2014年度 第3回 フォーラム開催記

■■ 師走の第一土曜日、12月6日に日本2015管理会計学会2014年度第3回フォーラムを甲南大学で開催した。お忙しい時節にもかかわらず、万障繰り合わせ全国から50名強にのぼる方々にご参加頂いた。フォーラムならびに懇親会にご出席頂いた皆様方に心からのお礼を申し上げたい。ちなみに、同フォーラムは2つのセッションでもって構成し、第一セッションを「統合報告の管理会計へのインプリケーションズ」と題し、第二セッションは「管理会計・原価計算の教育をめぐる課題と対応」と題してセッションを進めた。なお、本大会記掲載の原稿は個々の報告者にご執筆頂いており、当日のスケジュールに沿って掲載している。

■■ フォーラム・スケジュール
開会挨拶 (13:00-13:10)  上埜 進(フォーラム実行委員長、甲南大学)

■ 第一セッション: 統合報告の管理会計へのインプリケーションズ (13:10-14:50)
開題(15分): 統合報告の歩みと現況
上埜 進 (甲南大学大学院社会科学研究科)
報告(30分): 管理会計実践にとっての統合報告の意義
伊藤嘉博 (早稲田大学商学学術院)
報告(30分): 統合報告をめぐる実証研究
-長寿企業データを用いたパイロット・テストの紹介-
大鹿智基 (早稲田大学商学学術院)
報告者によるDiscussions(10分)
Q&A(15分)

■ 第二セッション: 管理会計・原価計算の教育をめぐる課題と対応 (15:10-16:50)
開題(10分): グローバル環境下の日本の会計・経営教育
原田 昇 (目白大学経営学部)
報告(20分): 専門教育へのアクティブ・ラーニングの適用可能性
島 吉伸 (近畿大学経営学部)
報告(20分): 一橋大学の職業人養成教育
古賀健太郎 (一橋大学大学院国際企業戦略研究科)
報告(20分): 実務への適合性と研究の厳格性の調和に向けて:
神戸大学における研究者養成教育
梶原武久 (神戸大学大学院経営学研究科)
Discussions(10分):大島正克 (亜細亜大学経営学部)
Q&A(20分)

■■ 第一セッション: 統合報告の管理会計へのインプリケーションズ
■開題 : 統合報告とは -その歩みと現況-
上埜進 (甲南大学大学院社会科学研究科)
Accounting Disclosure, Investors Relations, Stakeholder Management といった脈絡でとらえられている統合報告が、どのようにして生まれ、発展し、その存在感を増し、今日、制度化に向かって進んでいるのかを私どもは理解しておきたい。また、統合報告がどのように実践されており、そのアウトプットである統合報告書がどのような様式・内容をなしているかを確認しておきたい。このことを開題で比較的丁寧に論じ、より特化した報告をされる伊藤先生と大鹿先生の前座を果たせるように心がけた。また、統合報告という開示にかかわる実務プロセスを、管理会計というパースペクティブから捉え、経営管理の改善にinternalize(内部化)することの大切さを強調した。

■ 第一報告要旨: 管理会計実践にとっての統合報告の意義
伊藤嘉博 (早稲田大学商学学術院)
統合報告が管理会計研究ならびに実践に与える2つの影響に関して報告を行った。第一に、統合報告に不可避な財務情報と非財務情報との統合のためのプロトタイプモデルとしてバランストスコアカード(BSC)の貢献が期待されているが、こうした期待に応えていくためには、BSC自身にも変革が必要であると論じ、その方向性の一端を示した。また第二の影響として、統合報告の進展が予算制度の在り方にも変容をもたらす可能性に触れ、結果において脱予算経営への傾斜が促進されるという展望を示した。

■ 第二報告要旨: 統合報告をめぐる実証研究
-長寿企業データを用いたパイロット・テストの紹介-
大鹿智基 (早稲田大学商学学術院)
統合報告をめぐる実証研究について報告をおこなった。まず、先行研究を確認し、強制適用されている南アフリカに着目した研究があり、統合報告書の開示項目についてGRI3.1に準拠している企業が多いこと、しかしそれでもなお、開示情報の「統合の程度」は不十分であること、などが明らかにされていることを紹介した。また、それ以外の国において任意適用をしている企業の特徴に関する実証分析を紹介した。
その上で、今後、統合報告そのものの有用性について株式市場の反応を観察する研究や、具体的な開示項目を検討するための実証研究が必要になることを指摘した。さらに、パイロット・テストとして報告者らがおこなった、長寿企業に着目した実証分析を紹介した。長寿企業は、統合報告の目指す「サステナビリティ」を達成した企業である。分析結果は、長寿企業において、株主以外のステークホルダー(従業員、債権者、国)に対する価値分配が大きいこと、その前提として収益性が高く安定していることなどを明らかにしている。

■ 報告者によるDiscussion、およびQ&A
Discussionの冒頭、伊藤嘉博先生と大鹿智基先生が、相手の報告の中で関心をひいた事項に焦点を当て、さらに敷衍するように求められた。その後のQ&Aでは、会場の2名の先生からご質問があった。統合報告が管理会計研究者のコンベンショナル・ウィズダムになっていないこともあり、いずれの質問者も、統合報告が財務会計、管理会計といかなる位置関係にあるのかに関心を寄せられていた。

■■第二セッション: 管理会計・原価計算の教育をめぐる課題と対応
■ 開題: グローバル環境下の日本の会計・経営教育
原田 昇 (目白大学経営学部)
「管理会計・原価計算の教育をめぐる課題と対応」という統一論題のもとで、グローバルに対応して質的転換をなして世界に通用する会計・経営教育に係る論点を開題として提起した。
まず第1の論点は「会計教育の内容」については、Relevance Lostの観点から会計教育の実務からの乖離をどう解決するか、実践科学であることから会計や経営の普遍的な原理と原則をどう教育するか、さらにそれらの関係をどう合理的に解決するかなどにある。また第2の論点は「会計教育の方法」に関して、「主体的に学ぶ力」(学士力)を養成する教育方法の1つとしてアクティブ・ラーニングを検討することにある。第3の論点は「会計教育の目的や対象」について、研究者、専門職、会計マインドをもった管理者、会計経営教育者などの養成目的に応じてそれぞれの会計教育に必要な知識の体系を明らかにすることにある。
これらの論点を踏まえると、大学における教育の原点はグローバル化に対応する「研究に基づく教育」にあり、会計・経営教員や大学院生に研究とディスカッションの場を提供し、学問の現状(state of the art)を知らせ相互に切磋琢磨できる「セミナー」や「ワークショップ」が極めて重要な位置を占めることを主張した。

■ 第一報告: 専門教育へのアクティブ・ラーニングの適用可能性
島 吉伸 (近畿大学経営学部)
管理会計は実務から生成し、実践を通じ発展してきたマネジメント手法である。その性質上、教科書の解説だけではなく、ケースを通じて実務における管理会計の活用方法を学ぶことが効果的である。しかし、実務経験や知識の乏しい初学者にとって、ケースから管理会計手法を理解することはやはり難しい。そこで本報告では、現在様々な教育領域で注目されているアクティブ・ラーニングをとりあげ、学生に対して専門教育への興味を抱かせ、主体的・能動的に学習させる仕組みとして、会計領域において既に実践されているアクティブ・ラーニングを活用した教育手法を紹介した。最後に、私がこれまで実践してきた「折り鶴」から学ぶコスト・マネジメント教育の概要とその教育効果について報告した。

■ 第二報告要旨: 一橋大学の職業人養成教育
古賀健太郎 (一橋大学大学院国際企業戦略研究科)
一橋大学大学院国際企業戦略研究科の国際経営戦略(International Business Strategy、 IBS)コースについて報告した。60名ほどの学生の平均像は30才、就労経験7.5年、7割が海外留学生で、職を離れて学業に専念する。一般に、経営全般を志向し、会計のような特定の分野への興味は薄い。また、卒業後の就職が最大の関心事である。こうした学生の志向に応えるため、IBSでは科目を統合する学習の機会を作り、実務家と協働する教育に力を入れている。Deep Dive Dayでは学生がローソンの店舗を観察して、新しい業態を、同社の経営幹部の前で提案する。

■ 第三報告要旨: 実務への適合性と研究の厳格性の調和に向けて:
神戸大学における研究者養成教育
梶原武久 (神戸大学大学院経営学研究科)
神戸大学大学院経営学研究科における管理会計研究者養成教育に関する最近の取り組みについて報告を行った。まず、「管理会計の適合性喪失」の認識のもと、日本企業の革新的管理会計実務の解明を主目的として展開されてきた従来型の管理会計研究者養成プログラムの問題点として、社会科学の基礎理論の軽視、研究の厳格性の欠如、研究者による特定の手法への偏った関心などの点を指摘した。次に、上記の問題点の解決を目指して、神戸大学が近年行っている研究者養成の取り組みをいくつか紹介した。近年の取り組みの成果として、基礎理論としての経済学の学習や研究方法の体系的な習得の面で改善がみられる一方で、心理学や社会学の体系的な教育の困難であることや、理論を重視した結果として学生の実務への関心が低下しており、「実務への適合性」と「研究の厳格性」のバランスを図ることが困難であることなどの課題があることを指摘した。最後に、管理会計研究者の養成に向けて、特定の大学を超えた、学会レベルでの取り組みが必要であることを主張した。

■ Discussions:大島正克 (亜細亜大学経営学部)
4名の各先生からのご報告に対して、以下のような点を中心に討論した。開題の原田昇先生には、「管理会計・原価計算の教育に関するテーマは、これまでも多く論じられてきましたが、再度今回、当フォーラムで取り上げる意味について、グローバル化を強調されています。グローバル化に関しても以前もありましたが、今回は特にどのような点に着目されたのでしょうか。」第一報告の島吉伸先生には、学部学生の専門教育について「アクティブ・ラーニングの有効性を向上させるためには事前的な知識の付け方が重要といわれていますが、その点はどのようにしておられるのでしょうか。」第二報告の古賀健太郎先生には、専門職大学院における職業人養成教育において「アメリカのビジネス・スクールでは入学すると直ちに会計を学び、その上で経営戦略などを学ぶのが一般的であるのに日本のMBAでは、そこまで会計を重視していないのはなぜでしょうか。また最近のアメリカ文献では、管理会計担当者の地位が単に意思決定者に対して有用な情報提供のみならず意思決定者の一員となっていますが、実際はどうなのでしょうか。」第三報告の梶原武久先生には、大学院における研究者養成教育おいて「管理会計を研究したいという院生は増えているのでしょうか。教える側も学部、MBA、Ph.D.の両立が難しく、私立ではそれが一層難しい現状において、質の保証からみて我々が取り組まねばならない問題で重要なものは何でしょうか。」などをDiscussionsした。

■■ 懇親会
フォーラム終了後に甲南大学生協のレストラン、Favorite Hallで懇親会を催した。気温が上がらず、大変に寒い日であったが、東北、九州、関東の先生方なども残って下さり、30名あまりで懇親会をスタートできた。挨拶、乾杯のあと、多少のアルコールも入り、話題が大いに盛り上がり、賑やか、かつ和やかな雰囲気の中に会を終えた。ご出席頂いた方々に、改めてお礼を申し上げたい。

上埜 進(フォーラム実行委員長、甲南大学)