2021年度第1回(第60回)九州部会開催記

2021年度第1回(第60回)九州部会開催記 2021年5月22日(土)13:30~17:15

■■ 日本管理会計学会2021年度第1回(第60回)九州部会が、2021年5月22日(土)13:30~17:15に、開催校の熊本学園大学(熊本市)によってオンライン方式で開催された(準備委員長:新改敬英氏)。今回の九州部会では、オンライン方式ということもあり、全国から40名を超える研究者の参加を得て、いずれの報告においても活発な質疑応答が展開された。

■■ 第1報告は、角田幸太郎氏(熊本学園大学教授)により、「英国プロサッカークラブにおけるマネジメント・コントロールの事例研究」と題する報告が行われた。本報告は、英国プロサッカークラブのオックスフォード・ユナイテッドにインタビュー調査を行い、当該チームで導入されていたマネジメント・コントロール・システム(以下、MCS)と、チーム責任者や選手への影響を分析することにより、既存のMCS理論の説明力やMCS理論の修正の必要性について考察することを目的としている。
 報告者は、小規模なプロサッカークラブでも、個人成績に基づくボーナスを用いた成果コントロールだけではなく、定性的・定量的な行動目標を用いた行動コントロールや、チーム成績に基づくボーナスや罰金制度を用いた文化コントロールも実践されており、MCS理論からみても理想的であると明らかとした。このようなチームスポーツのプロフェッショナル組織では、文化コントロールが重視されており、さらにMCSの有効性を高めるためには、客観性、管理可能性、適時性、公平性を強化することにより、チーム成績の向上へとつながると提言された。ただし、うまく機能していたとされるMCSであったとしても、チーム監督が代われば、一新されてしまい、継続性が保たれない事例も確認され、今後の検討課題であることが示された。

 

■■ 第2報告は、宮地晃輔氏(長崎県立大学教授)より、「公的支援事業を活用した中小企業への利益管理プロセスの定着の可能性」と題する報告が行われた。本報告は、長崎県内企業の事例を用いて、ポストコロナ・ウィズコロナ時代に対応するための公的支援事業である事業再構築補助金(経済産業省)を活用するうえで必要とされた、事業計画書の作成を通じて、中小企業への利益管理プロセス(管理会計能力)の定着可能性を明らかにすることを目的としている。
 報告者は、管理会計の役割として、実務においては、利益管理プロセスを小規模企業に定着させることが重要であると述べ、長崎県内にある小規模企業を対象とした事例研究を報告された。公的支援事業の事業計画書の作成を活用することで、企業の経営者と税理士法人、金融機関の3者による対話を通じて、経営計画策定の基盤を固めることができ、経営者への意識づけにも有効に機能したと示された。これは、税理士法人による小規模事業者に対する経営支援の一つの事例として、税理士法人側の管理会計能力の必要性を示しており、さらに、経営計画策定の意義を経営者が理解し、経営のPDCAを会計的に回転させ、経営品質を高めていくことが、利益管理プロセスの定着につながると提言された。

 

■■ 記念講演は、西村明氏(九州大学名誉教授・別府大学客員教授)により、「リスク・スラック・バランス―企業リスク管理と現代管理会計―」と題する講演が行われた。本講演は、講演者の著書『管理会計の挑戦-リスク・スラック・バランス』(西村,2020)に即して、コロナ時代における、危機管理とリスク管理の中で、管理会計のあるべき姿と変化について紹介された。
 講演者は、企業のリスク管理は、利益機会とリスクを予測し、最適な目標利益を実現するシステムであると明らかにしたうえで、長期と短期の機会を予測し、差異分析をおこなう包括的機会・損失機会統制モデル(Comprehensive Opportunity&Loss Opportunity Control : COLC:コルクモデル)を示した。このモデルでは、差異を解消するためにプロアクティブな改善をおこなうことで、最適な目標利益への到達を目指し、管理会計における利益計画の基礎となり得ることが明らかとされた。さらに、経営者の管理責任を明確にするため、記述情報を分かりやすく開示するものが、このCOLCモデルを基礎とした「戦略リスク管理報告書」であり、リスクに対応するための具体的な対処には、リスク管理面からのスラックの確保が必要であると示された。そして、企業はこのスラックを保有しておくことで、プロアクティブな改善とイノベーションを遂行することができ、企業リスク管理とスラックは切り離すのではなく、結びついて検討しなければならないと提言された。

 

■■ 研究報告会・記念講演会終了後、九州部会総会が開催された。次回の九州部会は、2021年11月に福岡大学にて開催予定である。

水野真実(熊本学園大学)

2021年度スタディ・グループの公募について(2021年6月24日締切)

日本管理会計学会会員各位

今年度も「スタディ・グループ規程」に従いJAMAスタディ・グループを広く会員の皆様に募集いたします。
応募される会員は,規程にしたがって,「JAMAスタディ・グループ申請書」をjama-post[at]bunken.co.jp ([at]を半角@マークに変更してください)宛てまでメールでご応募ください。
申請期限は2021年6月24日(木)《期日厳守》です。
第2回常務理事会で審議し,選考の結果はグループ代表者に通知いたします。
なお、「スタディ・グループ規程」は、学会公式WEBサイト(https://sitejama.jp/?page_id=74 ) でご覧になることができます。

申請書の様式として,以下の内容を記載して下さい。

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JAMAスタディ・グループ申請書
  研究代表者の所属・氏名
  連絡先 (住所,電話番号,E-mail)
Ⅰ 研究課題
Ⅱ 研究目的(意義・概要・構想)
Ⅲ 研究計画(方法・実施状況・期待される成果など)
Ⅳ 本研究に関する国内外の研究の現状と本研究計画の特徴
Ⅴ 各共同研究者の所属と氏名,役割分担
Ⅵ 研究代表者および共同研究者の過去5年間の主な研究業績
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日本管理会計学会2021年度第1回リサーチセミナーの開催のお知らせとプログラム(6/19)

日本管理会計学会・会員各位

 日本管理会計学会2021年度第1回リサーチセミナーを東北大学会計大学院との共催で下記の通り開催いたします。
 新型コロナウイルス感染拡大防止のため、ZoomによるWeb開催となります。万障お繰り合わせのうえご出席下さいますようご案内申し上げます。
 多くの会員の皆様のご参加をお待ちしております。

 

  1. 開催日時 2021年6月19日(土)14時00分から

  2. 開催方法 オンライン(Zoom)
     参加申し込みいただいた方には登録いただいたメールアドレスに,ZoomのID,パスコード,そして報告資料へのアクセスサイトをご連絡申し上げます(6月17日(木)頃の予定)。
  3. 参加費 無料

  4. プログラム
    14時00分~14時05分 進行方法の説明
    14時05分~14時10分 開催の挨拶

    14時10分~15時15分 第1報告(報告35分、討論15分、フロアー15分)
    報告者 孟 繁紅氏(山口大学)
    報告テーマ 企業のCSR活動が財務パフォーマンスに及ぼす遅延効果に関する実証研究
     ―中国における上場企業のパネルデータ分析―
    討論者 木村 史彦 氏(東北大学)

15時15分~15時25分 休憩

15時25分~16時30分 第2報告(報告35分、討論15分、フロアー15分)
 報告者 濵村 純平氏(桃山学院大学)
 報告テーマ Disclosure policy for relative performance indicators under product market competition
 討論者 松田 康弘氏(東北大学)

16時30分~16時35分 閉会の挨拶

* 懇親会等の開催はございません。

  1. 参加申し込み
    申込締切日: 2021年6月15日(火)
    以下のGoogleフォームから申し込んでください。
    https://forms.gle/bLH7AbXjvVDJUYaeA

* フォームを利用できない方は、
Subjectを「リサーチセミナー参加申込み」、
本文中に下記を明記のうえ、202101jama_seminar[at]grp.tohoku.ac.jp
([at]を半角の@に変更)まで電子メールをお送りください。
(1) ご氏名,(2) ご所属,(3) 連絡先(電子メールアドレス)

  1. 連絡先
     日本管理会計学会2021年度第1回リサーチセミナー準備委員会
     木村史彦、青木雅明、松田康弘(東北大学)
     202101jama_seminar[at]grp.tohoku.ac.jp([at]を半角の@に変更)

 

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2021年度第1回フォーラム開催記

2021年4月17日

 2021年度第1回フォーラムは、2021年4月17日(土)14時から17時に成蹊大学において開催されました。新型コロナウイルス感染拡大防止のため、検温、マスク着用、ソーシャルディスタンスの確保といった十分な対策を行ったうえで、対面形式にて開催され、当日の参加者は40名程度でした。伊藤克容氏(成蹊大学)の司会により進められ、日本管理会計学会・副会長の﨑 章浩氏(明治大学)の開会の挨拶により開始されました。2つの特別講演と1つの研究報告が行われました。特別講演(1)は弘子ラザヴィ氏(サクセスラボ株式会社代表取締役)、研究報告は飯塚隼光氏(一橋大学商学博士)、特別講演(2)は小川康氏(インテグラート株式会社 代表取締役社長)でした。特別講演(1)につきまして、弘子ラザヴィ氏は昨年より対面でのご講演および活発な議論の実施を望んでいらっしゃいましたが、新型コロナウイルス感染拡大による渡航制限期間のため、録画講演となりました。いずれの講演および研究報告におきましても、フロアからもコメント・質問が多くあり、活発な議論が行われました。

 

特別講演(1)  弘子ラザヴィ氏(サクセスラボ株式会社代表取締役)
報告論題:カスタマーサクセスとは何か:日本企業にこそ必要な「これからの顧客との付き合い方」

 第1報告では、デジタル時代に求められるカスタマーサクセス視点のPL(損益計算書)について、まず「デジタル化の本当の意味」として、モノ売り切りモデルからリテンションモデルへのシフトが不可逆的に生じていることについて説明されました。リテンションモデルの定義として以下の4点が挙げられました。
1.利用者が日常的・継続的にそのプロダクトを利用し、モノの所有に対して
 ではなく成果に対して対価を払う。
2.利用者が、いつでも利用を止める選択権を持ち、かつ初期費用が非常に少
 なくてすむ。
3.利用者が、それ無しでは生活や仕事ができない・使い続けたいと断言でき
 るほど明らかにプロダクトが常に最新・最適化され続ける。
4.利用者が、自分が嬉しい成果を得られるならば、自分の個人データをプロ
 バイダーが取得することを許す。
 音楽ストリーミングサービスを例に挙げ、従来のモデルとリテンションモデルの違いを説明しています。次に「リテンションモデルの本質」として、カスタマーサクセスに焦点を当て、その本質について、従来の「何を/what起点」からリテンションモデルとしての「誰に/who起点」にシフトしたことを解説しています。続いて、本題の「カスタマーサクセス視点のPL」について、リテンションモデル事業の典型的な収支構造を取り上げ、その要諦を3点にまとめています。
1.成長の基盤が見える。
2.成長の方程式が見える。
3.利益ある成長が見通せる。
 総括として、現行のPLとカスタマーサクセス視点のPLを比較して議論を展開し、カスタマーサクセス視点のPLでは、将来の成長を重視し、カスタマーに成功を届けるための目的別コストを集計し、カスタマー軸の収支に重点を置くといった要点が整理されました。以上の議論により、カスタマーサクセス、すなわちWho起点の経営が必須であるとの指摘のもと、デジタル時代に求められるカスタマーサクセス視点のPLについての要点から、現行のPLがいかに有用性を喪失しているかという点について警鐘をならしています。

 

研究報告 飯塚隼光氏(一橋大学商学博士)
報告論題:シンプル管理会計の研究

 第2報告では、中小製造業に属するX社に対するインタビュー調査の結果を出発点とし、事例研究により、同社における管理会計実践の特徴に焦点を当て、シンプル管理会計の意義について明らかにしています。X社は厳しい市場環境の中で生き残り続けており、数々の賞を受賞するほど、安全性の面で品質が高く評価されています。日本の一部の地域で製造が集約されているものの、世界的に販売され、売上の6割を海外への輸出が占めているという特徴を持つ企業であると紹介しました。またX社は、高品質の製品を製造しているにもかかわらず、安全性能の追究において、理想実現のためコストをかけることを惜しまず、製品の価格設定において一定の原価率を設けているという特徴があり、販売子会社における予算編成についても特徴があります。このようなX社における非常に単純な管理会計手法を「シンプル管理会計」と称することにより、シンプル管理会計という視座に立って研究をすることの意義として、つぎの2点を明らかにしています。つまり、飯塚氏は、管理会計に本当に求められているものは何か、ということにくわえ、今まで切り捨てられてしまったような事例にも着目することができるといった点を指摘しています。本研究の貢献として、シンプル管理会計を、企業にとって必要な管理会計をシンプルに表現したものと捉えたうえで、事例の解釈により、シンプル管理会計の視点を示せたこと、および管理会計に対して本質的に何が求められているかという考察に対する糸口を示すことができたと説明されました。

 

特別講演(2) 小川康氏(インテグラート株式会社 代表取締役社長) 
報告論題:DDP仮説指向計画法の意義

 第3報告では、不確実な事業から高いリターンを得ることを目的とする経営管理手法である仮説指向計画法(DDP: Discovery-Driven Planning)を取り上げています。具体的には、小川氏のMBA海外留学の経験談も添えながら、DDPの活用実績およびインテグラ―トにおける普及に関する取り組みについて紹介し、DDPの意義について議論を展開しています。DDPの概念について、事業開始前から完了までの計画を練り上げ、その通りの実行を目指すといった従来のマネジメントではなく、まずゴールを設定し、変化に対応しながら軌道修正を繰り返すことによりゴールを目指すという手法であると説明しています。また、事業計画は仮説で構成されていることを確認し、ゴールの達成に必要な条件は外れるものであると受けとめ、その外れに対応して事業計画を柔軟に修正する必要があることを明確にしました。このように、予測の根拠は外れるという現実的な問題を解決するために、DDPは企業内部・外部の変化に迅速に対応する組織プロセスの運用を支援する働きをもつことが紹介されました。DDPは仮説(予測の前提)を外れていくものと考えて、仮説の修正を継続することによって、事業の成功確率を高める手法であるという認識のもと、DDPはインテグラ―トが提供するソフトウェア、コンサルティング、人材育成プログラム等により、多くの日本企業で活用されていることが紹介されました。具体的には、仮説を可視化し、情報共有し、かつ時系列に履歴を取ることによって仮説の変化を示すソフトウェアはマネジメントコントロールやリアルオプションの実践と親和性が高いとしたうえで、ソフトウェアを補完する形でコンサルティングと人材育成研修が行われていると紹介されました。報告の総括として、DDPの意義について、以下の3点がまとめられました。
1.予測に基づく、新たな意思決定を促進する。
2.財務数値の結果報告を待つよりも、対策行動が早くなる。
3.透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための仕組みの充実。
 以上の議論により、DDPの意義をふまえたうえで、経営管理の範囲を、実績だけでなく予測を含む未来方向に拡張し、不確実な時代に企業の中長期の成長を支援することにあると総括しています。

日本管理会計学会九州部会第60回大会 開催方法変更のお知らせ

2021年5月吉日

日本管理会計学会会員各位

日本管理会計学会九州部会第60回大会
開催方法変更のお知らせ

拝啓 
新緑の候、会員の皆様におかれましては、ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。
先日ご案内していた日本管理会計学会九州部会第60回大会(開催校:熊本学園大学)ですが、九州各県もコロナ感染状況が悪化してきており、開催校の判断によりオンラインのみでの開催へと変更へと変更させていただきます。ご了承のほどよろしくお願いいたします。

敬具

【日本管理会計学会九州部会事務局】
九州大学経済学研究院 丸田起大
TEL:092-802-5454
email: maruta(at)econ.kyushu-u.ac.jp
[(at)を半角の@に変更してください]

 

日本管理会計学会会員各位

日本管理会計学会九州部会第60回大会のご案内(変更後)

拝啓 
初春の候、会員の皆様におかれましては、ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。
下記の要領にて、日本管理会計学会九州部会第60回大会を、熊本学園大学(熊本市、大会準備委員長:新改敬英氏、tshinkai(at)kumagaku.ac.jp[(at)を半角の@に変更してください])を開催校として、オンライン方式にて開催いたします。参加費は無料です。今回は、第60回の節目として、記念講演を予定しております。万障お繰り合わせのうえ、ご参加賜りますようご案内申し上げます。
参加をご希望の方は、準備の都合上、5月14日(金)までに、九州部会事務局宛に、e-mail(maruta(at)econ.kyushu-u.ac.jp[(at)を半角の@に変更してください)にてご連絡ください。お申込みいただいた方に、ZoomのURLをメールでお知らせいたします。

敬具

1.日時:2021年5月22日(土) 13:30~17:15
2.開催校:熊本学園大学(熊本市中央区大江2丁目5番1号)
3.研究報告・記念講演:13:30~16:30

 第1報告:13:30~14:15(報告30分、質疑15分)
  角田 幸太郎氏(熊本学園大学教授)
  「英国プロサッカークラブにおけるマネジメント・コントロールの事例研究」

 第2報告:14:30~15:15(報告30分、質疑15分)
   宮地 晃輔氏(長崎県立大学教授)
  「公的支援事業を活用した中小企業への利益管理プロセス定着の可能性」

 記念講演:15:30~16:30(講演45分、質疑15分)
   西村 明氏(九州大学名誉教授)
  「リスク・スラック・バランス-企業リスク管理と現代管理会計-」

4.部会総会:16:45~17:15

【日本管理会計学会九州部会事務局】
〒819-0395 福岡市西区元岡744 イーストゾーン
九州大学経済学研究院 丸田起大研究室内
TEL:092-802-5454
email: maruta(at)econ.kyushu-u.ac.jp
[(at)を半角の@に変更してください]