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2023年度第3回フォーラム兼第2回(第65回)九州部会開催記

2023年11月25日(土)12:30~17:00

■■ 日本管理会計学会2023年度第3回フォーラム兼第2回(第65回)九州部会が、2023年11月25日(土)12:30~17:00に、鹿児島国際大学(鹿児島市)にて対面方式で開催された(準備委員長:福田正彦氏)。学会長の﨑章浩氏(明治大学)および開催校の小林潤司学長のご挨拶の後、特別講演および研究報告がおこなわれた。20名近い研究者や実務家の参加を得て活発な質疑応答がおこなわれた。


福田氏

﨑会長

小林学長

■■ 鹿児島銀行地域支援部地域開発室長の飯森利徳氏から「鹿児島の地方創生・地域開発の取組みについて」と題して特別講演がおこなわれた。地域資源と地域ブランドの価値向上、地域産業振興の「日置オリーブ」の取り組み、天文館などの再開発事業、鹿屋市など自治体との連携、オリジナルサイト「ふるさと1番」によるふるさと納税支援、地域振興券「Payどん」の成功例、都市部人材の「スキルシフト」による地域人材確保支援、産学金連携によるアイデアソンプログラムなど、地方銀行による地方創生の様々な取り組みが紹介された。

飯森氏

■■ 研究報告の第1報告は、水島多美也氏(中村学園大学准教授) により、「スループット会計・アメーバ経営・MQ会計における時間の意義について」と題する報告が行われた。生産管理分野で議論されている「製造付加価値作業比率」や「人時生産性」といった生産性指標を紹介され、管理会計分野で議論されているスループット会計・アメーバ経営・MQ会計と比較したうえで、付加価値と時間が共通の鍵概念になっていることを指摘された。そしてMQ会計とアメーバ経営を活用している熊本県のB社において、経営層の意思決定のMQ会計と現場管理のアメーバ経営が時間当たり付加価値指標を介してうまく連動している事例を紹介された。


水島氏

■■ 研究報告の第2報告は、宮地晃輔氏(長崎県立大学教授)により、「ポセイドン原則における非財務情報の生成プロセスと開示の影響」と題する報告が行われた。国際海運から排出されるCO2排出量が世界全体の約2%を占めており、ドイツ1か国分に相当している事実を指摘し、海事産業において船舶金融を通じた温室効果ガス削減のために2019年に制定された「ポセイドン原則」を解説された。ポセイドン原則が求めている「載貨重量トン数」「年間燃料消費量・燃料種類」「年間航海距離」といった気候変動達成度の推定に必要な非財務情報の開示の意義を検討したうえで、日本政策投資銀行や三井住友信託銀行が公表している気候変動達成度の実例や、これらの要求に応えらえる船舶建造における環境配慮型の原価企画の必要性について論じられた。

宮地氏

■■ 次回の九州部会は、2024年5月に開催予定である。

丸田起大(九州大学)

2023年度第3回フォーラム兼第2回(第65回)九州部会のご案内

2023年10月吉日

日本管理会計学会会員各位

日本管理会計学会
2023年度第3回フォーラム
兼第2回(第65回)九州部会のご案内

拝啓 
初秋の候、会員の皆様におかれましては、ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。
下記の要領にて、日本管理会計学会2023年度第3回フォーラム兼第2回(第65回)九州部会を、鹿児島国際大学経済学部(鹿児島市、準備委員長:福田正彦氏)を開催校として、対面方式にて開催いたします。参加費は無料です。懇親会は開催いたしません。万障お繰り合わせのうえ、ご参加賜りますようご案内申し上げます。参加をご希望の方は、準備の都合上、11月12日(日)までに、下記リンク先のGoogleフォームから、お申込みください。

<参加申込用Googleフォーム>https://forms.gle/xGaa7Ga68drT5PF56

敬具

1.日時:2023年11月25日(土) 12:30~17:00

2.開催場所:鹿児島国際大学経済学部 坂之上キャンパス 7号館 1階 710教室
 アクセスとキャンパス案内については、下記のホームページでご確認ください。
https://www.iuk.ac.jp/access/
https://www.iuk.ac.jp/gaiyou/campasMap/

3.プログラムは別紙の通り

【日本管理会計学会九州部会事務局】  
〒819-0395 福岡市西区元岡744 イーストゾーン
 九州大学経済学研究院 丸田起大研究室内
TEL:092-802-5454
email: marutaecon.kyushu-u.ac.jp


日本管理会計学会
2023年度第3回フォーラム 兼 第2回(第65回)九州部会プログラム

開催日時:2023年11月25日(土)12:30~17:00
開催方法:対面方式
開催場所:鹿児島国際大学経済学部 坂之上キャンパス 7号館 1階 710教室

■12:30~13:30 常務理事会 7号館 3階 会議室

■13:50~13:55 開会挨拶 鹿児島国際大学 学長 小林潤司氏

〔特別講演〕

■14:00~15:00(講演45分・質疑15分)

講演者:飯森利徳氏(鹿児島銀行 地域支援部 地域開発室 室長)
論題:「鹿児島の地方創生・地域開発の取組みについて」

(15:00~15:15 休憩)

 

〔研究報告〕

■15:15~17:00(報告30分・質疑15分)

第1報告 15:15~16:00
 報告者:水島多美也氏(中村学園大学)
 論題:「スループット会計・アメーバ経営・MQ会計における時間の意義について」

(16:00~16:15 休憩)

第2報告 16:15~17:00
 報告者:宮地晃輔氏(長崎県立大学)
 論題:「ポセイドン原則における非財務情報の生成プロセスと開示の影響」

■閉会挨拶 大会準備委員長 福田正彦氏(鹿児島国際大学)

以上


PDFファイル(JAMAフォーラム兼九州部会 2023年度第2回(第65回)プログラム.pdf

2023年度 第1回フォーラム 開催記


文責:李会爽(山梨学院大学)

 2023年度第1回フォーラムは,2023年4月15日(土)に明治大学(駿河台キャンパス)で開催されました。当日は悪天候にもかかわらず,北は北海道から南は沖縄まで,全国から80名以上の方々が参加しました。本フォーラムは,基調講演に税理士法人MSAパートナーズの淡路俊彦様からお話をしていただき,第1報告に琉球大学の庄司豊先生と京都大学の飯塚隼光先生の共同発表,第2報告に中村学園大学の水島多美也先生からご報告いただきました。
 大会は本学会学会長の﨑章浩氏(明治大学)のご挨拶から始まりました。﨑氏は昨年度の全国大会にて学会長に選ばれ,今回が就任以降初めての披露です。﨑氏は「会員の皆さんとともに本学会を盛り上げていきたい。」と抱負を語りました。
 淡路様は「管理会計で変わり得る中小企業経営 -長年の中小企業支援で感じたこと-」を基調講演のタイトルに,30年近くコンサルタントとして仕事をしてきた中,中小企業と管理会計,それに関与する金融機関との関係について熱く語られました。淡路様は大学で管理会計のゼミに所属,修士課程で管理会計を専攻したご経験から,一時期仕事において案件にBSCを仕掛けたいと思っていましたが,中小企業には難しいと感じて導入を断念した経験があります。その後,研究者の先生と自分の仕事内容についてお話したところ,自分が何気なく行っていたのがBSCと指摘され,そこで理論と実務の融合,知識の実践の重要さに実感されました。淡路様はコンサルタントには会社と金融機関とのお互いの間に抱いている不信感を如何になくし,信頼関係を再構築することに役立たなければならないと感じています。そこで要求されるのは,会社の状況に鑑み,的確な経営改善施策の策定と実行をアドバイスできるコンサルタントです。しかし,現状では臨床的な知識を活用できる管理会計に精通するプレーヤーが不在のため,中小企業の経営改善が効果的に施策できていないのです。そのため,「広範な知見と管理会計の背景を体系的に知る研究者の方々の役割が極めて重要になり,管理会計を学ぶ学生を増やし,その後コンサルティング会社に勤務するだけで,世の中の中堅中小企業の経営計画は格段に有効性を増大させることが期待されています。」と希望を語っていただきました。



(税理士法人MSAパートナーズ・淡路俊彦様)

 続いて庄司先生と飯塚先生から「シンプル管理会計の機能する条件に関する考察」をタイトルにご報告いただきました。主にご報告を担当された庄司先生は,中小企業における管理会計実践は教科書と比べ精緻ではないものが多くても,好業績を達成している企業が多く存在していることを問題意識としています。既存研究におけるシンプル管理会計のケースを紹介し,洗練度が低いといわれる管理会計手法であっても,有効に機能しうることを示唆しました。そこで,どのような状況であれば有効に機能しうるかについては検討がなされていないことに気づき,シミュレーションを用いたモデル分析により,特定のシンプル管理会計が機能する条件を探索することを目的とし,研究を行いました。結論としては,事前に想定していたものと異なる結果がありました。それは,規模拡大志向があり,需要の価格弾力性が極端に低いときにシンプル管理会計実践を行っている場合には,製品別原価計算を行う場合に比べて,損をしていないものの,利益を得る機会を逃していると考えられることです。つまり,シンプル管理会計は洗練された管理会計手法と比べて,機会を有効活用する能力が低い可能性を示唆していることが分かりました。



(琉球大学・庄司豊先生)

 最後に水島先生から「スループット会計と付加価値会計・アメーバ経営との比較」をタイトルにご報告いただきました。水島先生は付加価値概念を軸に,スループット会計,付加価値会計,アメーバ経営の間の関連性について検討を行い,さらに,スループット会計とアメーバ経営の類似点と相違点を明らかにし,スループット会計とアメーバ経営の融合可能性についての考えを述べました。当該報告では先行研究に続き,事例研究を行い,3つの結論を提示しました。第1に,事例研究を通し,付加価値会計やアメーバ経営の実践が実質的にスループット会計を実践しているとみなせる実務があることです。第2に,アメーバ経営のなかでスループット会計を実践している事例研究を通じて,成果配分の視点を欠いていると批判されてきたスループット会計が,アメーバ経営と融合することにより,その問題点を克服して進化を遂げる契機となることです。第3に,事例研究を通じて,アメーバ経営だけでなく,MQ〔マージン(粗利単価)×数量〕会計という管理会計システムを採用していることが,スループット会計の導入や実践の促進要因になるのではないか,という仮説を探索的に得ることができたことです。水島先生は,今後も多くの事例研究を積み重ねて当該報告の仮設を検証していきたいと述べました。

(中村学園大学・水島多美也先生)

 報告者と会場の皆さまのご協力の下で,第1回フォーラムは熱い議論を交わすなかで終了時間を迎えました。ほぼ来場者の全員が懇親会に参加し,そこで議論の続きを行い,最後に前会長の伊藤和憲先生からご挨拶をいただき,有終の美を飾ることができました。

 

 

 

2023年度第1回フォーラム開催のお知らせ

日本管理会計学会会員 各位


謹啓 時下ますますご健勝のこととお慶び申し上げます。
 さて、日本管理会計学会2023年度第1回フォーラムを、4月15日(土)に、明治大学駿河台キャンパスを会場に下記の要領にて開催致します。ご出席を賜りますようお願い申し上げます。当日は、懇親会も準備してお待ちしておりますので、ご出席を賜りますようお願い申し上げます。
 なお、ご出席予定の先生におかれましては、準備の都合上、お手数をおかけいたしますが、懇親会の参加の有無をご記入の上、4月5日(水)までに、メール(  info[at]sitejama.jp  ([at]→半角の@))で、ご連絡頂きますようお願い申し上げます。

謹白


開催日: 2023(令和5)年4月15日(土)
会場: 明治大学駿河台キャンパス 研究棟(2階) 第9会議室
〒101-8301 東京都千代田区神田駿河台1-1
交通案内 https://www.meiji.ac.jp/koho/campus_guide/suruga/access.html

14:00 − 14:05 学会長挨拶

基調講演 14:10 – 14:50
「管理会計で変わり得る中小企業経営―長年の中小企業支援で感じたことー」
淡路 俊彦 氏(税理士法人 MSAパートナーズ)

第1報告 15:00 – 15:40 (報告:30分 質疑:10分)
「シンプル管理会計の機能する条件に関する考察」
庄司 豊 氏(琉球大学),飯塚 隼光 氏(京都大学)

第2報告 15:45 – 16:25(報告:30分 質疑:10分)
「スループット会計と付加価値会計・アメーバ経営との比較」
水島 多美也 氏(中村学園大学)

16:25 − 16:30 閉会の挨拶

16:50 − 18:20  懇親会(駿河台キャンパス アカデミーコモン1階「カフェパンセ」 会費3,000円、釣銭がでないようにお願いします。)


2023年度第1回フォーラム開催校委員長 本橋  正美

2022年度第3回フォーラム開催記

 2022年度第3回フォーラムは,2022年11月12日(土)14時00分から16時30分まで,北海学園大学豊平キャンパスにて対面形式で開催された。本学会の会長である伊藤和憲氏(専修大学)よる開催の挨拶のあと,関谷浩行(北海学園大学)の司会でフォーラムが開催された。
 今回は,基調講演として西科純氏(公立芽室病院・事務長),研究報告として,吉見明希氏(北海道情報大学),古川原駿氏(専修大学大学院)による3名の報告が行われた。当日の参加者は33名で,いずれの講演者・報告者にも質問とコメントが多数あり,非常に活発なフォーラムとなった。

【第1報告】
講演者:西科純氏(公立芽室病院・事務長)
講演タイトル:自律経営システム(部門別原価管理会計制度)導入の背景とその展望:公立芽室病院
講演概要:
 本講演は,病院経営を取り巻く現状と課題および公立芽室病院が導入した部門別原価管理会計システム(アメーバ経営)についてである。公立芽室病院は,1940年1月に村立芽室診療所して開設以来,入院施設(許可病床数120床(稼働病床数107床))を持つ町内唯一の医療機関として,地域医療を担っている。
 講演者の西科氏は2018年8月に事務長に就任した。就任当時より,病院経営悪化による課題(内科医不足,医療構想424医療機関にピックアップ,産婦人科廃止,院内コロナクラスター等)が複雑に絡み合い,経営改革を迫られていた。
 経営改善・再生に向けて,同院は①できることから始めようプロジェクト,②自律経営プロジェクトを実施した。後者の自律経営プロジェクトの中軸が,アメーバ経営の導入である。導入のキッカケは西科氏がメンバーとなっている中小病院の経営を考える事務プロジェクトチーム(全国自治体病院協議会)で,一緒に活動している公立邑智病院(島根県邑智郡邑南町)が先行して導入していたことにある。
 病院経営では経営の視点だけでなく,医療の質の向上とあわせた運営が求められている。その目的のために,医師も巻き込んだ全職員による経営参加を目指す部門別原価管理会計システムは,病院経営にとって相性がよいと考えられる。公立芽室病院は部門別原価管理会計システムを2022年8月30日に導入することを決定したばかりであり,2023年度の本格稼働を目指して,現在,準備段階であるという途中経過の講演であった。

報告者:吉見明希氏(北海道情報大学)
報告タイトル:新製品開発の視点からみたコンテンツの製作
報告概要:
 本報告の目的は,管理会計研究で今後議論されるべきコンテンツの範囲について,新製品開発における管理会計手法との比較を行うこと,また,事例研究をとおしてコンテンツが商業上どの範囲に影響を及ぼすかを明らかにすることにある。新製品開発にかかわる管理会計手法としては,製品の企画・設計段階という源流段階で機能とコストを作り込む全社的な原価低減と利益管理を図る原価企画,研究開発から処分に至るまで,資産のライフサイクル全体で発生するコストを測定し,伝達するためのツールであるライフサイクル・コスティングなどがある。
 コンテンツとは情報の内容のことであり,コンテンツには一次流通(放送時点)と二次流通(再編集,関連商品の販売)が存在する。事例研究では,①放送番組,②商業アニメ,③消費者による価値創造(例:批評・ランキング,ファンカルチャー,ゲーム視聴等)の3つのタイプが紹介された。
 分析の結果,コンテンツの制作においては,企画・設計段階では原価企画が,企画から処分に至るまではライフサイクル・コスティングが,製造・販売・消費においては品質原価計算といった既存の管理会計手法の適用可能性があることが示唆された。コンテンツは,一次流通後も情報の内容を再編集・付加することで,コンテンツの価値は増幅される。そのため,コンテンツは流通後も派生的に価値を発生し続ける財も含めて企業の管理対象になるため,今後は価値計算モデルの構築が必要であるとの提言があった。


報告者:古川原駿氏(専修大学大学院)
報告タイトル:統合思考と情報の結合性の本質:価値創造プロセスの視点から
報告概要:
 本報告の目的は,統合報告における統合思考の価値創造を情報の結合性によって明らかにすることにある。統合思考とは企業内の様々な事業部及び部門と,企業が利用し影響を及ぼす資本との間の関係について,企業が能動的に考えることである。一方,情報の結合性とは,企業の長期的な価値創造能力に影響を及ぼす要因の組み合わせと相互関係の全体像を示すことである。
 本報告では,統合思考と情報の結合性を扱った3つの文献(Barnabè and Nazir, 2022; Massingham et al., 2018; 伊藤和憲, 2021)を中心に検討が行われた。文献研究の結果,統合思考においては,価値創造に影響を及ぼす要因について,Value Reporting Foundation(2021)で示されているパーパス,リスクと機会などの6項目と組織階層を関連づけることが重要であることが示唆された。
 一方,情報の結合性については,価値創造プロセスを通じて内容項目の可視化を行う必要があることが明らかになった。取り上げた文献では,①資本と活動の関係性の可視化(Barnabè and Nazir, 2022)と②財務目標と非財務目標の因果関係の可視化(Massingham et al., 2018; 伊藤和憲, 2021)の2つのタイプに分類することができることが示唆された。

2022年11月14日 
北海学園大学 関谷浩行