日本管理会計学会 2022年度年次全国大会記

長野史麻(明治大学)

 日本管理会計学会2022年度年次全国大会(準備委員長:明治大学 﨑 章浩氏)が,2022年8月29日(月)から31日(水)までの3日間にわたって,明治大学駿河台キャンパスにて開催された。1年ぶりの対面形式での開催となり,236名の参加者の活発な交流が図られた。コロナの感染状況が収束しないため,懇親会の開催が断念されるという影響はあったものの,会員の交流や研究への刺激という点において有意義な大会となった。ここでは,大会の様子の一部を紹介する。なお,26日0:00から31日正午までオンラインにて会長選挙および理事選挙が行われた。

■大会1日目
 28日は,常務理事会,理事会および各種委員会が開催された。

■大会2日目
 29日は,午前に6会場で計24の自由論題報告が行われ,午後は会員総会,特別講演,スタディ・グループ中間報告,産学共同研究グループ中間報告,統一論題報告が行われた。
 昼食後に行われた会員総会では,大会実行委員長挨拶,会長挨拶のあと,昨年度の事業報告,決算,監査報告,今年度の事業計画ならびに予算について,審議・承認された。そして,2023年度年次全国大会が2023年8月28日(月)から30日(水)まで,東北工業大学八木山キャンパス(準備委員長:川島和浩氏)で開催されることのほか,会員の異動,学会誌『管理会計学』の発行状況,スタディ・グループ,産学共同研究グループについて報告がなされた。最後に学会賞審査報告並びに表彰式が行われた。受賞者は以下の通りである。

【学会賞】
・特別賞:該当者なし
・功績賞:井岡大度氏(国士館大学),長谷川泰隆氏(麗澤大学)

 

 

 


・論文賞:窪田祐一氏(南山大学)・劉美玲氏(鹿児島大学・神戸大学)・三矢裕氏(神戸大学)
「イノベーション戦略とマネジメント・コントロールの有効性―両利き経営のための示唆」『管理会計学』30巻1号, 2022年, pp.3-20.









柊紫乃氏(愛知工業大学)・上總康行氏(京都大学名誉教授)
「現場改善効果の類型化―会計的視点からの考察―」『管理会計学』30巻1号, 2022年, pp.123-140.


  





・文献賞:山口朋泰氏(中央大学)『日本企業の利益マネジメント:実体的裁量行動の実証分析』中央経済社.

・奨励賞:該当者なし

 その後の特別講演では,水野一郎氏(関西大学)の司会のもと,公益財団 渋沢栄一記念財団 常務執行理事,渋沢史料館 顧問の井上潤氏が「“論語と算盤”に学ぶ 渋沢栄一の事業・経営理念」というテーマで講演された。井上氏は,渋沢栄一91年の生涯を整理されたうえで,いま,あらためて注目される渋沢栄一について,企業倫理を実践し,儒教精神を貫き,社会貢献事業を先き駆け,リーダーシップを発揮し,高齢社会の模範であったその人物像を紹介された。その後,「論語算盤説」と「道徳経済合一説」からみえる渋沢栄一の経営哲学について取り上げ,単なる実業家ではなく,「近代化のオルガナイザー」であり「交易の追求者」であると締めくくられた。最後に司会の水野氏がまとめ,特別講演が終了した。








 特別講演後,スタディ・グループ中間報告「多様化するマネジメント・コントロールの現状整理と展望」(研究代表者 慶應義塾大学 横田絵理氏)ならびに産学共同研究グループ中間報告「サブスクリプションビジネスのモデル化とその評価に関する研究」(研究代表者 専修大学 青木章通氏)が行われた。
 大会2日目の最後に,統一論題報告が行われた。統一論題テーマは「わが国におけるコスト・マネジメントの現状と課題」であった。まず,座長の田坂 公氏(福岡大学)から解題がなされた。田坂氏からは,①立ち止まって,わが国のコスト・マネジメント研究の全体を見渡すことにより,その現状を評価し,将来を展望すること,②管理会計研究者コミュニティとして,現状や将来展望を共有すること,③研究者の視点だけでなく,実務家の視点を取り込みながら討論することを統一論題のねらいとし,伝統的なコスト・マネジメントの枠組みから一歩踏み出して討論していくことが提起された。

 つづく第一報告として,今井範行氏(名古屋国際工科専門職大学)から「トヨタのコスト・マネジメントと今後の課題」として,トヨタのコスト・マネジメントの全貌が詳しく説明されたのち,コスト・マネジメントの今後の課題として,①海外原価企画の体制構築とその充実化,②クルマのエレクトロニクス化・ソフトウェア化・EV化への対応,③組織改革への対応,④モノのサービス化への対応,⑤デジタル化(バーチャル化)への対応が取り上げられ,解決に向けた提言がなされた。

 第二報告は,柊紫乃氏(愛知工業大学)による「現場改善会計論の提唱:原価管理から余剰生産能力管理へ」であった。柊氏は,コスト・マネジメントに関わる現場改善の改善効果の問題点を指摘され,現場改善会計論を提唱された。現場改善会計論によれば,改善効果の見える化が図られ,余剰生産能力管理が可能になるという。コスト・マネジメントの視点を,投入・費消された原価というインプット管理から,改善により創り出された余剰生産能力というアウトプット管理へと変えることが提案された。そして今後は,実務における実践・検証を通じ,さらなる現場改善会計論の体系化と精緻化が必要であることを指摘された。

 最後の第三報告では,片岡洋人氏(明治大学)から,「コスト・マネジメントの新展開:サービス化の原価企画に学ぶ」というタイトルで報告がなされた。片岡氏は伝統的な製造業の原価管理からサービス化戦略に適合するコスト・マネジメントへの展開を整理されたうえで,顧客との長期的な関係性を構築するなかで収益性を作り込む,顧客への価値提案のためのコスト・マネジメントの必要性を主張された。戦略的な焦点はコスト・リーダーシップから差別化へとシフトし,サービスを組み合わせて差別化を図る価値主導型の原価計算を提唱された。


■大会3日目
 午前中に7会場で28の自由論題報告が行われ,午後は,スタディ・グループ最終報告「DDP(仮説指向事業計画)の導入効果に関する研究」(研究代表者 成蹊大学 伊藤克容氏)ならびに産学共同研究グループ最終報告「人を基軸にしたグローバル経営を展開するダイキン工業の管理会計研究」(研究代表者 同志社大学 中川 優氏)が行われた。その後,統一論題討議が行われた。
 統一論題討議では,田坂座長のコーディネートのもとで,①日本のコスト・マネジメント研究の現状から一歩踏み出すにはどのような論点があるのか,②将来に向けて,コスト・マネジメントについてどのように研究していけばよいのか,③将来に向けて学会に何が貢献できるのか,という視点からフロアの参加者と活発なディスカッションがなされた。特に②については,研究と実務の関係,コスト・マネジメント研究と隣接領域との関係の捉え方,日本のコスト・マネジメント研究を海外発信するために求められることについて焦点をあてた討論がなされた。参加者からの質疑応答の時間も含め,さまざまな視点から我が国におけるコスト・マネジメントの現状と課題についてディスカッションがなされ,非常に意義深い統一論題討論となった。最後に,田坂座長が,三氏の報告をふまえ,管理会計研究では研究者の得意な方法論を用いることでユニークな研究ができること,コスト・マネジメント研究におけるわが国独自の実務と理論を世界へ発信しなければならないことを確認し,盛況のうちに大会は無事に終了した。