管理会計学会創設30周年記念第2回Web部会報告

水野一郎(関西大学)

 管理会計学会創設30周年記念第2回Web部会が2022年2月26日(土)にオンラインで開催された。主催は、創設30周年記念事業委員会{井岡大度(国士舘大学)、塘誠(成城大学)、水野一郎(関西大学)、山口直也(青山学院大学)}であった。
 第2回部会は、伊藤和憲会長のご挨拶から始まり、管理会計学会創設30周年記念事業の取り組みが紹介され、今回のWeb部会の意義についてもお話しされた。当日の参加申込者は56名であった。
 第2回部会は第1回部会と同様、2部構成で開催され、第1部は、石崎忠司中央大学名誉教授(松蔭大学教授、管理会計学会元副会長)をお招きして、特別講演をしていただいた。講演テーマは「そこはかとない一教授の生き方―研究の方向を左右する要因―」であった。

 石崎先生は、まず冒頭に「そこはかとない」という源氏物語や徒然草にも出てくる雅びな古語をキーワードに「存在感のない研究者であってもわき役の生き方がある」とされ、「わき役であっても「自分の人生の主役であればよい」と述べられ、石崎先生の50年にわたるご自身の研究生活を振り返り、自分史を語り始められた。大学教員に進まれた経緯から経営分析研究に悩みながら取り組んで来られた道程をいろいろなエピソードを挟みながらお話しされた。そこで分かることは謙虚なお人柄から石崎先生ご自身をわき役とおっしゃっておられるが、決してそうではなくて、研究業績ではご高著『企業の持続的成長性の分析』で内部監査協会の「青木賞」を受賞され、学会活動でも多くの学会で会長、副会長など要職を歴任され、社会的な活動でも社外取締役をはじめリーダーシップを発揮され、それぞれ顕著な功績を残されていたのである。若い研究者から年配の研究者まで石崎先生のご講演は、研究者生活を送るうえで大変参考になるものであった。なおご講演は当日参加できなかった会員の皆様のために録画し、動画を限定公開させていただいている(3月21日まで)。

 第2部は、大阪大学の椎葉淳先生の司会のもとで上智大学の若林利明先生から「組織アイデンティティとマネジメント・コントロールパッケージに関する数理モデル分析」というテーマで報告がなされた。

 報告内容は、まず目的として「マネジメント・コントロールの手段として、業績評価に加えて、行動目標を用いるべきであるのはどのような場合であるのかを示す」ことであるとされ、その方法としては「組織構成員の有する組織に対するアイデンティティと、行動目標を設定するために生じるコストに着目し、数理モデルを用いて分析的に示す」ものであった。そして本報告は、①マネジメント・コントロールの最適な要素の組み合わせをパッケージの視点で明らかにしようとしている点や②COVID-19の影響で広まったリモートワークでは、組織構成員の帰属意識の低下が懸念されるが、マネジメント・コントロールにおけるアイデンティティの意義を理論的に精緻化し、将来の実証研究のための仮説を提示している点にその貢献が期待された。
 この若林利明先生の報告については、目的や方法、数理モデルについていくつかの質問やコメントがなされたが、意欲的な斬新な報告ではあるため、今後の一層の研究の進展が期待されるものであった。