「フォーラム」カテゴリーアーカイブ

2024年度第1回フォーラム 開催記

神奈川大学 尻無濱芳崇

 日本管理会計学会2024年度第1回フォーラムが、神奈川大学みなとみらいキャンパスで開催された。﨑章浩会長の挨拶のあと、特別講演、研究報告が行われた。70名ほどの参加者が集まり、活発な質疑応答が行われた。

(﨑会長挨拶)

 元マツダ株式会社代表取締役副社長兼 COOで、現在は合同会社 Office F Vision 代表をつとめる藤原 清志氏から、「MAZDA SKYACTIV TECNOLOGY & 魂動デザイン開発物語り」と題して特別講演が行われた。藤原氏によると、MAZDAはバブル崩壊後、急激な業績悪化に見舞われたが、そこから2つの復活劇があったという。一つ目の復活劇は、Affordable Business Structure(ABS)という原価企画手法の導入である。2000年代はじめにフォード出身の経営陣が主導して、二つの方針で経営再建が行われた。一つがブランドイメージの統一(Zoom-Zoom)、もう一つがABSへの転換である。MAZDAではそれまでは見積原価に期待利益を加えることで顧客に提示する価格を決定していた。それを、顧客ファーストで考え、Valueを厳選し、原価を下げる活動をするとい考え方(ABS)へと転換したのである。この考え方のもとでは、顧客が希望する価格から期待利益を差し引くことで、実現すべき原価を計算し、その達成を目指すことになる。
 二つ目の復活劇では、価値づくり経営への転換が行われた。機能的価値と意味的価値、この二つの価値を意識し、独自の価値を創造し、ブランド価値を高めることが画策された。具体的には、機能的な数値価値をダントツに高めることを目指したSKYACTIV Engineの実現、意味的価値としての魂動デザインの実現に経営資源が投入された。その結果、4年で3度の日本カーオブザイヤー大賞の受賞、ワールドカーオブザイヤーの受賞、劇的な業績回復が達成されたという。コスト面では、理想工程製造を実現した時の最小コストである絶対原価を目標として設定し、それを追求する中で無駄の排除を進め、絶対原価の実現を達成した。投資の効率化の観点からは、フレキシブル生産と汎用設備化、コモンアーキテクチャー構想の採用とモデルベース開発への転換が推し進められた。これらの経営改革の背後には、マネジメント思考の変革があったという。PDCAサイクルでいうと、結果が出てからアクションを指示しても大幅な修正は難しい(CA重視のマネジメント)。何を実行するかを決め、実行中の行動を管理するほうがはるかに重要である(PD重視のマネジメント)ことが指摘された。

(藤原 清志 氏による特別講演) 

 特別講演の後には、2件の研究報告が行われた。
 まず、王志氏(明治大学)によるもので、「リードタイムの分離可能性:原価作用因と収益作用因の両視点からの検討」と題して報告が行われた。リードタイム短縮の財務的な効果として、原価低減と収益向上の両方が達成されるという指摘がある。しかし、原価作用因となるリードタイム短縮と収益作用因となるリードタイム短縮が常に一致するとは限らない。両者が一致しない場合には、リードタイム短縮が想定したような効果を生まず、実務をミスリードする危険性がある。この問題意識のもと、超短納期と高い収益性で知られる工作機械治具メーカーのエーワン精密におけるリードタイム短縮の取り組みの事例分析が行われた。分析の結果、エーワン精密では原価をかけることなく注文処理時間と配送時間の短縮を実現していたことが判明した。また、エーワン精密では原価増大につながりそうな余剰設備や余剰在庫を活用することで超短納期を実現し、収益の増大を実現していることも指摘された。
 次に、日浅優氏(名古屋学院大学)により、「現場従業員を対象としたMCSによる信頼の醸成」と題して報告が行われた。本研究は、現場従業員が上司や同僚に対して抱く信頼(垂直的信頼・水平的信頼)とマネジメント・コントロール・システム(MCS)の関係を分析したものである。本研究ではMCSとして予算管理・方針管理を想定している。MCSは、上司と部下、部下同士のコミュニケーションやフィードバックを活発化させるという経路を通じて現場従業員が上司に抱く信頼や同僚に抱く信頼を高めると考えられる。この仮説のもと、国内ホスピタリティ産業の現場従業員に対するアンケートから得たデータをもとに重回帰分析を行い、仮説の検証を行った。分析の結果、予算管理・方針管理共に現場従業員が上司や同僚に対して抱く信頼に対して統計的に有意な正の関係を持つことが明らかにされた。

2024年度第1回フォーラムのご案内

日本管理会計学会会員 各位

謹啓 時下ますますご健勝のこととお慶び申し上げます。
 さて、日本管理会計学会2024年度第1回フォーラムを下記の通り開催致します。皆様におかれましては万障お繰り合わせの上、ご出席を賜りますようお願い申し上げます。当日は、懇親会も準備してお待ちしておりますので、ご参加を賜りますようお願い申し上げます。
 なお、ご出席予定の先生におかれましては、準備の都合上、4月10日(水)までに、下記のリンク先のGoogleフォームからお申し込みください。

<参加申込> https://forms.gle/hTWV1AmgFAmWdVCk7

謹白

開催日:2024年4月20日(土) 14:00〜16:30
会場:神奈川大学みなとみらいキャンパス
〒220-8739 神奈川県横浜市西区みなとみらい4-5-3
交通アクセス | 神奈川大学 (https://www.kanagawa-u.ac.jp/access/minatomirai/)
JR・東急東横線・京浜急行・横浜市営地下鉄 他 「横浜駅:徒歩11分」
みなとみらい線 「みなとみらい駅:徒歩6分」、「新高島駅:徒歩4分」

2024年度第1回フォーラム準備委員会
平井  裕久
尻無濱 芳崇
小村 亜唯子


交通アクセス・プログラム等の詳細は、PDFファイルをダウンロードしてください。

2023年度第3回フォーラム兼第2回(第65回)九州部会開催記

2023年11月25日(土)12:30~17:00

■■ 日本管理会計学会2023年度第3回フォーラム兼第2回(第65回)九州部会が、2023年11月25日(土)12:30~17:00に、鹿児島国際大学(鹿児島市)にて対面方式で開催された(準備委員長:福田正彦氏)。学会長の﨑章浩氏(明治大学)および開催校の小林潤司学長のご挨拶の後、特別講演および研究報告がおこなわれた。20名近い研究者や実務家の参加を得て活発な質疑応答がおこなわれた。


福田氏

﨑会長

小林学長

■■ 鹿児島銀行地域支援部地域開発室長の飯森利徳氏から「鹿児島の地方創生・地域開発の取組みについて」と題して特別講演がおこなわれた。地域資源と地域ブランドの価値向上、地域産業振興の「日置オリーブ」の取り組み、天文館などの再開発事業、鹿屋市など自治体との連携、オリジナルサイト「ふるさと1番」によるふるさと納税支援、地域振興券「Payどん」の成功例、都市部人材の「スキルシフト」による地域人材確保支援、産学金連携によるアイデアソンプログラムなど、地方銀行による地方創生の様々な取り組みが紹介された。

飯森氏

■■ 研究報告の第1報告は、水島多美也氏(中村学園大学准教授) により、「スループット会計・アメーバ経営・MQ会計における時間の意義について」と題する報告が行われた。生産管理分野で議論されている「製造付加価値作業比率」や「人時生産性」といった生産性指標を紹介され、管理会計分野で議論されているスループット会計・アメーバ経営・MQ会計と比較したうえで、付加価値と時間が共通の鍵概念になっていることを指摘された。そしてMQ会計とアメーバ経営を活用している熊本県のB社において、経営層の意思決定のMQ会計と現場管理のアメーバ経営が時間当たり付加価値指標を介してうまく連動している事例を紹介された。


水島氏

■■ 研究報告の第2報告は、宮地晃輔氏(長崎県立大学教授)により、「ポセイドン原則における非財務情報の生成プロセスと開示の影響」と題する報告が行われた。国際海運から排出されるCO2排出量が世界全体の約2%を占めており、ドイツ1か国分に相当している事実を指摘し、海事産業において船舶金融を通じた温室効果ガス削減のために2019年に制定された「ポセイドン原則」を解説された。ポセイドン原則が求めている「載貨重量トン数」「年間燃料消費量・燃料種類」「年間航海距離」といった気候変動達成度の推定に必要な非財務情報の開示の意義を検討したうえで、日本政策投資銀行や三井住友信託銀行が公表している気候変動達成度の実例や、これらの要求に応えらえる船舶建造における環境配慮型の原価企画の必要性について論じられた。

宮地氏

■■ 次回の九州部会は、2024年5月に開催予定である。

丸田起大(九州大学)

2023年度第3回フォーラム兼第2回(第65回)九州部会のご案内

2023年10月吉日

日本管理会計学会会員各位

日本管理会計学会
2023年度第3回フォーラム
兼第2回(第65回)九州部会のご案内

拝啓 
初秋の候、会員の皆様におかれましては、ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。
下記の要領にて、日本管理会計学会2023年度第3回フォーラム兼第2回(第65回)九州部会を、鹿児島国際大学経済学部(鹿児島市、準備委員長:福田正彦氏)を開催校として、対面方式にて開催いたします。参加費は無料です。懇親会は開催いたしません。万障お繰り合わせのうえ、ご参加賜りますようご案内申し上げます。参加をご希望の方は、準備の都合上、11月12日(日)までに、下記リンク先のGoogleフォームから、お申込みください。

<参加申込用Googleフォーム>https://forms.gle/xGaa7Ga68drT5PF56

敬具

1.日時:2023年11月25日(土) 12:30~17:00

2.開催場所:鹿児島国際大学経済学部 坂之上キャンパス 7号館 1階 710教室
 アクセスとキャンパス案内については、下記のホームページでご確認ください。
https://www.iuk.ac.jp/access/
https://www.iuk.ac.jp/gaiyou/campasMap/

3.プログラムは別紙の通り

【日本管理会計学会九州部会事務局】  
〒819-0395 福岡市西区元岡744 イーストゾーン
 九州大学経済学研究院 丸田起大研究室内
TEL:092-802-5454
email: marutaecon.kyushu-u.ac.jp


日本管理会計学会
2023年度第3回フォーラム 兼 第2回(第65回)九州部会プログラム

開催日時:2023年11月25日(土)12:30~17:00
開催方法:対面方式
開催場所:鹿児島国際大学経済学部 坂之上キャンパス 7号館 1階 710教室

■12:30~13:30 常務理事会 7号館 3階 会議室

■13:50~13:55 開会挨拶 鹿児島国際大学 学長 小林潤司氏

〔特別講演〕

■14:00~15:00(講演45分・質疑15分)

講演者:飯森利徳氏(鹿児島銀行 地域支援部 地域開発室 室長)
論題:「鹿児島の地方創生・地域開発の取組みについて」

(15:00~15:15 休憩)

 

〔研究報告〕

■15:15~17:00(報告30分・質疑15分)

第1報告 15:15~16:00
 報告者:水島多美也氏(中村学園大学)
 論題:「スループット会計・アメーバ経営・MQ会計における時間の意義について」

(16:00~16:15 休憩)

第2報告 16:15~17:00
 報告者:宮地晃輔氏(長崎県立大学)
 論題:「ポセイドン原則における非財務情報の生成プロセスと開示の影響」

■閉会挨拶 大会準備委員長 福田正彦氏(鹿児島国際大学)

以上


PDFファイル(JAMAフォーラム兼九州部会 2023年度第2回(第65回)プログラム.pdf

2023年度 第1回フォーラム 開催記


文責:李会爽(山梨学院大学)

 2023年度第1回フォーラムは,2023年4月15日(土)に明治大学(駿河台キャンパス)で開催されました。当日は悪天候にもかかわらず,北は北海道から南は沖縄まで,全国から80名以上の方々が参加しました。本フォーラムは,基調講演に税理士法人MSAパートナーズの淡路俊彦様からお話をしていただき,第1報告に琉球大学の庄司豊先生と京都大学の飯塚隼光先生の共同発表,第2報告に中村学園大学の水島多美也先生からご報告いただきました。
 大会は本学会学会長の﨑章浩氏(明治大学)のご挨拶から始まりました。﨑氏は昨年度の全国大会にて学会長に選ばれ,今回が就任以降初めての披露です。﨑氏は「会員の皆さんとともに本学会を盛り上げていきたい。」と抱負を語りました。
 淡路様は「管理会計で変わり得る中小企業経営 -長年の中小企業支援で感じたこと-」を基調講演のタイトルに,30年近くコンサルタントとして仕事をしてきた中,中小企業と管理会計,それに関与する金融機関との関係について熱く語られました。淡路様は大学で管理会計のゼミに所属,修士課程で管理会計を専攻したご経験から,一時期仕事において案件にBSCを仕掛けたいと思っていましたが,中小企業には難しいと感じて導入を断念した経験があります。その後,研究者の先生と自分の仕事内容についてお話したところ,自分が何気なく行っていたのがBSCと指摘され,そこで理論と実務の融合,知識の実践の重要さに実感されました。淡路様はコンサルタントには会社と金融機関とのお互いの間に抱いている不信感を如何になくし,信頼関係を再構築することに役立たなければならないと感じています。そこで要求されるのは,会社の状況に鑑み,的確な経営改善施策の策定と実行をアドバイスできるコンサルタントです。しかし,現状では臨床的な知識を活用できる管理会計に精通するプレーヤーが不在のため,中小企業の経営改善が効果的に施策できていないのです。そのため,「広範な知見と管理会計の背景を体系的に知る研究者の方々の役割が極めて重要になり,管理会計を学ぶ学生を増やし,その後コンサルティング会社に勤務するだけで,世の中の中堅中小企業の経営計画は格段に有効性を増大させることが期待されています。」と希望を語っていただきました。



(税理士法人MSAパートナーズ・淡路俊彦様)

 続いて庄司先生と飯塚先生から「シンプル管理会計の機能する条件に関する考察」をタイトルにご報告いただきました。主にご報告を担当された庄司先生は,中小企業における管理会計実践は教科書と比べ精緻ではないものが多くても,好業績を達成している企業が多く存在していることを問題意識としています。既存研究におけるシンプル管理会計のケースを紹介し,洗練度が低いといわれる管理会計手法であっても,有効に機能しうることを示唆しました。そこで,どのような状況であれば有効に機能しうるかについては検討がなされていないことに気づき,シミュレーションを用いたモデル分析により,特定のシンプル管理会計が機能する条件を探索することを目的とし,研究を行いました。結論としては,事前に想定していたものと異なる結果がありました。それは,規模拡大志向があり,需要の価格弾力性が極端に低いときにシンプル管理会計実践を行っている場合には,製品別原価計算を行う場合に比べて,損をしていないものの,利益を得る機会を逃していると考えられることです。つまり,シンプル管理会計は洗練された管理会計手法と比べて,機会を有効活用する能力が低い可能性を示唆していることが分かりました。



(琉球大学・庄司豊先生)

 最後に水島先生から「スループット会計と付加価値会計・アメーバ経営との比較」をタイトルにご報告いただきました。水島先生は付加価値概念を軸に,スループット会計,付加価値会計,アメーバ経営の間の関連性について検討を行い,さらに,スループット会計とアメーバ経営の類似点と相違点を明らかにし,スループット会計とアメーバ経営の融合可能性についての考えを述べました。当該報告では先行研究に続き,事例研究を行い,3つの結論を提示しました。第1に,事例研究を通し,付加価値会計やアメーバ経営の実践が実質的にスループット会計を実践しているとみなせる実務があることです。第2に,アメーバ経営のなかでスループット会計を実践している事例研究を通じて,成果配分の視点を欠いていると批判されてきたスループット会計が,アメーバ経営と融合することにより,その問題点を克服して進化を遂げる契機となることです。第3に,事例研究を通じて,アメーバ経営だけでなく,MQ〔マージン(粗利単価)×数量〕会計という管理会計システムを採用していることが,スループット会計の導入や実践の促進要因になるのではないか,という仮説を探索的に得ることができたことです。水島先生は,今後も多くの事例研究を積み重ねて当該報告の仮設を検証していきたいと述べました。

(中村学園大学・水島多美也先生)

 報告者と会場の皆さまのご協力の下で,第1回フォーラムは熱い議論を交わすなかで終了時間を迎えました。ほぼ来場者の全員が懇親会に参加し,そこで議論の続きを行い,最後に前会長の伊藤和憲先生からご挨拶をいただき,有終の美を飾ることができました。