日本管理会計学会2021年度 第2回関西・中部部会 開催記

2021年10月18日 齊藤毅(中京大学)

■■日付・場所
・日付:2021年10月9日(土)
・場所:Zoomミーティングによるオンライン開催(開催校:中京大学)

■■ 日本管理会計学会2021年度第2回関西・中部部会が、2021年10月9日(土)に中京大学(愛知県名古屋市)の主催により開催された(準備委員長:齊藤毅氏(中京大学))。コロナ禍の状況を受け、部会はZoomミーティングによるオンラインで実施された。
 今回の部会は、オンライン開催ということで参加のための地理的制約が無くなったこともあり、関西・中部地域だけでなく、全国から28名の参加があった。いずれの講演・報告でも、発表の後には活発な質疑応答が行われた。

■■ 第一部〔特別講演〕 司会:齊藤毅氏(中京大学)
講演者:森田大延氏(有限会社しら河 代表取締役)
講演テーマ:「コロナ禍を乗り越え、次代につなげ!ひつまぶし」

 本講演は、長年にわたって名古屋市でうなぎ専門店(ひつまぶし店)を複数店舗展開されている「しら河グループ」の代表取締役である森田大延氏をお迎えした。飲食業における日頃の取り組みだけでなく、新型コロナウイルスの感染拡大前後の業績の変化やアフターコロナに向けた将来展望等について講演頂いた。
 講演の前半では、まず、自身の経歴や社会活動、企業の概要について話された。しら河は、浄心本店、今池店、ジェイアール名古屋高島屋店(お持ち帰り専門店)、栄ガスビル店、名駅店を展開しており、通販ギフトも手掛けている。各店舗の規模や体制等を述べられるとともに、うなぎを食べる習慣の「土用丑の日」がある7~8月の売上高が最も高いと説明された。次に、会計システムについて触れられた。実際の会計数値を表示しながら、①浄心、②今池、③高島屋、④栄、⑤名駅、⑥加工場、⑦本部、⑧ギフトの8部門に分けて実施されている業績管理について説明があった。さらに、顧客管理について述べられた。しら河では、ポイントカードを発行している。カード情報に基づき、顧客の特徴として、男性より女性の割合が若干ながら多く、若年層よりも高齢者の利用率が高いことが示された。最後に、経営理念や研修制度について話された。しら河の経営理念は、「おなかもこころもまんぷく(鰻福)に」である。この理念を浸透させるための研修制度について、実際の研修資料に基づき説明がなされるとともに、生産地研修や社外研修等について話された。
 後半では、新型コロナウイルス感染拡大前後の業績の変化や将来展望について述べられた。まず、各店舗別に、2019年から2021年までの実際の業績を示しながら、その時々の意思決定や職場の状況等を交えつつ、業績の変化について細かく説明された。各店舗では、軒並み売上高が低下しており、最も落ち込んだのは第1回目の緊急事態宣言直後の2020年4~5月である。その後も苦しい時期が続いているが、一方で、持ち帰り専門店である高島屋や通販ギフトの売上高は好調であることから、全体では売上高が回復傾向にあることが示された。次に、業績の低下に伴い閉店を余儀なくされた大森(日本料理)について述べられた。閉店時の経緯や従業員・女将とのやり取りについて話された。最後に、アフターコロナに向けた将来展望について触れられた。具体的には、既存事業を強化しつつも多角化を視野に入れて、事業を拡大していきたいと話された。また、コロナ禍においては政府の助成金をはじめとして周囲に助けられたことから、コロナ後に社会に貢献することで恩返しをしていきたいと所信を表明された。 
 講演の後には、参加者から多くのご質問を頂き、活発な質疑応答が行われた。

■■ 第二部〔研究報告〕 司会:窪田祐一氏(南山大学)
■ 第1報告
報告者:今井範行氏(名古屋国際工科専門職大学教授)
論題:「デザイン思考に対応したITコスト管理に関する一考察-KINTOの事例を中心に-」

 本報告では、デザイン思考に対応したITコスト管理について、トヨタのKINTOの事例に基づき考察された。モノのサービス化の進展により、多くの業界で、製品単品売り切り型からサブスクリプションモデルへの転換が進行している。同モデルでは、サービス提供のためのシステムのUX向上が競争力の鍵を握ることから、デザイン思考にもとづくシステムのモード2開発が興隆している。それにともない、多くの業界で、システム開発体制の変革が進行しつつある。すなわち、①アウトソーシング(外注)から自前(内製)への体制変更、②デジタル専門人材の採用・囲い込み・処遇改善・戦略組織化の進行である。
 報告者によれば、ITコスト管理の変更として、製品単品売り切り型では新車投入時の一時コスト(外注費、変動費)を新車の販売収益から一時回収(早期回収)することが求められるが、サブスクリプションモデルではUX向上のための継続コスト(内製費、固定費)を、サブスクのサービス収益から継続回収(長期回収)することが求められる。また、システム開発拠点の開設費、人材採用費、新会社設立費等の体制移行費用は巨額となるため、通常予算とは別枠の戦略予算化が必須である。さらに、モノのサービス化に連動した(IT コスト)変動費の固定費化、回収長期化によるIT コスト管理のリスク度合いの増大について検討する必要があると報告された。

■ 第2報告
報告者:足立洋氏(県立広島大学准教授)
論題:「中小企業における後継者確保の可能性と管理会計-後継者確保状況と管理会計実態に関する探索的研究-」

 本報告では、中小企業における後継者確保状況と管理会計実態について、広島県呉市におけるアンケート調査に基づき考察された。近年、中小企業における事業承継プロセスの円滑化における管理会計の有用性が指摘されている。具体的には、管理会計システムから生み出される会計情報が社内の共通言語となって、意思疎通の改善に寄与する点などが挙げられている。一方、日本ではそもそも後継者を確保できていない中小企業も多い。廃業予定企業と事業承継の意向があっても後継者が未定の企業を合わせると、全体の7割に及ぶにもかかわらず、これらの企業における管理会計実践の実態は、ほとんど明らかになっていない。報告者は、上記の問題意識のもとで、管理会計の利用実態に程度の違いがあるのか、あるとすればどのような違いがあるのかという検討課題について考察した。
 報告者によれば、アンケート調査結果に基づくと、後継者が確保できている中小企業と後継者を探しているが未定の中小企業は、廃業予定の中小企業に比べて、業績管理会計、資金管理、投資管理、外部者との情報共有について、平均値に有意な違いがみられた。この結果により、後継者を確保するために組織存続に向けて組織全体で計画に基づいたPDCAを回すことを心掛けている可能性が示唆された。また、管理会計実践が部分的に外部者によって担われているという中小企業の実態を踏まえると、上記のプロセスの一部は、事業の運営や承継に関する外部者との相談のプロセスの中で担われている可能性があると報告された。