にフロアーからの質疑応答を受け付ける方式で進められた。3報告とも、バックグラウンドの違う立場であったが、日本経済の大きなトレンドのもとで、どのような課題があるのかという点で共通しており、このディスカッションでも、管理会計に限定せず、現状の課題に対して我々管理会計研究者はどのように考えるのかという視点から議論をしていきたいとの座長の宣言のもとディスカッションが進められた。3報告とも企業実務の具体的事例が多かったため、フロアーからの質問も多く非常に活発な議論が行われた。

なお、本フォーラムの参加者数は43名であった。

篠原巨司馬 (福岡大学)

2016年度 第1回フォーラム開催記

■■2016年4月16forum2016-1.jpgのサムネイル画像日(土)13時50分,日本管理会計学会2016年度第1回フォーラムが,亜細亜大学において開催された(フォーラム準備委員長:亜細亜大学・大島正克氏)。今回のフォーラムは,「サービス・リエンジニアリング―わが国宿泊産業のインバウンド戦略にフォーカスをあてた考察―」という統一テーマに沿って,研究者と実務家が報告を行うというプログラムであった。
開会にあたり,フォーラム準備委員長である大島副会長から開会の挨拶とともに本フォーラムの統一テーマ決定の経緯の説明があった。引き続き,青木章通氏(専修大学)の司会のもと,伊藤嘉博forum2016-2.jpgのサムネイル画像氏(早稲田大学),庵谷治男氏(長崎大学),橋本明元氏(株式会社王宮 道頓堀ホテル・専務取締役)の3氏の研究報告があり,最後に青木氏をディスカッサントとして,パネルディスカッションが行われた。
本フォーラムは,全国から40名を超える研究者・実務家の参加を得,各報告に対しフロアから活発な質問や意見が出るなど,熱のこもった議論が繰り広げられた。その後,場所を移して懇親会が行われ散会となった。
各先生方の報告の概要は以下のとおりである。

■フォーラム・スケジュール
開会挨拶(13:50-14:00)大島正克氏(フォーラム準備委員長:亜細亜大学)

第1報告 伊藤嘉博氏(早稲田大学)
報告(30分):「宿泊産業におけるサービス・リエンジニアリングの課題」

第2報告 庵谷治男氏(長崎大学)
報告(30分):「サービス・リエンジニアリングとアメーバ経営―宿泊産業の事例にもとづく考察―」

第3報告 橋本明元氏(株式会社王宮 道頓堀ホテル・専務取締役)
報告(30分):「日本を好きになって頂くという使命を持って」

パネルディスカッション&ディスカッサント:青木章通氏(専修大学)
報告者によるDiscussionsおよびQ&A(60分)

■第1報告 伊藤嘉博氏(早稲田大学)
「宿泊産業におけるサービス・リエンジニアリングの課題」
伊藤氏は,日本宿泊産業,とりわけ中小規模の組織が積極的に取り組むべforum2016-3.jpgき課題として,インバウンド戦略の実施を識別したうえで,これを支援するアプローチとしてサービス・リエンジニアリング(SRE:Service Re-Engineering)の基本概念および具体的なサポートツールについて解説され,日本宿泊産業におけるSRE活用の重要性を提案された。
このなかで,伊藤氏は日本における宿泊産業の現状と課題について,中小のホテル・旅館では,特に経営のためのノウハウが欠如していると指摘し,この解決方法としてもSREの活用が有意義であると主張する。
さらに,SREの特徴の一つはサービタリティ(Servitality)であるとし,その概念を提起し,サービスという抽象的な概念を操作可能なものへと転換すべきであると述べ,具体的には,商品としてのサービスの構成要素(サービタリティの3要素)であるクオリティ(Quality),ホスピタリティ(Hospitality),アメニティ(Amenity)の関係において,「Q×H+A(プロセス)=ACbS(結果)」という「ACbS戦略等式」の有効性を提唱した。
このACbSは顧客満足(CF)と同義ではなく,ロイヤルティにつながる深い影響力を秘めたもので,Qの確保なしにHを設計開発しても効果は持続しない。また,Aは即効性があるが,その提供には慎重さが求められると述べた。
最後に,SREの実践をサポートするツールとして,原価企画(VE),BSC(バリュー・ドライバー分析ほか),コンペティターコスト分析,アメーバ経営,サービスABCD(Attribute-Based Cost Deployment)ほかを挙げた。今後の検討課題は「個々のサポートツール有効性の検討,組織の形態,規模などによるSRE実践プロセスの変化の検証,関連組織・団体とのコラボレーションの在り方をサービスサプライチェーンとして体系化するアプローチの探究にある」とし,こうした課題は「宿泊産業に限定されるものではなく,サービス産業全体に共通するものである」とした。

■第2報告 庵谷治男氏(長崎大学)
「サービス・リエンジニアリングとアメーバ経営
―宿泊産業の事例にもとづく考察―」
庵谷氏は,サービス・リエンジforum2016-4.jpgニアリング(SRE)と京セラのアメーバ経営についてレビューを行い,アメーバ経営を「人的・物的および情報面のインフラの整備」をサポートする経営管理システムとして位置づけ,宿泊産業におけるアメーバ経営導入事例に基づき,本研究の目的を,SREの情報インフラとしてアメーバ経営がいかなる役割を果たしうるかを明らかにすることとした。
続いて,2004年にアメーバ経営を導入した「ホテル日航プリンセス京都」における2010ー2014年の5年間に及ぶ調査(早稲田大学清水孝教授との共同調査)に基づき,同社のアメーバ経営が,なぜ京セラのアメーバ経営とは異なる方法を採用しているかついて,組織構造と管理会計の視点から4つの論点を導き出した。
論点1  採算単位の「下位展開」の非採用(組織構造)
論点2 「時間当り採算」の非採用(管理会計)
論点3 「週日次展開」の非採用(管理会計)
論点4 「社内売買」の異なる形式(管理会計)
以上の論点から,「ホテル日航プリンセス京都」では,現場の責任者がサービス提供活動に専念できるようにするために,「価値付加的時間(サービス提供時間)」の安易な削減を回避し,かつ最小限の採算管理実務(事務処理時間など)による採算管理の実現を意図し,京セラアメーバ経営を修正して利用していると考えられると結論づけた。
アメーバ経営は「有する機能を効果的に用いることによって,目標の進捗管理を通じ現場の責任者が『最小コスト』によるサービス提供を意識できるようになる。京セラアメーバ経営を全く同様に導入可能かどうかは導入組織の事業特性に依存する」と指摘し,さらに「アメーバ経営は京セラの事業特性をベースに生成された管理手法であり,事業特性が異なる場合はプロトタイプ(京セラアメーバ経営)からの修正が必要な可能性が高い」と指摘した。
最後に「『サービスコンテンツを最小のコストで作りこむ』ことに対して,アメーバ経営がいかなる役割を果たすかは今回の調査では対象としていない」ので,これについては今後の課題にしたいと述べた。

■第3報告 橋本明元氏(株式会社王宮 道頓堀ホテル・専務取締役)
「日本を好きになって頂くという使命を持って」
橋本氏は,最近,急forum2016-5.jpg成長しているビジネスホテル「道頓堀ホテル」の役員として”おもてなし”の徹底についてのこれまでの経験が語られ,今後のサービス価値の維持・向上を図るためには継続的改善が必要であり,さらに,これまでのホテル業界の固定概念を覆すなどの戦略も必要であると述べた。
日本におけるホテル業界では,海外の旅行会社が日本の仲介代理店を通じて日本のホテルに顧客を紹介し,ホテル側が日本の仲介代理店に手数料を支払うという仕組みになっている。橋本氏は「明確な料金を設定し,安易な値引きはしない」と述べ,他社との差別化を図り,模倣ではなく,自社のオリジナリティを追求することの重要性を強調した。
売上高拡大のための効果的コストの源流管理が必要であるとし,仲介代理店からの価格競争から脱出し,新たな販路の開拓が不可欠であり,異なる商品やサービスを提供することが極めて重要となるが,その役割を従業員が喜んで担うところに当ホテルの成功の鍵があるとした。橋本氏は客層を主に台湾,香港,韓国およびシンガポールなどの東アジアの20歳代後半の女性個人客に絞り込み,販売ルートを海外の旅行会社に特化した。橋本氏は言葉の壁を越え,自分の足で各国の旅行代理店を一軒一軒歩いて交渉し,競合の少ない海外販売ルートを手に入れたことで,国内旅行代理店への支払う手数料を削減させたとした。
また,宿泊客の9割超が外国人であるが,日本では,海外のお客様に特化したサービスを提供するビジネスホテルが無い点に着目し,「ホテルには,宿泊客の思い出作りに徹して日本を好きになってもらう使命がある」とし,効率的サービス価値を明確に識別し,徹底的サービスを提案し続けているとしている。
具体策の一つが19に及ぶ無料サービスの提供である。たとえば,フロントでのおしぼりサービス,飲み物や化粧品の提供,アジア諸国を中心とした外国語対応の観光案内,無料国際電話サービスなどを実施する他,おもてなしとしてラゲッジチェッカーの設置,30ヶ国超の通貨両替手数料無料サービス,ハラールフードの用意など徹底的サービスを実施している。また,海外のお客様に,日本のおもてなしを体験・体感してもらうために,「心に残る想い出」を提供するとともに,平日は着物体験などの日替わりイベントを開催し,日本の伝統文化を味わうことができるようにしている。
その結果,2007年時点では2割であった外国人宿泊率が,2013年には9割超になり,年間客室稼働率は2007年の7割台から9割を超え,3年間で売上高も大幅に増大した。
サービス産業のコストマネジメントの困難性はサービスコストの大半は人件費であることに起因する。コスト削減は直ちにサービスの低下に繋がる恐れがある。橋本氏は「1:1.6,1:1.62,1:1.63」の法則にて人事理念に基づく社員教育と従業員満足を向上させている。全社員に年間20万円の決裁権を委譲,自らが企画段階から参画した時に,2.56倍の効果があるとし,自主性を尊重する経営を図る。この上に自ら共感し共鳴して参画すると4.1倍の効果があると考え,権限委譲の効果による社員のやりがいは企業を超え業界全体の向上という使命感を持つに至るとしている。転職率の高いホテル業界において,当ホテルはこの数年離職はゼロということである。
聴いている側も,橋本氏の熱のこもった話の内容から大いに感激し思わず落涙するほどであった。

■パネルディスカッション
forum2016-6.jpg青木章通氏,伊藤嘉博氏,庵谷治男氏,橋本明元氏
パネルディスカッションは,青木氏の司会とディスカサントの2役によって,進められた。各報告者が発表の要点を述べたあと,青木氏から各報告者に対し,2問ずつ質問が出された。そのあと,フロアから自由に質問を受け,活発なディスカッションが展開された。

■懇親会
17時40分,場所を同会場の2階上の多目的室に移して,懇親会が開催された。30名を超える参加者を前に原田昇会長の挨拶があり,引き続き櫻井通晴専修大学名誉教授による乾杯のご発声ののち,懇談に入った。和やかな歓談ののち,19時15分頃,散会となった。

2016年度 第1回フォーラム開催記

■■2016年4月16forum2016-1.jpgのサムネイル画像日(土)13時50分,日本管理会計学会2016年度第1回フォーラムが,亜細亜大学において開催された(フォーラム準備委員長:亜細亜大学・大島正克氏)。今回のフォーラムは,「サービス・リエンジニアリング―わが国宿泊産業のインバウンド戦略にフォーカスをあてた考察―」という統一テーマに沿って,研究者と実務家が報告を行うというプログラムであった。
開会にあたり,フォーラム準備委員長である大島副会長から開会の挨拶とともに本フォーラムの統一テーマ決定の経緯の説明があった。引き続き,青木章通氏(専修大学)の司会のもと,伊藤嘉博forum2016-2.jpgのサムネイル画像氏(早稲田大学),庵谷治男氏(長崎大学),橋本明元氏(株式会社王宮 道頓堀ホテル・専務取締役)の3氏の研究報告があり,最後に青木氏をディスカッサントとして,パネルディスカッションが行われた。
本フォーラムは,全国から40名を超える研究者・実務家の参加を得,各報告に対しフロアから活発な質問や意見が出るなど,熱のこもった議論が繰り広げられた。その後,場所を移して懇親会が行われ散会となった。
各先生方の報告の概要は以下のとおりである。

■フォーラム・スケジュール
開会挨拶(13:50-14:00)大島正克氏(フォーラム準備委員長:亜細亜大学)

第1報告 伊藤嘉博氏(早稲田大学)
報告(30分):「宿泊産業におけるサービス・リエンジニアリングの課題」

第2報告 庵谷治男氏(長崎大学)
報告(30分):「サービス・リエンジニアリングとアメーバ経営―宿泊産業の事例にもとづく考察―」

第3報告 橋本明元氏(株式会社王宮 道頓堀ホテル・専務取締役)
報告(30分):「日本を好きになって頂くという使命を持って」

パネルディスカッション&ディスカッサント:青木章通氏(専修大学)
報告者によるDiscussionsおよびQ&A(60分)

■第1報告 伊藤嘉博氏(早稲田大学)
「宿泊産業におけるサービス・リエンジニアリングの課題」
伊藤氏は,日本宿泊産業,とりわけ中小規模の組織が積極的に取り組むべforum2016-3.jpgき課題として,インバウンド戦略の実施を識別したうえで,これを支援するアプローチとしてサービス・リエンジニアリング(SRE:Service Re-Engineering)の基本概念および具体的なサポートツールについて解説され,日本宿泊産業におけるSRE活用の重要性を提案された。
このなかで,伊藤氏は日本における宿泊産業の現状と課題について,中小のホテル・旅館では,特に経営のためのノウハウが欠如していると指摘し,この解決方法としてもSREの活用が有意義であると主張する。
さらに,SREの特徴の一つはサービタリティ(Servitality)であるとし,その概念を提起し,サービスという抽象的な概念を操作可能なものへと転換すべきであると述べ,具体的には,商品としてのサービスの構成要素(サービタリティの3要素)であるクオリティ(Quality),ホスピタリティ(Hospitality),アメニティ(Amenity)の関係において,「Q×H+A(プロセス)=ACbS(結果)」という「ACbS戦略等式」の有効性を提唱した。
このACbSは顧客満足(CF)と同義ではなく,ロイヤルティにつながる深い影響力を秘めたもので,Qの確保なしにHを設計開発しても効果は持続しない。また,Aは即効性があるが,その提供には慎重さが求められると述べた。
最後に,SREの実践をサポートするツールとして,原価企画(VE),BSC(バリュー・ドライバー分析ほか),コンペティターコスト分析,アメーバ経営,サービスABCD(Attribute-Based Cost Deployment)ほかを挙げた。今後の検討課題は「個々のサポートツール有効性の検討,組織の形態,規模などによるSRE実践プロセスの変化の検証,関連組織・団体とのコラボレーションの在り方をサービスサプライチェーンとして体系化するアプローチの探究にある」とし,こうした課題は「宿泊産業に限定されるものではなく,サービス産業全体に共通するものである」とした。

■第2報告 庵谷治男氏(長崎大学)
「サービス・リエンジニアリングとアメーバ経営
―宿泊産業の事例にもとづく考察―」
庵谷氏は,サービス・リエンジforum2016-4.jpgニアリング(SRE)と京セラのアメーバ経営についてレビューを行い,アメーバ経営を「人的・物的および情報面のインフラの整備」をサポートする経営管理システムとして位置づけ,宿泊産業におけるアメーバ経営導入事例に基づき,本研究の目的を,SREの情報インフラとしてアメーバ経営がいかなる役割を果たしうるかを明らかにすることとした。
続いて,2004年にアメーバ経営を導入した「ホテル日航プリンセス京都」における2010ー2014年の5年間に及ぶ調査(早稲田大学清水孝教授との共同調査)に基づき,同社のアメーバ経営が,なぜ京セラのアメーバ経営とは異なる方法を採用しているかついて,組織構造と管理会計の視点から4つの論点を導き出した。
論点1  採算単位の「下位展開」の非採用(組織構造)
論点2 「時間当り採算」の非採用(管理会計)
論点3 「週日次展開」の非採用(管理会計)
論点4 「社内売買」の異なる形式(管理会計)
以上の論点から,「ホテル日航プリンセス京都」では,現場の責任者がサービス提供活動に専念できるようにするために,「価値付加的時間(サービス提供時間)」の安易な削減を回避し,かつ最小限の採算管理実務(事務処理時間など)による採算管理の実現を意図し,京セラアメーバ経営を修正して利用していると考えられると結論づけた。
アメーバ経営は「有する機能を効果的に用いることによって,目標の進捗管理を通じ現場の責任者が『最小コスト』によるサービス提供を意識できるようになる。京セラアメーバ経営を全く同様に導入可能かどうかは導入組織の事業特性に依存する」と指摘し,さらに「アメーバ経営は京セラの事業特性をベースに生成された管理手法であり,事業特性が異なる場合はプロトタイプ(京セラアメーバ経営)からの修正が必要な可能性が高い」と指摘した。
最後に「『サービスコンテンツを最小のコストで作りこむ』ことに対して,アメーバ経営がいかなる役割を果たすかは今回の調査では対象としていない」ので,これについては今後の課題にしたいと述べた。

■第3報告 橋本明元氏(株式会社王宮 道頓堀ホテル・専務取締役)
「日本を好きになって頂くという使命を持って」
橋本氏は,最近,急forum2016-5.jpg成長しているビジネスホテル「道頓堀ホテル」の役員として”おもてなし”の徹底についてのこれまでの経験が語られ,今後のサービス価値の維持・向上を図るためには継続的改善が必要であり,さらに,これまでのホテル業界の固定概念を覆すなどの戦略も必要であると述べた。
日本におけるホテル業界では,海外の旅行会社が日本の仲介代理店を通じて日本のホテルに顧客を紹介し,ホテル側が日本の仲介代理店に手数料を支払うという仕組みになっている。橋本氏は「明確な料金を設定し,安易な値引きはしない」と述べ,他社との差別化を図り,模倣ではなく,自社のオリジナリティを追求することの重要性を強調した。
売上高拡大のための効果的コストの源流管理が必要であるとし,仲介代理店からの価格競争から脱出し,新たな販路の開拓が不可欠であり,異なる商品やサービスを提供することが極めて重要となるが,その役割を従業員が喜んで担うところに当ホテルの成功の鍵があるとした。橋本氏は客層を主に台湾,香港,韓国およびシンガポールなどの東アジアの20歳代後半の女性個人客に絞り込み,販売ルートを海外の旅行会社に特化した。橋本氏は言葉の壁を越え,自分の足で各国の旅行代理店を一軒一軒歩いて交渉し,競合の少ない海外販売ルートを手に入れたことで,国内旅行代理店への支払う手数料を削減させたとした。
また,宿泊客の9割超が外国人であるが,日本では,海外のお客様に特化したサービスを提供するビジネスホテルが無い点に着目し,「ホテルには,宿泊客の思い出作りに徹して日本を好きになってもらう使命がある」とし,効率的サービス価値を明確に識別し,徹底的サービスを提案し続けているとしている。
具体策の一つが19に及ぶ無料サービスの提供である。たとえば,フロントでのおしぼりサービス,飲み物や化粧品の提供,アジア諸国を中心とした外国語対応の観光案内,無料国際電話サービスなどを実施する他,おもてなしとしてラゲッジチェッカーの設置,30ヶ国超の通貨両替手数料無料サービス,ハラールフードの用意など徹底的サービスを実施している。また,海外のお客様に,日本のおもてなしを体験・体感してもらうために,「心に残る想い出」を提供するとともに,平日は着物体験などの日替わりイベントを開催し,日本の伝統文化を味わうことができるようにしている。
その結果,2007年時点では2割であった外国人宿泊率が,2013年には9割超になり,年間客室稼働率は2007年の7割台から9割を超え,3年間で売上高も大幅に増大した。
サービス産業のコストマネジメントの困難性はサービスコストの大半は人件費であることに起因する。コスト削減は直ちにサービスの低下に繋がる恐れがある。橋本氏は「1:1.6,1:1.62,1:1.63」の法則にて人事理念に基づく社員教育と従業員満足を向上させている。全社員に年間20万円の決裁権を委譲,自らが企画段階から参画した時に,2.56倍の効果があるとし,自主性を尊重する経営を図る。この上に自ら共感し共鳴して参画すると4.1倍の効果があると考え,権限委譲の効果による社員のやりがいは企業を超え業界全体の向上という使命感を持つに至るとしている。転職率の高いホテル業界において,当ホテルはこの数年離職はゼロということである。
聴いている側も,橋本氏の熱のこもった話の内容から大いに感激し思わず落涙するほどであった。

■パネルディスカッション
forum2016-6.jpg青木章通氏,伊藤嘉博氏,庵谷治男氏,橋本明元氏
パネルディスカッションは,青木氏の司会とディスカサントの2役によって,進められた。各報告者が発表の要点を述べたあと,青木氏から各報告者に対し,2問ずつ質問が出された。そのあと,フロアから自由に質問を受け,活発なディスカッションが展開された。

■懇親会
17時40分,場所を同会場の2階上の多目的室に移して,懇親会が開催された。30名を超える参加者を前に原田昇会長の挨拶があり,引き続き櫻井通晴専修大学名誉教授による乾杯のご発声ののち,懇談に入った。和やかな歓談ののち,19時15分頃,散会となった。

仲 伯維(亜細亜大学・非常勤講師)