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2013年度学会賞(論文賞、文献賞、奨励賞)候補者募集のお知らせ

拝啓 会員の皆様には、ますますご健勝のことと存じます。
さて、下記に示した2013年度学会賞の候補者を「日本管理会計学会学会賞規程」 に基づいて、以下の要領で募集いたします。
会員の皆様には学会賞にふさわしい 候補者を積極的に推薦していただくようお願い致します。

1. 募集する学会賞  論文賞、文献賞、奨励賞(各賞とも若干名)
2. 審査対象業績   2012年4月1日から2013年3月31日まで に刊行されたもの。
3. 応募書類業績等  候補者の略歴、審査対象業績、業績リスト、及び推薦理由書
※応募関係書類、図書は返却いたしません。審査終了後、適切に保管、廃棄致します。

4. 推薦方法      会員の自薦及び他薦による。
5. 推薦締切日     2013年6月25日まで(当日必着)
6. 学会賞授与式   2013年9月14日(年次全国大会の会員総会)
7. 業績等の送付先  〒662‐8501 兵庫県西宮市上ヶ原一番町1?155
関西学院大学 商学部 浜田和樹 宛
Eメール:k-hamadaあっとkwansei.ac.jp (あっとを半角@マークに変更してください)

なお、学会賞の種類、その他の詳細な内容に関しては、「日本管理会計学会学会賞規程」をご参照ください。

以上

学会賞(論文賞、文献賞、奨励賞)審査委員会 委員長浜田和樹

JAMAスタディ・グループの新設について(公募)

日本管理会計学会会員各位

昨年7月の理事会で日本管理会計学会の共同研究グループの創設が承認されて以降,その具体化に向けて昨年12月の第4回常務理事会そして本年4月の第1回常務理事会で慎重に検討,審議してきた結果,別掲のようなスタディ・グループ規程および産学共同研究グループ規程が確定しました。
前者は,会員からの自主的な申請で組織するもので,日本会計研究学会のスタディ・グループに相当するものです。後者は,会長を中心とする学会執行部が主導性を発揮して,実務家の方にも入っていただき,事例研究なども含む産学共同研究グループとして組織する学会提案型の研究グループです。
さて,今回はスタディ・グループ規程に基づき,2013年度のJAMAスタディ・グループを広く会員の皆様に募集いたします。応募される会員は,規程にしたがって,1.研究課題と研究計画の説明書,2.研究グループの代表者および構成員の氏名ならびに所属機関を明記して,「JAMAスタディ・グループ申請書」として管理会計学会事務局宛(jama-info”あっと”sitejama.org)にメールで申し込んで下さい。規程では5月末が申請期日になっていますが,本年度の申請期日は特例として6月15日(土)にしております(締切厳守)。申請書については7月13日の第2回常務理事会で審議し,選考の結果はグループ代表者に通知いたします。
なお,申請書の様式としては,以下の内容を記載して下さい。

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JAMAスタディ・グループ申請書

研究代表者の所属・氏名・連絡先
(住所,電話番号,E-mail)

I  研究課題
II  研究目的(意義・概要・構想)
III 研究計画(方法・実施状況・期待される成果など)
IV 本研究に関する国内外の研究の現状と本研究計画の特徴
V  各共同研究者の所属と氏名,役割分担
VI 研究代表者および共同研究者の過去5年間の主な研究業績


日本管理会計学会 副会長 水野一郎

2013年度 第1回九州部会開催記

■■日本管理会計学会2013年度第1回(第39回)九州部会が,2013年4月20日(土)に九州産業大学(福岡市)にて開催された(準備委員長:浅川哲郎氏)。今回の九州部会では,関東・関西・北陸など他部会からも複数のご参加をいただき,20名近くの研究者の参加があり活発な研究報告と質疑応答が行われた。

2013kyusyu1_1.JPG■■第1報告では,足立俊輔氏(下関市立大学講師)より,「米国病院原価計算の発展と価値重視の病院経営」と題する報告があり,米国の病院経営および病院原価計算に関する文献調査に基づき,米国病院原価計算の発展を計算原理の精緻化の側面と計算合理性の側面から整理することで,医療の質とコストのバランスを考慮する価値重視の病院経営を支援する時間主導型の病院原価計算の有用性が明らかにされた。報告では,価値重視の病院経営においては時間主導型の病院原価計算を用いて医療提供者と病院経営者に共通の情報基盤を構築する必要性があること,また,医療システムの将来像として「価値重視の償還システム(value-based reimbursement)」を展望する必要があることが指摘された。

2013kyusyu1_2.JPG■■第2報告では,飛田努氏(福岡大学准教授)より,「中小企業のマネジメントコントロールシステム関する研究: 熊本・福岡の事例を中心として」と題する報告があり,中小企業におけるマネジメントコントロールシステム(以下MCS)の利用状況に関するアンケート調査と,佐賀県の金型メーカーS株式会社の事例研究が報告された。アンケート調査は,Simons(1995,2000)のMCSに基づいた共分散構造分析が行われ,大人数企業(30名以上)では会計情報利用に関して有意な関係が見られるものの少人数企業では有意な関係が確認できなかったこと,経営理念の浸透は少人数企業では係数が高いことが示された。またS社の事例では,業績評価システムの特徴のほか,社長が高齢化・引退する中小企業において事業継承をどう乗り越えるかが課題となっていることが指摘された。

2013kyusyu1_3.JPG■■第3報告では,吉田康久氏(九州産業大学教授)より,「英国の行政・公会計改革の取り組み ‐留学で感じ得たこと‐」と題する報告があり,イギリスにおける行政・公会計制度改革の取り組みが紹介された。報告では,サッチャー政権からの行政改革の一端として,競争入札制度やPFIからPPPの流れや,包括的業績評価制度から包括的地域評価制度の変遷など,英国の行政改革の経歴に沿って議論が進められた。また,公会計制度改革の取組主体として英国勅許公共財務会計協会(CIPFA)が果たす役割や,資源会計予算の特徴,それに勅許公共財務会計士の認定制度についても言及され,英国においても発生主義会計の導入にあたって解決すべき課題があるため結論には達していないことが説明された。

2012年度 第2回関西・中部部会開催記

2012kansai2_1.JPG■■2013年3月23日(土)12:50から,兵庫県立大学 学園都市キャンパスC104教室 において,2012年度 第2回 関西・中部部会が開催された。部会の前半においては,山本達司氏の司会により3つの自由論題の報告が,後半の統一論題においては浅田孝幸教授の司会により3つの報告が行われた。以下はその概要である。

■■第1報告 梅谷幸平氏(大阪大学大学院経済学研究科博士後期課程)

「日本の紡績業界およびアパレル業界における倒産予測の実証研究」

2012kansai2_2.jpg 本報告の目的は、企業の経営管理目的から倒産予測モデル研究を行い,日本の紡績業界およびアパレル業界における安全性の管理指標を明らかにすることである。管理指標として,個別企業の倒産確率が推定可能な確率統計技法を用いるとともに、使用する説明変数には企業の自助努力で改善ができること、リスクを低減するための多様な対策が可能であることといった特徴を持つ「安全性指標」に焦点をあてた分析のプロセスと分析結果が報告された。また,個別企業の倒産予測という微視的な視点により近づけるために,紡績業界およびアパレル業界という細分化した業界を各々調査対象とし,企業の類似性を維持したクラスター視的な統計的知見が示された。

■■第2報告 佐藤清和氏(金沢大学)

「マルチンゲール測度に基づく確率的CVP分析の拡張」

2012kansai2_3.jpg 従来の不確実性下におけるCVP分析の研究では,特定時点における操業度等を確率変数とする確率的CVP分析が検討されてきた。これに対して,本報告ではCVPの時系列を対象とした動学的視点からの確率的CVPモデルが提示された。
具体的には,営業収益の時系列がマルチンゲールになると仮定することで,営業収益のボラティリティに基づくリスク中立確率を導出し,これによって利益請求権(オプション)としての株式価値のバリュエーションが試みられた。

■■第3報告 河合隆治氏(同志社大学) 乙政佐吉氏(小樽商科大学) 坂口順也氏(関西大学)

「わが国におけるバランスト・スコアカードの動向:欧米での蓄積状況を踏まえて」

2012kansai2_4.jpg 現在,バランスト・スコアカード(Balanced Scorecard;以下BSC)研究は、欧米のみならず,わが国においても管理会計領域の主要テーマの一つとして位置づけられている。しかしながら、BSCは,さまざまな研究者によって,多様な観点から研究されてきたため,BSC研究の蓄積状況について全体像を把握することは容易ではないのが現状である。
本報告では,論文数,研究方法,理論ベース,研究サイト,研究内容が経時的にどのように変遷しているのかに関する文献分析をもとに,欧米でのBSC研究の蓄積状況との比較による考察を通じて,わが国のBSC研究の特徴が明らかにされた。

■■統一論題においては、「管理会計とリスク」というテーマで、淺田孝幸教授の座長のもと、若手研究者2名によるこれまでの文献研究および企業調査を基礎にした提案、および公認会計士1名による実務経験を踏まえた興味深い知見をうかがうことができた。

■■第1報告 大浦啓輔氏(滋賀大学)

「危機管理における管理会計の意義:組織間関係の視点から」

2012kansai2_6.jpg 本報告では,危機的状況において,管理会計がどのような意義と役割をもつのかについて考察された。第1に,リスクマネジメントと危機管理を定義し,危機管理はリスクの顕在化を防止することよりも,危機発生後の損失の最小化と復旧のための対応に重点があることが述べられた。そして,欧米と日本の危機管理に関する管理会計領域の先行研究のレビューを踏まえて,危機管理に関する研究は,重要なのにもかかわらず,管理会計ならびに経営情報とコントロールシステムに関連する領域で,まだほとんど行われていないことが報告された。第2に,東日本大震災時のJR貨物の対応事例から得られた知見が紹介された。すなわち,震災前と被災・復旧時とでは以下のような変化があった。(1)組織構造が集権的かつ機能分化した専門組織だったのが,現業部門の指揮命令系統は確保しながらも,有機的・自律的な職能横断的,自律的なチーム活動,インフォーマルなコミュニケーションが盛んに行われた。(2)たとえば,予算管理は危機的状況において,どのように柔軟に対応できるかということが課題なのであるが,平時の経営計画に基づいた地域別の損益予算から,通常のPDCAに基づいた予算管理とは異なる形での管理会計情報の生成と運用が観察された。第3に,Hopwood(2009),Van derStede(2011)による金融危機からの知見と本事例を比較して,危機に直面した組織において,組織内,組織間の会計情報の利用形態に変化がみられた点では一致していたこと。その背景には組織構造の変化があった。第4に,本研究の限界として危機管理は地域固有のコンテクストに依存する可能性が高い点で学術的研究としては困難を伴うこと,そして,従来からの管理会計の既存研究の流れの延長上で研究を展開する可能性を検討していきたいという見解が表明された。

■■第2報告 山下直紀氏(山下公認会計士事務所)

「投資意思決定におけるリスク」

2012kansai2_7.jpg 本報告では,事業投資意思決定におけるリスクの考慮方法について,理論と実務との間にかい離があるという報告がなされた。すなわち,ファイナンス理論に基づいた計算結果だけで意思決定が行われるのではないという事実が紹介された。日本の某大手総合商社では(1)定量基準と(2)定性基準があるが,投融資委員会においては,(1)を見極めながらも(2)が重視されているのではないかという実務家ならではの体験に基づく見解が表明された。また,中小を含む多くの一般事業会社でも,キャッシュフローで判断することの意義を理解しつつも,純資産法での意思決定がなされる事例が多いのではないかという見解が示された。実務で利用される技法には「分かりやすさ」という点が重要であること,ファイナンス理論に基づく合理的な意思決定だけでは説明のつかない事象があるとのことである。これらについては,さらなる研究に期待したいとの意見が述べられた。

■■第3報告 安酸建二氏(近畿大学)

「業績測定指標とリスク」

2012kansai2_8.jpg 本報告では,意思決定会計と業績管理会計という2つの観点から管理会計とリスクの問題が扱われた。意思決定会計における投資決定では,理論上,資本コストとしての割引率にリスクが反映されることになる。このリスクは,予測される将来キャッシュフロー(以下,CF)の期待値のまわりのバラツキである。したがって,将来CFの期待値に対する実現値がバラツクことは,意思決定時点のリスクを反映する資本コストとしての割引率に織り込み済みである。
将来CFの流列は資本コスト控除後の利益の流列へと変換可能であり,業績管理会計上の収益と費用を用いた予算へ取り込むことができる。この時,意思決定会計上,バラツキを伴う期待値であったものが,業績管理会計上のPDCAサイクルでは目標値として扱われバラツキが許容されない。経営とはこのバラツキに対処し,目標値を組織的に実現する営みとして業績管理会計では理解されている。このような考え方は,例えば,標準原価計算における価格差異の追跡と責任部門へのフィードバックに典型的に見られる。
意思決定の場面ではバラツキを伴う「予測」であったものが,業績管理の場面ではバラツキを許容しない「目標」となる。この結果として管理会計でリスクを扱うことが困難になっていると,報告者は考えている。
さらに,意思決定会計のロジックと業績管理会計のロジックは,必ずしも整合性のある形で共存していない。例えば、投資プロジェクトを念頭に置けば,計画値と実績値の対比が可能になった時点では,理論上,過去の意思決定は,現時点の意思決定とは無関連である(価値無関連である)。したがって,意思決定会計のロジックでは,事前の計画値と実績値の対比に意味を見出すことは困難である。しかし,現実の経営実務ではしばしば過去の計画値と実績値の対比が行われている。 本報告では、以上のような問題が提起された。

頼 誠(兵庫県立大学)

2012年度 第3回 フォーラム開催記

2012forum3_1.jpg■■ 日本管理会計学会2012年度第3回フォーラムは,玉川大学を会場として,2012年12月8日(土)に開催された(実行委員長:山田義照氏)。今回のフォーラムのテーマは「ものづくりの管理会計の再考」とされ,日本のものづくりと管理会計の関係に焦点を当てた研究報告と企業講演が行われた。参加者は70名を超え,熱のこもった議論が繰り広げられた。第1部の研究報告では,園田智昭氏(慶応義塾大学)の司会のもと,原慎之介(一橋大学大学院),田坂公氏(久留米大学),中嶌道靖氏・木村麻子氏(関西大学)の3組が報告された。第2部の企業講演では,司会を伊藤和憲氏(専修大学)にバトンタッチし,織田芳一氏(富士ゼロックス株式会社 調達本部原価管理部)が講演された。その後,場所を移して懇親会が行われ,1年間の学会活動を振り返りながら,今回のフォーラムを惜しみつつ散会となった。

■■ 第1報告:原 慎之介氏

「Jコストによる現場改善効果の測定-資金効率の視点から-」

2012forum3_2.jpg 原氏は,既存の会計理論は原価低減に偏重していて,在庫低減やリードタイム短縮活動の評価に必ずしも結びついていないと主張され,Jコストを現場に導入することの意義について述べられた。Jコスト論は,トヨタ生産方式を会計的に評価することを目的として,田中正知氏(ものつくり大学名誉教授)によって提唱されたものである。現場のリードタイムを短縮する効果を財務的数値とリンクさせることを目的として作られた理論であるという。
氏は,Jコスト論の「現場の問題を顕在化する」側面と「現場の改善効果を評価する」側面に焦点を当て,管理会計技法としてのJコスト論の役割を明確化された。その上で,利益尺度としてのJコスト,資金尺度としてのJコストについて述べられ,どのようにJコストを現場に活かせばよいのかをシミュレーションベースで説明された。
Jコストの計算方法は,コストと時間の積で表される面積(縦軸にコスト,横軸に時間)であり,その本質は資金量である。縦軸を短くする改善が原価低減であるのに対し,横軸を短くする改善がリードタイム短縮で,これらの積を用いた理論がJコスト論である。またJコストの総和は製品1単位を作るために要した棚卸資産にも相当するという。
また,Jコスト論の特徴として,原価のみならずリードタイムや資金の利用量も測定できるものであることを強調された。特に資金面だけに影響を与える改善について評価できるということ,つまり,既存の会計理論では,利益に結びつかない要素を正しく評価しにくいため,Jコスト論によって評価することが重要であるという。
最後に,会計技法は利益に基づいた評価がなされるため,現場の改善活動が正当に評価されていないという問題点を指摘された。その上で,田中氏が主張されている利益尺度としての利用方法と原氏が今回の報告で述べられた資金尺度としての利用方法を用いてJコスト論を利用することにより,これらの問題の解決が図られると結論を述べられた。

■■ 第2報告:田坂公氏

「グローバル型企業における原価企画の展開と課題」

2012forum3_3.jpg 田坂氏は,円高の問題を始めとする厳しい企業環境の変化のなかで,日本の企業が国内から海外へ出て行ってしまっているという現状を憂え,原価企画がどのようにグローバル企業に対応してきているのかについて報告された。報告では,原価企画の先駆的企業である自動車部品メーカーA社に対する調査を一つの事例として,特に新興国向けにどのような原価企画が展開されているのかについて述べられた。
最初に,世界の自動車販売の現状について次のように紹介された。日本自動車工業会による世界の自動車販売数のデータを,氏が先進国向け販売数と新興国向け販売数に分けたところ,先進国向けは横ばいあるいは減少しているのに対し,新興国向けはこの10年間で約3倍となっており,情勢が大きく変わっているという。また,日本政策投資銀行の資料より,先進国市場における原価企画の対象車は低燃費車,環境技術を駆使した製品が中心となっており,品質とコストがしっかりと検討されながら開発されていることが分かる。一方,新興国市場は,モータリゼーション以前の国もあり,かなりバラつきはあるが低価格車の開発が原価企画の対象となっている。研究の側面については,先進国向けの原価企画は進んでいるが,新興国向けの研究が立ち遅れていることを指摘された。
次いで,Bartlett and Ghoshal(1989)の先行研究を紹介され,グローバル型企業の戦略パターンについて述べられた。戦略パターンは,(1)グローバル戦略,(2)マルチナショナル戦略,(3)インターナショナル戦略,(4)トランスナショナル戦略の4つに分けられる。とくに,(4)トランスナショナル戦略は,(1)・(2)・(3)が発展した最終形態であり,本国と展開先との相互依存性を強くすることができる理想形であるという。先行研究の中では,新興国市場への展開が必ずとも示されておらず,その展開を考える余地があるとまとめられた。
そこで,氏が2011年に調査された部品メーカーA社の事例を用い,新興国向けの原価企画がどのように行われているかを紹介された。最初に,A社が新興国における原価企画で失敗をした例を示された。失敗をした原因として,先進国で成功した原価企画を新興国にそのまま移転しようとしてしまったことをあげられた。魅力的品質の考え方は国ごとに違うため,現地適用品を開発しなければならなかったという。たとえば,車のエアコンは,先進国では静かな方がよいが,新興国(インド)においては音が出る方が好まれる傾向にある。新興国向けの原価企画においては,機能を落としてさらにコストを下げるという,いわばVEの「禁じ手」を使うこともやむを得ないという。この失敗から,原価企画の原点である「市場価値を取り込んだ源流管理」に立ち返ることを意識させられたと述べられた。この失敗を踏まえ,A社は,(1)最適機能,(2)最適品質,(3)最適生産,(4)現地化推進の4つを掲げ低コスト化を目指している。次いで,A社の中国での事例についても述べられた。
最後に,Bartlett and Ghoshal(1989)の先行研究では,グローバル企業の戦略はトランスナショナル戦略が理想とされたが,A社の事例ではマルチナショナル戦略的な見解がなされる傾向があると主張された。今後は,国ごとにニーズが異なることを意識して「マルチナショナル型」の戦略パターンにおける原価企画をいかに展開できるかが課題となるとまとめられた。

■■ 第3報告:中嶌道靖氏・木村麻子氏

「日本のものづくりを強化するMFCAの有用性とは」

2012forum3_4.jpg 中嶌氏と木村氏の共同研究において中嶌氏が中心となり報告された。氏は,MFCAが物量管理とコスト情報を組み合わせて行われる管理会計技法の一つとして位置づけられることを説明され,(1)日本のものづくりの評価(マテリアルロスの発見),(2)日本企業のものづくりを強化する(マテリアルロスの削減),(3)MFCAの有用性とは(改善点の拡大と拡張・コスト削減と結びつく技術革新)という3つの視点で報告された。
最初に,MFCAから日本のものづくりはどのように見えるのかを以下のように述べられた。物量情報の側面から「ものづくり」をみると,原材料のうち多くの部分がロスとなっているのが日本の現状である。それらは環境管理会計という手法のなかで資源生産性という言葉を使いながら説明されている。ものづくりという視点でとらえると無駄なく作ることが何よりも必要であり,MFCAを用いてコストで評価することが重要であろう。コストの評価が適切であるかないかという議論も欧米では存在しているが,MFCAは,たとえば35%が製品にならなければ製品原価全体の35%がロスになると考えてみようということだ。日本の企業の中には,無駄を出しながら生産しているという認識をしている企業はほとんどない。氏が調査したところ,コストに関しては「乾いた雑巾」でありこれ以上絞れるところはないと答える企業が多いが,実際にMFCAを用いてみると見えてくるコスト(ロス)があるという。
次いで,サプライチェーンにMFCAを導入する意義について述べられた。マテリアルロス発生のカテゴリーを明確にされ,サプライチェーンでの品質情報の共有によるマテリアルロスの削減,つまり,管理レベルを合わせることによるマテリアルロスの削減について説明された。続いて,経済産業省産業 技術環境局環境政策課 環境調和産業推進室(2010)の資料を基に硝材メーカーとキヤノンの事例を取り上げられ,技術開発と技術連携によるマテリアルロスの削減について述べられた。自社だけでコストダウンを考えるのであれば,原価企画という考え方もありうるが,技術力がなければそれに対して答えることはできない。そもそも企業自身がどこに問題があるのかを把握していないのではないかという疑念のもと,サプライチェーンにMFCA的な考え方や情報を共有できれば,より大きな資源生産性の成果が得られるのではないかとまとめられた。また,氏が行った「MFCAをサプライチェーンで活用するためのアンケート調査(郵送1,561社,回答356社)」についても詳説され,MFCAの認知度や,取引の継続性と材料歩留りの把握・共同改善,2社間の情報窓口の実態などについて明確にされた。
最後に,MFCAに対する3つの課題について述べられた。1つ目は,日本のものづくりにおいて,いかにサプライチェーンにMFCAを使った成功事例なり,マネジメントを作り出すかである。2つ目は,日本企業は海外にシフトを始めているが,日本で作ったMFCAのマネジメントをどのように海外に移転させるかである。3つ目は,マネージャーがいないという問題である。管理レベルと技術を作り上げても,それらをつなぎ合わせる人がいないという課題にぶつかる。技術と実行を噛み合わせる部分に人がうまく育っていないという現状が非常に大きな問題となっているという。

竹迫秀俊(城西国際大学大学院)