2022年11月26日(土)13:55~17:10
■■ 日本管理会計学会九州部会2022年度第2回(第63回)大会が、2022年11月26日(土)13:55~17:10に、長崎大学経済学部(長崎市)において、ハイブリッド方式(対面参加+オンライン参加)で開催された(準備委員長:小野哲氏)。今回の九州部会では、全国から約40名(うち対面出席15名)の研究者・学生の参加を得て、いずれの報告においても、フロアやオンラインとの活発な質疑応答が展開された。
■■ 第1部の特別講演では、塩塚武氏(株式会社不動技研ホールディングス代表取締役社⻑、長崎大学大学院経済学研究科修士課程修了)により、「不動技研グループの生き残り戦略」と題する講演が行われた。本講演では、不動技研グループ(プラント設計や自動車電子電装品開発、システム開発をはじめとした 4 社からなるエンジニアリング企業グループ)の生き残り戦略について、「事業環境の変化」に対して「M&A」「組織再編」「PMIプロジェクト」「自治体新電力への出資」「第7次中期経営計画」という観点から紹介された。
塩塚氏は、今後の課題として、ITソリューションのサブスクリプションサービスなどの新しい事業分野を進めていくための原価計算導入、さらにグループ全体の業績管理の必要性から、目標設定を各事業所に任せている現状の体制から、今後はホールディング全体で管理ができる体制へ転換していくことが必要であるとされた。最後に、塩塚氏はこれからの社会環境を踏まえ、不動技研グループが生き残るためには、M&Aや組織再編、人事管理も含めた業績管理、さらに経営の意思決定プロセスの構築を検討していくことが重要であると述べられた。
■■ 第2部の研究報告では、第1報告として、木村眞実氏(⻑崎大学准教授)より、「自動車解体業の原価計算−資源循環型社会に向けて−」と題する報告が行われた。本報告は、資源循環型社会の構築を経済戦略として進める「サーキュラーエコノミー(CE: Circular Economy)」を理解し、CEにおける自動車解体業の原価計算を検討・提案することを目的としていた。
報告者は、CEが経済戦略として進められており、経済システム、財・サービスの考え方が転換しつつあるため、CEのもとでの自動車解体業に適した原価計算について示された。社会的なコストを含めた「費用収益分析」は、プロジェクトを選択するための、プロジェクトを評価する手法であるが、総費用・総便益・純便益の計算は、CEにおける自動車解体業の原価計算に適しており、効果としては最終処分場の延命効果、GHG排出量の削減等が想定されると提言された。
■■ 研究報告の第2報告として、大下丈平氏(下関市立大学特命教授)より、「19 世紀末フランス工業会計論の再検討−サン・シモン主義とコント実証主義−」と題する報告が行われた。本報告は、フランス工業会計論の研究に関して、サン・シモンの産業主義とオーギュスト・コントの実証主義をめぐる19世紀末の社会思想史の研究成果をもとにした分析視角から、当時の社会経済状況の中で醸成された社会思想がA.C.ギルボーらの「工業会計論」や会計学の一般原理の生成・発展に影響を与えたという仮説のもとに考察された。
報告者は、渋沢栄一を契機として、ギルボー「工業会計論」とレオティ=ギルボー「勘定科学論」に関して、その展開と意義を提言されたうえで、さらなる問題提起として、科学的・原理的思考と動態論との関連、動態論と統一的原価計算との関連、H.ブッカンの統合モデルを提案する能力と勘定の結合性の関連を今後の課題として示された。
水野真実(熊本学園大学)