日本管理会計学会2018年度第1回関西・中部部会 開催記

 日本管理会計学会2018年度第1回関西・中部部会が、2018年6月2日(土)に立命館大学大阪いばらきキャンパス(大阪府茨木市)カンファレンスホールにて開催された(準備委員長:淺田孝幸氏(立命館大学))。当日は、関東および九州地方からもご参加をいただくなど30名を超える研究者や実務家の方々に参加をいただき、活発な議論が展開された。また研究報告に先立ち、関西・中部部会役員会が開催された。部会では、三浦徹志氏(大阪経済大学)の司会のもと、招聘講師による特別講演および3つの研究報告が行われた。いずれの報告においても活発な質疑応答が展開された。講演・報告要旨は以下の通りである。

 特別講演は、森 井義雄氏(株式会社アスコット代表取締役会長)による「中小企業向け『情報システム開発』のオンリーワン企業を目指してー創業から今日まで」であった。株式会社アスコットの創業者である森井氏が、富士通から独立し、平成5年に14名の同志とともに同社を設立してから今日に至るまでの経緯を踏まえ、同社の中小企業向け情報システムである、業種別業態別ビジネスモデル支援パッケージの内容が述べられた。
 平成7年から同8年にかけて同社が取り組んだ、消費財卸売業務向けのパッケージソフト「ASPACー消費財卸」は、リテール(小売店)サポートやサプライチェーンの垂直的連携などの複数の機能を有した情報システムである。一般的な卸売業の販売管理システムとは異なり、消費財卸売企業の経営課題の解決を支援するための情報システムとして、業種特化型のソリューションを提供することの重要性が述べられた。
 株式会社アスコットでは、ASPACシリーズをベースにお客様固有のカスタマイズを行うことに加え業種別のシステム改善の提案をすること、そして企業としての信用力を強めることが、真に役立つ情報システムの実現に寄与していることなど、森井氏の熱意溢れるお話を伺うことができた。
 また、創業当時を振り返り、「SEが優秀なだけでは勝負に勝てない」「信用力の無い、名もなき会社には仕事は戴けない」という2点が、ベンチャー企業として進展するための主な経営課題となったこと、そして今なお同社の創業精神としての教訓となっていることが自身の経験に基づき語られた。

 自由論題の第1報告は、福山平成大学の佐藤幹氏による「地方自治体への『脱予算』導入の可能性—広島県庁の事例をもとに」であった。わが国の自治体運営の課題として、現行の自治体予算システムではマネジメント目的での利活用が困難なこと、またその原因として、予算の対象が組織ではなく「地域」であること、さらには予算に加え、総合計画および行政評価に織り込まれているKPIがマネジメント目的には適さないこと、最後に組織業績を表す指標および概念が存在しないことなど、わが国の自治体運営にかかる課題が自身の調査に基づき明らかにされた。また、欧米では、議会議決予算をベースに、経営予算あるいは業務予算(業予算の損益予算に相当するもの)というものが作成されているという点がわが国の自治体予算との相違である旨が指摘された。
 これらの既存研究を踏まえ、営利企業の組織マネジメントの手法を導入し、組織マネジメントの継続的な改革を行なっている広島県庁の事例が報告された。広島県庁では、各事業課が作成する予算見積書単位の事業である予算事業を一定の目的で束ねた「ワーク」という概念を用いることによって、マネジメントコントロールを有効に機能させることに成功していることが述べられた。そして「ワーク」といった概念を導入することにより、他の自治体運営においても一層の貢献を果たす可能性が示唆された。

 第2報告は、名城大学の今井範行氏による「利益の絶対値統制と差分値管理—リスク耐性とコスト競争力を練磨する利益管理実務の考察」であった。伝統的な利益管理とは異なる形式のトヨタ的利益管理について、その特徴と生成に至った背景を明らかにするとともに、伝統的な利益管理とトヨタ的利益管理との対比を行い、後者の特性を「デルタマネジメント」と称して、その特徴と管理会計的な意義と含意が述べられた。
 伝統的な利益管理においては、標準的な水準の前提条件として、利益目標の絶対値を統制することにその特徴がある。これに対して、トヨタ的利益管理においては、標準的な水準に加え、保守的な低い利益水準の前提を追加して成行利益を測定し、社内に開示することによって従業員の危機的意識を醸成しているといった事例が紹介された。その上で、こうした取り組みが、現場の原価低減活動を誘発する要因になっていること、そして為替リスクに対する耐性の向上に貢献していること、そして最後に利益目標値として、絶対値というよりは、その差分値を管理することによって利益改善が実践されていること等が述べられた。こうしたトヨタ的利益管理を「デルタマネジメント」として概念化し、今後より普遍的な広範な業種、地域、企業などへの適用と検証が今後の課題であることが示された。

 第3報告は、神戸大学大学院博士課程後期課程の早川翔氏、中央大学の妹尾剛好氏、近畿大学の安酸建二氏、群馬大学の新井康平氏、慶應義塾大学の横田絵理氏による「予算化が利益目標のラチェッティングに与える影響—経営者利益予想による実証研究」であった。t期において利益目標値と実績値の有利差異が生じた際のt+1期における利益目標値の引き上げ幅に対して、t期において不利差異が生じた際のt+1期における利益目標値の引き下げ幅が相対的に小さいといった現象が広く観察される。一度引き上げられた目標は、容易に引き下げることができないことから、こうした現象をラチェッティング(target ratcheting)と呼ばれている。
 報告者らは企業の公開財務データおよび郵送質問票データを用いて、企業の予算に対する全社的な態度である「予算文化」に関する4つの下位概念が、企業の利益目標の設定におけるラチェッティングに対して与える影響を検証している。その定量的な分析の結果、主に「予算厳守」の程度が高いほどラチェッティングの傾向が弱くなること、そして「経営陣の(目標達成に対する)注意」及び「目標設定の難しさ」の程度が高いほどラチェッティングの傾向が強くなること等が明らかにされた。

 研究報告会の後、イベントホールに場所を移動して懇親会が開催され、実りある研究交流の場となった。

以上