2017年度第2回フォーラム開催記

2017年度第2回フォーラムは、2017年7月15日に大阪大学において開催された。今回のフォーラムでは、自由論題3報告と、株式会社日本経営副社長の丹羽修二氏をお迎えしてゲストスピーカー講演が行われた。フォーラムの参加者は41名であった。

2017074.jpg 最初に、フォーラム担当常務理事である中川優氏(同志社大学)、および大会準備委員長である山本達司氏(大阪大学)の開会の挨拶の後、椎葉淳氏(大阪大学)の司会の下で約2時間にわたって3名の先生方による研究報告が行われ、活発な質疑応答が展開された。その後、水野一郎先生(関西大学)の司会の下、株式会社日本経営副社長の丹羽修二氏から「日本経営グループにおける理念経営と人財育成~国内最大級の医療経営コンサルティンググループの成長の軌跡~」と題した講演が行われた。その後は、大阪大学豊中キャンパス・待兼山会館にて、懇親会が開催された。自由論題における各先生方の報告概要は以下のとおりである。

■ 第一報告 石川 徹氏(大阪大学)201707151.jpg
フェア・ディスクロージャー規則が経営者の情報開示と資金調達に与える影響

第一報告では、我が国で施行されるフェア・ディスクロージャー・ルールの影響を、数理モデルを用いて分析した。このフェア・ディスクロージャー・ルールには、企業による選択的開示を禁止して、資本市場の公平な競争の場を確保する目的がある。しかし、米国において、同様の趣旨の規制が導入されたときには、意図せざる帰結も報告されている。
本報告では、フェア・ディスクロージャー・ルールの影響を、数理モデルを用いて分析し、導入されたときの理論的予測を与えた。具体的には、このルールの対象となる、企業、アナリストの開示する情報、新規投資などに与える影響をみた。その結果、経営者の開示行動の変化は、経営者の性質、アナリストの性質に依存することが明らかになった。さらに、フェア・ディスクロージャー・ルールによってアナリストの開示する情報の精度が減少するという予測が得られた。また、新規投資機会の効率性に対しては、アナリストの性質がその結果を左右することがわかった。

■ 第二報告 布施匡章氏(近畿大学)201707152.jpg
顧客価値実現につながる新事業創出手法とその検討方法-サービスデザイン手法とIT企画人材育成セミナーを通じて-

第二報告では、企業IT部門からの新ビジネス創造の可能性について、公的データによる知見とセミナー実施の報告がなされた。現状の企業IT部門では、ITの発展に伴い日々役割が拡大している一方で、その要員数は増えていない。また、開発や運用管理等の要員を減少させ、IT戦略、システム企画担当等の要員を増加させる方向性である。企業側はIT部門のミッションとしてビジネスモデルやビジネスプロセスの変革を位置付けているが、期待に応えられているとは言い難い状況である。これらから推測されるのは、IT部門によるビジネスモデル変革の困難さと、クラウド等のIT技術の進展により、システムの脱開発・脱運用管理が進み、業務改革が求められているIT部門の姿である。よって、IT部門から事業創造ができないのは、能力の問題ではなく、IT人材のリソース不足と、課題発見ができない、自社のリソースに詳しくない等の問題であるとの仮説が提示された。
次に、変革期にあるIT部門からの事業創造を考えるセミナーの実施報告がなされた。セミナーではサービスデザイン手法を用いた。サービスデザインとは、顧客視点を徹底し、「顧客経験価値」を最大化することによってビジネスモデルを設計する手法である。セミナーでは仮想企業の社員として、手法を学びビジネスアイデアを新規事業企画書として討論し、プレゼンした。顧客視点から現在存在するサービスを見直すだけに留まらず、事業創出に転換できていたとの報告がなされた。まとめとして、真の検証はセミナー参加者が、自社において実際にビジネスを設計することでなされると締めくくられた。

■ 第三報告 岩田悦之氏(ZECOOパートナーズ株式会社,公認会計士)201707153.jpg
第三者割当増資における制限付新株予約権の価値評価~事例からみる問題点

第三報告では、第三者割当増資における制限付新株予約権の価値評価について、事例に基づき報告された。行使制限条項を付した新株予約権(制限付新株予約権)の発行に伴って、価格の有利発行性について判断するための公正価値評価が、実務上求められている。しかし、実際の算定書における評価結果が、必ずしも公正価値を示しているとは限らない。仮に算定書における評価結果が誤っていたとしても、理論的根拠が乏しいために反証できず、盲目的に受け入れられてしまう可能性を生んでいる。このような問題の原因として考えられるのは、複雑な条件のもとに設計された予約権価値評価について、そもそも理論的な(あるいは規範的な)モデルが整理されていないことである。
本報告では、実務場年における評価事例から、算定書の評価結果が過少評価となっている可能性を明らかにし、その問題を整理している。

大阪大学大学院 椎葉 淳