2016年度 第1回企業研究会開催記

■■2016年11月14日(月),日本管理会計学会2016年度第1回企業研究会(工場見学)が,北海道において開催された(企業研究会担当:亜細亜大学・大島正克氏,現地世話役:苫小牧駒澤大学・川島和浩氏)。
今回の企業研究会には,原田会長,水野次期会長を初め14名の先生が全国より北海道に参集した。川島和浩先生(苫小牧駒澤大学)の協力で,株式会社Jファームと北海道キッコーマン株式会社の2社の訪問が実現した。企業研究会開催の数日前には札幌市付近ではこの時期ではありえない23cmの積雪があったが,当日は大変良い天候に恵まれた。
10時過ぎ新千歳空港の到着出口にて集合の後,貸し切りバスにて現地に向かった。

■■株式会社Jファーム
苫小牧市は,豊富な日照量・少ない積雪・温暖な気候,広大で安価な用地等,kigyo2016-1.jpg好条件が揃っているということで,苫小牧東部には大規模な工業団地が形成されつつある。その一角にJFEエンジニアリンググループの一員でスマートアグリプラントによりトマトやベビーリーフを生産している(株)Jファームがある。
(株)Jファームは2013年11月28日に設立。新千歳空港からバス移動で約20分,敷地面積6.2ヘクタールを有し,オランダ式の高度環境制御システムとトリジェネレーション(後述)を活用した最先端の植物工場(スマートアグリプラント)により農産物の生産および販売を行う企業である。企業の新規農業参入には様々な制約があるため,JFEエンジニアリング(株)は,既存の農業生産法人に出資する形態をとっている。(株)Jファームは,資本金500万円で,株主は(株)アド・ワン・ファーム50%,JFEエンジニアリング(株)49%(2016年4月施行の改正農地法で企業の農業生産法人への出資比率の上限が25%から50%未満に引き上げられた)である。
今回の(株)Jファームの企業説明等には同社参事の若松亮氏にお世話戴いた。学会員一同心から御礼申し上げる。若松氏の説明によれば,企業理念はロゴマークの4色で表わされ「オレンジは農と工の”知恵”,グリーンは地域の豊かな”自然”,レッドは”情熱”,ブルーは”品質”を意味している」ということであった。同社は,オランダ式の高度栽培環境制御技術とガスエンジン,バイオマスボイラ,温泉熱等のエネルギー利用技術を駆使し,多様な作物の通年栽培に取り組んでいるとのことであったが,今回は以下の3つの工場及びバイオマスボイラ棟・エネルギー棟・温泉熱施設を視察した。

■第一工場:ベビーリーフ栽培棟
温室型植物工場によるベビーリーフの通年栽培を行う。温室の外装仕様は旭化成の樹脂フィルム張り(耐用年数20年)を使用。温室は高さ4mあり,オランダPriva社製の高度栽培環境制御システムにより,温度,湿度,日射量,CO2,肥料等はすべてコンピュータ制御され,植物栽培に最適な環境が保持されている。
温室面積は1ヘクタール(幅127m×奥行80m)で,最大定植株数は110万株,栽培ベッド数は144床,収穫量は115t / 年。1.種まき,2.発芽,3.育苗,4.育成,5.収穫のプロセスで作業を行い,収穫に際しては静岡産のお茶収穫機の改良機を利用していた。従業員15名,基本作業時間は8時から17時までとなっている。12種類のベビーリーフは,「NaNa(hokkaido)」という自社ブランドで毎日出荷されている。

■第二工場:トマト栽培棟
温室型植物工場によるトマトの通年栽培を行う。温室システムは第一工場(オランダPriva社製)と同様。温室は高さ5m,面積は0.57ヘクタール(幅72m×奥行80m)で,9種類(中玉,ミニ)のトマトを最大1万2千株栽培し出荷している。なお,第一工場より約半分の面積であるが,トマト栽培は手間がかかるため,従業員は第一工場と同数の15名を充てている。

■第三工場:南国フルーツ,高糖度ミニトマト栽培実験棟
温室型植物工場の面積は1ヘクタール(幅128m×奥行80m)で,温室の仕様は他と同様(オランダPriva社製)。8割を高糖度ミニトマト,2割を熱帯性果実(チェリモヤ,マンゴー,スターフルーツ,アボカド,ドラゴンフルーツ,パッションフルーツ)を栽培している。南国フルーツはまだ試作品段階であるが,高糖度ミニトマトの栽培手法では土を使わない養液固形培地栽培法を採用しており,栽培面積は既存施設と合わせて2倍に拡大している。高糖度ミニトマトは糖度10度以上,酸度0.8%以上とされ「レッドジュエル札幌」のブランドを持つ。この高付加価値トマトの販売価格は1kg 4-5千円で,従来は道内のスーパーや百貨店(例:北海道大丸)向けが中心であったが,最近では新千歳空港から空輸により,首都圏やシンガポール等まで販売網を広げている。

■バイオマスボイラ棟,エネルギー棟及び温泉熱施設kigyo2016-2.jpg
(株)Jファームは,プラントの熱源として,天然ガス,木質バイオマス,温泉熱を活用していることに特色がある。
バイオマスボイラ棟からは,木質チップによる温水とCO2を各温室型植物工場へ供給している。エネルギー棟からは,JFEエンジニアリング(株)のガスエンジンを利用したトリジェネレーションシステムにより,電気,熱,CO2が供給され,また同棟には蓄熱タンクも設置されている。温泉熱施設では地下800mから汲み上げた30度の温泉熱をヒートポンプを用いて昇温し利用している。以上の3種のエネルギーを利用して,エネルギーの地産地消を実証するとともに省エネで環境負荷を軽減した植物栽培を行っている。通常の植物工場と比較すると,環境や製品原価(すなわち栽培される植物の栽培原価)の面で優位性が見られる。
JFEエンジニアリング(株)はエンジニアリング技術により次世代の農業を創造することを目標に,スマートアグリプラントを国内だけでなく,世界へも発信している。最近では,ロシアやモンゴル等から同社への見学や引き合いが相次いでいる。

(株)Jファームの工場と施設の見学の後,同社の敷地内にあるカフェにて,同社にて収穫された野菜サラダ等も戴いた。昼食後,企業見学担当等が予め作成した資料も参照しながら,30分あまり話し合いの場を持った。

■■北海道キッコーマン株式会社
北海道キッコーマン株式会社は資本金3億5,000万円kigyo2016-3.png,敷地面積は8.8万ヘクタール。従業員は50名(内女性18名),キッコーマン株式会社の子会社である。1985年3月,キッコーマン(株)は千歳工場建設に着工し,1987年1月,ライン稼働し,初出荷を実現した。2005年4月,北海道キッコーマン(株)を設立し,2017年1月には工場設立30周年(初出荷後)を迎える。商品開発はキッコーマン食品(株)が担っており,北海道工場はその指示に従って製品の製造管理を実施している。
醤油の原材料は大豆,小麦と食塩である。北海道キッコーマン(株)での大豆は北海道産大豆,輸入大豆及び輸入脱脂大豆を使用,小麦は創立以来,北海道産を100%使用している。また食塩は赤穂の塩を100%使用している。北海道キッコーマン(株)で製造する製品は70種類以上あるが,代表する商品には「特選丸大豆しょうゆ」や濃縮倍率5倍の北海道限定商品「めんみ」(2017年は発売55周年)がある。
従来,醤油は中国の「醤」が起源とされており,大和朝廷の時代に大豆を発酵させてつくる「唐醤(からびしお)」が伝来。これが日本で発展し現在のような大豆と小麦からつくられる醤油となった。「キッコーマンしょうゆの醸造工程では,原料処理(原料受入から原料の加熱処理まで),製麹(せいきく,麹製造),仕込み(麹+食塩水⇒諸味の発酵・熟成),圧搾(熟成諸味を搾る)がある。製成工程では清澄・濾過(生しょうゆをきれいにする),規格調整・火入れ(醤油の色・味を整える),検査がある。最後のプロセスは詰めラインで容器に詰められ商品に仕上がる」と,北海道キッコーマン(株)の説明には同社社長の佐久間滋氏自ら当たって戴いた。学会員一同心から御礼申し上げる。
キッコーマンの前身である野田醤油株kigyo2016-4.jpg式会社は1917年に野田の茂木6家と高梨家,流山の堀切家の計8家の合同で設立された老舗である(「一族8家による経営が生み出す”強さ”―茂木友三郎,キッコーマン名誉会長,創業97年」『経済界』2014/5)。佐久間氏の解説によると「野田で醤油がつくられるようになったのはおよそ400年前からといわれる。醤油製造の立地戦略では,野田は利根川と江戸川に面していることから,原料や製品はそれらの川によって運ばれたという立地優位がある。大豆は茨城県から,小麦は群馬県,千葉県から,食塩が行徳から調達され,醤油製品は江戸川を使って半日で江戸に届けられた。」ということである。また,商標については「キッコーマン」に統一したのは1940年のことであるが,キッコーマン社史には「〈亀(きっ)甲(こう)萬(まん)〉は千葉県佐原の香取神宮の山号である〈亀甲〉をいただき,亀甲形は同神宮の神宝である〈三盛亀甲紋松鶴鏡〉よりデザインし,〈亀は萬年〉の故事によって〈萬〉の字を配したといわれ,天明時代(1714-1789年)から使い始めた,と伝えられている。」と書かれているという説明を受けた。
キッコーマン(株)の海外売上(連結)は,2014年に国内売上を初めて上回った。戦後Sonyと吉田工業(YKK)と共に対米進出の第一陣となったキッコーマンは1957年に北米に進出し,現地で醤油メーカーとしての地位を築いてきたのである。「しょうゆの言語ソイ・ソース(Soy Sauce)のソイは日本語の醤油(ショウユ)がオランダ語に転嫁してソヤ(Soya)になり,英語のソイになったのである(田中則雄(1999)『醤油から世界を見る』崙書房)」という説もある。また,周知のごとく,現在Kikkomanは,アメリカでは醤油の代名詞になるほど浸透している。
キッコーマン(株)の連結売上高及び連結営業利益を見ると年々増加している。2016年3月期の決算では,前期比売上高は10.0%増の4,083億円,営業利益も28.5%増の326億円と大幅に増えている。その内,海外事業では売上高57%,営業利益73%を占めている。キッコーマン(株)が好業績となった理由は「海外での和食の浸透と,円安の好影響の二点が大きい」と佐久間氏は指摘している。
1974年9月30日,ハーバード・ビジネス・スクールで日本の企業としては初めてキッコーマンの経営戦略がケース・スタディの教材として取り上げられたが,キッコーマン元会長茂木啓三郎氏はコメンテーターとして出席し,学生と討論を行った(佐藤良也(1975)『キッコーマンの経営』読売新聞社)。かつて親族であり,ライバルでもある8家が1917年には1つのまとまった経営体(野田醤油株式会社,1964年にキッコーマン醤油(株),さらに1980年にキッコーマン(株)と改名)へ移行したこと,キッコーマンが,1920年代にそれまで経験していなかった218日間のストライキを経験したこと(W. Mark Fruin, 1983, Kikkoman : company, clan, and community, Cambridge, Mass. : Harvard University Press.)を取り上げた。また,「私の履歴書:茂木友三郎」(『日本経済新聞社』2012/7)では,1970年代,米国での工場建設は当時の同社の資本金の36億円を超える40億円に及ぶ投資を決定したこと,プロダクト・マネジャー制度の導入を行ったこと等,絶えず積極的に経営課題に取り組む社風に言及している。「創業8家から入社するのは〈1家から1世代で1人〉,〈ただし役員にする保証はしない〉という不文律がある。」(「一族8家による経営が生み出す”強さ”―茂木友三郎,キッコーマン名誉会長,創業97年」『経済界』2014/5)というキッコーマン(株)は,一般的な同族経営とは異なる同社の強み,長年にわたって競争に勝ち残ってきたこと等,管理会計研究から見ても興味深いテーマを提供している企業といえる。

今回の企業研究会は予定通り16時頃に終え,16時20分,貸し切りバスにて新千歳空港に移動した。それぞれが飛行機の時間や列車の時間等を待つ間,空港のレストランにて反省会兼歓談を行った後,自然散会となった。

仲 伯維(亜細亜大学・非常勤講師)