 ■■ 日本管理会計学会2012年度第3回フォーラムは,玉川大学を会場として,2012年12月8日(土)に開催された(実行委員長:山田義照氏)。今回のフォーラムのテーマは「ものづくりの管理会計の再考」とされ,日本のものづくりと管理会計の関係に焦点を当てた研究報告と企業講演が行われた。参加者は70名を超え,熱のこもった議論が繰り広げられた。第1部の研究報告では,園田智昭氏(慶応義塾大学)の司会のもと,原慎之介(一橋大学大学院),田坂公氏(久留米大学),中嶌道靖氏・木村麻子氏(関西大学)の3組が報告された。第2部の企業講演では,司会を伊藤和憲氏(専修大学)にバトンタッチし,織田芳一氏(富士ゼロックス株式会社 調達本部原価管理部)が講演された。その後,場所を移して懇親会が行われ,1年間の学会活動を振り返りながら,今回のフォーラムを惜しみつつ散会となった。
■■ 日本管理会計学会2012年度第3回フォーラムは,玉川大学を会場として,2012年12月8日(土)に開催された(実行委員長:山田義照氏)。今回のフォーラムのテーマは「ものづくりの管理会計の再考」とされ,日本のものづくりと管理会計の関係に焦点を当てた研究報告と企業講演が行われた。参加者は70名を超え,熱のこもった議論が繰り広げられた。第1部の研究報告では,園田智昭氏(慶応義塾大学)の司会のもと,原慎之介(一橋大学大学院),田坂公氏(久留米大学),中嶌道靖氏・木村麻子氏(関西大学)の3組が報告された。第2部の企業講演では,司会を伊藤和憲氏(専修大学)にバトンタッチし,織田芳一氏(富士ゼロックス株式会社 調達本部原価管理部)が講演された。その後,場所を移して懇親会が行われ,1年間の学会活動を振り返りながら,今回のフォーラムを惜しみつつ散会となった。
■■ 第1報告:原 慎之介氏
「Jコストによる現場改善効果の測定-資金効率の視点から-」
 原氏は,既存の会計理論は原価低減に偏重していて,在庫低減やリードタイム短縮活動の評価に必ずしも結びついていないと主張され,Jコストを現場に導入することの意義について述べられた。Jコスト論は,トヨタ生産方式を会計的に評価することを目的として,田中正知氏(ものつくり大学名誉教授)によって提唱されたものである。現場のリードタイムを短縮する効果を財務的数値とリンクさせることを目的として作られた理論であるという。
 原氏は,既存の会計理論は原価低減に偏重していて,在庫低減やリードタイム短縮活動の評価に必ずしも結びついていないと主張され,Jコストを現場に導入することの意義について述べられた。Jコスト論は,トヨタ生産方式を会計的に評価することを目的として,田中正知氏(ものつくり大学名誉教授)によって提唱されたものである。現場のリードタイムを短縮する効果を財務的数値とリンクさせることを目的として作られた理論であるという。
氏は,Jコスト論の「現場の問題を顕在化する」側面と「現場の改善効果を評価する」側面に焦点を当て,管理会計技法としてのJコスト論の役割を明確化された。その上で,利益尺度としてのJコスト,資金尺度としてのJコストについて述べられ,どのようにJコストを現場に活かせばよいのかをシミュレーションベースで説明された。
Jコストの計算方法は,コストと時間の積で表される面積(縦軸にコスト,横軸に時間)であり,その本質は資金量である。縦軸を短くする改善が原価低減であるのに対し,横軸を短くする改善がリードタイム短縮で,これらの積を用いた理論がJコスト論である。またJコストの総和は製品1単位を作るために要した棚卸資産にも相当するという。
また,Jコスト論の特徴として,原価のみならずリードタイムや資金の利用量も測定できるものであることを強調された。特に資金面だけに影響を与える改善について評価できるということ,つまり,既存の会計理論では,利益に結びつかない要素を正しく評価しにくいため,Jコスト論によって評価することが重要であるという。
最後に,会計技法は利益に基づいた評価がなされるため,現場の改善活動が正当に評価されていないという問題点を指摘された。その上で,田中氏が主張されている利益尺度としての利用方法と原氏が今回の報告で述べられた資金尺度としての利用方法を用いてJコスト論を利用することにより,これらの問題の解決が図られると結論を述べられた。
■■ 第2報告:田坂公氏
「グローバル型企業における原価企画の展開と課題」
 田坂氏は,円高の問題を始めとする厳しい企業環境の変化のなかで,日本の企業が国内から海外へ出て行ってしまっているという現状を憂え,原価企画がどのようにグローバル企業に対応してきているのかについて報告された。報告では,原価企画の先駆的企業である自動車部品メーカーA社に対する調査を一つの事例として,特に新興国向けにどのような原価企画が展開されているのかについて述べられた。
 田坂氏は,円高の問題を始めとする厳しい企業環境の変化のなかで,日本の企業が国内から海外へ出て行ってしまっているという現状を憂え,原価企画がどのようにグローバル企業に対応してきているのかについて報告された。報告では,原価企画の先駆的企業である自動車部品メーカーA社に対する調査を一つの事例として,特に新興国向けにどのような原価企画が展開されているのかについて述べられた。
最初に,世界の自動車販売の現状について次のように紹介された。日本自動車工業会による世界の自動車販売数のデータを,氏が先進国向け販売数と新興国向け販売数に分けたところ,先進国向けは横ばいあるいは減少しているのに対し,新興国向けはこの10年間で約3倍となっており,情勢が大きく変わっているという。また,日本政策投資銀行の資料より,先進国市場における原価企画の対象車は低燃費車,環境技術を駆使した製品が中心となっており,品質とコストがしっかりと検討されながら開発されていることが分かる。一方,新興国市場は,モータリゼーション以前の国もあり,かなりバラつきはあるが低価格車の開発が原価企画の対象となっている。研究の側面については,先進国向けの原価企画は進んでいるが,新興国向けの研究が立ち遅れていることを指摘された。
次いで,Bartlett and Ghoshal(1989)の先行研究を紹介され,グローバル型企業の戦略パターンについて述べられた。戦略パターンは,(1)グローバル戦略,(2)マルチナショナル戦略,(3)インターナショナル戦略,(4)トランスナショナル戦略の4つに分けられる。とくに,(4)トランスナショナル戦略は,(1)・(2)・(3)が発展した最終形態であり,本国と展開先との相互依存性を強くすることができる理想形であるという。先行研究の中では,新興国市場への展開が必ずとも示されておらず,その展開を考える余地があるとまとめられた。
そこで,氏が2011年に調査された部品メーカーA社の事例を用い,新興国向けの原価企画がどのように行われているかを紹介された。最初に,A社が新興国における原価企画で失敗をした例を示された。失敗をした原因として,先進国で成功した原価企画を新興国にそのまま移転しようとしてしまったことをあげられた。魅力的品質の考え方は国ごとに違うため,現地適用品を開発しなければならなかったという。たとえば,車のエアコンは,先進国では静かな方がよいが,新興国(インド)においては音が出る方が好まれる傾向にある。新興国向けの原価企画においては,機能を落としてさらにコストを下げるという,いわばVEの「禁じ手」を使うこともやむを得ないという。この失敗から,原価企画の原点である「市場価値を取り込んだ源流管理」に立ち返ることを意識させられたと述べられた。この失敗を踏まえ,A社は,(1)最適機能,(2)最適品質,(3)最適生産,(4)現地化推進の4つを掲げ低コスト化を目指している。次いで,A社の中国での事例についても述べられた。
最後に,Bartlett and Ghoshal(1989)の先行研究では,グローバル企業の戦略はトランスナショナル戦略が理想とされたが,A社の事例ではマルチナショナル戦略的な見解がなされる傾向があると主張された。今後は,国ごとにニーズが異なることを意識して「マルチナショナル型」の戦略パターンにおける原価企画をいかに展開できるかが課題となるとまとめられた。
■■ 第3報告:中嶌道靖氏・木村麻子氏
「日本のものづくりを強化するMFCAの有用性とは」
 中嶌氏と木村氏の共同研究において中嶌氏が中心となり報告された。氏は,MFCAが物量管理とコスト情報を組み合わせて行われる管理会計技法の一つとして位置づけられることを説明され,(1)日本のものづくりの評価(マテリアルロスの発見),(2)日本企業のものづくりを強化する(マテリアルロスの削減),(3)MFCAの有用性とは(改善点の拡大と拡張・コスト削減と結びつく技術革新)という3つの視点で報告された。
 中嶌氏と木村氏の共同研究において中嶌氏が中心となり報告された。氏は,MFCAが物量管理とコスト情報を組み合わせて行われる管理会計技法の一つとして位置づけられることを説明され,(1)日本のものづくりの評価(マテリアルロスの発見),(2)日本企業のものづくりを強化する(マテリアルロスの削減),(3)MFCAの有用性とは(改善点の拡大と拡張・コスト削減と結びつく技術革新)という3つの視点で報告された。
最初に,MFCAから日本のものづくりはどのように見えるのかを以下のように述べられた。物量情報の側面から「ものづくり」をみると,原材料のうち多くの部分がロスとなっているのが日本の現状である。それらは環境管理会計という手法のなかで資源生産性という言葉を使いながら説明されている。ものづくりという視点でとらえると無駄なく作ることが何よりも必要であり,MFCAを用いてコストで評価することが重要であろう。コストの評価が適切であるかないかという議論も欧米では存在しているが,MFCAは,たとえば35%が製品にならなければ製品原価全体の35%がロスになると考えてみようということだ。日本の企業の中には,無駄を出しながら生産しているという認識をしている企業はほとんどない。氏が調査したところ,コストに関しては「乾いた雑巾」でありこれ以上絞れるところはないと答える企業が多いが,実際にMFCAを用いてみると見えてくるコスト(ロス)があるという。
次いで,サプライチェーンにMFCAを導入する意義について述べられた。マテリアルロス発生のカテゴリーを明確にされ,サプライチェーンでの品質情報の共有によるマテリアルロスの削減,つまり,管理レベルを合わせることによるマテリアルロスの削減について説明された。続いて,経済産業省産業 技術環境局環境政策課 環境調和産業推進室(2010)の資料を基に硝材メーカーとキヤノンの事例を取り上げられ,技術開発と技術連携によるマテリアルロスの削減について述べられた。自社だけでコストダウンを考えるのであれば,原価企画という考え方もありうるが,技術力がなければそれに対して答えることはできない。そもそも企業自身がどこに問題があるのかを把握していないのではないかという疑念のもと,サプライチェーンにMFCA的な考え方や情報を共有できれば,より大きな資源生産性の成果が得られるのではないかとまとめられた。また,氏が行った「MFCAをサプライチェーンで活用するためのアンケート調査(郵送1,561社,回答356社)」についても詳説され,MFCAの認知度や,取引の継続性と材料歩留りの把握・共同改善,2社間の情報窓口の実態などについて明確にされた。
最後に,MFCAに対する3つの課題について述べられた。1つ目は,日本のものづくりにおいて,いかにサプライチェーンにMFCAを使った成功事例なり,マネジメントを作り出すかである。2つ目は,日本企業は海外にシフトを始めているが,日本で作ったMFCAのマネジメントをどのように海外に移転させるかである。3つ目は,マネージャーがいないという問題である。管理レベルと技術を作り上げても,それらをつなぎ合わせる人がいないという課題にぶつかる。技術と実行を噛み合わせる部分に人がうまく育っていないという現状が非常に大きな問題となっているという。
竹迫秀俊(城西国際大学大学院)
 
		 ■■ 日本管理会計学会2012年度第2回フォーラムは,北海道大学を会場として,2012年7月21日(土)に開催された(実行委員長:篠田朝也氏)。今回のフォーラムでは,統一論題が設定されていなかったものの,管理会計と会計実務の関係を強く意識した研究報告と企業講演が行われ,活発な議論が展開された。第1部の研究報告では,丸田起大氏(九州大学),藤本康男氏(フジモトコンサルティングオフィス合同会社代表社員,税理士),長坂悦敬氏(甲南大学)の3名が報告された。第2部の企業講演では,北海道で活躍している元気な企業で,社会貢献活動を積極的に展開されている企業のなかから,実行委員長の篠田氏が株式会社富士メガネに講演を依頼した経緯が説明されたのち,大久保浩幸氏(株式会社富士メガネ取締役,人事・総務部長)が講演された。その後,場所を移して懇親会が行われ,夏の北海道でのフォーラムを惜しみつつ散会となった。
■■ 日本管理会計学会2012年度第2回フォーラムは,北海道大学を会場として,2012年7月21日(土)に開催された(実行委員長:篠田朝也氏)。今回のフォーラムでは,統一論題が設定されていなかったものの,管理会計と会計実務の関係を強く意識した研究報告と企業講演が行われ,活発な議論が展開された。第1部の研究報告では,丸田起大氏(九州大学),藤本康男氏(フジモトコンサルティングオフィス合同会社代表社員,税理士),長坂悦敬氏(甲南大学)の3名が報告された。第2部の企業講演では,北海道で活躍している元気な企業で,社会貢献活動を積極的に展開されている企業のなかから,実行委員長の篠田氏が株式会社富士メガネに講演を依頼した経緯が説明されたのち,大久保浩幸氏(株式会社富士メガネ取締役,人事・総務部長)が講演された。その後,場所を移して懇親会が行われ,夏の北海道でのフォーラムを惜しみつつ散会となった。 丸田氏は,わが国における管理会計研究の発展に向けて,実務家と研究者との間で共同研究・共同開発が活発化されることの期待を表明するとともに,アクションリサーチに代表される関与型研究(interventionist research)にもとづいて実践されている共同研究「ソフトウェア開発における品質コストマネジメントの適用」の事例を紹介された。
 丸田氏は,わが国における管理会計研究の発展に向けて,実務家と研究者との間で共同研究・共同開発が活発化されることの期待を表明するとともに,アクションリサーチに代表される関与型研究(interventionist research)にもとづいて実践されている共同研究「ソフトウェア開発における品質コストマネジメントの適用」の事例を紹介された。 藤本氏は,地域に根差した企業を支援することによって地域経済の活性化に貢献するというミッションを実現するためには,中小製造業に管理会計を導入させることが重要であると主張された。氏が経営するコンサルタント会社では,経営者の意思決定に役立つ情報網の構築=「見える化」と,それを利用した経営改善のしくみを社内に定着させることを目的としており,経営者のみならず社員一人ひとりが「戦略」と「データ」にもとづいて考え行動する集団になることを目指しているという。氏は,この文脈から,オホーツク紋別にある水産加工(かまぼこ)会社に対する管理会計導入の事例を紹介された。
 藤本氏は,地域に根差した企業を支援することによって地域経済の活性化に貢献するというミッションを実現するためには,中小製造業に管理会計を導入させることが重要であると主張された。氏が経営するコンサルタント会社では,経営者の意思決定に役立つ情報網の構築=「見える化」と,それを利用した経営改善のしくみを社内に定着させることを目的としており,経営者のみならず社員一人ひとりが「戦略」と「データ」にもとづいて考え行動する集団になることを目指しているという。氏は,この文脈から,オホーツク紋別にある水産加工(かまぼこ)会社に対する管理会計導入の事例を紹介された。 長坂氏は,製造関係との産学連携という視点から大学研究者として産業界にどのようなアクションが起こせるかという問題意識のもとで,管理会計のフレームワークやコントロール概念を深化・発展させる手掛かりとして,「融合コストマネジメント」(Fused Cost Management)というアプローチを提唱された。また,実務にインプリメントできる具体的なアクション研究をソリューションと捉えて,産学官の共同プロジェクトから開発・提案されたソリューションの事例を紹介された。
 長坂氏は,製造関係との産学連携という視点から大学研究者として産業界にどのようなアクションが起こせるかという問題意識のもとで,管理会計のフレームワークやコントロール概念を深化・発展させる手掛かりとして,「融合コストマネジメント」(Fused Cost Management)というアプローチを提唱された。また,実務にインプリメントできる具体的なアクション研究をソリューションと捉えて,産学官の共同プロジェクトから開発・提案されたソリューションの事例を紹介された。 大久保氏は,メガネは医療用具であるという立場からお客様にメガネを提供していること,そのための人材養成をしていることを強調された。また,お客様の「見る喜び」という企業理念の具現化やノウハウの蓄積を一定のサービスレベルで保持して,売上を向上させていくためのソフトの開発が不可欠であると主張された。このソフトが富士メガネ総合情報システム(Fuji Total Information System,以下「FTIS」という。)であり,その導入経緯と機能の概要について説明された。
 大久保氏は,メガネは医療用具であるという立場からお客様にメガネを提供していること,そのための人材養成をしていることを強調された。また,お客様の「見る喜び」という企業理念の具現化やノウハウの蓄積を一定のサービスレベルで保持して,売上を向上させていくためのソフトの開発が不可欠であると主張された。このソフトが富士メガネ総合情報システム(Fuji Total Information System,以下「FTIS」という。)であり,その導入経緯と機能の概要について説明された。 ■■ 日本管理会計学会2012年度第1回フォーラムが,2012年4月14日(土)に大阪成蹊大学・短期大学にて開催された(実行委員長:大阪成蹊短期大学 三浦徹志教授)。今回のフォーラムでは,斉藤孝一氏(南山大学)の司会もと,景山愛子氏(安田女子大学),平井裕久氏(高崎経済大学)・後藤晃範氏(大阪学院大学)の2報告が行われ,松尾貴巳氏(神戸大学)の司会のもと,国枝よしみ氏(大阪成蹊短期大学)・鹿内健一氏(大阪成蹊短期大学)・田中祥司氏(大阪成蹊短期大学非常勤講師・早稲田大学大学院),島吉伸氏(近畿大学)・安酸健二氏(近畿大学)・栗栖千幸氏(医療法人鉄蕉会亀田メディカルセンター経営管理本部 企画部経営企画室)の2報告(計4報告)が行われた。
■■ 日本管理会計学会2012年度第1回フォーラムが,2012年4月14日(土)に大阪成蹊大学・短期大学にて開催された(実行委員長:大阪成蹊短期大学 三浦徹志教授)。今回のフォーラムでは,斉藤孝一氏(南山大学)の司会もと,景山愛子氏(安田女子大学),平井裕久氏(高崎経済大学)・後藤晃範氏(大阪学院大学)の2報告が行われ,松尾貴巳氏(神戸大学)の司会のもと,国枝よしみ氏(大阪成蹊短期大学)・鹿内健一氏(大阪成蹊短期大学)・田中祥司氏(大阪成蹊短期大学非常勤講師・早稲田大学大学院),島吉伸氏(近畿大学)・安酸健二氏(近畿大学)・栗栖千幸氏(医療法人鉄蕉会亀田メディカルセンター経営管理本部 企画部経営企画室)の2報告(計4報告)が行われた。 フォーラムでは,園田智昭副会長(慶応義塾大学)から開催挨拶があり,続いて大阪成蹊短期大学 武蔵野實学長より歓迎の挨拶を頂いた。武蔵野学長は挨拶の中で,大阪成蹊大学・短期大学の歴史や建学の精神について触れられ,今回のフォーラムにおける発表内容との関連で,自然環境における長期的最適条件を守りながら,経済的な短期的最適条件を目指すことの重要性について述べられた。
フォーラムでは,園田智昭副会長(慶応義塾大学)から開催挨拶があり,続いて大阪成蹊短期大学 武蔵野實学長より歓迎の挨拶を頂いた。武蔵野学長は挨拶の中で,大阪成蹊大学・短期大学の歴史や建学の精神について触れられ,今回のフォーラムにおける発表内容との関連で,自然環境における長期的最適条件を守りながら,経済的な短期的最適条件を目指すことの重要性について述べられた。 景山氏はまず,環境変化が激しく,リスクが複雑化,多様化している現代では,企業価値を高めるためにリスクマネジメント(RM)を導入することが重要であり,RMのPDCAサイクルに管理会計が関わるべきであると述べた。そして,RMと管理会計との関わりをカリフォルニア州立大学バークレー校の事例研究において考察するという本報告の目的を示した。
 景山氏はまず,環境変化が激しく,リスクが複雑化,多様化している現代では,企業価値を高めるためにリスクマネジメント(RM)を導入することが重要であり,RMのPDCAサイクルに管理会計が関わるべきであると述べた。そして,RMと管理会計との関わりをカリフォルニア州立大学バークレー校の事例研究において考察するという本報告の目的を示した。 平井氏は,まず企業価値の測定におけるインタンジブルズ情報の把握の重要性について述べ,インタンジブルズ情報の一つとしての人的資本,特に従業員満足度に関する情報と企業価値との関連性について検証を行うという研究目的を示した。次に,先行研究のレビューを通して,日本と米国における人的資産に関する考え方に差異があることを指摘しながらも,経営上重要な要因であることを再認識することの重要性を指摘した。
 平井氏は,まず企業価値の測定におけるインタンジブルズ情報の把握の重要性について述べ,インタンジブルズ情報の一つとしての人的資本,特に従業員満足度に関する情報と企業価値との関連性について検証を行うという研究目的を示した。次に,先行研究のレビューを通して,日本と米国における人的資産に関する考え方に差異があることを指摘しながらも,経営上重要な要因であることを再認識することの重要性を指摘した。 観光は現在,重要な国家戦略として位置づけられているが,環境破壊などの負の影響が存在することが課題として指摘されている。イギリスでは1999年頃から,人々の「幸せ」という価値観に焦点が当てられており,経済的な側面だけでなく,持続可能な発展に関して多様な研究結果が報告されている。ただし,持続可能な発展を実践していく立場である小規模ツーリズムとホスピタリティ企業の研究は少数であるため,奈良県の小規模宿泊施設経営者を対象としたアンケート調査により,経営者の観光開発に対する態度,認識,経営行動の構造を明らかにするという研究目的を示した。
 観光は現在,重要な国家戦略として位置づけられているが,環境破壊などの負の影響が存在することが課題として指摘されている。イギリスでは1999年頃から,人々の「幸せ」という価値観に焦点が当てられており,経済的な側面だけでなく,持続可能な発展に関して多様な研究結果が報告されている。ただし,持続可能な発展を実践していく立場である小規模ツーリズムとホスピタリティ企業の研究は少数であるため,奈良県の小規模宿泊施設経営者を対象としたアンケート調査により,経営者の観光開発に対する態度,認識,経営行動の構造を明らかにするという研究目的を示した。 本報告において,まず,島氏は非財務指標の重要性を示すためには,非財務指標が持つ財務業績の説明力について示す必要があり,そのために,国立病院で行われてきた患者満足度調査の結果を通じて,国立病院の収益,費用,利益の変動について分析するという研究目的を示した。次に,先行研究のレビューにより非財務指標と財務成果の変動との関係について検証するという目的には,顧客満足度を非財務指標として用いることが適切であると述べた。
 本報告において,まず,島氏は非財務指標の重要性を示すためには,非財務指標が持つ財務業績の説明力について示す必要があり,そのために,国立病院で行われてきた患者満足度調査の結果を通じて,国立病院の収益,費用,利益の変動について分析するという研究目的を示した。次に,先行研究のレビューにより非財務指標と財務成果の変動との関係について検証するという目的には,顧客満足度を非財務指標として用いることが適切であると述べた。 次に,安酸氏は本報告におけるパネル分析の方法を3つ示し,それぞれの分析における推定結果を示した。そして,その結果によって得られるインプリケーションは満足度指標に「全体として病院に満足」という回答を採用した場合と,「家族や知人に勧めたい」という回答を採用した場合とで大きく異なると述べた。安酸氏によれば,前者の場合は,(1)満足度の向上はコストには影響しない,(2)入院患者の満足度は病院の財務面に影響しない,(3)相対的に高い満足度をさらに高めることは収益にマイナスの影響を及ぼすというインプリケーションが,後者の場合は,(1)外来患者の満足度はコストに影響する,(2)入院患者満足度は病院の財務面に影響する,(3)相対的に高い満足度を高める努力は病院の収益にプラスの影響をもたらすというインプリケーションが得られるということであった。
 次に,安酸氏は本報告におけるパネル分析の方法を3つ示し,それぞれの分析における推定結果を示した。そして,その結果によって得られるインプリケーションは満足度指標に「全体として病院に満足」という回答を採用した場合と,「家族や知人に勧めたい」という回答を採用した場合とで大きく異なると述べた。安酸氏によれば,前者の場合は,(1)満足度の向上はコストには影響しない,(2)入院患者の満足度は病院の財務面に影響しない,(3)相対的に高い満足度をさらに高めることは収益にマイナスの影響を及ぼすというインプリケーションが,後者の場合は,(1)外来患者の満足度はコストに影響する,(2)入院患者満足度は病院の財務面に影響する,(3)相対的に高い満足度を高める努力は病院の収益にプラスの影響をもたらすというインプリケーションが得られるということであった。 伊藤氏は,まず行財政改革の取り組みを中心に市川市の状況を述べたうえで,その取り組みのひとつである市川市版ABCについて詳細に報告した。市川市版ABCの特徴として,分析自体にかかるコストが大きいことといった一般的なABCのデメリットを解消するため,総コストではなく職員の活動量に着目し,業務ごとの活動従事量を把握し,特に定型的業務の詳細な活動量を対象としていることを述べた。市川市では,市川市版ABCをシステム化し,各職員からのデータ収集を行い,職員個人レベルの活動までデータ化することにより,市民サービス直結業務と内部管理事務の活動量の詳細が可視化されていることを説明した。そして,市川市版ABCから導かれる効果として,内部管理事務や定型的業務をできるだけ効率的にしつつ,市民サービス直結業務に人材を再配置でき,市民サービスを維持しつつ,コストの削減が可能となることを示した。さらに,伊藤氏は,市川市市政戦略会議による,事業仕分け(平成22年度)と施設の有効活用にかかる公開検討会(平成23年度)についても報告した。はじめに,事業仕分けの実施内容を説明し,事業の可視化の進展といった効果や,結果が極端になるといった課題を示した。つぎに,施設の有効活用にかかる公開検討会の実施内容を説明したうえで,事業仕分けと施設の有効活用にかかる公開検討会を比較し,前者が事業の量的な側面からのアプローチ,後者が事業の質的な側面からのアプローチとして検討するために適している可能性を指摘した。
  伊藤氏は,まず行財政改革の取り組みを中心に市川市の状況を述べたうえで,その取り組みのひとつである市川市版ABCについて詳細に報告した。市川市版ABCの特徴として,分析自体にかかるコストが大きいことといった一般的なABCのデメリットを解消するため,総コストではなく職員の活動量に着目し,業務ごとの活動従事量を把握し,特に定型的業務の詳細な活動量を対象としていることを述べた。市川市では,市川市版ABCをシステム化し,各職員からのデータ収集を行い,職員個人レベルの活動までデータ化することにより,市民サービス直結業務と内部管理事務の活動量の詳細が可視化されていることを説明した。そして,市川市版ABCから導かれる効果として,内部管理事務や定型的業務をできるだけ効率的にしつつ,市民サービス直結業務に人材を再配置でき,市民サービスを維持しつつ,コストの削減が可能となることを示した。さらに,伊藤氏は,市川市市政戦略会議による,事業仕分け(平成22年度)と施設の有効活用にかかる公開検討会(平成23年度)についても報告した。はじめに,事業仕分けの実施内容を説明し,事業の可視化の進展といった効果や,結果が極端になるといった課題を示した。つぎに,施設の有効活用にかかる公開検討会の実施内容を説明したうえで,事業仕分けと施設の有効活用にかかる公開検討会を比較し,前者が事業の量的な側面からのアプローチ,後者が事業の質的な側面からのアプローチとして検討するために適している可能性を指摘した。 渡邊氏は,まずBSCに関する研究を参照し,わが国医療組織において多面的な目標達成につながる組織成員の心理構造を解明するという研究目的を示した。そのうえで,先行研究における理論的背景を踏まえ,組織成員の目標達成,行動意識(財務意識,患者意識,学習意識),および自律性の関係について理論モデルを構築し,それに基づく複数の仮説を提示した。そして,渡邊氏は,敬愛会中頭病院・ちばなクリニックと福井県済生会病院に対する経年的アンケート調査から得られたデータをサンプルとし,共分散構造分析によってこれらの仮説を検証した。分析の結果,次の4つの発見事項を指摘した。第1に,学習意識は業務に対する自律性から正の影響を受ける。第2に,財務意識と患者意識は,学習意識から正の影響を受ける。第3に,BSCの4つの視点に対する目標達成は,学習意識と財務意識から正の影響を受ける。第4に,目標達成に対しては,学習意識から財務意識と患者意識を媒介した間接効果よりも,学習意識からの直接効果のほうが相対的に強い影響を及ぼす。
 渡邊氏は,まずBSCに関する研究を参照し,わが国医療組織において多面的な目標達成につながる組織成員の心理構造を解明するという研究目的を示した。そのうえで,先行研究における理論的背景を踏まえ,組織成員の目標達成,行動意識(財務意識,患者意識,学習意識),および自律性の関係について理論モデルを構築し,それに基づく複数の仮説を提示した。そして,渡邊氏は,敬愛会中頭病院・ちばなクリニックと福井県済生会病院に対する経年的アンケート調査から得られたデータをサンプルとし,共分散構造分析によってこれらの仮説を検証した。分析の結果,次の4つの発見事項を指摘した。第1に,学習意識は業務に対する自律性から正の影響を受ける。第2に,財務意識と患者意識は,学習意識から正の影響を受ける。第3に,BSCの4つの視点に対する目標達成は,学習意識と財務意識から正の影響を受ける。第4に,目標達成に対しては,学習意識から財務意識と患者意識を媒介した間接効果よりも,学習意識からの直接効果のほうが相対的に強い影響を及ぼす。 大西氏は,まず公共部門の管理会計における今後の課題について,組織マネジメント,政策マネジメント,投融資等マネジメントの3つに分けて整理・提示した。これまで管理会計が活用されてきた組織マネジメントだけではなく,政策マネジメントにおける業績測定や,投融資等マネジメントにおける財政投融資・政策金融,さらにはPFI等といった領域への管理会計の活用可能性を示した。そして,国税組織などを調査対象とした組織マネジメントのケース・スタディについて報告し,公共部門においてもABM,ABC,BSCといった管理会計手法に近い実務が行われていることを明らかにした。これらのケース・スタディに基づき,ABMなどのさまざまな管理会計手法を公共部門の効率性と効果性に関連づけた基本モデルを提示した。また,日本だけではなく,各国の労働集約的な公共部門の管理会計の実態も示した。さらに,大西氏は,管理会計手法等の導入プロセスについても報告した。管理会計手法等の導入プロセスについて,ABMの導入を起点にミクロへの展開とマクロへの展開を説明したうえで,導入に際して重要になる要因として,人事権とリンクしたリーダーシップの継続,全体像を踏まえたうえでの漸進的な導入,組織の損得勘定への働きかけなどを明らかにした。
 大西氏は,まず公共部門の管理会計における今後の課題について,組織マネジメント,政策マネジメント,投融資等マネジメントの3つに分けて整理・提示した。これまで管理会計が活用されてきた組織マネジメントだけではなく,政策マネジメントにおける業績測定や,投融資等マネジメントにおける財政投融資・政策金融,さらにはPFI等といった領域への管理会計の活用可能性を示した。そして,国税組織などを調査対象とした組織マネジメントのケース・スタディについて報告し,公共部門においてもABM,ABC,BSCといった管理会計手法に近い実務が行われていることを明らかにした。これらのケース・スタディに基づき,ABMなどのさまざまな管理会計手法を公共部門の効率性と効果性に関連づけた基本モデルを提示した。また,日本だけではなく,各国の労働集約的な公共部門の管理会計の実態も示した。さらに,大西氏は,管理会計手法等の導入プロセスについても報告した。管理会計手法等の導入プロセスについて,ABMの導入を起点にミクロへの展開とマクロへの展開を説明したうえで,導入に際して重要になる要因として,人事権とリンクしたリーダーシップの継続,全体像を踏まえたうえでの漸進的な導入,組織の損得勘定への働きかけなどを明らかにした。 ■■ 日本管理会計学会2011年度第2回フォーラムが,2011年7月16日(土)13:00から成城大学において開催された(実行委員長:成城大学教授 塘 誠氏)。今回のフォーラムは,鈴木研一氏(明治大学教授)の司会のもと,境 新一氏(成城大学教授),磯崎 哲也氏(磯崎哲也事務所代表,公認会計士),山田有人氏(大原大学院大学教授 吉本興業監査役),そして川上昌直氏(兵庫県立大学准教授)の計4名から報告が行われた。フロアからも活発な質問が寄せられ,有意義な討議が行われた。その後,場所を移して懇親会が行われ,散会となった。
■■ 日本管理会計学会2011年度第2回フォーラムが,2011年7月16日(土)13:00から成城大学において開催された(実行委員長:成城大学教授 塘 誠氏)。今回のフォーラムは,鈴木研一氏(明治大学教授)の司会のもと,境 新一氏(成城大学教授),磯崎 哲也氏(磯崎哲也事務所代表,公認会計士),山田有人氏(大原大学院大学教授 吉本興業監査役),そして川上昌直氏(兵庫県立大学准教授)の計4名から報告が行われた。フロアからも活発な質問が寄せられ,有意義な討議が行われた。その後,場所を移して懇親会が行われ,散会となった。 境氏は,アート・プロデュースの視点から感動創造の生み出す価値を反映した価格設定に関する現状と課題について報告された。最近のデジタル・IT技術の進展やソーシャル・メディアの台頭を背景として,産業に活用される発明や技術のみならず,アートの経済的価値が高まりつつある。とりわけアートは社会的な価値づけが重要であるため,保護と普及を一組に考える必要があり,その意味で,知的財産と似た属性を持つとされる。芸術・技術・特許などがアートとして融合し,創造性を発揮しながら文化的・経済的価値を創出するためには,アート・プロデュースという包括的な取り組みが必要であることが指摘された。
 境氏は,アート・プロデュースの視点から感動創造の生み出す価値を反映した価格設定に関する現状と課題について報告された。最近のデジタル・IT技術の進展やソーシャル・メディアの台頭を背景として,産業に活用される発明や技術のみならず,アートの経済的価値が高まりつつある。とりわけアートは社会的な価値づけが重要であるため,保護と普及を一組に考える必要があり,その意味で,知的財産と似た属性を持つとされる。芸術・技術・特許などがアートとして融合し,創造性を発揮しながら文化的・経済的価値を創出するためには,アート・プロデュースという包括的な取り組みが必要であることが指摘された。 磯崎氏は,日米のベンチャーファイナンス事情の比較検討を通じて,日本のベンチャー界における「生態系」の充実の重要性が指摘された。生態系とはつまり,上場やバイアウトを経験した企業家や,ベンチャー支援をするエンジェルやベンチャーキャピタルなどの投資家,弁護士や会計士などの専門家,CFOやCTOなど鍵となる役員の候補者などのネットワークのことである。日本はアメリカから遅れること四半世紀,1990年代の終わりに証券ビッグバンを迎えるに至った。つまり日本の本格的なベンチャーファイナンスはまだ,始まってから10年少ししか経っていない。ベンチャー企業が活躍する素地を作るためには,良いベンチャー企業の卵が存在するだけではなく,それらを育てる生態系の充実が必要となる。ベンチャー投資は縮小しているように見えるが,ここ10年で日本においてもこの生態系は大きく発達した。米国では,国内市場での成功だけでなく,世界全体での成功に向けたプランがベンチャーキャピタルから求められる。日本においても,楽天やDeNA,グリーのように国内市場で成功を収めたベンチャー企業が世界市場へ進出する動きがあるが,最近では当初から海外市場での活躍を目指すベンチャー企業も出始めている。今後10年で時価総額数千億円以上の企業が10社出てくるようであれば,日本のベンチャーへの関心も好転を期待できるのではないかとの指摘があった。さらに,昨今の米国における上場前後のベンチャー企業の事例を踏まえて,米国におけるベンチャー投資が局所的にバブル気味であることを指摘し,生態系発達のためには「盛り上がり」も重要であることが指摘された。
 磯崎氏は,日米のベンチャーファイナンス事情の比較検討を通じて,日本のベンチャー界における「生態系」の充実の重要性が指摘された。生態系とはつまり,上場やバイアウトを経験した企業家や,ベンチャー支援をするエンジェルやベンチャーキャピタルなどの投資家,弁護士や会計士などの専門家,CFOやCTOなど鍵となる役員の候補者などのネットワークのことである。日本はアメリカから遅れること四半世紀,1990年代の終わりに証券ビッグバンを迎えるに至った。つまり日本の本格的なベンチャーファイナンスはまだ,始まってから10年少ししか経っていない。ベンチャー企業が活躍する素地を作るためには,良いベンチャー企業の卵が存在するだけではなく,それらを育てる生態系の充実が必要となる。ベンチャー投資は縮小しているように見えるが,ここ10年で日本においてもこの生態系は大きく発達した。米国では,国内市場での成功だけでなく,世界全体での成功に向けたプランがベンチャーキャピタルから求められる。日本においても,楽天やDeNA,グリーのように国内市場で成功を収めたベンチャー企業が世界市場へ進出する動きがあるが,最近では当初から海外市場での活躍を目指すベンチャー企業も出始めている。今後10年で時価総額数千億円以上の企業が10社出てくるようであれば,日本のベンチャーへの関心も好転を期待できるのではないかとの指摘があった。さらに,昨今の米国における上場前後のベンチャー企業の事例を踏まえて,米国におけるベンチャー投資が局所的にバブル気味であることを指摘し,生態系発達のためには「盛り上がり」も重要であることが指摘された。 山田氏は,映画製作における資金調達について,日米の比較を通じてその現状と課題について整理された。日本の映画製作において採用されることの多い製作委員会方式は,委員会に加入する多数のメンバーから資金調達が可能となり,リスク分散を期待できるメリットがある。しかし一方で,メンバー間の責任・権限関係のあいまいさから,コンテンツビジネス全体の戦略を不明確にし,意思決定プロセスが明示化できない点に課題があることを指摘された。例えば,日本映画はリメーク権ビジネスにおいては多くの原石が存在すると思われるが,製作委員会方式という責任と権限関係があいまいな共同事業体により,海外企業の参入を困難にしている。また,製作委員会のメンバーは出資者であると同時にコンテンツ販売の窓口権を有するため,純粋な出資者の受け入れが困難であること。さらに,製作委員会方式を前提とすると,実積のない新規の参入者が割り込む余地がないことも指摘された(この問題に対してハリウッドにおいては,新規の参入者であっても,完成保証会社との間で完成保証契約を締結することで,銀行からの融資を通じた製作資金の調達を可能にしていることが報告された)。また,日本映画産業の全体的な問題点として,ネット化・成熟化した社会における収益獲得モデルの構築,広告宣伝投資等の意思決定会計の充実,製作予算における管理システム機能の強化の必要性が提示された。
 山田氏は,映画製作における資金調達について,日米の比較を通じてその現状と課題について整理された。日本の映画製作において採用されることの多い製作委員会方式は,委員会に加入する多数のメンバーから資金調達が可能となり,リスク分散を期待できるメリットがある。しかし一方で,メンバー間の責任・権限関係のあいまいさから,コンテンツビジネス全体の戦略を不明確にし,意思決定プロセスが明示化できない点に課題があることを指摘された。例えば,日本映画はリメーク権ビジネスにおいては多くの原石が存在すると思われるが,製作委員会方式という責任と権限関係があいまいな共同事業体により,海外企業の参入を困難にしている。また,製作委員会のメンバーは出資者であると同時にコンテンツ販売の窓口権を有するため,純粋な出資者の受け入れが困難であること。さらに,製作委員会方式を前提とすると,実積のない新規の参入者が割り込む余地がないことも指摘された(この問題に対してハリウッドにおいては,新規の参入者であっても,完成保証会社との間で完成保証契約を締結することで,銀行からの融資を通じた製作資金の調達を可能にしていることが報告された)。また,日本映画産業の全体的な問題点として,ネット化・成熟化した社会における収益獲得モデルの構築,広告宣伝投資等の意思決定会計の充実,製作予算における管理システム機能の強化の必要性が提示された。 川上氏は,顧客満足と利益の両立を図るために求められる価値創造について,たざわ湖スキー場の事例を用いながら報告された。第一に,価値創造を図る仕組みの体系化にあたり,事業の仕組みを設計する思考方法としてのビジネスモデルと,結果として形成された事業の仕組みであるビジネスシステムの違いを,明確に認識することの重要性を指摘した。第二に,ビジネスモデルを考えるためには,デザインのフレームワークが必要であることを指摘した。すなわち,顧客価値を創造し,それを実現する提供の仕組み,そして目標とする利益を達成するための体系が必要とされる。その価値創造の鍵は,価値のオーナーである顧客の取り分としてのWTP(Willingness-to-pay)をいかに高めるかにあり,WTPを超えた価格設定は成立しえない。この具体例として,たざわ湖スキー場でのビジネスモデル変革を取り上げた。当該事例は顧客不満足の源泉を探り,コストに見合った形で問題を解消するビジネスモデルがいかに構築されるのか明らかにするものであった。そこでは,価値を保証し,乏しい資源でも実現可能な活動を通じてサービスを実現し,すべての顧客を対象にするのではなく課金対象をずらすことで価値創造を実現するに至ったとのことである。この事例を通じて,価値創造を可能にするための顧客価値創造・利益創出・価値提供の3要因を体系化させたビジネスモデルの構築の必要性が改めて示唆された。
 川上氏は,顧客満足と利益の両立を図るために求められる価値創造について,たざわ湖スキー場の事例を用いながら報告された。第一に,価値創造を図る仕組みの体系化にあたり,事業の仕組みを設計する思考方法としてのビジネスモデルと,結果として形成された事業の仕組みであるビジネスシステムの違いを,明確に認識することの重要性を指摘した。第二に,ビジネスモデルを考えるためには,デザインのフレームワークが必要であることを指摘した。すなわち,顧客価値を創造し,それを実現する提供の仕組み,そして目標とする利益を達成するための体系が必要とされる。その価値創造の鍵は,価値のオーナーである顧客の取り分としてのWTP(Willingness-to-pay)をいかに高めるかにあり,WTPを超えた価格設定は成立しえない。この具体例として,たざわ湖スキー場でのビジネスモデル変革を取り上げた。当該事例は顧客不満足の源泉を探り,コストに見合った形で問題を解消するビジネスモデルがいかに構築されるのか明らかにするものであった。そこでは,価値を保証し,乏しい資源でも実現可能な活動を通じてサービスを実現し,すべての顧客を対象にするのではなく課金対象をずらすことで価値創造を実現するに至ったとのことである。この事例を通じて,価値創造を可能にするための顧客価値創造・利益創出・価値提供の3要因を体系化させたビジネスモデルの構築の必要性が改めて示唆された。