2015年度第3回(第47回)九州部会 開催記

2015kyushu3.png■■ 日本管理会計学会2015年度第3回(第47回)九州部会が、2015年11月7日(土)に福岡大学(福岡市城南区)にて開催された(準備委員長:飛田努氏(福岡大学))。今回の部会では、九州以外に中部・関東からもご参加をいただくなど、15名近くの研究者や大学院生の参加を得て、活発な質疑応答が展開された。

■■ 第1報告は、黒岩美翔氏(九州大学大学院博士課程)より、「社会責任戦略コントロールに関する一考察:全社的リスクマネジメントERMの可能性」と題する研究報告がなされた。本報告は、財務的コントロールと社会的コントロールの比較考察を通して、マネジメントコントロールやガバナンスシステム、また全社的リスクマネジメントがどこへ向かうのかについて、その手掛りを得ることを目的としている。
報告では、Moquet(2010)に基づいて、社会的責任戦略コントロールを行っているフランスのダノン社の事例を通じて、社会的責任の4つの特徴を分析しながら理論的提案を行っている。報告者は、Moquet(2010)を踏まえた理論的提案を踏まえて、企業が社会的責任戦略のコントロールを実現する方策として「CSRを考慮したERM」を提案している。

■■ 第2報告は、木村眞実氏(沖縄国際大学)より、「自動車解体業への試案MFCAー樹脂を対象としてー」と題する研究報告がなされた。本報告は、MFCAを使用し、静脈産業の生産プロセスには改善の可能性があることを示すことを目的としたものである。
報告では、静脈産業である自動車解体業A社を対象にして、安城・下垣(2011)に基づいて作成された「試案のMFCAバランス集計表」のエクセルの計算例や、リサイクルフロー図が示された。A社では従来、使用済自動車由来の樹脂部品(バンパーなど)は代替加炭材の原料として処理されていたが、この樹脂部品を樹脂ペレットという形でマテリアルリサイクルを行うという生産プロセスの改善がされている。報告者は、試案のMFCAバランス集計表を作成した結果、こうした生産プロセスの改善の効果が金額や物量ベースで「見える化」できたことを示している。

■■ 第3報告は、新茂則氏(中村学園大学)より、「日本版スチュワードシップ・コードとROE投資」と題する研究報告がなされた。本報告は、企業の収益向上に向けた政策と株価動向の実証分析を行うことを目的としている。
報告者は、日本の株式市場の最大の投資家は外国人投資家であること、ROEについて経営者と投資家の意識のズレがあること、JPX日経インデックス400(JPX400)の創設により企業経営者の意識にROE経営に重きをおく環境が整ったことなどを問題意識に置いている。報告では、quickやヤフーファイナンスのデータの分析結果が示され、東証時価総額上位企業のROEとPBRには正の相関(0.68)がみられること、JPX400と為替レートは強い正の相関(0.88)があること、JPX400の投資収益率のパフォーマンスはベンチマーク(TOPIX)よりも高いことが示された。

■■ 第4報告は、西村明氏(九州大学名誉教授)より、「管理会計におけるデリバティブとものづくり」と題する研究報告がなされた。本報告は、リスク一般ではなく、最も現実的で企業経営に影響するリスクと管理会計との関係を明らかにすることで、現代における管理会計の特徴と問題点の解明を目的としている。
報告者は、Nishimura(2015)で提案したCOLCモデル(Comprehensive Opportunity and Lost Opportunity Control Model)は強い金融経済の中で、リスク管理や持続的な収益性に確報する方法であるとしても、デリバティブの投機性を処理することはできないため、企業経営と管理方法がその社会的な運用において、社会との対話や批判を組み入れ、公正かつ客観的なものでなければならないとしている。その意味での管理会計は、国際会計基準、とりわけコーポレートガバナンスや内部統制と強い連携を持つと共に、公開制・透明性・管理責任制をより強く意識し、システムとしてそれらを確立しなければならないと結論づけている。

■■ 報告会終了後には開催校のご厚意で、大学周辺の居酒屋で懇親会も開催され,実りある交流の場となった。

足立俊輔 (下関市立大学)