2023年度 第1回フォーラム 開催記


文責:李会爽(山梨学院大学)

 2023年度第1回フォーラムは,2023年4月15日(土)に明治大学(駿河台キャンパス)で開催されました。当日は悪天候にもかかわらず,北は北海道から南は沖縄まで,全国から80名以上の方々が参加しました。本フォーラムは,基調講演に税理士法人MSAパートナーズの淡路俊彦様からお話をしていただき,第1報告に琉球大学の庄司豊先生と京都大学の飯塚隼光先生の共同発表,第2報告に中村学園大学の水島多美也先生からご報告いただきました。
 大会は本学会学会長の﨑章浩氏(明治大学)のご挨拶から始まりました。﨑氏は昨年度の全国大会にて学会長に選ばれ,今回が就任以降初めての披露です。﨑氏は「会員の皆さんとともに本学会を盛り上げていきたい。」と抱負を語りました。
 淡路様は「管理会計で変わり得る中小企業経営 -長年の中小企業支援で感じたこと-」を基調講演のタイトルに,30年近くコンサルタントとして仕事をしてきた中,中小企業と管理会計,それに関与する金融機関との関係について熱く語られました。淡路様は大学で管理会計のゼミに所属,修士課程で管理会計を専攻したご経験から,一時期仕事において案件にBSCを仕掛けたいと思っていましたが,中小企業には難しいと感じて導入を断念した経験があります。その後,研究者の先生と自分の仕事内容についてお話したところ,自分が何気なく行っていたのがBSCと指摘され,そこで理論と実務の融合,知識の実践の重要さに実感されました。淡路様はコンサルタントには会社と金融機関とのお互いの間に抱いている不信感を如何になくし,信頼関係を再構築することに役立たなければならないと感じています。そこで要求されるのは,会社の状況に鑑み,的確な経営改善施策の策定と実行をアドバイスできるコンサルタントです。しかし,現状では臨床的な知識を活用できる管理会計に精通するプレーヤーが不在のため,中小企業の経営改善が効果的に施策できていないのです。そのため,「広範な知見と管理会計の背景を体系的に知る研究者の方々の役割が極めて重要になり,管理会計を学ぶ学生を増やし,その後コンサルティング会社に勤務するだけで,世の中の中堅中小企業の経営計画は格段に有効性を増大させることが期待されています。」と希望を語っていただきました。



(税理士法人MSAパートナーズ・淡路俊彦様)

 続いて庄司先生と飯塚先生から「シンプル管理会計の機能する条件に関する考察」をタイトルにご報告いただきました。主にご報告を担当された庄司先生は,中小企業における管理会計実践は教科書と比べ精緻ではないものが多くても,好業績を達成している企業が多く存在していることを問題意識としています。既存研究におけるシンプル管理会計のケースを紹介し,洗練度が低いといわれる管理会計手法であっても,有効に機能しうることを示唆しました。そこで,どのような状況であれば有効に機能しうるかについては検討がなされていないことに気づき,シミュレーションを用いたモデル分析により,特定のシンプル管理会計が機能する条件を探索することを目的とし,研究を行いました。結論としては,事前に想定していたものと異なる結果がありました。それは,規模拡大志向があり,需要の価格弾力性が極端に低いときにシンプル管理会計実践を行っている場合には,製品別原価計算を行う場合に比べて,損をしていないものの,利益を得る機会を逃していると考えられることです。つまり,シンプル管理会計は洗練された管理会計手法と比べて,機会を有効活用する能力が低い可能性を示唆していることが分かりました。



(琉球大学・庄司豊先生)

 最後に水島先生から「スループット会計と付加価値会計・アメーバ経営との比較」をタイトルにご報告いただきました。水島先生は付加価値概念を軸に,スループット会計,付加価値会計,アメーバ経営の間の関連性について検討を行い,さらに,スループット会計とアメーバ経営の類似点と相違点を明らかにし,スループット会計とアメーバ経営の融合可能性についての考えを述べました。当該報告では先行研究に続き,事例研究を行い,3つの結論を提示しました。第1に,事例研究を通し,付加価値会計やアメーバ経営の実践が実質的にスループット会計を実践しているとみなせる実務があることです。第2に,アメーバ経営のなかでスループット会計を実践している事例研究を通じて,成果配分の視点を欠いていると批判されてきたスループット会計が,アメーバ経営と融合することにより,その問題点を克服して進化を遂げる契機となることです。第3に,事例研究を通じて,アメーバ経営だけでなく,MQ〔マージン(粗利単価)×数量〕会計という管理会計システムを採用していることが,スループット会計の導入や実践の促進要因になるのではないか,という仮説を探索的に得ることができたことです。水島先生は,今後も多くの事例研究を積み重ねて当該報告の仮設を検証していきたいと述べました。

(中村学園大学・水島多美也先生)

 報告者と会場の皆さまのご協力の下で,第1回フォーラムは熱い議論を交わすなかで終了時間を迎えました。ほぼ来場者の全員が懇親会に参加し,そこで議論の続きを行い,最後に前会長の伊藤和憲先生からご挨拶をいただき,有終の美を飾ることができました。