日本管理会計学会2018年度第3回フォーラムおよび第2回関西・中部部会 開催記

■■ 日本管理会計学会2018年度第3回フォーラムおよび第2回関西・中部部会(準備委員長:山本浩二氏)が、2018年11月17日(土)に大阪学院大学(大阪府吹田市)にて開催された。石田秀樹氏(元 京セラ(株)常務取締役・経営管理本部長)の特別講演の他、自由論題4件の報告が行われた

■■ 特別講演として、石田秀樹氏より、「アメーバ経営の原点と制約理論の展開 - あたらしい経営会計の展望」と題する講演が行われた。石田氏は、長く京セラ(株)において、米国現地法人へのアメーバ経営の導入や、財務会計や管理会計との調整システムの構築など、アメーバ経営に携わってこれられた旨の紹介が水野一郎会長からなされた。講演では、まず、京セラにおけるアメーバ経営の原点として、時間あたり価値計算が作り出された経緯の説明がなされた。特に、当時の京セラの状況などを踏まえた説明は臨場感あふれるものであったが、時間あたり価値計算が、あくまでも生産現場の改善のために生み出されたものであることが説明された。
 その後、京セラを離れられた後、(株)ビーイングにおいて、アメーバ経営と制約理論の結合による新たな会計システムの設計を試みられ、「エッジ会計」についての提案がなされた。エッジは、新技術等企業の競争力の源泉であり、この目的は、生産現場のイノベーションを向上させるためである。まさに、京セラがアメーバを生み出した、その経緯と一致するものであり、そのような会計システムが、今後の管理会計において必要であることを述べられ、講演を締めくくられた。

■■ 自由論題 第1報告は、卜志強氏(大阪市立大学)より、「中国企業におけるアメーバ経営の導入と展開」と題する報告が行われた。まず、中国における日本的経営手法の導入の状況について説明がなされ、アメーバ経営についても導入されてきている旨の説明がなされた。次に、実際の事例として、製造業、サービス業から、それぞれ2社のアメーバ経営の状況について説明された。まず、製造業として、宝鋼金属へのアメーバ経営の導入事例について説明された。次に、サービス業として、銀座集団のホテルへの導入について説明された。いずれも業績の向上だけでなく、従業員の意識の向上などが見られる成功事例とのことであった。一方で、中国におけるアメーバ経営の導入については、アメーバ経営への理解不足や、短期的な成果を追求するなどの原因から、失敗した事例を多くみられるとのことで、アメーバ経営の導入には、経営環境や企業特質などを考慮しなければならないことが説明された。

■■ 第2報告は、古田隆紀氏(大阪学院大学)より、「京セラフィロソフィに関する研究」と題する報告が行われた。まず、近年のアメーバ経営に関する研究においては組織文化に関する記述がないことが研究の動機である旨、説明がなされた。その上で、本報告では、「京セラフィロソフィは、組織文化を共有・伝承するための手段である」という仮説を示し、その検証をおこなった。その方法として、2つの参考文献をもとに、京セラのもつ組織文化を抽出し、アメーバ経営のシンボル要素と、京セラフィロソフィと組織文化の関係を明示していくことで、アメーバ経営と京セラフィロソフィとが、お互いに作用し合う関係であり、それを通して組織文化が醸成されていくと考えられ、これにより、先に示した仮説の検証をおこなった旨の説明がなされた。

■■ 第3報告は、中野延市氏((株)ナカノモードエンタープライズ)より、「原価企画思考の適用領域拡大―おせち『板前魂』における原価企画」と題する報告が行われた。まず、おせち料理という高価な季節商品のみを取り扱う専門店の経営におけるビジネスモデルについての説明がなされた。その際、自社企画製品のみを取り扱うため、高い付加価値をもつ工程として、商品開発と配送があり、特に商品開発において、高品質・低価格の商品を提供するための原価企画がおこなわれていることが説明された。低価格化を目指すために、コストを詳細に分類し、そのコストドライバーを分析し、対象となるリソースを改善していくことで、実現していること等が説明された。

■■ 第4報告は、佐藤正隆氏(慶應義塾大学大学院生)より、「ERPのシステム連携とその影響について-今後の改訂に対する意思決定の考察-」と題する報告が行われた。ERPの導入における失敗事例として、機能を分けて導入することで、システムの連携度が低いことがある旨、説明された。そのため、ERPの導入においては、システムの連携度が重要な要素であり、そのことを東証一部上場企業と対象に質問票調査をおこない、機能を一括導入する企業はシステム連携度が高いことを統計解析により確認をおこなった。また、その上で、ケースを紹介し、一括導入により、トータルコストが削減できること、サプライチェーン全体の情報管理し易いことなどが明らかとなり、システム連携が重要な要素であることの説明がなされた。

後藤晃範(大阪学院大学短期大学部)

2018年度年次全国大会開催記

■■日本管理会計学会2018年度年次全国大会(大会実行委員長:園田智昭氏)は、2018年8月27日(月)から29日(水)の3日間、慶應義塾大学三田キャンパスにて開催された。8月27日には、常務理事会、理事会、編集委員会その他各業務分担委員会の懇談会が開催された。28日は、午前9時30分から5会場に分かれ、計19の自由論題報告が行われた。午後には、特別講演、統一論題の報告と討論が行われた。その後、午後6時30分ごろから、慶應義塾大学三田キャンパス南校舎4階のザ・カフェテリアにて会員懇親会が開催され、会員の懇親を深めた。翌29日は、午前9時30分から5会場に分かれ、計17の自由論題報告が行われた。その後、スタディ・グループ中間・最終報告と産学共同研究グループ中間報告が行われた。最後に、シェアードサービスのセッションが開催された。なお、3日間にわたる参加者数は、247人(会員の方以外を含む)であった。
 
■■学会賞

文献賞:小林英幸氏(SBI大学院大学)『原価企画とトヨタのエンジニアたち』中央経済社.
奨励賞:天王寺谷達将氏(広島経済大学)「イノベーションと管理会計研究の今後の方向性―Robert Simonsの理論面での貢献の考察を足掛かりとして―」『管理会計学』第26巻第1号.
谷守正行氏(専修大学)「銀行アカウントフィーに関する管理会計研究―サブスクリプションモデルの適用可能性―」『管理会計学』第26巻第1号.
 
■■特別講演

水野一郎氏(関西大学)の司会のもと、朱衛東教授(中国安徽省合肥工業大学)による「グラウンデッド・セオリーとQCAに基づいた製造業の価値共創と業績評価についての研究―ハイアールを事例として―」というテーマで特別講演が行われ、質疑がなされた。

 

■■統一論題報告・討論「企業グループの管理会計」

中村博之氏(横浜国立大学)を座長とする統一論題報告が行われた。テーマは、「企業グループの管理会計」であった。中村博之座長による開題の後、次の4つの報告が行われた。

 

■統一論題報告(1):塘誠氏(成城大学)

「異文化マネジメントと管理会計上の課題―純粋持株会社、日系海外子会社の事例研究から―」

本報告では、以下のような構成で異文化マネジメントと管理会計上の課題が明らかにされた。まず、日本の純粋持株会社の動向が示された。つぎに、持株会社(的)組織におけるポートフォリオ・マネジメントの適用事例が検討された。最後に、グローバル・グループ管理についてのさまざまな取り組みが示され、分析された。

 

■統一論題報告(2):福田淳児氏(法政大学)

「事業会社横断的な関係を促進するメカニズム」

本報告の目的は、純粋持株会社制を採用した企業グループの事例に基づいて、事業会社横断的な取り組みを促進するためのメカニズムおよびその効果について議論することであった。複数の企業グループに対する事例研究の結果、事業会社間の横断的な関係を促進するメカニズムは多様であること、その基盤に社会資本があることなどが明らかにされた。

 

■統一論題報告(3):岡照二氏(関西大学)

「気候変動に伴う企業グループの環境管理会計の展望」

本報告は、以下のような内容で、気候変動に伴う企業グループの環境管理会計の展望が明らかにされた。まず、東洋経済新報社が発行する『CSR企業総覧』を用いて、日本企業の環境会計の現状が示された。つぎに、企業グループの環境会計に関する質問票調査の結果が示され、分析された。最後に、事例研究を用いて、環境会計からフルコスト会計・自然資本会計への展開が考察された。

 

■統一論題報告(4):宮元万菜美氏(株式会社情報通信総合研究所)

「グループ企業マネジメント―海外子会社のマネジメント手法の事例から―」

本報告の目的は、主にM&Aによる成長と海外事業の拡大を目指す企業のマネジメントにとって、必勝の組織デザインはあるのかという問いを明らかにすることであった。複数の企業に対する公開資料およびヒアリングによる調査の結果、どの組織にも「万能の」・「型」は、存在しないが、「強固なコントロールではなく、強固なエンゲージメント」のための組織デザインが必要といった結論が示された。

 

■統一論題討論

統一論題報告の後、続けて統一論題討論が行われた。中村博之座長の司会のもと、フロアからの質問に発表者が答えるかたちで討論が進められ、活発な意見交換が行われた。

 

■■スタディ・グループ中間・最終報告/産学共同研究グループ中間報告

スタディ・グループ中間・最終報告/産学共同研究グループ中間報告は、2つの会場で次のように行われた。

第1会場では、井岡大度氏(国士舘大学)の司会のもと、まず、伊藤和憲氏(専修大学)を研究代表者とする「医療機関におけるマネジメント・システムの導入とその成果に関する研究」のスタディ・グループ中間報告が行われた。つぎに、青木章通氏(専修大学)を研究代表者とする「サービス業における顧客マネジメント」のスタディ・グループ最終報告が行われた。

第2会場では、中川優氏(同志社大学)の司会のもと、まず、淺田孝幸氏(立命館大学)を研究代表者とする「グルーバル管理会計規準の可能性と展望に関する研究」の産学共同研究グループ中間報告が行われた。つぎに、宮地晃輔氏(長崎県立大学)を研究代表者とする「地域中小製造企業の管理会計・原価計算活用実態解明と経営改善への接続に関する研究」のスタディ・グループ最終報告が行われた。

 

■■シェアードサービスのセッション

シェアードサービスのセッションは、園田智昭氏(慶應義塾大学)の司会のもと、後藤アキ子氏(サントリービジネスシステム株式会社)、牧重徳氏(株式会社セキスイビジネスアソシエイツ)、赤尾法彦氏(日本郵政スタッフ株式会社)の3名が各社のシェアードサービスの取り組みを報告された。その後、園田氏を加えた4名でパネル討論が行われた。

 

妹尾剛好(中央大学)