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2009年度 第2回関西・中部部会開催報告

■■日 時
2010年2月27日(土)13:20~19:30

■■場 所
同志社大学室町キャンパス寒梅館

■■第1報告:「階層的会計コントロールによる水平的相互作用の促進:ケーススタディ研究からの知見」
李 燕氏(立命館大学博士課程)
2009kansai2_1.jpg 企業における階層的会計コントロールのもとで,どのように水平的相互作用が行われるのかを,外食産業の企業の事例により,明らかにしている。報告では,水平的相互作用および階層的会計コントロールに対する批判などの先行研究をレビューした後に,アカウンタビリティの概念を導入した先行研究や様々な関連する経験的研究方法論に基づく先行研究を概観している。そこで,外食産業であるチタカインターナショナル社に対するインタビュー調査に基づいたケース研究の結果が報告された。事例研究からの発見事項として,水平的相互作用を阻害すると言われてきた階層的会計コントロールが,事例研究においては,逆に階層的会計コントロールにより,社内カンパニー間の相互作用を促進したという結果が報告された。

■■第2報告:「地方自治体へのバランスト・スコアカード適用に関する諸問題」
佐藤 幹氏(広島大学大学院博士課程)
自治体マネジメントの向上・改善に貢献すると考えられていた行政評価がほとんど機能していない現状を踏まえて,財政難等の自治体が抱える問題を解決する手法としてのバランスト・スコアカードの可能性について検討を加えている。そこで,日本や米国の自治体へのバランスト・スコアカードの適用事例を検討した後に,適用が広がらない理由として,行政評価がマネジメントツールとして機能不全のまま適用されており,行政評価をバランスト・スコアカードにより行おうとすることは,本末転倒であると指摘した。さらに,BSCを普及させるためには,これまでに導入されたツールとの比較や,自治体の特性を十分に理解する必要があると主張した。

■■第3報告:「人的資源コストのマネジメント・システム」
山下千丈氏(関西学院大学博士課程)
2009kansai2_2.jpg 企業において,非正規社員の増加などの労働力の多様化が進むとともに,ビジネスプロセスのアウトソーシングが活発に展開されている。従来の人員数と給与・福利厚生費による人件費の管理では,多様なビジネスプロセスで発生する人的資源に係わるコストをマネジメントすることは極めて困難である。本報告は,人的資源のポートフォリオ・マネジメントをベースにして,人的資源コストを効果的にマネジメントするためのフレームワークを提唱した。まず,戦略に対する「人的資源の価値」と「人的資源の企業特殊性」の二要素から人的資源を,四つに類型化し,各類型の人的資源に関する特徴を明らかにした。
人的資源コストを構成する要素は「所要量計画」,「調達計画」,「調達コスト」であり,各要素別に四つの類型に有効なマネジメント手法を,現在の企業で実践されている具体例の紹介をまじえながら考察をおこなった。さらにABCなどの管理会計ツールを適用することにより,マネジメント・システムを進化させることが可能となるとした。

■■ 第4報告:「日本のDPC導入病院のコスト・マネジメントの実態」
栗栖千幸氏(近畿大学大学院博士課程)
本研究は,診断群分類(Diagnosis Procedure Combination:以下DPC)定額支払い制度を導入している病院のコスト・マネジメントの実態を明らかにすることを目的としている。今回の報告では,全国の2008年度DPC対象病院(717病院)におけるコスト情報の利用状況を提示した。
調査結果(回収数77病院、回収率10.7%)から以下のことが判明した。第1に,DPC導入病院の約半数が原価集計を定期的に実施しているが,診療科・部門別集計が9割である一方,DPC別の集計は約2割にとどまっており,DPCを単位とした原価管理・利益管理はあまり実践されていないと考えられる。第2に,病院単位での利益計算では広く実施されているが,診療科・部門別単位の利益計算は約5割であり,そのうち約2割でしか目標値が設定されていないことから,内部組織を単位とした利益管理が定着していないと考えられる。第3に,DPC対応のクリティカルパス開発チームは,医師,看護師,経理スタッフを含めた多様な職種で構成されており,経理スタッフは財務・非財務の情報をパス開発チームに提供していたが,多様なパス開発チーム構成が医業成果(在院日数と病床稼働率)に与える影響は有意に示されなかった。以上のことから,DPC導入病院ではコスト・マネジメントの実践が現状において普及していないことが推測される。

■■ 第5報告:「VBM環境下における事業のライフサイクル・ステージと業績評価システムの関係性に関する経験的研究」
徳崎 進氏(関西学院大学 経営戦略研究科)
実態調査研究に基づき,事業のライフサイクル・ステージがVBM(value based management;価値創造経営)を推進する事業単位の利益管理や原価管理への取組みに及ぼす影響を経験的に明らかにすることを目的に,先行研究の検討を踏まえて,「業績評価システムの設計・運用の適否が組織のパフォーマンスに影響を与える」という基本的な枠組みのもとで2つの仮説から成る因果連鎖を想定し,企業への質問調査から得られたデータを共分散構造分析の手法を用いて検証した。
「事業単位の業績評価システムの設計・運用の適否が会社の財務パフォーマンスに影響を与える」という基本的な枠組みの下で,作業仮説の検証を行った。仮説1では,モデルIの確認的因子分析の結果,適合度指標はいずれも所定の条件を満たし,事業のライフサイクル・ステージの特性を考慮した業績尺度の選定が事業単位の適切な管理会計ツールの採用に正の影響を与えるという検証結果が得られた。仮説2では,モデルIIの確認的因子分析の結果,適合度指標はいずれも所定の条件を満たし,ライフサイクル・ステージに対応する測定尺度を組み込み設計・運用されている業績評価システムは事業単位および会社の財務パフォーマンスに正の効果をもたらすという検証結果が得られた。

2009年度第2回大会準備委員会 中川優

2009年度 第1回関西中部部会開催報告

2009kansai1_1.jpg■■2009年6月6日(土)午後1時55分から、名古屋市立大学経済学部棟(3号館)にて、日本管理会計学会2009年度第1回関西・中部部会が開催された。今回の部会は、星野優太(名古屋市立大学)と斉藤孝一氏(南山大学)の司会により、院生と研究者とがそれぞれ日頃取り組んでいるテーマに沿って報告が行われ、テーマ的にも興味深い研究会となった。

2009kansai1_2.jpg■■まず、中富香苗氏(名古屋市立大学大学院生)が、「移転価格の設定とその比較可能性」というテーマで報告された。移転価格税制は、1995年のOECD移転価格ガイドラインが国際規範となっており、移転価格の設定には、同業他社との比較に基づいて独立企業間価格を算定する方法が採用されているという。この比較に基づく独立企業原則には、二重課税の危険性などのいくつかの問題点が挙げられ、一方、比較可能性を困難にする原因として、無形資産価値の算定の困難性、為替変動の影響、多国籍企業の組織形態の多様化、経済環境の急激な変化などが考えられることが指摘された。中富氏は、その上で、最近のOECDによる比較可能性の議論やEUの税制統合の動向を紹介しながら、現行の独立企業原則に基づく制度から定式による分配を活用する方法の可能性についての議論をした。

2009kansai1_3.jpg■■次に、木下徹弘氏(龍谷大学)により「Cost structure changes of Japanese man‐ufacturers amidst global competition」と題するテーマで報告があった。本報告は、日本製造業企業がグローバリゼーションの影響をうけてコスト構造をどのように変化させたかについて、上場企業746社の1980年から2006年の財務データを用いて分析した研究報告であった。グローバリゼーションが日本の製造業企業に与える影響は、世界中からの競合者の市場参入と加速度的なイノベーションによってもたらされる市場の縮小とデフレ圧力と定義される。こうした圧力をうけて、1990年代央以降、売上を頻々に減少させた企業は売上に対する原価の弾力性を高めたが、売上を順調に増加させた企業は原価の弾力性を緩和して規模の経済の利益を獲得しようとした傾向が強いことが実証された。

2009kansai1_4.jpg■■最後に、河田信氏(名城大学大学院教授)による、「「利益」から「利益ポテンシャル」概念へ- 財務分析の新たな可能性を探る」というテーマで報告があった。従来の経営理論は、投資家のために利益を拡大することを基礎としてきたが、今後は社会全体に利益をもたらすための理論を構築すべきであるという。このパラダイムシフトを考えたとき、従来のマネジメントの手法では無意識に部分最適化を選択してしまい、全体最適化に結びつかない場合も多い。TPSの導入は全体最適化に有効であるが、TPSの導入は容易ではない。そこでTPSとリンクした指標として、[売上総利益/棚卸資産]として表される「利益ポテンシャル」を提案する。これは利益率要素である[売上総利益/売上原価]とリードタイム要素である[売上原価/棚卸資産]を掛け合わせたものである。河田氏は、この指標ならば、TPSとリンクした業績評価が可能であり、財務分析の新たな視点として有用であるとする。

■■それぞれの報告の後には、フロアから興味深い質問が提出され、非常に活発な質疑応答がなされ、35名を越える参加者が熱のこもった議論を行い、有意義な関西・中部部会となった。

関西・中部部会大会運営委員長 星野優太